悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

遠間千早

文字の大きさ
315 / 354
第四部

二十五話 理想と愛を失くした氷の国に 前③

 枢機卿の頭髪は別に薄くないので、ただの悪口である。
 怒りに任せて胸ぐら掴むには距離がある。仕方なく薄い笑みを張り付けて枢機卿を見下ろした。

「あの、よろしいですか? 兄とレイナルド卿は恋愛結婚なので」
「いやいや、取り繕わずとも結構。きっと王女殿下も事情を汲んでくださるだろう。安心してほしい」
「……はい?」

 ナミアの権力者を前に今度こそキレそうになる。
 本当に頭髪むしってやろうかと拳を握りしめたら、腕に漲る筋肉の張りが明らかに通常時と違った。そういえばライネルの身体だったな。
 この太い腕で枢機卿を羽交締めにしたら、勢い余ってジャーマンスープレックス決めちゃいそう。頭髪どころかやんごとなき頭が床にめり込む。それはマズイ。冷静になろう。

「ちょっと、すみません」

 俺は深呼吸するためにライネルの方に歩み寄った。
 気配がないと思ったら、ライネルは長いソファの端っこに座って、まるで他人のふりで会話に加わらず存在感を消している。

「なぁ、聞いてた? 今の話」

 ひそひそ声で話しかけると、ライネルはちょっと眉を寄せて顎を引いた。

「ああ。まぁ」
「俺の言葉おかしくないよな? 標準語のはずなのに噛み合わないんだけど。話の途中で何故か祈るし、どう対処したらいいんだ?」
「知らねーよ。こっちの話聞いてねーんだろ。ああいう奴らは脳内で別の会話が進んでるから、通じねー奴に何言ったって無駄だ」

 ルシアの可愛い顔を台無しにして、ライネルはぼそぼそと呟く。
 むしろ気味悪そうに枢機卿とその背後に控えている神官達を見ているから、結構正しいことを言ってるな、と思った。
 確かに、訂正し続けても話が通じそうもない。スルーしよう。俺に結婚相手がいるという最も重要な点は覚えてもらったから、あとは俺の人柄をどう想像してもらおうと支障ないしな。
 そう割り切って、寝落ちているヒューイの隣に戻った。

「失礼しました。私達は宝剣を盗んだ犯人を探してここまで来たのですが、知らないうちにナミア教皇国に入ってしまい、魔法が使えなくなってしまいました。デルトフィアの者と連絡を取りたいのですが、お力をお借りしてもいいでしょうか」

 従者と何か話していたマルティオ枢機卿が俺を振り返り、少し考え込んだ。
 
「宝剣を盗んだ者がこの国に? そのような者が我らの国にいるとは思えないが、他国から紛れ込んでいるということだろうか」
「はい。犯人はデルトフィアから逃亡し、山中の国境からナミア教皇国に入りました」
「なんと……そういえば、ヌイの残党がいるかもしれないと、先ほどキリトスからも報告があったな」

 枢機卿は深刻な顔で頷いた。

「デルトフィアに連絡を取りたいということなら、協力しよう。彼の地には今ちょうどこちらの使者が滞在している」
「ありがとうございます」

 デルトフィアにいるのはシスト司教だ。俺の求婚の件で数日は滞在すると言っていたから、まだいるはず。シスト司教からグウェンか皇太子殿下に話が通るだろう。助かった。

「レイナルド卿はどうやらだいぶお疲れの様子。デルトフィアに連絡を取る間、この部屋で休むといい。続きの部屋に簡易的な寝台もあるので、使ってもらって構わない」
「本当ですか、助かります」
「それから、何か暖かい飲み物と軽食を用意させよう」

 結婚うんぬんの話をスルーして、事実だけを淡々と述べるようにしたら会話がスムーズになった。
 ついでに服のことを相談したら、着替えまで用意してくれた。ちょっと思い込みが激しいけど、枢機卿は多分いい人だ。心の中でハゲって罵ったことを反省した。
 用意されたのは神官服ではなく、白いシャツに灰色のズボンという普通の服だった。でも上に羽織るものは丈の長い白いガウンだったから、一見すると聖職者っぽい。

 寝ているヒューイを隣の部屋に担いでいって、寝台に転がす。俺の身体だし、問題ないだろうと判断して俺が着替えさせた。
 側から見たらライネルが俺を脱がせてるっていう、ちょっと疑問を抱くシーンだけど、ヒューイを叩き起こして着替えさせても後でグウェンに知られたら怒られそうだし。
 俺も手早く着替えて応接室に戻ると、ライネルはソファで膝に着替えを乗せたまま固まっていた。
 女性用の着替えを渡されたものの、まぁ、無理だよな。俺も無理だよ。

「ライネル、寒くない?」
「……ルシアに何する気だ」

 声をかけたら、着替えをぎゅっと抱きしめて俺を睨んでくる。ちょっと目を潤ませるんじゃない。
 ルシアの顔で、そんな変質者を見るような目で俺を見ないで。

「心配しただけだって。顔色悪いから」
「仕方ないだろう。俺だって何とかしたいが……」

 そう言って顔を赤らめるライネル。
 お前のそういうところは、素直でかわいいと思うよ。

 結局俺とライネルではどうすることもできなかったので、ルシアには毛布をかぶってもらいソファで丸まっていてもらうことにした。
感想 541

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です! 表紙は、Pexelsさまより、Abdalrahman Zenoさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます! 文章にはAIを使用しておりません。校正も自力です!(笑)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。