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第二部
閑話 ウィルの出張報告 前
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拝啓 レイナルド様
そちらの状況はいかがですか。
こちらは今、最後に残った太尉さんをグウェンドルフ様が地面にねじ伏せるところです。
僕は王宮内部に備えられたラムル神聖帝国軍の広い訓練場の片隅で、訓練用の剣を持って悠然と立つグウェンドルフ様とその周りに死屍累々と倒れ伏している軍人の皆さんを引き攣った顔で眺めていた。
「きゅうん?」
一緒にいるベルはベンチに座る僕の前に寝そべりながら、目の前の光景を全く気にせずおやつをねだっている。動じないというか、レイナルド様に似て順応力の高い聖獣だ。僕はかがんでおやつ籠の中から葡萄を取ってあげた。
「くん」
お前も食べろ、というようにベルが鼻先で僕の手にも葡萄をくれたから、お礼を言って僕ももぐもぐ葡萄を食べた。さすが王宮の果物。みずみずしくて美味しい。
訓練場で繰り広げられる特別訓練という名の地獄絵図を見ながら、僕は今に至るまでの出来事を少し回想することにした。
三日前の夕方まで時は遡り、レイナルド様の手紙蝶の騒動の後、僕は庭に出てベルを出迎えた。
その時もう一頭のチーリンが庭の奥から現れて、驚いた僕は目を丸くしてベルとそのチーリンを見比べた。
「えっと……ベルのお友達?」
そう聞くと、ベルは僕を見上げて首を横に振った。
違うらしい。確かに現れたチーリンはどう見ても大人のようだし、静かにベルを見守る姿は友達というより保護者のように見えた。
「じゃあ、もしかして、家族のだれかなの?」
「きゅん」
ベルがそうだよ、というように鳴いた。
ベルの家族が来た、という衝撃の事実に僕はしばらく固まった。お母さんは死んでしまったということは知っているから、じゃあ兄弟か、お父さん、もしくは祖父母ということになる。
何度かベルが鳴いて大きいチーリンに話しかけているが、ベルのご家族は離れた距離から近づこうとはしない。野生らしい対応だ。
レイナルド様のことをエルロンド様に報告しなければならないという使命を忘れて、僕は先にベルとそのチーリンのお世話に集中した。ベルは彼(多分雄だと思う)と一緒に庭で寝るかもしれないから、毛布を多めに切り株のところまで持って行って、お水と果物もたくさん置いておいた。ベルが帰ってきたら食べさせてあげようと思って、レイナルド様といっぱい用意していたからちょうど良かった。
それからベルにはレイナルド様がご用事で外出していることを説明して、屋敷の中に入れるようにレイナルド様の部屋の窓を開けてからエルロンド様のお部屋に向かった。
執務室でグウェンドルフ様と話し合ったことを一通り報告すると、エルロンド様はやれやれと肩をすくめてため息を吐いた。
「あいつは全然落ち着かないなぁ。これはもう、陛下の許可を待たずにこっそり下町の教会で婚姻届を受理させて、強行突破した方がいいかもしれないね」
と、本気かどうかわからないことを呟きながら、皇太子殿下に事情を聞くということを了承してくださった。
レイナルド様、早く帰って来ないと既成事実が成立してしまいますよ。と心の中で思いながら、僕はグウェンドルフ様がレイナルド様を迎えに行く時は一緒について行きたいとエルロンド様にお願いした。
今回は外国だから、グウェンドルフ様はお一人で行くと言われるかもしれない。エルロンド様から既に許可をもらっていると言えば、きっと僕とベルも連れて行ってくれるだろうと先回りしておくことにしたのだ。
団長が一緒なら安心だしいいよ、とエルロンド様から承諾をもらい、僕はその日の夜から密かに旅行の準備とオズ君一号の制作に着手した。
状況が少し分かったのは次の日の午後で、王宮に行かれたエルロンド様が皇太子殿下から情報を聞いてきてくださった。
