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第四部
十三話 流浪の乙女、事件の始まりを告げよ 中③
「聞きたかったのは、この前お前がアシュタルトに乗っ取られた騒動のとき、犯人がどうやってこの森に入ったのかってことだ」
蛇神は、人が森に入れば感知できる。
いつもそうやって俺達を見つけて祠のあるこの場所に転移させてくるのだ。
この森の中では、蛇の許しなく魔法も精霊術も使えない。禁術は魔界の術だから神の領分ではないという理解で使えるんだとしても、どうやって蛇神に接近できたのかという謎は残っていた。
しかし、ルシアの話を聞いて、俺はふと気づいたのだ。
「魔石の売人が、どうやって森に入り込んでメルの卵を盗ったのかも気になってたんだ。そいつら全員始末したって言ってたよな」
俺が頭の中を整理しながら聞くと、蛇は軽く首肯した。
「動物達を殺し、森の中を彷徨っていた悪人共は全員始末した」
「だよな。なのに卵は盗まれた。それに、誰がどうやって森の中に転移魔法陣を描いたのかっていう疑問もあっただろ」
俺達が最初にこの森に迷い込んだのは、魔石の売人達が根城にしていた廃屋の壁に描かれていた魔法陣を触ってしまったからだ。
禁術の魔法陣を設置したのはノアだと思うけど、どうやってやったのかはわからないままだった。
「以前、確かお前はこう言ってたよな。『赦しを与えるのは動物と幼子のみ』って」
蛇神に最初に会ったとき、森に立ち入ったことを許してほしいと頼んだらそう返されたのだ。あのときグウェンの記憶を取られてブチ切れたから覚えている。
俺の言葉に蛇は頷いた。
「つまりそれは、子供がこの森に入っているのを見たことがあるってことか?」
言い直したら、蛇神はきょとっとした顔になってから、ごく普通に肯定した。
「ある。人の気配を感じ、確認したら幼い幼児だったため、捨ておいたことはある」
「そういうことか……」
あっさり頷きやがって。
その情報、もっと早く寄越せよ。
蛇神は人間みたいな見た目をしているからスルーしそうになるけど、こいつは神だから人と感覚が違う。
普通なら子供がこんな森に一人で来るわけないだろうと思うけど、この蛇は森以外のことはどうでもいいし、森の外には出られないから、禁域の森が帝国のどこに位置してるかなんて知らない。
子供が入り込んでいたなら、それが一番怪しい。多分ノアだ。
「禁術を使う人間は、他人と入れ替わる術を使えるみたいなんだよ。それで子供と入れ替わって、森に入ったんじゃないかと思う。その子供が何してたか見たか?」
「否、興味がなかった」
「どうやって森から出て行ったかは?」
「……そう言われれば、気づいたら気配が消えていたな」
非難の目を向けたら、蛇はそっぽ向いた。
「見た目はほんの小さな女の幼児だった。動物にも悪さをしないから、かかわらずにおいたのだ」
それでまんまと森に魔法陣を描かれてメルの卵を盗まれたんじゃないのか……?
「メルの卵を盗まれたときも気配はあったか?」
「……覚えておらぬ。人間の数が多すぎて全て始末したときには森の中に他の人間の気配はなかった」
「つまり断定はできないけど、ノアは盗人が現れたときに魔法陣からこっそり現れて、卵を持って逃げたっていう線が濃厚だな」
それなら密猟者は全員殺したはずなのに、卵を盗まれていたという事実に納得がいく。
だとすると、招魂祭のときに蛇神を捉えて悪魔を召喚した術も、密かに森に侵入してあの巨大な魔法陣を描いたってことになるか?
「招魂祭の夜は、ちょっと疑問だな。あの頃には俺達が頻繁に森に出入りしてたから、あんたも森の中の気配には敏感になってただろ」
「うむ。しかし言われてみれば、妙な気配を感じていたことは確かだ。そのため森を見回っていたところあの魔法円に囚われた」
「妙な気配?」
「動物の中に異分子が混ざっているという、妙な違和感だった。魔物に近い。人はいなかった」
それを聞いて、俺は腕を組んで少し考えた。
ノアが人と入れ替わることができるというなら、人間じゃない生き物と入れ替わることも可能なんだろうか。
例えば猿とか、手足を動かせる動物と入れ替わったら、森の中に潜んで魔法陣を描くことができる……?
