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二十一話 怪物の愛し子 後
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「このままでは食物が足りません。隣国には肥沃な農地や河川があります。国民を飢えさせないためには、あの国を手中に落とす必要があるのです」
その言葉を呆然と立ち尽くして聞いていた。
人間とは、こういうものなんだろうか。手に入れてしまえば、次々に欲が出る。跪いて懇願してきたあの日、彼らは家族や恋人の仇を討つという願いの他に、何も持っていなかったはずなのに。
「愛し子様、共にこの大陸を平定しましょう」
男はそう言ったが、その言葉に同意する気にはならなかった。
「僕は、もう一緒には行きません」
そうきっぱりと口にして、首を横に振った。
今まで言われた通りに従っていたから、男達も神官達も驚いて、みんな口々に説得の言葉を投げかけてきた。しかし頑として首を縦には振らなかった。
城の自室に閉じ籠り、遠征に行くと言われても部屋から出なかった。そして他国に攻め入るのを思い留まるように主張したが、無理やり腕を掴まれて引き出されそうになり、ノクスを呼び出して守ってもらった。
ノクスが立ち塞がると、もう誰も部屋の中には入ってこられない。そのうち説得に来ていた男達は諦めて、自分達だけで遠征に出立していった。
『まったく人間って、これだから呆れちゃうわ』
無責任だと喚き散らして去っていった男達の態度に怒り、シルフは森に帰ろうと何度も促してきた。
「ダメだよ。僕だけ逃げられない。こうなってしまったら、僕には僕の責任がある」
こんなことをしたいわけじゃなかった。
自分が国の象徴になるなんて、思ってもみなかった。
侵略をやめ、帰国するように前線に遣いを出したが、全て無視された。
やがて、最初勢いのあった戦況は芳しくなくなる。
ノクスの旗印がなくなると、内戦続きで疲労が蓄積している兵達は隣国に打ち負かされるようになった。
そこで引き下がればいいのに、男達は侵攻を打ち切ろうとしない。雲行きはどんどん怪しくなり、すぐに前王の体制下で生き残っている残党達も隣国に味方して、一月後には逆に攻め込まれるようになった。
「愛し子様、どうかお力をお貸しください」
逃げ帰ってきた男達の声を、部屋の中に閉じこもって無視した。
きっとノクスと共に前線に出れば、戦況は好転するだろう。でもそんなことをしたら、また男達は侵攻しようとする。それでは過ちを繰り返すだけだ。
今も戦場では、兵達が命を落としながら必死で戦っている。もしかしたらノクスが来てくれると信じて待っているかもしれない。
それでも、もうノクスに頼ろうとは思えなかった。
自分達の陣営は負ける。兵達はたくさん死ぬだろう。親を失う子供を生み出しているのは、間違いなく自分だった。
ノクスを森から連れ出すべきではなかった。
後悔しても、失われた命は帰ってこない。
「愛し子様! もう敵は国境を越えて迫っています! 出てきてください! みんな死んでしまいます!!」
数日後、悲痛な声が聞こえ、扉を叩く男達に部屋の中から答えた。
「僕は戦いには行きません。ノクスも。死にたくない人は逃げるように言ってください。僕はこの国の愛し子として、ここに残ります」
「残ってどうされるのです?! 捕まったら奴らに利用されます!」
「誰にも利用されたりしません。ノクスはもう森に返します。だからあなた達も、逃げるなら早い方がいい」
「愛し子様!!」
考え直せと叫ぶ声を無視して、ノクスの腕の中で身体を丸めた。
ノクスに部屋に誰も入れないように言ってから、目を閉じて眠りにつく。なんだか、とても疲れてしまった。ドンドンと扉を叩く音は、数時間したら静かになった。