なんでも、オズワルド第二王子殿下が不死鳥の卵を取り戻すためにラムル神聖帝国に出かけているらしく、レイナルド様は多分それに付き合わされて連れて行かれた、ということらしかった。
「オークションは今日の夜らしいから、明日には帰ってくるんじゃないか、と言っておられた。あいつの何でもかんでも引き寄せる体質には困ったもんだなぁ。帰ってきたら団長に説教してもらわないと」
と呆れた顔で言ったエルロンド様は二階の窓から庭を見下ろして、チーリンがもう一頭増えているのを目視すると「あれも、神官長に報告しなくていいのか……まぁいいか。帰ってきたらレイにやらせよう」と呟きながら見て見ぬ振りをしていた。
エルロンド様にお礼を言って、僕はその夜通信石を使ってグウェンドルフ様に報告した。
不死鳥の卵というまた厄介そうなキーワードを聞いて、グウェンドルフ様は無言になってから「彼は……動物を増やすつもりか……」と何か悟ったような声で呟いていた。
増えるのかな。
でもまさか、不死鳥なんてそんな伝説級の霊鳥がそうそう皇族以外の人間には懐かないよね、と思いながらも、でもベルの件もあるし、レイナルド様だからな……。と僕もグウェンドルフ様を見習って心積もりはしておくことにした。
その日はあまり情報を手に入れられなかったので、ラムル神聖帝国に関する本を読んで勉強しただけで終わってしまった。
ベルともう一頭のチーリンのお世話をしながら仲良くなれるかあれこれ試してみたけれど、野生のチーリンはなかなか庭の木々の間から出てこなかった。落ち着くまでそっとしておこうと決めて、ベルも庭で過ごしているから僕はガセボに陣取ってオズ君一号の制作に勤しんだ。
翌日の午前中に、突然皇太子殿下が来訪されて屋敷の中は騒然とした。
私的な訪問として扱ってほしいと、慌てて出迎えたエルロンド様におっしゃられたらしく、エルロンド様が自ら皇太子殿下を応接室にお通しした。
僕も呼ばれて、特別に部屋の中にいてもいいと言ってくださったので、お言葉に甘えてエルロンド様の後ろに控えさせてもらった。
「この度は、愚弟が勝手をして申し訳なかった」
金髪に青い目の威厳のある顔つきをした皇太子殿下が開口一番にそう言った。
「何か問題が発生しましたか」
わざわざ屋敷を訪ねてくるくらいだから、何か理由があるのだろうと思われたのか、エルロンド様が顔を硬らせて尋ねた。
皇太子殿下は眉を寄せて、「昨夜オズワルドから連絡があった」と前の日の一日で何があったのかを掻い摘んで説明してくださった。
殿下によると、レイナルド様達はオークションで不死鳥の卵を落札するのに失敗して、その後何故か卵を買ったラムル神聖帝国の皇帝陛下にレイナルド様も一緒に買われて王宮に連れて行かれたらしい。嘘みたいだが本当の話だった。
僕はエルロンド様の後ろで口をぽかんと開けて呆けていた。
なぜ、そんなことになるのだろう。
レイナルド様は異国の地でも謎のパワーを発揮しておかしな出来事を引き寄せている。
きっと不死鳥の卵を取り戻して終わりなはずはないと覚悟はしていたけれど、予想以上だった。ラムルの皇帝陛下に買われるなんて、どうやったらそんな展開にたどり着くんだろうか。
固まっている僕の前で、エルロンド様は頭を抱えていた。
「申し訳ない。オズワルドも予想外の事態に陥ったらしく、宮殿に潜入して卵を取り戻す、と無茶苦茶なことを言っている。一旦戻れと言ってあるから、今日の夜レイナルド卿と共に王宮から脱出してくるはずだ」
「……うちのも無茶をやるタイプですが、第二王子殿下も侮れませんね」
エルロンド様の若干不敬な発言を聞いても皇太子殿下は気にせず、腕を組みながら軽くこめかみを押さえた。
「……あれは私と父が少々特殊に育てすぎた。甘やかしたつもりはないのだが」
「……心中お察しします」
