本当は、やめてほしくなかった

さい

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2章

46.感触

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 「そろそろ帰ろうか」

 「うん」

 気がつくと、二人は手をつないでいた。どれぐらい長い時間を握っていたのだろうか。手を離すと、汗の感触が感じられてきた。

 「また負けちゃったな」

 「水泳だけはね、負けないよ」

 「何が問題だと思う?」

 「練習不足かな」

 「でも怜って、フィジカルモンスターだからさ、いずれは俺、負けちゃうんだと思う」

 「まだ習ったばかりなのに、こんなに泳げるんだから」

 「どうだろうね」

 怜は立ち上がって、背伸びをする。

 「今日の晩ご飯は何かな。俺が作ろうか?」
 
 「いいよ。何作る?」

 「チャーハン」

 「セロリの葉っぱと、卵とエビ入れる。ちょうど残ってるから」

 「任せるよ。悠太のチャーハンおいしいから好き」

 「じゃあ、俺乗せてくれる? 背中に」

 「は?」

 「つかれちゃった」

 「じゃあ、じゃないよ。できるわけないだろう」

 「やってみようよ」
 
 「いや、無理だって」

 「一回だけ。お願い」

 「できたらすごいじゃん」

 「…無理だって」

 「お願い!!」

 怜は断るつもりだった。疲れていたし、できるわけがなかったからだ。しかし悠太の子犬のような目があまりにも可愛かったので、どうしても断りきれなかった。

 「分かった」

 「うん。一回だけ」

 「無茶だよ…」

 「まあまあ、面白いよきっと」

 怜は先に海の中に入って、背中を向ける。おんぶするときのように、少し前屈みになって、悠太を待っていた。

 「早く乗って」

 「背中に乗せるのは無理だから、負ぶっていくよ」
 
 「うん。それでいい」

 悠太はそう言って、怜の背中めがけて飛び降りる。

 「あっ!」

 前を向いていた怜は、急な衝撃にびっくりして、思わず悲鳴を上げてしまう。

 「危ないって!」

 「ハッハハ。いいじゃんいいじゃん」

 「出発~!!」

 「子供かよ…」

 怜はため息をついた後、ゆっくりと前に進んでいく。

 「温かいね。体」

 首に後ろから手を回して、体を預けている悠太は、怜の耳元でそうささやいた。

 「夏だから」

 なぜなのだろう。悠太はびっくりするほど軽かった。まるで子犬を背中に乗せているかのように、ただ気持ちがいいだけで、少しもつらくなかった。

 「重くない?」

 「うん。重くない」

 「何キロだっけ? 体重」

 「57」

 「すこし痩せた?」

 「いや、同じだよ」

 「もっと食べた方がいい」

 「食べてるよ。食べても太らないだけ」

 「しょうがない。そういう体質だから」

 「そっか」

 「あとすこしだから頑張って」

 「うん。余裕、余裕」

 後20メートルぐらいだろうか。すぐ目の前に、二人の荷物が、パラソルが見えている。怜はビーチについて悠太を下ろした。一気に力が抜けていく。

 「片付けお願い」
 
 「俺ちょっと休むから」

 「大丈夫? やっぱり重いよね」

 「大丈夫」

 「ほら、タオル」

 後ろで膝に手をついて休んでいた怜は、飛んでくるタオルを受け取る。

 「ありがとう」

 二人は体を拭いて、ゆっくり家路についた。 


 

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