「うーん。動物と入れ替わって森に魔法陣を描くなんて、可能だと思うか?」
隣にいるグウェンを見上げたら、彼は少し考えてから口を開いた。
「それが魂を入れ替えるという術なのであれば、できるかもしれない。しかし、動物の身体で上手く思考が保てるのかは疑問だ」
「うん、確かに。まぁそれはノアを捕まえたら本人に確かめるしかないな。とりあえず、卵泥棒の犯人が森に侵入して転移魔法陣を描いた謎は解けた」
入れ替わりを把握した結果、他にもいくつか疑問だったことが解決する。
豪華客船の事件のときに、カリュブディスを倒して手に入れた魔石を、特殊警備隊の金庫からどうやって盗んだのかとか、幽霊屋敷を見張ってたはずの騎士が火事を見過ごしたこととか。
思い返すと、ノアは結構な頻度で入れ替わって俺達の周りにいたんじゃないか?
ちょっとぞっとして、俺はグウェンに擦り寄った。
しかしながら、今に至るまで誰かと入れ替わったという証言は出てきていない。ルシアと違って被害者には意識がなかったのか、それとも後から記憶を消すような操作ができるのか、まだ細かい疑問は残る。
近いうちに特警と騎士団の関係者にそのときのことを詳しく聞いてみるか。
知りたいことは知れた。屋敷に残してきたウィルとルシアが心配だし、ルシアがいつ元に戻るかわからないから、今日のところは一旦帰ろう。
そこまで考えてから、俺は顔を上げて蛇を見た。
「じゃ、今日はありがとう。帰るわ」
「対価を忘れるな」
「はいはい。ちなみに、お前に乗り移ってた悪魔を封じた剣が盗まれたんだけど、悪魔がまた現れたら力を貸してくれたりしないよな」
「しない。人の世のことは知らぬ」
「世界が滅亡するかもしれないけど、助けに来ないか?」
「私はこの森から出ることはできぬ。ただ女神より託された狭間の入り口を守るのみ」
「だよな。わかった」
そう言うだろうなと思ってたから気にしない。
俺とグウェンはベルとメルを連れて、その場を後にすることにした。
ここから森の外れまで歩くと遠いけど、森の中では転移も飛行もできないから仕方がない。それくらい手を貸せよと思うけど、また対価とか言われたら面倒だから歩くことにした。
夜になってしまったので、鬱蒼とした森の中は昼間よりもさらに闇が深い。
「普通に考えて、この中に小さな子供がいたらこえーだろと思うけど、あの蛇の感覚は人外だから仕方ないのかな」
「必要があれば、女児の誘拐などがなかったか調べることはできるがどうする」
「うーん。そうだな。もし市街地で起こった事件の記録を見ることがあったら、ついでに気にしといて。でも一時的に入れ替わるだけなら、ちょっとの間迷子になってた、みたいなのが実態かもしれない。だからそんなに心血注がなくていいよ」
ぼそぼそ喋りながら、俺はやっぱり暗い森の中が怖いのでグウェンの腕にぴったりくっついていた。
こんな深夜に小さな子供の話とか、ほんとはやめてほしい。マジもんのやつが出てきたら俺は叫ぶぞ。
ベルは森の中は怖くないのか、メルとお喋りしながらのんびり俺とグウェンについてくる。
「ベル、メルはほんとに俺達と一緒に来るで大丈夫? ママには言ったって?」
──大丈夫っていってるよ。メル、そろそろひとりだちのじゅんびだって。
「えっそうなの?! 不死鳥って大人認定されるの早いんだな」
確かに見た目は急にシュッとしたけど、まだ生まれて一年経ってない。鳥の成長ってそんなに早いのか。
俺が驚いていると、メルがベルの背中から離れて俺の肩に止まった。
「ちっちっ。ぴぃ」
片翼を自分の胸の前で広げて得意げに頷いたメルは、俺の頬にぱふっと羽を当ててからくっと胸を逸らした。
コォッ
開いた嘴から小さな炎が出て、一瞬辺りが明るくなる。
「うわっ、すごいなメル! 炎出せるようになったの?!」
「ぴぴぃ」
感動と衝撃で立ち止まり、メルをまじまじと見た。
グウェンも驚いたようで、じっとメルの嘴を見つめている。
「ラムルで悪魔に向かって炎を吐いてくれたときは、アシュラフがアシストしたって言ってたもんな。そっかぁ。一人で出せるようになったんだなぁ。大きくなってぇ……」
俺はまた感激の涙で視界が滲んできたので、ハンカチを出して目元に当てた。
メルが得意げにふわりと飛び上がり、俺の周りを飛びながら小さな炎をポッポッと吐き出している。
ふと、一瞬明るくなった視界の先に、ぼうっと白い塊が浮かんだ。何かがその横を駆け抜ける。
「ひっ、なんかいる?!」
びくっと飛び跳ねてグウェンにしがみついた。
子供の話なんてしてたから、まさか出たわけじゃないよな?