何か通じることがあるのか、エルロンド様と皇太子殿下の間に妙な連帯感が生まれていた。
「貴殿と公爵には言葉を尽くせば分かってもらえると思っている。問題なのはフォンフリーゼ卿の方だろう」
そう言った皇太子殿下は難しい顔をしてため息を吐いた。
「父から、近衛騎士団長と信頼関係を築く上ではレイナルド卿の扱いには気をつけるように言われている。早々にオズワルドがやらかしたが、フォンフリーゼ卿は今回の件を既に承知だろうな」
「ええ。いなくなった日の夜には彼はレイナルドがラムルに連れて行かれたのを把握していますよ」
それを聞いて皇太子殿下は俯いてまたこめかみを押さえた。「彼が辞表を出してきたら困るな……」と小さく呟く声が聞こえてくる。
確かに、グウェンドルフ様は一度レイナルド様を連れて国外に逃げる宣言をしていた人だから、怒ったら勢いのまま旅に出るとか言い出しそうだな。僕は連れて行ってもらえるならなんでもいいけど、と密かに心の中で思っていると、皇太子殿下は顔を上げてエルロンド様を見た。
「きっとオズワルド達が今日の夜戻って来るとしても、彼は討伐を終えたら迎えに行くと言うだろう。出来る限り協力はしよう。彼が戻ってきたらファネル総帥に連絡を取るように言ってくれ。準備をして総帥に言付けておく」
皇太子殿下が言った準備というのがこの時はよく分からなかったが、クレイドル王国を通る通行証やラムル神聖帝国の入国許可証などを準備してくださっていたということを僕は後から知った。
その日の夕方にクレイドルから戻って来たグウェンドルフ様は、エリス公爵邸の庭にある転移魔法陣から現れた。
僕はちょうどガセボにいて、庭の隅にいる二頭のチーリンを視界に入れながらオズ君一号の仕上げに取り掛かっていた。
「あ! グウェンドルフ様、お戻りですね。お疲れ様でした」
現れたグウェンドルフ様に声をかけて立ち上がると、騎士団の団服を着たままの彼はいつもの固い表情で僕を見た。もしかしたら二日間ほとんど寝ていないんじゃないかな、と思うのに彼は平然と立っていた。でも顔はいつもより怖い。
そちらの状況はいかがですか。
こちらは今、最後に残った太尉さんをグウェンドルフ様が地面にねじ伏せるところです。
僕は王宮内部に備えられたラムル神聖帝国軍の広い訓練場の片隅で、訓練用の剣を持って悠然と立つグウェンドルフ様とその周りに死屍累々と倒れ伏している軍人の皆さんを引き攣った顔で眺めていた。
「きゅうん?」
一緒にいるベルはベンチに座る僕の前に寝そべりながら、目の前の光景を全く気にせずおやつをねだっている。動じないというか、レイナルド様に似て順応力の高い聖獣だ。僕はかがんでおやつ籠の中から葡萄を取ってあげた。
「くん」
お前も食べろ、というようにベルが鼻先で僕の手にも葡萄をくれたから、お礼を言って僕ももぐもぐ葡萄を食べた。さすが王宮の果物。みずみずしくて美味しい。
訓練場で繰り広げられる特別訓練という名の地獄絵図を見ながら、僕は今に至るまでの出来事を少し回想することにした。
三日前の夕方まで時は遡り、レイナルド様の手紙蝶の騒動の後、僕は庭に出てベルを出迎えた。
その時もう一頭のチーリンが庭の奥から現れて、驚いた僕は目を丸くしてベルとそのチーリンを見比べた。
「えっと……ベルのお友達?」
そう聞くと、ベルは僕を見上げて首を横に振った。
違うらしい。確かに現れたチーリンはどう見ても大人のようだし、静かにベルを見守る姿は友達というより保護者のように見えた。
「じゃあ、もしかして、家族のだれかなの?」
「きゅん」
ベルがそうだよ、というように鳴いた。
ベルの家族が来た、という衝撃の事実に僕はしばらく固まった。お母さんは死んでしまったということは知っているから、じゃあ兄弟か、お父さん、もしくは祖父母ということになる。
何度かベルが鳴いて大きいチーリンに話しかけているが、ベルのご家族は離れた距離から近づこうとはしない。野生らしい対応だ。