目を覚ますと、城の中は静まり返っていた。
丸一日か二日経ったのか、窓の外は暗く、人の気配は消えている。
ノクスの腕の中から出て窓辺に近づくと、城下の街もまた暗くなっていて、城に向かって進んでくる篝火の列だけが夜の闇を煌々と照らしていた。部屋の中の自分とノクスの姿が見て取れるほどに、城に迫るその松明は明るく、数が多い。
『みーんな逃げたわよ。ほんとに人間って、どうしようもないんだから』
「殺されずに逃げられたなら、よかったよ」
『私達も逃げましょうよ。今なら闇に紛れて森に帰れるわ』
窓枠にとまったシルフの声に、首を横に振った。
「僕はここに残るよ」
そう言ったら、後ろから腰に巻きついた側腕に持ち上げられた。
「ノクス、ダメだよ。下ろして」
担いで部屋から出ようとするノクスを強い口調で止めた。
躊躇うように黒い霧をくるくるさせるノクスに微笑んで、床に下ろしてもらう。
「僕はここにいなきゃいけない。誰かが責任を取らないと。こうなってしまったのは、僕のせいだから」
『そうかしら。あなたを唆したあの男達のせいではなくて?』
「それでも、僕は愛し子という幻想を彼らに見せてしまった。断らなきゃならなかったんだ。あのとき、森を出るべきじゃなかった。そのせいでたくさんの人が死んだんだよ。その命の責任を、僕は取らないといけない」
ざあざあとノクスの黒い霧が揺れる。腰に巻きついた側腕がぎゅう、と強く絡みついてきた。
抱き抱えて逃げようとするノクスを止め、手首から腕輪を外した。目の前に立つ大きな身体を見つめてそっと寄り添い、鎧に頬をつける。
「ノクス、酷いことをさせてごめんね。君を森から連れ出すべきじゃなかった……今まで僕を守ってくれてありがとう。不義の子だと森に捨てられた僕を拾って、あの日腕輪をくれたこと、二人で森の中に小屋を作って一緒に暮らしたこと、全部嬉しかったよ」
目を閉じると、森の中の景色が鮮明に蘇る。
ノクスとの生活はとても楽しかった。毎日が新しい発見で、二人で畑を作ったり、竈でパンを焼いたり、失敗も多かったけどノクスと一緒なら幸せだった。
「愛してる。君は森に帰って、あの小屋を守って。ノクスは長生きだから、きっと僕達はまた会えるだろう?」
そう囁くと、ノクスは側腕の被毛を逆立てて、ブルブルと震えた。
「ノクス、僕が死んだら、死体を森に埋めてほしいんだ。ミウムの木、あの木の下がいいな。この腕輪を一緒に埋めて、君は待っていて。僕は必ず生まれ変わるから」
大きな鋏がぐわっと広がって固まっている。
告げた言葉の意味はわかっているようだ。出会った頃よりも、ノクスは感情を表現できるようになった。これが別れであると、きっと彼には伝わっている。
「大丈夫だよ。僕はノクスのことが大好きだから、きっとまた会える。そしたら一緒に暮らそう」
腕輪を差し出した。
ノクスはしばらく動かずにじっとしていたが、やがて側腕の細い指が腕輪を受け取った。おそらく、森に連れ帰りたい衝動を耐えてくれたんだろう。どんなときでも、ノクスはこちらの意思を優先してくれる。
その平たい手を掴んで、そっと唇を落とした。
「僕がつけた君の名前、どうか忘れないで。僕はまたノクスの名前を呼びたいから。僕が忘れていたら、ちゃんと教えてね」
鎧に刻んだ名前を見つめた。戦地に立つようになったノクスに鎧が作られたとき、ナイフで名前を彫ってあげた。鎧を身につけたノクスはカッコよくて、その姿で抱き上げられると胸がドキドキしたのを思い出す。
微笑んで見上げると、ノクスの霧はくるくると回った。
「さぁ、影の中に入って。僕が死ぬまで出てきちゃダメだよ。僕が死んだら影の魔法は解けて外に出られるから、そしたら僕の死体を森に連れ帰って」
最後に腕を伸ばして抱きつくと、細い側腕は何重にもなって身体に巻きついてきた。