ぎゅうっと腕にしがみついていると、グウェンは冷静に目の前を見つめて首を横に振った。
「何もいない。以前訪れた狭間の道の入り口だ」
「あっ、ああ……あれかぁ」
そう言われてよくよく目を凝らすと、確かに岩で組み上げられたオブジェが見えて、ほっと肩を撫で下ろした。白い塊は岩だったらしい。
なになにどうしたの? という顔でメルが肩に戻ってきたので、笑って誤魔化しておいた。
重なるようにして立つ石に少し近づいてみる。招魂祭の夜にはここから狭間の道に入って、黄泉の川に下りたという嘘みたいな出来事があったが、今はもう何の気配もないし、道も閉じている。
「この場所を通ったな、そういえば」
白い岩に歩み寄ると、それは月の光を吸収して僅かに発光しているように見えた。
「あっ、オズの話、聞くの忘れた」
この場所を見てはっと思い出す。
蛇にオズの依り代の件を聞こうと思ってたのに、またうっかりオズのことを忘れていた。ラムルの初代皇帝からマスルールのことも頼まれてたから、ついでに蛇に確認しようと心づもりしてたのに。
「まぁ、仕方ないか。今度ベルを連れて遊びに行くって約束したし、そのときに聞こう」
次に行くときは、忘れないようにメモ持っていかないとダメだな。
俺はツルツルした表面の白い石に近寄ってその間を覗いたが、やはりもう狭間の道は見つからなかった。
蛇神は、人が森に入れば感知できる。
いつもそうやって俺達を見つけて祠のあるこの場所に転移させてくるのだ。
この森の中では、蛇の許しなく魔法も精霊術も使えない。禁術は魔界の術だから神の領分ではないという理解で使えるんだとしても、どうやって蛇神に接近できたのかという謎は残っていた。
しかし、ルシアの話を聞いて、俺はふと気づいたのだ。
「魔石の売人が、どうやって森に入り込んでメルの卵を盗ったのかも気になってたんだ。そいつら全員始末したって言ってたよな」
俺が頭の中を整理しながら聞くと、蛇は軽く首肯した。
「動物達を殺し、森の中を彷徨っていた悪人共は全員始末した」
「だよな。なのに卵は盗まれた。それに、誰がどうやって森の中に転移魔法陣を描いたのかっていう疑問もあっただろ」
俺達が最初にこの森に迷い込んだのは、魔石の売人達が根城にしていた廃屋の壁に描かれていた魔法陣を触ってしまったからだ。
禁術の魔法陣を設置したのはノアだと思うけど、どうやってやったのかはわからないままだった。
「以前、確かお前はこう言ってたよな。『赦しを与えるのは動物と幼子のみ』って」
蛇神に最初に会ったとき、森に立ち入ったことを許してほしいと頼んだらそう返されたのだ。あのときグウェンの記憶を取られてブチ切れたから覚えている。
俺の言葉に蛇は頷いた。
「つまりそれは、子供がこの森に入っているのを見たことがあるってことか?」
言い直したら、蛇神はきょとっとした顔になってから、ごく普通に肯定した。
「ある。人の気配を感じ、確認したら幼い幼児だったため、捨ておいたことはある」
「そういうことか……」
あっさり頷きやがって。
その情報、もっと早く寄越せよ。
蛇神は人間みたいな見た目をしているからスルーしそうになるけど、こいつは神だから人と感覚が違う。
普通なら子供がこんな森に一人で来るわけないだろうと思うけど、この蛇は森以外のことはどうでもいいし、森の外には出られないから、禁域の森が帝国のどこに位置してるかなんて知らない。
子供が入り込んでいたなら、それが一番怪しい。多分ノアだ。
「禁術を使う人間は、他人と入れ替わる術を使えるみたいなんだよ。それで子供と入れ替わって、森に入ったんじゃないかと思う。その子供が何してたか見たか?」
「否、興味がなかった」
「どうやって森から出て行ったかは?」
「……そう言われれば、気づいたら気配が消えていたな」
非難の目を向けたら、蛇はそっぽ向いた。
「見た目はほんの小さな女の幼児だった。動物にも悪さをしないから、かかわらずにおいたのだ」
それでまんまと森に魔法陣を描かれてメルの卵を盗まれたんじゃないのか……?
