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2章
38.朝
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次の日の朝、怜は窓から入ってくる日差しの眩しさに目を覚ますと、すぐ悠太が隣にいないことに気がついた。
半分目を開けた状態で、時計を確認した。まだ8時もなってない時刻だったので、構わず、もう少し眠ろうと目を閉じた。しかし、一度目を覚ましたせいなのか、さっきまで自分を支配していた睡魔は跡形もなく消えてしまい、少しも眠れる気がしなかった。
眠ることを止め、体を起こし、周りを確認する怜。サイドテーブルには、読みかけの台本が置かれていた。それを手に取って、しおりを挟んでおいたところから、また読み始めて行った。
ヘッドボードに重い体を預けて、自分の書いた台本の隅から隅まで、一言一句抜かりなく辿って行く。書きながら、一通り読んではいるが、まだ何かが足りないように思えた。できる限り完璧なものに仕上げたかった。後から悠太の意見も聞いてみようと、怜は思った。
「悠太、いる?」
返事はなかった。返事はないが、別段心配するほどのことではなかった。こういう時、多くの場合悠太は、トイレに行ってるか、キッチンに行って、冷蔵庫の冷水を出して飲んでるか、ベランダにデッキチェアーを広げて、風に当たりながら、本を読んでいるかのどっちかであったからだ。
だから怜は、悠太を探しに行くこともなく、台本に集中することができた。これもいつもの繰り返される、二人の日常の一部だった。欠かせない日々のルーチンなのだ。それから、またいつものように、やがて集中力が切れて、自分は悠太を探しに行くのだろうと、怜は思った。あえて想像しようとせずとも、自分のその姿は自然に頭の中で描かれていった。
「言うこと聞かないと、どうなるか分かってるだろう?」
「彼女は、お前がここでこういうことしてるなんて、夢にも思ってなかったんだろうな」
「お前がゲイだったということも、彼女は知ることになるんだ」
「俺の男になれ」
「いいだろう?」
「お前がどういう人間なのかは、もう分かったるんだよ」
「変態野郎が」
「夜な夜なフェラしてもらって、さぞ楽しかったんだろう?」
「あいつが俺のスパイだったことも知らずにな」
「お前の性癖なんて、こっちはもう把握済みなんだよ」
「こういう風にされるのが好きなんだろう?」
「どうだ? 気持ちいいか? 変態野郎」
怜は、自分のセリフを声を出さずに、読み上げていく。その調子で、一時間ほど練習したのだろうか。思ってた通り、集中力はそろそろ限界だった。喉もカラカラで、水が飲みたかった。ギンギンに冷やした麦茶を、一息で、飲み干してしまいたかった。
怜はベッドから出て、キッチンに向かった。そしてギンギンに冷やした麦茶をグラスに注ぎ、ゴクゴクと喉を鳴らしながら、一気に飲み干した。
「はぁー、生き返る」
グラスを空にした怜は、また麦茶を注いで、同じく一気に飲み干した。声を出さなくても、セリフをイメージするだけで声帯に力が入っていくのだ。結局5回立て続けに、注いで、飲み干すことを繰り返した。それだけで、お腹がいっぱいになった。
喉を十分に潤してから、キッチンを出て、ベランダに行った。長い間戻ってこなかったということは、つまりそこにいるということだったからだ。案の定、悠太は、パラソルを広げて陰を作り、その下で、デッキチェアーに腰を下ろして、台本を読んでいた。
「やっぱり、ここにいたんだな」
「あまりにも来ないから探しにきたぜ」
怜は悠太の後ろに立って、肩に手を載せながらそう言う。
「これさ、本当に怜が書いたのか?」
「そうだよ」
「よく書けてるよ、これ」
「そりゃ、どうも」
こうやって素直に褒められると、怜はなんだか恥ずかしかった。
「朝ごはんどうする?」
「任せるよ」
悠太は肩に乗せられている怜の手に、自分の手を重ねる。
「じゃあ、後で呼ぶよ」