別れたくない。
死ぬのは怖い。
けれど、今ここで逃げたら、自分は後悔に苛まれて心を壊してしまうだろう。ノクスにたくさんの人を殺させて、兵達やその家族に地獄を見せた報いを受けなければならない。
「愛してるよ、ノクス」
黒い霧が顔の周りをぐるぐると取り巻き、目を閉じると髪や頬を撫でてくる。名残惜しそうに顔に触れてくる霧の粒に微笑んで、口を開いてノクスの霧を吞み込んだ。
ノクスの細い指がそっと頭を撫でてから、しゅるりと影の中に消える。
窓枠に止まってその様子を見ていたシルフが羽を広げた。
『本当に逃げなくていいの? 私でもあなたを森に運ぶことができるわ』
「……いいんだ。愛し子がいなくなることで、この国の混乱は終わる」
『あなたがいいならいいのよ。私は神殿で眠りながらあなたの次の生を待つだけだもの』
「シルフもまた友達になってくれる?」
『もちろんよ。あなたが何度生まれ変わっても必ず見つけるわ、わたしの愛しい子。ノクスより早くね』
「ふふ、ありがとう」
首にかけていた金色のネックレスを外して、バサリと羽ばたいたシルフに差し出す。
金色の鎖を咥えてふわりと浮かんだシルフは頬に頭を擦り寄せてくる。優しく喉を撫でると、美しい声で一声し、窓から羽ばたいて闇の中に消えていった。
部屋の中に一人残り、階下から荒々しい足音と怒声が聞こえてくるのを静かに待った。壁にかけられた鏡を見ると、金髪に青い目の青年がこちらを見つめ返してくる。純白の衣装を着ている自分は、きっとリンドールの愛し子であることがすぐにわかるだろう。
ひと思いに胸を突いてくれるように、仕向けなければならないな。
長椅子に腰掛け、ひとりごちる。
ノクスの霧を体内に取り込むようになってから、病気もしなくなったし、怪我はあっという間に治ってしまう。一度に息の根を止めてくれないと、きっと死にきれないだろう。
バタバタと廊下を進んでくる足音を聞きながら、自分の影を見下ろした。
ちょっとだけ足の先に見えているノクスの側腕に、笑みが溢れる。
──僕の愛する怪物。
君が森で待っていると思うと、今からとても楽しみな気がする。
必ず会いに行くよ。
何度でも、君と出会ったあの霧の森に。
たとえ君のことを覚えていなくても、僕らはまたきっと会える。そういう運命だ。
だからまた会えたら、もう一度二人で暮らそうね。
その言葉を呆然と立ち尽くして聞いていた。
人間とは、こういうものなんだろうか。手に入れてしまえば、次々に欲が出る。跪いて懇願してきたあの日、彼らは家族や恋人の仇を討つという願いの他に、何も持っていなかったはずなのに。
「愛し子様、共にこの大陸を平定しましょう」
男はそう言ったが、その言葉に同意する気にはならなかった。
「僕は、もう一緒には行きません」
そうきっぱりと口にして、首を横に振った。
今まで言われた通りに従っていたから、男達も神官達も驚いて、みんな口々に説得の言葉を投げかけてきた。しかし頑として首を縦には振らなかった。
城の自室に閉じ籠り、遠征に行くと言われても部屋から出なかった。そして他国に攻め入るのを思い留まるように主張したが、無理やり腕を掴まれて引き出されそうになり、ノクスを呼び出して守ってもらった。
ノクスが立ち塞がると、もう誰も部屋の中には入ってこられない。そのうち説得に来ていた男達は諦めて、自分達だけで遠征に出立していった。
『まったく人間って、これだから呆れちゃうわ』
無責任だと喚き散らして去っていった男達の態度に怒り、シルフは森に帰ろうと何度も促してきた。
「ダメだよ。僕だけ逃げられない。こうなってしまったら、僕には僕の責任がある」
こんなことをしたいわけじゃなかった。
自分が国の象徴になるなんて、思ってもみなかった。
侵略をやめ、帰国するように前線に遣いを出したが、全て無視された。