レイナルド様のことをエルロンド様に報告しなければならないという使命を忘れて、僕は先にベルとそのチーリンのお世話に集中した。ベルは彼(多分雄だと思う)と一緒に庭で寝るかもしれないから、毛布を多めに切り株のところまで持って行って、お水と果物もたくさん置いておいた。ベルが帰ってきたら食べさせてあげようと思って、レイナルド様といっぱい用意していたからちょうど良かった。
それからベルにはレイナルド様がご用事で外出していることを説明して、屋敷の中に入れるようにレイナルド様の部屋の窓を開けてからエルロンド様のお部屋に向かった。
執務室でグウェンドルフ様と話し合ったことを一通り報告すると、エルロンド様はやれやれと肩をすくめてため息を吐いた。
「あいつは全然落ち着かないなぁ。これはもう、陛下の許可を待たずにこっそり下町の教会で婚姻届を受理させて、強行突破した方がいいかもしれないね」
と、本気かどうかわからないことを呟きながら、皇太子殿下に事情を聞くということを了承してくださった。
レイナルド様、早く帰って来ないと既成事実が成立してしまいますよ。と心の中で思いながら、僕はグウェンドルフ様がレイナルド様を迎えに行く時は一緒について行きたいとエルロンド様にお願いした。
今回は外国だから、グウェンドルフ様はお一人で行くと言われるかもしれない。エルロンド様から既に許可をもらっていると言えば、きっと僕とベルも連れて行ってくれるだろうと先回りしておくことにしたのだ。
団長が一緒なら安心だしいいよ、とエルロンド様から承諾をもらい、僕はその日の夜から密かに旅行の準備とオズ君一号の制作に着手した。
状況が少し分かったのは次の日の午後で、王宮に行かれたエルロンド様が皇太子殿下から情報を聞いてきてくださった。
なんでも、オズワルド第二王子殿下が不死鳥の卵を取り戻すためにラムル神聖帝国に出かけているらしく、レイナルド様は多分それに付き合わされて連れて行かれた、ということらしかった。
「オークションは今日の夜らしいから、明日には帰ってくるんじゃないか、と言っておられた。あいつの何でもかんでも引き寄せる体質には困ったもんだなぁ。帰ってきたら団長に説教してもらわないと」
と呆れた顔で言ったエルロンド様は二階の窓から庭を見下ろして、チーリンがもう一頭増えているのを目視すると「あれも、神官長に報告しなくていいのか……まぁいいか。帰ってきたらレイにやらせよう」と呟きながら見て見ぬ振りをしていた。
エルロンド様にお礼を言って、僕はその夜通信石を使ってグウェンドルフ様に報告した。
不死鳥の卵というまた厄介そうなキーワードを聞いて、グウェンドルフ様は無言になってから「彼は……動物を増やすつもりか……」と何か悟ったような声で呟いていた。
増えるのかな。
でもまさか、不死鳥なんてそんな伝説級の霊鳥がそうそう皇族以外の人間には懐かないよね、と思いながらも、でもベルの件もあるし、レイナルド様だからな……。と僕もグウェンドルフ様を見習って心積もりはしておくことにした。
その日はあまり情報を手に入れられなかったので、ラムル神聖帝国に関する本を読んで勉強しただけで終わってしまった。
ベルともう一頭のチーリンのお世話をしながら仲良くなれるかあれこれ試してみたけれど、野生のチーリンはなかなか庭の木々の間から出てこなかった。落ち着くまでそっとしておこうと決めて、ベルも庭で過ごしているから僕はガセボに陣取ってオズ君一号の制作に勤しんだ。
翌日の午前中に、突然皇太子殿下が来訪されて屋敷の中は騒然とした。
私的な訪問として扱ってほしいと、慌てて出迎えたエルロンド様におっしゃられたらしく、エルロンド様が自ら皇太子殿下を応接室にお通しした。
僕も呼ばれて、特別に部屋の中にいてもいいと言ってくださったので、お言葉に甘えてエルロンド様の後ろに控えさせてもらった。
「この度は、愚弟が勝手をして申し訳なかった」