「うん。ありがとう」
「何作る?」
「秘密」
「何それ」
「楽しみにしてろよ」
「はいはい」
悠太はページを捲った。
半分目を開けた状態で、時計を確認した。まだ8時もなってない時刻だったので、構わず、もう少し眠ろうと目を閉じた。しかし、一度目を覚ましたせいなのか、さっきまで自分を支配していた睡魔は跡形もなく消えてしまい、少しも眠れる気がしなかった。
眠ることを止め、体を起こし、周りを確認する怜。サイドテーブルには、読みかけの台本が置かれていた。それを手に取って、しおりを挟んでおいたところから、また読み始めて行った。
ヘッドボードに重い体を預けて、自分の書いた台本の隅から隅まで、一言一句抜かりなく辿って行く。書きながら、一通り読んではいるが、まだ何かが足りないように思えた。できる限り完璧なものに仕上げたかった。後から悠太の意見も聞いてみようと、怜は思った。
「悠太、いる?」
返事はなかった。返事はないが、別段心配するほどのことではなかった。こういう時、多くの場合悠太は、トイレに行ってるか、キッチンに行って、冷蔵庫の冷水を出して飲んでるか、ベランダにデッキチェアーを広げて、風に当たりながら、本を読んでいるかのどっちかであったからだ。
だから怜は、悠太を探しに行くこともなく、台本に集中することができた。これもいつもの繰り返される、二人の日常の一部だった。欠かせない日々のルーチンなのだ。それから、またいつものように、やがて集中力が切れて、自分は悠太を探しに行くのだろうと、怜は思った。あえて想像しようとせずとも、自分のその姿は自然に頭の中で描かれていった。
「言うこと聞かないと、どうなるか分かってるだろう?」
「彼女は、お前がここでこういうことしてるなんて、夢にも思ってなかったんだろうな」
「お前がゲイだったということも、彼女は知ることになるんだ」
「俺の男になれ」
「いいだろう?」
「お前がどういう人間なのかは、もう分かったるんだよ」
「変態野郎が」
「夜な夜なフェラしてもらって、さぞ楽しかったんだろう?」
「あいつが俺のスパイだったことも知らずにな」
「お前の性癖なんて、こっちはもう把握済みなんだよ」
「こういう風にされるのが好きなんだろう?」
「どうだ? 気持ちいいか? 変態野郎」
怜は、自分のセリフを声を出さずに、読み上げていく。その調子で、一時間ほど練習したのだろうか。思ってた通り、集中力はそろそろ限界だった。喉もカラカラで、水が飲みたかった。ギンギンに冷やした麦茶を、一息で、飲み干してしまいたかった。
怜はベッドから出て、キッチンに向かった。そしてギンギンに冷やした麦茶をグラスに注ぎ、ゴクゴクと喉を鳴らしながら、一気に飲み干した。
「はぁー、生き返る」
グラスを空にした怜は、また麦茶を注いで、同じく一気に飲み干した。声を出さなくても、セリフをイメージするだけで声帯に力が入っていくのだ。結局5回立て続けに、注いで、飲み干すことを繰り返した。それだけで、お腹がいっぱいになった。
喉を十分に潤してから、キッチンを出て、ベランダに行った。長い間戻ってこなかったということは、つまりそこにいるということだったからだ。案の定、悠太は、パラソルを広げて陰を作り、その下で、デッキチェアーに腰を下ろして、台本を読んでいた。
「やっぱり、ここにいたんだな」
「あまりにも来ないから探しにきたぜ」
怜は悠太の後ろに立って、肩に手を載せながらそう言う。
「これさ、本当に怜が書いたのか?」
「そうだよ」
「よく書けてるよ、これ」
「そりゃ、どうも」
こうやって素直に褒められると、怜はなんだか恥ずかしかった。
「朝ごはんどうする?」
「任せるよ」
悠太は肩に乗せられている怜の手に、自分の手を重ねる。
「じゃあ、後で呼ぶよ」
「うん。ありがとう」
「何作る?」
「秘密」
「何それ」
「楽しみにしてろよ」
「はいはい」
悠太はページを捲った。
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