悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

遠間千早

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第四部

二十三話 理想と愛を失くした氷の国に 前①

 その後、俺達は騎士達の所持していた魔道具を使用して森の中から転移した。
 よく見えなかったけど、リーダーみたいな人が乳白色の石が連なったペンダントを出していた。そのチャーム部分についていた宝石が転移のための結晶石だったんだろう。全員一緒に転移した。

 辺りが一瞬眩く光って思わず目を閉じる。次に目蓋を開いたときには、もう周囲の景色が変わっていた。
 
「うわぁ……すっげ……」

 自然に感嘆の声が漏れた。
 目の前に聳えているのは、純白の石で造り上げられた巨大な城だった。デルトフィアの教会本部も壮麗な建物だが、それともまた違う。どちらかというと、形状は前世でいうところのヨーロッパの城に近い。切り立った山上に建っているような、横じゃなくて縦に長いやつ。
 白い壁には様々な植物や動物の彫刻が一面に施されていて、そのどれもが緻密で息を呑むほど美しい。彫刻が重なり合うようにして白い壁を成している様は、鳥肌が立つような神々しさがあった。

 これが教会の総本山か。
 そう誰もが納得するような佇まいだ。

 城の周りには、見える範囲に空以外何もない。
 いや、だいぶ遠くに峠のようになっている山脈がある。雪のせいで視界が全体的に白っぽくて、山脈の上は吹雪いているのかもやっとした灰色の雲に覆われていてよく見えない。
 立ちこめる空気がまだ一段と冷えて、頬に感じる風がキンと冷たいから、この城のある場所も山の上なんだろう。

「すごいですね。全部金ですよ、あれ」

 ヒューイが寒さを紛らわせるように腕を組みながら、白い息を吐き出して言った。
 その言葉に俺も城を見上げる。上層部の壁には、日の光を受けて炯々と輝く金色の女神像があった。何かを戴くように両手を天に向かって差し伸べている。女神の隣に金色のレリーフが陽刻されているようで、目を凝らすとチーリンのような一角獣と、翼の生えた馬が集まる様子が描かれているらしかった。
 さらに上部には巨大なスタンドグラスも見える。ガラスの色は澄み渡った空のような水色だ。

「すげーな。うちの王宮より金かかってんじゃねーか」

 騎士達と転移してきたから、俺達は城の敷地内にいる。この場所がナミアのどこにあって、街の中からどう見えているのか確かめることはできなかったが、こんなお城が遠目から見えたらありがたさはあるだろうな。
 ラムル神聖帝国の宮殿にあったイラムもなかなかに独創的な造りだったけど、ナミアのこの城はシンプルでわかりやすい。ザ・城だ。
 俺達の立つ広大な広場にも雪は厚く積もっていて、馬車が通る道と城の入り口に続く通路だけは雪が避けられていた。
 雪が落ちるように設計されているのか、鋭利な角度で造られた尖塔には雪はない。ただ壁に細かく掘られた彫刻には雪が乗ったまま凍っている。まるで城全体が氷に包まれているような、不思議な透明感があった。

「さすが教会の総本山。あの金のレリーフだけで貴族の家が何軒か建ちそうだな」
「ですね」
「やれやれ、この尊き神殿で卑しくも金勘定するとは、これだから他国の者達は……」
「なんと不敬な。祝福されし我らの神殿は、古よりこの地に存在する女神の聖殿である」
「大陸の者達には普段どれほど願っても目にすることは叶わない、無上の奇蹟だというのに」
「己の僥倖に咽び泣くがいい、デルトフィアの者達よ」

 いちいちうるせーな。

 大袈裟に捲し立ててくる騎士達をスルーして、正面の入り口に向かおうとしたら、慌てて前に出たリーダーらしき男が咳払いした。唯一まともだと思っていた騎士は、やはりこの騎士達のまとめ役だったらしい。どうりでまぁまぁ的を射たことを言うと思ってたよ。

「しばし待て。デルトフィアの公爵家に求婚状を送っているというのが真実であるのか確かめてくる。それまでは決してここから動くな」
「わかったんで、早くしてください。寒いんで」

 ここに転移してきたときから、一段と寒くなった。
 泥棒だのどうのこうのと言っている騎士達を前にしても背に腹は変えられないと、村から失敬したマントを着ている。でも寒い。俺が寒いということは、ライネルとヒューイはもっと寒いだろう。

「ライネル、大丈夫?」
「……意識は平常だが、ルシアの身体は微妙だ。震えてきている」
「抱きしめようか?」
「あ? いや、……」

 ライネルは口篭って黙った。
 速攻拒否ろうとして、しかし目の前にあるのは自分の身体か、と思い出したらしい。葛藤している。

「なら俺を抱きしめてもらっていいすか。先輩の身体ももうヤバいすよ」
「えっ、かじかんでる?」
「はい。さっき雪の中歩いたからもう足は感覚ないですね」
「いやそれ困るよ……」

 俺が動けなくなってたら、再会したときグウェンに魔王が降臨しちゃう。騎士団長が怒りに任せてこの歴史ある建造物を破壊したら、デルトフィアは教会から破門されるんじゃないか。
 震えている俺の身体、もとい、ヒューイをぎゅっと抱きしめる。確かに冷えてるな。俺風邪ひきやすいから後でしっかり休ませないと。
 ライネルはグウェンほどではないにしろ、体格はいい。逞しい腕に包まれたヒューイは「ひょぇ」と小さな声でリアクションした。

「なんすかこれ……あったか……これが筋肉」
「おい、俺に断りなく勝手なことするな」
「いいじゃん、この二人なら見た目も男同士だし」
「俺があんたを胸に抱いてる絵面なんて違和感しかねーよ」
「確かに」

 せめて俺とヒューイの中身がさらに入れ替わってくれればな。
 この極寒の中なら、俺は暖をとるために抱きつく相手がライネルでも、義弟だと思ってまぁ目を瞑る。骨格はグウェンに似てるし、ほんのちょっとは癒されるかもしれない。グウェンにはバレないようにするとして。

「デルトフィアの者達よ、枢機卿がお呼びである。こちらに来ていただきたい」

 そのとき、さっき確認に行った騎士が戻ってきた。こちらを見据えて釈然としないという顔をしているが、彼の言葉遣いは少し改まっている。俺達が不審者ではないということがわかったようだ。
 中に入ったらまた何か新しいトラブルが起こるんだろうな。嫌だな、と思ったものの、とにかくここにいるのは寒い。中に入ってなんとかデルトフィアに連絡を取る手段を手に入れよう。
 そう割り切ることにして、俺達はこの雪に覆われた城の中に入ることを決めたのだった。
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