悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

遠間千早

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第二部

十三話 不精な若者の思惑 前②

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 着替えてから、王子は俺にも何か食べるように言った。ソファに座ってドライフルーツやライチみたいな木の実を食べていると、オズワルドは向かいの長椅子で足を組んで俺を見た。

「で、わかった? さっき街を歩いてみて」

 俺は記憶を辿って一度天井を見上げてから彼に視線を戻す。

「サーカスのテントですか? なんか怪しかったのはあそこの天幕ですね」
「ご名答。話が早くて助かるよ」

 オズワルドが満足そうに頷いてからペンを取り出し、木の実の入った包みをテーブルにぶちまけるとその包み紙を開いて広げた。
 その上にさらさらと見取り図のようなものを描いていく。

「さっきのサーカスのテントの横にあった、天幕と馬車が怪しいだろう。サーカスのものもあると思うが、それだけならあんなに見張りはいらないからな。サーカスの一団を隠れ蓑にして、あそこにオークションに出される珍獣も保管されていると思う。でもオークション会場はそっちじゃない」

 王子は話しながらさっきの広場とサーカスのテントの見取り図を描いて、その横にあった立派な門の屋敷を書き加えた。

「会場はこっちだ。サーカスのテントがあって一眼見ただけではわからない場所に屋敷の裏口がある。そこから中に入る」
「なるほど。今からサーカスの天幕に忍び込んで不死鳥の卵を探すのは駄目なんですか?」
「駄目だな。なるべく事を荒立てたくない。元はと言えばうちの公爵が国内で盗んで横流ししたものだからな。そこが公になったらまずい。今回はちゃんと正規の手続きを踏んで手に入れるつもりだ」
「正規の手続きっていうと?」
「買うんだよ。競り落として」
「え?!」

 俺は見取り図から顔を上げてオズワルドの顔を見た。てっきり卵が売られてしまう前に取り戻すのかと思ったら違った。
 真面目な顔をした彼は顔を上げて、俺の驚いた表情を見て片眉を上げる。

「なんだよ。そんなに驚かなくてもいいだろう。そもそも公爵がラムルに売り飛ばしたんだ。それ相応の対価は払って取り戻すつもりだ」
「まぁ、それなら確かに波風は立たないでしょうけど……」
「闇のルートにはそれなりに色々なところに伝手がある。下手に騒ぎを起こしてラムルの皇族の方に情報が渡ると困る。ただでさえ、今ここの皇族はきな臭いからな」

 王子の言葉にピンとこずじっと見つめると、オズワルドは「後で説明する」と言ってまた見取り図に視線を戻した。

「だから、俺たちは今日の夜正規のやり方でオークションに参加して、不死鳥の卵を手に入れる。既に参加する手回しは終わっているから大丈夫だ。デルトフィアの皇族としてじゃなくて、どこぞの国の貴族として登録したけどね。資金は兄上にもらってきた」
「あの、じゃあ俺はなんで連れてこられたんでしょう」

 手を上げて発言した。
 そうだろう。
 闇とはいえちゃんと手続き通りオークションに参加して競り落とすなら、オズワルドは護衛と一緒に来ればよかったんじゃないか?
 なんで俺を連れてきたんだよ。

 俺を見てオズワルドは頷いた。

「良い質問だ。レイナルド、君にはオークションの会場に従業員として潜伏して、卵が無事に俺の手に渡るまで見張っていてほしい」
「…………はい?」
「買ったはいいが、途中ですり替えられたり盗まれたりしたら事だ。ちゃんと本物が俺の手に届くまで職員か何かに扮して忍び込んで見張っておいてもらう」
「……いや、いやいやいや無理でしょうそれは」

 俺はこの国に来るの初めてなんだぞ?!
 出来る訳ないだろうそんなことが!
 そもそも、いきなり見たことない怪しい従業員が内部にいたら悪目立ちしてすぐバレるだろう。

 俺のツッコミに王子は真面目な顔をしてもう一度頷いた。

「大丈夫。調べたところ、闇オークションの従業員はみんな出身もバラバラだし、入れ替わりも激しい。奴隷や隷属した召使ばかりだから、支配人や年配の従業員にバレなければお互いに干渉したりしないから気付かれないだろう。なんとかなる」

 ならねーよ。
 むしろ何で行けると思ってんだ。

 俺は話の展開が意味不明すぎて頭を抱えた。
 真面目な口調を崩さないオズワルドの声が頭の上から降ってくる。

「君は今魔力封じの首輪をつけているから隷属してる奴隷に見えないこともないし、見た目も良いから更に説得力がある。うっかり商品にされないように気をつけろよ」

 気をつけろよ、じゃねーんだわ。
 
 このままでは本当にやらされると危機感を抱いた俺は、顔を上げて王子を説得しようとなんとか言葉を探した。

「気をつけろよ、じゃなくてですね。何かもっとましな方法が……護衛の方は? 潜入とか得意なんじゃないですか」
「さっきも言った通り、彼らは適任じゃない。あの二人は兄上に特殊な訓練を施された俺専属の護衛でね。俺のことを認識している訳じゃないんだ」

 妙な言い方でよく分からず、眉を寄せて俺が首を傾げると彼は少し考えてから補足して説明した。

「二人は自分達が第二王子の護衛であるということと、俺の外見的特徴を頭に刷り込まれている。それから俺のことを覚えられないということも認識している。だから俺自身を捕捉できなくても大丈夫なんだ。側にいる分には忠実に職務を果たしてくれるから問題ないんだけど、こういうある程度柔軟性が必要な任務には適さない」
「……よくわからないですけど、なんとなくわかりました」

 つまりあの二人は魔力量が多いからオズワルドを認識している訳ではなく、頭の中に刷り込まれた情報に従っているということか。
 
「それは良かった。俺から離れる必要があったり、俺が逐一指示を出せない状況になる可能性がある時はあの二人だとちょっと危ないんだよね。だから君と一緒にきたんだ。よろしくなレイナルド」

 王子が流れでさっきのとんでも計画を俺に受け入れさせようとしてくるから慌てて反論した。

「あ、それなら、でん、オズ様の方が潜伏するのはどうですか。周りに覚えられないんだから紛れ込むには適任でしょ。俺頑張って競り落としますから」

 そう言うと、オズワルドは眉を顰める。

「君、本当に不敬だな。皇族の俺にそんな危険な綱渡りさせようっていうの?」

 おい。
 その危険な綱渡りを人にさせようとしといて良く言う。

 俺がジト目で反意を示すと、オズワルドは俺に対抗して腕を組んだ。

「最初から言ってるだろう。君は俺に借りを返すんだ。レイナルド、君は今までどれだけ俺に借りがあると思う? 二年前のクレイドルの王女の件と、魔道列車の時、それから王宮の悪魔については皇室にも責任があるとしても、君のハニーにルシアの出生記録を見せるように兄上に口添えしたのは俺だぞ? だから君に拒否権はないんだ」

 俺の異論を全く相手にしない王子の言い草に、俺は頭を抱えて項垂れた。
 本当に何を考えているんだこの人は。
 絶対嫌だぞ。そんな訳の分からない潜伏任務を押し付けられるのは。

 誰でもいい。

 帝国の王子殿下の暴走を止められる奴なんてそうそういないことは分かっているが、あえて言う。

 誰でもいいから早く助けてください。
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