夜が明けるまで

遠間千早

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最終章

文化祭前日

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◇◇◇


「いいかーお前達。明日からいよいよ文化祭が始まるわけだが、この週末絶対に面倒事起こすなよ」

 文化祭前日、帰りのホームルームで、腕を組んで教壇に立った三浦は珍しく真面目な顔をしていた。

「お前らは今年が初めてだから何回も説明したが、明日は文化祭という名の他校の運動部を招聘する練習試合だ。基本的に外部からは他校生と運動部のスカウト関係者しか来ない。運動部の奴らは顔を覚えてもらえるように全力で励めよ」
「せんせー」

 松野が手を上げた。

「運動部じゃない俺たちは?」
「おのおの好きにやってろ。日曜の校内発表の準備がない奴は寮から出ずに大人しくしてろよ」
「まじー。超ひまじゃん」
「じゃあみんなでイカでもやるか」
「あぶれた奴でモンハンやろーぜ」
「そうだな、それがいい。部屋から出ずにお利口に遊んでろ」
「せんせー、オンライン契約してない僕はどうすればいいですか?」
「うるせぇな。寝てろ。今度一緒に太鼓の達人してやるから」
「え、ほんと?約束だどん……」
「先生、和田のバチ捌き舐めたら痛い目見るわよ」
「わかったから!お前らいい加減にしろよ!ホームルーム終わるぞ!」

 脱力した三浦が最後にもう一度念押して、強めに声を張った。

「明日、俺達教師は来校する他校の対応で手一杯だ。従って、お前らに構っている暇はない。絶対に問題を起こすな。いいな?頼むから俺の心労を増やしてくれるなよ」

 そう言ってクラス中を確認して目で追った三浦は、倫人の後ろの席に目を止めて、「そうだった」と軽く頷いた。

「牧田は今日休みだったな。鈴宮、寮で牧田に会ったらよく言い聞かせておいてくれ」
「あ、はい」

 朝、千尋から体調が悪いと連絡をもらっていた。
 心配していたので、倫人は頷いて、部屋に戻ったら連絡してみよう、と決める。
 ふと、離れた席から気になる気配を感じた。
 そちらに顔を向けると、松野が心配そうな顔で千尋の席を見ている。思わず目に入ってしまった色に気づかないふりをして視線を逸らした。
 どうやら、松野は千尋に好意を抱いている。少しきまりが悪くて心の中で松野に謝った。
 クラスに馴染んで半年も経つと人間関係を把握できるようになったので、気をつけていないと知らない方がいい事に気付いてしまう。
 最近はなるべく周囲の色を見ないように気をつけていた。

「じゃあ明後日からの校内開放で、保護者が来る奴はちゃんと事前に申請するの忘れないようにな。あとクラス展示の当番になった奴はサボるなよ。以上、二日間しっかりやれ」

 そう言ってホームルームを締めた三浦が教壇から離れると、すぐにクラス内はざわざわと騒がしくなった。

「なぁ、鈴宮のとこは親来るの?」

 凌と一緒に教室を出ようとした倫人は、扉の近くで松野に呼び止められた。

「ううん、この週末のためだけには呼んでないよ。両親ともオーストラリアにいるから」
「ああ、そういやそうだっけ。じゃ千尋がどうするか聞いてるか?」

 さり気ない調子で聞いてくるが、多分そっちが本題だろう。倫人は小さく笑って首を捻った。

「前に弟と会うって言ってた気がするけど……」
「弟?……あいつか」

 倫人の返事を聞いた途端、濁った色に曇った松野の色を見て倫人は首を傾げた。

「松野君は知ってるの?」
「ああ、中学の頃いたからな」
「そうなんだ。でもまだ未定って言ってたから、もしかしたらクラス展示の当番の時以外はフリーかも。今日は体調悪いみたいだから、後で連絡してみるけど」
「そか。調子悪いんだな。俺も送ってみる。さんきゅー鈴宮」

