悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

遠間千早

文字の大きさ
306 / 354
第四部

十六話 流浪の乙女、事件の始まりを告げよ 後③

 おいおい。
 またきな臭い雰囲気になってきたな。
 今度は教皇とその幹部だって? 教会組織の総本山が禁術に関係してるなんてこと本当にあるのか。
 魔石の売人と魔界の術に関係してるなんて、本当だったらヤバいだろう。
 俺の心の声を読んだのか、目を合わせたルシアが緊張した顔で頷いた。

「もしかしたら、ノアが逃亡した先は、ナミアかもしれませんね」
「でも、だとしたらどうする……? さすがに追いかけるなんてできないしな」

 それにナミア教皇国って、最近その名前聞いたよな。王女様が俺に求婚状送ってきてるところじゃないか?
 嫌だな、こうやっていつも周りにヤバそうな案件が集まってきて、気づいたら渦中に放り込まれてるっていうのがパターン化してきてるから。嫌だ……絶対に面倒なことになる。
 いやでもさ、なんでもいいけどみんな事件を起こすなら明後日からにしてくれる?
 明後日なら前向きに対応可能だから。
 何度も言うけど、俺達明日結婚式なんだよ。頼むよ……

 心の中で黒幕にお願いをしてみたが、当然ながら返事などない。
 たとえ事件が勃発してもどうやって強行突破するべきか、その対策を考えておいた方がいい気がしてきた。
 宝剣の行方を心配よりも個人的な事情に走っている俺は無責任だろうか。いやでも、そこのところは俺とグウェンのモチベーションに関わるから。
 
 そのとき、部屋の中に音が聞こえた。
 高く澄んだ、空気を震わせる鳥の鳴き声のような音。
 それは俺のごく近くから聞こえてくる気がする。

「え? これって」

 ヒューイが目を見開いたのと同時に、俺も気づいた。
 まさかと思って、自分の上着の内ポケットから小さな金色の笛を取り出す。高く鳴り続けている音は、服の中から出たらさっきよりも大きくなった。
 笛が鳴っている。
 ヒューイが作った魔道具の笛だ。
 さっきルシアに確認したばかりだった。この笛の対になっている片割れは、今ライネルが持っているはず。
 何か緊急事態が起きたとき、鳴らして知らせるようにとグウェンがライネルに渡した笛。鳴らされたときに魔力か精霊力を流し込めば、相手の場所に転移できる。
   
「レイナルド様、それって……」

 笛を見つめていたら、ルシアが声を出した。
 俺は頷く。

「多分ライネルだ」

 普段はこの笛はグウェンが持っている。でも今日はヒューイが定期メンテナンスをしたいと言ったから、たまたま俺がグウェンから預かっていたのだ。
 
「どうします?」

 ヒューイが聞いてくるから、俺は躊躇った。
 ライネルがこの笛を鳴らすのは初めてだ。よほどの緊急事態が起こったのかもしれない。
 でも、俺だけで転移して大丈夫か? 
 すぐにグウェンに連絡して、戻ってきてもらう方がいいだろう。でも、その間に笛の音は止んでしまう。

「私が行きます」

 ルシアが横から声を上げて、俺に手を差し出した。
 俺は首を横に振る。

「ライネルはまだルシアのことを勘違いしたままかもしれない。それに転移した向こうで何があるかわからない。一人じゃ危険だよ」
「でも、もう音が……」
「わかった。俺も行く。何かあったら時計の魔法陣ですぐ戻って来よう」

 笛の転移魔法は、二人まで一緒に転移できる。
 俺とルシアで転移して、ライネルを連れてすぐ戻れば大丈夫なはずだ。そう考えて左の手首に巻いていた飾り紐のブレスレットを外した。これはサエラ婆さんに作ってもらったおまじないが込められた紐で、仕組みはわからないが俺が国外に連れ去られないようにグウェンが用意したものだ。
 転移するために今だけ外す。

 笛に魔力を込めようとして、しかし心の中では本当にそれで大丈夫か? と自問する己がじぃっとこっちを見ていた。
 今までの経験則でいうと、これは新たなる事件への幕開けになるパターンだと思いませんか?
 まず冷静に、あなたの配偶者に相談するべきでは?

 何故かリビエール上級神官ふうに問いかけてくる自分にお前は誰だよとツッコミつつ、確かに、と頷いてしまう。
 その間に、笛の音はどんどん小さくなっていく。

「とにかく行ってみるか」
「先輩、音がやんだ後でも向こう側に転移できるかもしれませんけど」

 急にヒューイが横から口を挟んできたので、驚いて顔を上げた。

「え? 本当か?」
「うーん、多分ですけど、そんなに時間が経たないなら可能かと」
「マジかよ。それなら迷うことないな。それで頼む」

 グウェンを呼び戻す時間があるなら、絶対にその方がいい。
 俺は不安そうな顔をしているルシアに頷き、右耳のピアスに触れた。

「グウェン、聞こえるか? 今すぐ戻ってきてくれ」
『──どうした。今どこにいる』
「グウェンの家。ライネルが笛を鳴らした。何かあったみたいだ」
『すぐに戻る』

 簡潔に応えたグウェンはすぐに通信を切った。詳細を聞かずに即決断するところはさすがというか、よく鍛えられている。
 とにかく、時計の魔法陣で帰ってきてくれればあっという間だろう。
 ほっとして息を吐くと、ヒューイが向かいのソファから立ち上がって傍に来たので笛を手渡す。
 優秀な後輩は俺の横に座り、笛の頭頂部のパーツを外して早速中を確認し始めた。ちらっと見たら、内側には魔法陣と小粒のダイヤみたいな小さな結晶石が組み込まれている。

「大丈夫でしょうか……」

 眉を寄せるルシアに頷く。

「グウェンが帰ってきたら、すぐに二人で行ってくるよ。ライネルとクリスを見つけて戻ってくる」
「はい」

 なんだかんだライネルのことが少しは心配なのか、ルシアの表情は強張っている。
 ライネルがどこにいるのか知らないが、グウェンと一緒ならなんとかなるという確信がある。これで一安心だ。今回は軽率な判断をしなかったぞ。後で褒めてもらおう。
 そう思っているうちに、応接室の扉の向こうからマーサの足音が聞こえてきた。さてはもうグウェンが帰ってきたな。廊下の足音はすぐに一人分増えて近づいてくる。
 勢いよくノブが回って扉が開いた。団服姿のグウェンが現れて、俺を見つける。

「うわっ! すみません、先輩」

 出し抜けにヒューイが呟いた。

「え?」
「しくじりました」

 その言葉と同時にヒューイに腕を掴まれた。瞬間、ぐるんと身体が回転するような感覚を覚え、俺の視界は渦を巻いて歪む。

「レイナルド!」

 グウェンの鋭い声が響いた。

「嘘だろ?!」

 完全に気を抜いていた俺は、一瞬遅れて悟った。身構える間も無く笛の転移魔法に巻き込まれる。
 目の前の景色が暗転し、グウェンの姿がかき消えた。

 ──くっそ……!!
 結局こういうパターンになるんじゃねーか!!!!
感想 541

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です! 表紙は、Pexelsさまより、Abdalrahman Zenoさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます! 文章にはAIを使用しておりません。校正も自力です!(笑)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。