「メルの卵を盗まれたときも気配はあったか?」
「……覚えておらぬ。人間の数が多すぎて全て始末したときには森の中に他の人間の気配はなかった」
「つまり断定はできないけど、ノアは盗人が現れたときに魔法陣からこっそり現れて、卵を持って逃げたっていう線が濃厚だな」
それなら密猟者は全員殺したはずなのに、卵を盗まれていたという事実に納得がいく。
だとすると、招魂祭のときに蛇神を捉えて悪魔を召喚した術も、密かに森に侵入してあの巨大な魔法陣を描いたってことになるか?
「招魂祭の夜は、ちょっと疑問だな。あの頃には俺達が頻繁に森に出入りしてたから、あんたも森の中の気配には敏感になってただろ」
「うむ。しかし言われてみれば、妙な気配を感じていたことは確かだ。そのため森を見回っていたところあの魔法円に囚われた」
「妙な気配?」
「動物の中に異分子が混ざっているという、妙な違和感だった。魔物に近い。人はいなかった」
それを聞いて、俺は腕を組んで少し考えた。
ノアが人と入れ替わることができるというなら、人間じゃない生き物と入れ替わることも可能なんだろうか。
例えば猿とか、手足を動かせる動物と入れ替わったら、森の中に潜んで魔法陣を描くことができる……?
「うーん。動物と入れ替わって森に魔法陣を描くなんて、可能だと思うか?」
隣にいるグウェンを見上げたら、彼は少し考えてから口を開いた。
「それが魂を入れ替えるという術なのであれば、できるかもしれない。しかし、動物の身体で上手く思考が保てるのかは疑問だ」
「うん、確かに。まぁそれはノアを捕まえたら本人に確かめるしかないな。とりあえず、卵泥棒の犯人が森に侵入して転移魔法陣を描いた謎は解けた」
入れ替わりを把握した結果、他にもいくつか疑問だったことが解決する。
豪華客船の事件のときに、カリュブディスを倒して手に入れた魔石を、特殊警備隊の金庫からどうやって盗んだのかとか、幽霊屋敷を見張ってたはずの騎士が火事を見過ごしたこととか。
思い返すと、ノアは結構な頻度で入れ替わって俺達の周りにいたんじゃないか?