 そう言うと、松野はすぐに普段のからりとした明るい色に戻って笑った。

「千尋も喜ぶと思うから、連絡してみて」
「おう。じゃ、またな。東も」
「おーす」

 友人達の輪に戻っていく松野に手を振り返して、倫人は凌と一緒に教室を出た。

 高校の文化祭がどういうものなのか、倫人には馴染みがないけれど、この学園は落ち着いた校風でセキュリティが高いことを売りにしているだけあり、文化祭といっても一般に広く開放されるものではない。
 初日は運動部のスポーツ特待を目指す生徒がメインの招待試合で、二日目も保護者と進路に関わる学校関係者しか学内には入れないらしい。
 解放日も文化部の作品展示やクラスの課題発表が主で、多分文化祭というわりに地味だ。それでも著名な家柄の来客が多い分、教員達や生徒会は忙しそうで、拓海も嵐も姿を見ない。
 風紀委員も生徒会を手伝ってバタバタしているらしく、昨日の夜久しぶりに連絡を寄越した常葉から話したいことがあると言われたので、帰りに凌と一緒に風紀の教室に立ち寄ることにした。


「椅子を落とした犯人がわかったの?」

 倫人が驚いてそう聞き返すと、常葉は渋い顔をして頷いた。

「ああ。やっぱり白鶯の親衛隊の奴だった。ただ、なんか妙なんだよ」
「何が?」

 眉を寄せた常葉が委員長の机に座って腕を組み、倫人と凌を見上げて口を開く。

「やった奴は、宝生に命令された、と言っていた。だが宝生は自分はそんな指示は出していないと訴えている。現に、直接言われたわけじゃなくて、メールで指示されてたようだ。差出人のアドレスは調べたが、フリーメールの捨て垢だ」
「メールを受け取った方は宝生先輩だって信じたの?」
「ああ。副隊長や幹部の生徒の名前も入ってたらしくて、それで信じたんだと。そいつもちょっと問題ある奴だから、メールの指示にこれ幸いと従ったんだな」

 常葉が難しい顔をしながら指で机を軽く叩いた。

「他にも数件、宝生が指示したと思われてた案件が、実は宝生じゃないとわかったものがある。とりあえず、倫人のおかげで更生した宝生が自分の指示じゃないと言う以上は、言い分を信じて調査は続行する」
「わかった。俺も桐山先輩に今度会ったら状況を聞いてみるね」

 倫人は二日前に話をした生徒の顔を思い浮かべた。
 環が嵐の親衛隊長を辞めた結果、隊長になった倫人を補佐するため副隊長にはそのまま続行してもらえることになった。
 環の紹介で対面したその生徒は、環の事件の際一緒に教室にいた桐山という三年生だ。
 思慮深そうな雰囲気で、頭の良さそうな涼しげな目元をした先輩だった。まともに話すのは初めてだったが、桐山は倫人に微笑んでお礼を言った。

「あれ以上は、もう見ていられなかったので」

 と言った彼は、環にやめる決心をさせたことを感謝してくれた。ほっとしたような顔をした桐山は、副隊長としても友人としても、環のことを心配していたらしい。

「倫人、明日から校内が騒がしくなるから、一人で行動するなよ。宝生の件はおさまったが、まだ何となく変な気配がする」
「変な気配?」

 首を傾げると、常葉は腕を組んで頷いた。

「ああ。どこかははっきりしないみたいだが、志麻が変な感じがするって言っててな。明日は立花と凌と一緒にいるな?」
「うん。あと風紀の見回りの時も、たま先輩も一緒に回ってくれるって」

 そう決まったときの環の喜び勇んだ姿を思い出して小さく笑うと、常葉は倫人の返事を聞いて安心したのか緩く息を吐いた。

「わかった。志麻の言葉は気になるが、とにかく無事に終わることを祈るばかりだな」

 疲れた顔の常葉を見て、倫人は少し前から考えていたことを口に出そうか迷った。
 でも、忙しそうな様子を見たら、やっぱり文化祭が終わってからにしようと考え直す。
 
 ようやく嵐に打ち明ける覚悟を決めたと、週が明けたら常葉に言うつもりだ。
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