やがて、最初勢いのあった戦況は芳しくなくなる。
ノクスの旗印がなくなると、内戦続きで疲労が蓄積している兵達は隣国に打ち負かされるようになった。
そこで引き下がればいいのに、男達は侵攻を打ち切ろうとしない。雲行きはどんどん怪しくなり、すぐに前王の体制下で生き残っている残党達も隣国に味方して、一月後には逆に攻め込まれるようになった。
「愛し子様、どうかお力をお貸しください」
逃げ帰ってきた男達の声を、部屋の中に閉じこもって無視した。
きっとノクスと共に前線に出れば、戦況は好転するだろう。でもそんなことをしたら、また男達は侵攻しようとする。それでは過ちを繰り返すだけだ。
今も戦場では、兵達が命を落としながら必死で戦っている。もしかしたらノクスが来てくれると信じて待っているかもしれない。
それでも、もうノクスに頼ろうとは思えなかった。
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ノクスを森から連れ出すべきではなかった。
後悔しても、失われた命は帰ってこない。
「愛し子様! もう敵は国境を越えて迫っています! 出てきてください! みんな死んでしまいます!!」
数日後、悲痛な声が聞こえ、扉を叩く男達に部屋の中から答えた。
「僕は戦いには行きません。ノクスも。死にたくない人は逃げるように言ってください。僕はこの国の愛し子として、ここに残ります」
「残ってどうされるのです?! 捕まったら奴らに利用されます!」
「誰にも利用されたりしません。ノクスはもう森に返します。だからあなた達も、逃げるなら早い方がいい」
「愛し子様!!」
考え直せと叫ぶ声を無視して、ノクスの腕の中で身体を丸めた。
ノクスに部屋に誰も入れないように言ってから、目を閉じて眠りにつく。なんだか、とても疲れてしまった。ドンドンと扉を叩く音は、数時間したら静かになった。
目を覚ますと、城の中は静まり返っていた。
丸一日か二日経ったのか、窓の外は暗く、人の気配は消えている。
ノクスの腕の中から出て窓辺に近づくと、城下の街もまた暗くなっていて、城に向かって進んでくる篝火の列だけが夜の闇を煌々と照らしていた。部屋の中の自分とノクスの姿が見て取れるほどに、城に迫るその松明は明るく、数が多い。
『みーんな逃げたわよ。ほんとに人間って、どうしようもないんだから』
「殺されずに逃げられたなら、よかったよ」
『私達も逃げましょうよ。今なら闇に紛れて森に帰れるわ』
窓枠にとまったシルフの声に、首を横に振った。
「僕はここに残るよ」
そう言ったら、後ろから腰に巻きついた側腕に持ち上げられた。
「ノクス、ダメだよ。下ろして」
担いで部屋から出ようとするノクスを強い口調で止めた。
躊躇うように黒い霧をくるくるさせるノクスに微笑んで、床に下ろしてもらう。
「僕はここにいなきゃいけない。誰かが責任を取らないと。こうなってしまったのは、僕のせいだから」
『そうかしら。あなたを唆したあの男達のせいではなくて?』
「それでも、僕は愛し子という幻想を彼らに見せてしまった。断らなきゃならなかったんだ。あのとき、森を出るべきじゃなかった。そのせいでたくさんの人が死んだんだよ。その命の責任を、僕は取らないといけない」
ざあざあとノクスの黒い霧が揺れる。腰に巻きついた側腕がぎゅう、と強く絡みついてきた。
抱き抱えて逃げようとするノクスを止め、手首から腕輪を外した。目の前に立つ大きな身体を見つめてそっと寄り添い、鎧に頬をつける。
「ノクス、酷いことをさせてごめんね。君を森から連れ出すべきじゃなかった……今まで僕を守ってくれてありがとう。不義の子だと森に捨てられた僕を拾って、あの日腕輪をくれたこと、二人で森の中に小屋を作って一緒に暮らしたこと、全部嬉しかったよ」