金髪に青い目の威厳のある顔つきをした皇太子殿下が開口一番にそう言った。
「何か問題が発生しましたか」
わざわざ屋敷を訪ねてくるくらいだから、何か理由があるのだろうと思われたのか、エルロンド様が顔を硬らせて尋ねた。
皇太子殿下は眉を寄せて、「昨夜オズワルドから連絡があった」と前の日の一日で何があったのかを掻い摘んで説明してくださった。
殿下によると、レイナルド様達はオークションで不死鳥の卵を落札するのに失敗して、その後何故か卵を買ったラムル神聖帝国の皇帝陛下にレイナルド様も一緒に買われて王宮に連れて行かれたらしい。嘘みたいだが本当の話だった。
僕はエルロンド様の後ろで口をぽかんと開けて呆けていた。
なぜ、そんなことになるのだろう。
レイナルド様は異国の地でも謎のパワーを発揮しておかしな出来事を引き寄せている。
きっと不死鳥の卵を取り戻して終わりなはずはないと覚悟はしていたけれど、予想以上だった。ラムルの皇帝陛下に買われるなんて、どうやったらそんな展開にたどり着くんだろうか。
固まっている僕の前で、エルロンド様は頭を抱えていた。
「申し訳ない。オズワルドも予想外の事態に陥ったらしく、宮殿に潜入して卵を取り戻す、と無茶苦茶なことを言っている。一旦戻れと言ってあるから、今日の夜レイナルド卿と共に王宮から脱出してくるはずだ」
「……うちのも無茶をやるタイプですが、第二王子殿下も侮れませんね」
エルロンド様の若干不敬な発言を聞いても皇太子殿下は気にせず、腕を組みながら軽くこめかみを押さえた。
「……あれは私と父が少々特殊に育てすぎた。甘やかしたつもりはないのだが」
「……心中お察しします」
何か通じることがあるのか、エルロンド様と皇太子殿下の間に妙な連帯感が生まれていた。
「貴殿と公爵には言葉を尽くせば分かってもらえると思っている。問題なのはフォンフリーゼ卿の方だろう」
そう言った皇太子殿下は難しい顔をしてため息を吐いた。
「父から、近衛騎士団長と信頼関係を築く上ではレイナルド卿の扱いには気をつけるように言われている。早々にオズワルドがやらかしたが、フォンフリーゼ卿は今回の件を既に承知だろうな」
「ええ。いなくなった日の夜には彼はレイナルドがラムルに連れて行かれたのを把握していますよ」
それを聞いて皇太子殿下は俯いてまたこめかみを押さえた。「彼が辞表を出してきたら困るな……」と小さく呟く声が聞こえてくる。
確かに、グウェンドルフ様は一度レイナルド様を連れて国外に逃げる宣言をしていた人だから、怒ったら勢いのまま旅に出るとか言い出しそうだな。僕は連れて行ってもらえるならなんでもいいけど、と密かに心の中で思っていると、皇太子殿下は顔を上げてエルロンド様を見た。
「きっとオズワルド達が今日の夜戻って来るとしても、彼は討伐を終えたら迎えに行くと言うだろう。出来る限り協力はしよう。彼が戻ってきたらファネル総帥に連絡を取るように言ってくれ。準備をして総帥に言付けておく」
皇太子殿下が言った準備というのがこの時はよく分からなかったが、クレイドル王国を通る通行証やラムル神聖帝国の入国許可証などを準備してくださっていたということを僕は後から知った。
その日の夕方にクレイドルから戻って来たグウェンドルフ様は、エリス公爵邸の庭にある転移魔法陣から現れた。
僕はちょうどガセボにいて、庭の隅にいる二頭のチーリンを視界に入れながらオズ君一号の仕上げに取り掛かっていた。
「あ! グウェンドルフ様、お戻りですね。お疲れ様でした」
現れたグウェンドルフ様に声をかけて立ち上がると、騎士団の団服を着たままの彼はいつもの固い表情で僕を見た。もしかしたら二日間ほとんど寝ていないんじゃないかな、と思うのに彼は平然と立っていた。でも顔はいつもより怖い。
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