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2章
24.幻
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「あそこにあんな店あったっけ?」
恵はいつもと同じような道を歩いていたはずだった。学校からの帰り道、いつも遠回りをして、わざわざここを通ることにしている。
海の匂いが好きだった。浜辺を真っ直ぐ歩いて、秘密の登山道に入っていく。そしてクルクル回りながら、15分ほど登っていくと、家に通じる抜け道が現れて、そのちょうど出口のところに、その店はあった。真っ白な看板の真ん中の方に、小さく「ユレ」と書いてあるのが見える。なぜかブラインドが降ろされていて、中を見ることは出来なかった。しかしあんなところに店などなかったはずだ。恵はとても不思議な気分だった。
確かに絶妙に、目立たない場所に、その店はあった。そしてあまりに自己主張が乏しい店だった。なんだか洒落ているというのは分かる。それでいて周りの風景に完全に溶け込んでいて、違和感を感じさせないところが、特にそうだった。
「参考になる…」
「余白って、こんなにも大事なことだったんだ」
最近絵が上手く描けなくなって悩んでいた恵は、なんだか救われた気分だった。
一体誰が、何のためにここで店を出そうとしているのかが気になり始めたのは、その時だった。
「今日は描けそうな気がする」
恵は、その店からそう遠くないところにある家に着いて、すぐ絵を描き始めた。そしてあの店に、もう一度行きたいと思った。
「そういえば、営業時間を確認してない…でも近いし、後でもう一度確認してみよう」
恵はそんなことを考えながら、手に持った筆を走らせた。
♢♢♢
「いらっしゃいませ」
はじめてのお客様の入ってくる瞬間、怜と悠太は手を止めて、一斉に顔を上げる。
制服姿の女の子だ。
「好きな席にどうぞ。はじめてのお客様なので、お代は結構です」
とテーブルを拭いていた怜は、女の子の方に近づいていってそう言う。
すると、入口の方で立ったまま、店のあっちこっちを見回していた女の子は驚いたのか、飛び上がるように頭を下げて出て行ってしまった。
「逃げちゃった…」
「俺、何かへんなこと言っちゃった?」
怜は困ったような顔で頭を掻きながら、悠太に聞く。
「まあ、怜って無愛想だもんね」
「体大きいし…」
♢♢♢
なぜか逃げるように店を出てしまった恵は、胸が爆発しそうだった。
「何?! 今のイケメンは」
「こんなの反則じゃない!!」
「しかも二人いる…」
「見間違い…なのかな」
「こんなど田舎に、あんなイケメンいるはずがないもの」
恵は振り返る自信がなかった。顔が赤くほてっていて、なんだか恥ずかしかったのだ。
それでも恵は、彼らの顔をもう一度この目で確かめたかった。そして、勇気を振り絞って、もう一度店の中に入って行こうとした。目を瞑った。
「落ち着け、恵!!」
「あれは幻なんだ!!」
「現実に…あんなイケメンが存在しているはずがない」
「いらっしゃいませ」
「さっきのお客さん?」
恵は目を瞑ったまま、「ユレ」に入っていくと、さっきとは違って、体を温かく包み込んでくれるような、優しい声が聞こえてきた。
「なんだかすごく落ち着く声…」
恵は目を瞑ったまま、色んなイメージを頭の中で描いていた。
「あの…お客さん?」
「ああ!! なんでこんなにも落ち着くんだろう。そうだ!!さっきのイケメンは幻だったんだ」
「落ち着け、恵!!」
「早く席に座って、タダ飯をいただこうじゃないか。ワハハハハ」
「悠太…変なのが来ちゃったよ…どうする?」
「なんで目瞑って立ってるんだ?」
怜は厨房に隠れて、悠太にそう聞く。
「分からない…」
二人は仕方なく、恵の奇行が終わるのを待ってあげることにした。
恵はいつもと同じような道を歩いていたはずだった。学校からの帰り道、いつも遠回りをして、わざわざここを通ることにしている。
海の匂いが好きだった。浜辺を真っ直ぐ歩いて、秘密の登山道に入っていく。そしてクルクル回りながら、15分ほど登っていくと、家に通じる抜け道が現れて、そのちょうど出口のところに、その店はあった。真っ白な看板の真ん中の方に、小さく「ユレ」と書いてあるのが見える。なぜかブラインドが降ろされていて、中を見ることは出来なかった。しかしあんなところに店などなかったはずだ。恵はとても不思議な気分だった。
確かに絶妙に、目立たない場所に、その店はあった。そしてあまりに自己主張が乏しい店だった。なんだか洒落ているというのは分かる。それでいて周りの風景に完全に溶け込んでいて、違和感を感じさせないところが、特にそうだった。
「参考になる…」
「余白って、こんなにも大事なことだったんだ」
最近絵が上手く描けなくなって悩んでいた恵は、なんだか救われた気分だった。
一体誰が、何のためにここで店を出そうとしているのかが気になり始めたのは、その時だった。
「今日は描けそうな気がする」
恵は、その店からそう遠くないところにある家に着いて、すぐ絵を描き始めた。そしてあの店に、もう一度行きたいと思った。
「そういえば、営業時間を確認してない…でも近いし、後でもう一度確認してみよう」
恵はそんなことを考えながら、手に持った筆を走らせた。
♢♢♢
「いらっしゃいませ」
はじめてのお客様の入ってくる瞬間、怜と悠太は手を止めて、一斉に顔を上げる。
制服姿の女の子だ。
「好きな席にどうぞ。はじめてのお客様なので、お代は結構です」
とテーブルを拭いていた怜は、女の子の方に近づいていってそう言う。
すると、入口の方で立ったまま、店のあっちこっちを見回していた女の子は驚いたのか、飛び上がるように頭を下げて出て行ってしまった。
「逃げちゃった…」
「俺、何かへんなこと言っちゃった?」
怜は困ったような顔で頭を掻きながら、悠太に聞く。
「まあ、怜って無愛想だもんね」
「体大きいし…」
♢♢♢
なぜか逃げるように店を出てしまった恵は、胸が爆発しそうだった。
「何?! 今のイケメンは」
「こんなの反則じゃない!!」
「しかも二人いる…」
「見間違い…なのかな」
「こんなど田舎に、あんなイケメンいるはずがないもの」
恵は振り返る自信がなかった。顔が赤くほてっていて、なんだか恥ずかしかったのだ。
それでも恵は、彼らの顔をもう一度この目で確かめたかった。そして、勇気を振り絞って、もう一度店の中に入って行こうとした。目を瞑った。
「落ち着け、恵!!」
「あれは幻なんだ!!」
「現実に…あんなイケメンが存在しているはずがない」
「いらっしゃいませ」
「さっきのお客さん?」
恵は目を瞑ったまま、「ユレ」に入っていくと、さっきとは違って、体を温かく包み込んでくれるような、優しい声が聞こえてきた。
「なんだかすごく落ち着く声…」
恵は目を瞑ったまま、色んなイメージを頭の中で描いていた。
「あの…お客さん?」
「ああ!! なんでこんなにも落ち着くんだろう。そうだ!!さっきのイケメンは幻だったんだ」
「落ち着け、恵!!」
「早く席に座って、タダ飯をいただこうじゃないか。ワハハハハ」
「悠太…変なのが来ちゃったよ…どうする?」
「なんで目瞑って立ってるんだ?」
怜は厨房に隠れて、悠太にそう聞く。
「分からない…」
二人は仕方なく、恵の奇行が終わるのを待ってあげることにした。
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