目を閉じると、森の中の景色が鮮明に蘇る。
ノクスとの生活はとても楽しかった。毎日が新しい発見で、二人で畑を作ったり、竈でパンを焼いたり、失敗も多かったけどノクスと一緒なら幸せだった。
「愛してる。君は森に帰って、あの小屋を守って。ノクスは長生きだから、きっと僕達はまた会えるだろう?」
そう囁くと、ノクスは側腕の被毛を逆立てて、ブルブルと震えた。
「ノクス、僕が死んだら、死体を森に埋めてほしいんだ。ミウムの木、あの木の下がいいな。この腕輪を一緒に埋めて、君は待っていて。僕は必ず生まれ変わるから」
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ノクスはしばらく動かずにじっとしていたが、やがて側腕の細い指が腕輪を受け取った。おそらく、森に連れ帰りたい衝動を耐えてくれたんだろう。どんなときでも、ノクスはこちらの意思を優先してくれる。
その平たい手を掴んで、そっと唇を落とした。
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微笑んで見上げると、ノクスの霧はくるくると回った。
「さぁ、影の中に入って。僕が死ぬまで出てきちゃダメだよ。僕が死んだら影の魔法は解けて外に出られるから、そしたら僕の死体を森に連れ帰って」
最後に腕を伸ばして抱きつくと、細い側腕は何重にもなって身体に巻きついてきた。
別れたくない。
死ぬのは怖い。
けれど、今ここで逃げたら、自分は後悔に苛まれて心を壊してしまうだろう。ノクスにたくさんの人を殺させて、兵達やその家族に地獄を見せた報いを受けなければならない。
「愛してるよ、ノクス」
黒い霧が顔の周りをぐるぐると取り巻き、目を閉じると髪や頬を撫でてくる。名残惜しそうに顔に触れてくる霧の粒に微笑んで、口を開いてノクスの霧を吞み込んだ。
ノクスの細い指がそっと頭を撫でてから、しゅるりと影の中に消える。
窓枠に止まってその様子を見ていたシルフが羽を広げた。
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「……いいんだ。愛し子がいなくなることで、この国の混乱は終わる」
『あなたがいいならいいのよ。私は神殿で眠りながらあなたの次の生を待つだけだもの』
「シルフもまた友達になってくれる?」
『もちろんよ。あなたが何度生まれ変わっても必ず見つけるわ、わたしの愛しい子。ノクスより早くね』
「ふふ、ありがとう」
首にかけていた金色のネックレスを外して、バサリと羽ばたいたシルフに差し出す。
金色の鎖を咥えてふわりと浮かんだシルフは頬に頭を擦り寄せてくる。優しく喉を撫でると、美しい声で一声し、窓から羽ばたいて闇の中に消えていった。
部屋の中に一人残り、階下から荒々しい足音と怒声が聞こえてくるのを静かに待った。壁にかけられた鏡を見ると、金髪に青い目の青年がこちらを見つめ返してくる。純白の衣装を着ている自分は、きっとリンドールの愛し子であることがすぐにわかるだろう。
ひと思いに胸を突いてくれるように、仕向けなければならないな。
長椅子に腰掛け、ひとりごちる。
ノクスの霧を体内に取り込むようになってから、病気もしなくなったし、怪我はあっという間に治ってしまう。一度に息の根を止めてくれないと、きっと死にきれないだろう。
バタバタと廊下を進んでくる足音を聞きながら、自分の影を見下ろした。
ちょっとだけ足の先に見えているノクスの側腕に、笑みが溢れる。
──僕の愛する怪物。
君が森で待っていると思うと、今からとても楽しみな気がする。
必ず会いに行くよ。
何度でも、君と出会ったあの霧の森に。
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