ちょっとぞっとして、俺はグウェンに擦り寄った。
しかしながら、今に至るまで誰かと入れ替わったという証言は出てきていない。ルシアと違って被害者には意識がなかったのか、それとも後から記憶を消すような操作ができるのか、まだ細かい疑問は残る。
近いうちに特警と騎士団の関係者にそのときのことを詳しく聞いてみるか。
知りたいことは知れた。屋敷に残してきたウィルとルシアが心配だし、ルシアがいつ元に戻るかわからないから、今日のところは一旦帰ろう。
そこまで考えてから、俺は顔を上げて蛇を見た。
「じゃ、今日はありがとう。帰るわ」
「対価を忘れるな」
「はいはい。ちなみに、お前に乗り移ってた悪魔を封じた剣が盗まれたんだけど、悪魔がまた現れたら力を貸してくれたりしないよな」
「しない。人の世のことは知らぬ」
「世界が滅亡するかもしれないけど、助けに来ないか?」
「私はこの森から出ることはできぬ。ただ女神より託された狭間の入り口を守るのみ」
「だよな。わかった」
そう言うだろうなと思ってたから気にしない。
俺とグウェンはベルとメルを連れて、その場を後にすることにした。
ここから森の外れまで歩くと遠いけど、森の中では転移も飛行もできないから仕方がない。それくらい手を貸せよと思うけど、また対価とか言われたら面倒だから歩くことにした。
夜になってしまったので、鬱蒼とした森の中は昼間よりもさらに闇が深い。
「普通に考えて、この中に小さな子供がいたらこえーだろと思うけど、あの蛇の感覚は人外だから仕方ないのかな」
「必要があれば、女児の誘拐などがなかったか調べることはできるがどうする」
「うーん。そうだな。もし市街地で起こった事件の記録を見ることがあったら、ついでに気にしといて。でも一時的に入れ替わるだけなら、ちょっとの間迷子になってた、みたいなのが実態かもしれない。だからそんなに心血注がなくていいよ」
ぼそぼそ喋りながら、俺はやっぱり暗い森の中が怖いのでグウェンの腕にぴったりくっついていた。
こんな深夜に小さな子供の話とか、ほんとはやめてほしい。マジもんのやつが出てきたら俺は叫ぶぞ。
ベルは森の中は怖くないのか、メルとお喋りしながらのんびり俺とグウェンについてくる。
「ベル、メルはほんとに俺達と一緒に来るで大丈夫? ママには言ったって?」
──大丈夫っていってるよ。メル、そろそろひとりだちのじゅんびだって。
「えっそうなの?! 不死鳥って大人認定されるの早いんだな」
確かに見た目は急にシュッとしたけど、まだ生まれて一年経ってない。鳥の成長ってそんなに早いのか。
俺が驚いていると、メルがベルの背中から離れて俺の肩に止まった。
「ちっちっ。ぴぃ」
片翼を自分の胸の前で広げて得意げに頷いたメルは、俺の頬にぱふっと羽を当ててからくっと胸を逸らした。
コォッ
開いた嘴から小さな炎が出て、一瞬辺りが明るくなる。
「うわっ、すごいなメル! 炎出せるようになったの?!」
「ぴぴぃ」
感動と衝撃で立ち止まり、メルをまじまじと見た。
グウェンも驚いたようで、じっとメルの嘴を見つめている。
「ラムルで悪魔に向かって炎を吐いてくれたときは、アシュラフがアシストしたって言ってたもんな。そっかぁ。一人で出せるようになったんだなぁ。大きくなってぇ……」
俺はまた感激の涙で視界が滲んできたので、ハンカチを出して目元に当てた。
メルが得意げにふわりと飛び上がり、俺の周りを飛びながら小さな炎をポッポッと吐き出している。
ふと、一瞬明るくなった視界の先に、ぼうっと白い塊が浮かんだ。何かがその横を駆け抜ける。
「ひっ、なんかいる?!」
びくっと飛び跳ねてグウェンにしがみついた。
子供の話なんてしてたから、まさか出たわけじゃないよな?
ぎゅうっと腕にしがみついていると、グウェンは冷静に目の前を見つめて首を横に振った。
「何もいない。以前訪れた狭間の道の入り口だ」
「あっ、ああ……あれかぁ」
そう言われてよくよく目を凝らすと、確かに岩で組み上げられたオブジェが見えて、ほっと肩を撫で下ろした。白い塊は岩だったらしい。
なになにどうしたの? という顔でメルが肩に戻ってきたので、笑って誤魔化しておいた。
重なるようにして立つ石に少し近づいてみる。招魂祭の夜にはここから狭間の道に入って、黄泉の川に下りたという嘘みたいな出来事があったが、今はもう何の気配もないし、道も閉じている。
「この場所を通ったな、そういえば」
白い岩に歩み寄ると、それは月の光を吸収して僅かに発光しているように見えた。
「あっ、オズの話、聞くの忘れた」
この場所を見てはっと思い出す。
蛇にオズの依り代の件を聞こうと思ってたのに、またうっかりオズのことを忘れていた。ラムルの初代皇帝からマスルールのことも頼まれてたから、ついでに蛇に確認しようと心づもりしてたのに。
「まぁ、仕方ないか。今度ベルを連れて遊びに行くって約束したし、そのときに聞こう」
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