本当は、やめてほしくなかった

さい

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1章

8.約束

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 「まずは、彼と会って話をするんだ。全てはそれからだよ」

 「一体何を話せば…」

 「正直に言えばいい。君の思っていることを、正直な君の気持ちを伝えるんだ。それから、怜の気持ちをちゃんと聞くんだ」

 「君がこの後、どうしたいのかだけを考えるんだ。他人なんかどうでもいい」
 
 「だから、この先のことは、自分で考えるんだ」

 医者はそう言ってから、腕時計に目をやった。

 「もう次の患者さんが来る時間だから、今日はそろそろ終わりにしよう」

 「最後に、もう一つ、忠告しておこう。自覚してるのかも知れないけど、君の体は今本当に弱ってるんだ。だから…、まあ、いい機会なのかも知れない」

 医者はそう言って、何だか決まりが悪そうに、クッキを一つ摘んで悠太に勧める。

 「大丈夫です」

 悠太は手を振って、必要ないと言って来たので、医者はまた自分の口に入れる。

 しばらく沈黙が続いた。その間に二人はお茶を飲んで、乾いた喉を潤した。

 「先生がそれを言うんですか」

 先に口を開けたのは、悠太だった。

 「いずれ、やめるべき時は必ず来る。そうだろう?」

 「でも、今じゃない。ですよね?」

 「そうだ。でも…、いや、やめとこう。悪い。つい、言いすぎてしまった。でも、約束はちゃんと守ってもらうよ。覚えてるよね?」

 「はい、覚えてます。心配しないでください。それだけは、ちゃんと守りますから」

 「そっか」

 「はい。いつもありがとうございます」

 「いいんだ。君たちが幸せになることを願うよ」

 「はい。幸せになります」

 「よし。今日はこれで終わりにしよう。何だか、人生相談みたいになっちゃったけど、まあいいか」

 「そうですね…申し訳ないです。何なら、録音して送りましょうか?」

 「おおっ! 気が利くね。じゃあ、お願いするよ。時間がある時でいいから」

 「分かりました。どこに送ればいいんですか?」

 「そうだな。僕のメアドに…いや、USBとかに入れて、直接渡してくれ」

 「そうですね。敏感なものなんで、間違って送っちゃったら怖いですしね」

 「そういうこと」

 「じゃあ、本当に、そろそろ終わりにしよう」

 「はい。今日は、本当にありがとうございました」

 「お大事に」

 「はい。失礼します」

 悠太は診察室のドアを開けながら、振り向いて、ペコリと頭を下げた。すると、医者は手を振って、返してくれる。

 母さんを随分待たせてしまっているので、悠太は急いで母さんの座っているところに向かう。本でも読んでいるんだろうから、退屈はしてないだろうけど、などと考えがら、足早に廊下を進んでいった。

  


 

 
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