アニメ好きの俺が異世界転移した話

黄葵黒豆

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俺の日常の話

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 桜の花びらで出来たピンクの絨毯をふみしめながら、人がざわめく中を突き進む。

 校舎の玄関口には、新一年生達で賑わっているのだろうか。真新しい制服に身を包んだ人達でごった返していた。


「すみません、ちょっとすみません……」

 
人だかりをかきわけながら、玄関に張り出されているクラス分けの表の前までなんとかたどり着く。


「えーっと、俺の名前は」


 自分の名前を探し始めた俺の耳に、「なあ! おい見ろよ」という言葉が飛び込んできた。
俺は隣にいる男子生徒達の会話に耳をそばだてる。


「え? どれ?」
「これだよ、これ! C組んとこの!」


指差す方に目をやると、予想通り俺の名前がそこにはあった。


「やべえ」
「すんげえ名前だよな」
「読み方分かんねー。 なにのみや? かみおうじ?」
「なにのみやかみおうじって」


ゲラゲラと笑いはじめる二人の後ろを再び声をかけながら通り過ぎる。


「どんなやつなんだろ」
「気になるわー」
「顔見に行こーぜ、あとで!」


 後ろから聞こえてくるやり取りに、思わずため息がこぼれたのだった。

 なんとか人だかりから抜け出して、ほっと胸をなでおろす。

 さて、と行きますか。

俺は校舎の中へと入っていき、自分の下駄箱を探し始める。
するとまたもや「ねえ、これやばくない?」という女子の声が耳に入ってきた。


「えー、どれどれ?」
「これー」
「えっやば」
「やばいよねー」
「めっちゃイケメンだったらどーするー?」
「えーやばー」


きゃいきゃいと騒いでいる女子達の方に目をやると、やはりそこには俺の名前が貼ってある下駄箱が。


 イケメン……ねえ。
本日何度めかの重いため息をついた後、覚悟をきめて声をかける。


「あの」
「え、なに」


先程までニコニコとしていた女子の顔が、声を掛けた途端、色を失う。
怪訝そうにこちらを見上げられて、言葉がつまりかける。


「そ、そこ……俺の下駄箱なんだけど」
「あ」


 後ろに一歩、二歩、と下がり、俺の下駄箱の前から女子生徒が立ち退く。


「みた?」
「ちょっとねえ」
「名前負けだよねー」
「ブスってわけではないけどー」
「イケてもない」


 先程までとは打って変わって、小声で話し始めているが、距離が近い為か容赦なく聞きたくない言葉の数々が耳に入って来る。


 名前負け──いつも言われる言葉だ。
俺は地味な顔立ちだし、見た目も特筆するものがない。全てにおいて平々凡々。
身長も平均値だし、肉付きも普通。髪型もどこにでも居るようなありふれたショートだし、髪色も黒い。


「なんていうか、ね」
皇子おうじ、だなんて見た目じゃないよねー」
「しかも神だし」
「それなー」


 かみおうじ、と呼ばれる俺の名前。

牟禮之宮むれのみや 神皇子こうし

 唯一、俺の名前だけが、この見た目にそぐわない。
 俺は重い足取りで1年C組の教室を目指したのだった。



「ここか」


教室のスライド式のドアを開けると、何人かはポツポツと席についている。


「お、イッチじゃん」


声をかけられた方に目を向けると、片手をあげ、にこやかに笑う親友の姿があった。


「よう」
「はよっ」
「はよー」


黒板の方に振り返り、自分の名前を探す。


「お前の席あっこだよ」


 廊下側の一番前、つまりは出入り口の直ぐ近くが俺の席らしい。


「特等席じゃん」
「最悪。 さぼれねえじゃん」
「いやー、案外死角かもよ」
「まじ?」
「多分」


 人懐っこい笑みでそんなことをいう親友に、俺も笑みがこぼれた。


「多分かよ」


 自分の席について、手にしていた学校指定のスクールバッグを机の上に置く。

チラチラと周りの視線を感じるような気がする。気のせいだろうか。俺の自意識が過剰なだけだといいのだが。
落ち着かずそわそわする俺の肩に親友が手をかける。


「なあ、今期なんかアニメ見てる?」
「今期は特になんもかな」
「え? あれは?」
「あれ?」
「ほら、アレだよ。 お前好きじゃん。 異世界転生系」
「あー……」


 好きだけど、と言いかけて口をつぐむ。


「やば。 オタクかよ」
「あれ? てかあれじゃん? こいつ……」
「あー。 そいや例のかみおうじじゃん」
「ふふっ皇子ってキャラかよ」


 クスクスと後ろの方から女子の笑い声がし始めたのだ。
恥ずかしさから席を立ち、「おい?」と不思議そうにしている親友に背を向けて教室から抜け出す。


 「おい!」


後ろから親友の声がする。
だが俺はそれに構わず歩き続ける。


「おい! イッチ!」


 肩を強く掴まれる。


「どうしたんだよ?」
「別に」
「後ろのやつの言葉なんか気にすんなよ」


 親友のそんな言葉に「気にするよ」とつぶやく。
しかし、彼の耳には届かなかったようで「え? 何?」と聞き返してくる。


「別に」


 廊下の外に目をやる。
既に7割近く散っている桜の木をぼうっと見つめながら、まだ近くにいるであろう親友に声をかけた。


「なあ、もし異世界に転生したらどうする?」


そんな俺の言葉に親友は笑うこともなく、「そうだな」と呟き、「もちろんチート能力で俺TEEEモード堪能するぜ」とこたえた。


「俺TEEEねえ」
「イッチは?」
「俺? 俺は……」


 俺は──どうしたいだろう。
少なくとも、今みたいな悪目立ちする生活はイヤだな。


「のんびりスローライフ、かなあ」
「それも今流行ってるよな」
「……ん?」


 チカチカと、桜の木に光り輝くが見えた。


「なんだ、あれ?」
「え?」

どれ──親友の声が遠くに聞こえる。


 アレだよと、言いかけて、視界が歪んでいる事に気がついた。


親友の顔がだんだんとボケていく……。



 「あ、れ?」


 いつの間にか俺の意識は飛んでしまった。



           
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