サチとタケル~妖しい事件と狐の少女~

佐賀ロン

文字の大きさ
6 / 7
事件現場

狐耳と尻尾の女の子

しおりを挟む
 しばらく歩くと、目的地である市立図書館にやって来た。
 一方通行の道路の脇に建つ、大きな図書館。入口には『休館』と書かれた立て札があり、休館になった経緯が書かれている。

「ここが事件現場?」
「おう。車が突っ込んで来たんだと」

 目の前には、『立ち入り禁止』を意味する黄色いテープが張り巡らされていて、粉々になったガラスが広がっていた。なんか見たことがある景色だけど、幸村家のものとは比べ物にならないほど悲惨な被害だ。
 ガラス張りになったそこはラウンジだったらしく、潰れたテーブルが散乱していた。


『そこに座っていたのは、とある教員だったそうだ。今は意識不明の重体で、入院してるらしい。あたしが気になる最近の事件は、これだな』
『事件って……ニュースでは高齢者の運転による事故だって話だろ? 建物だって道路のそばだし、運転手も朦朧としてたって聞くし……』


 いたましいことではあるけど、この後期高齢者社会では、ありえない話じゃない。ここに来るまで、そんな会話をしていた。
 けど、ここに来て、俺はあることに気づく。

「これって……」
「ん、なんか分かったか?」

 サチに聞かれ、俺が答えようとした時だった。


「あら? 幸村さん、臼井さん。こんなところで何をしてるの?」


 大人の女性の声がした。
 澄んだその声は、良く知っている声だった。

「クマカワ先生、こんにちは」

 振り向くと、そこには俺が所属している5年1組の担任である、球磨川クマカワ澄子先生がいた。
 教室にいるクマカワ先生は髪を一つに結び、カットソーに夏用のスーツを着ているが、今日は凝った髪型をしていて、Tシャツとズボンを着ていた。

「ここは立ち入り禁止よ? 危ないじゃない」
「す、すみません」

 俺はとりあえず、すまなさそうな顔をしてみる。
 そしてこの場をやりすごせるような言い訳を考えてみた。

「実は、この辺りで落し物をしちゃって……サチに付き合ってもらってるんです」
「落し物? どんなもの? 一緒に探すわよ」

 うぐ。そう来たか。
 具体的には何も考えてなかったところを、サチがハア、と溜息をつきながら言う。

「もう見つかったから帰るとこ」
「あらそうなの。じゃあ、離れましょうか」

 そう言って、クマカワ先生は俺たちを市立図書館から歩道へ連れ出した。
 並木によって日陰が落ちる歩道は、少し涼しい。球磨川先生が俺たちの後ろを歩く。コロンなのか、柔軟剤なのか、甘い匂いがする。
 くっさ、とサチが小さくつぶやいた。
 俺はぎょっとして、クマカワ先生の顔を見る。どうやら聞こえていなかったようだ。これ以上サチのつぶやきがクマカワ先生に聞かれないよう、大きな声で質問した。

「あ、あの! 先生は、どうしてここに?」
「私? 私は研修へ向かおうとしたら、あなたたちがいたから声をかけただけよ」
「そ、そうだったんですね」

 忙しいところを邪魔してしまったようだ。なんか悪いことをしてしまった。立ち入り禁止区域に入ってないとは言え、近くに生徒がいたら、声をかけないわけにはいかないだろう。

「それじゃあね、臼井さん、幸村さん。今日も暑いから、熱中症には気をつけてね。特に幸村さんは、カツラを被っているわけだし」
「ご親切にどーも。センセーのケンシューを邪魔する気はねーよ」

 サチが素っ気なく返すと、クマカワ先生は苦笑いしながら去って行った。
 完全にいなくなったことを見計らってから、俺はサチに言う。

「サチ! 先生に対して、さっきの態度は失礼だろ!」
「はいはい。んで? さっき、なんかわかったんだろ?」

 サチに言われて、俺はああ、とうなずく。


「モヤモヤが、ものすごく漂ってた。多分、邪気とか言われるたぐいのやつ」


 交通事故の現場は何度も見るけど、邪気を見ることはほとんど無い。あるのは無念の気持ちだけ。
 邪気はどちらかと言えば、学校とか、駅とか、多くの人間がいて溜まるものだ。人の恨みや憎しみとか――そんな感じのもの。

「つまり邪気っつーのは、悪意の念ってことでいいんだよな?」

 サチの質問に、俺はうなずく。
 サチが言った。

「これはチカから聞いた話なんだけど、その被害者の教員――」

 ガサッ。
 サチの言葉を、物音がさえぎる。
 サチがパッと、物音がした方へ視線を向ける。遅れて、俺もそちらを見た。

 見るとそこには、女の子がいた。

 背丈は、男子の中でも背が高い俺と、同じぐらいだろうか。同級生の中でも小柄なサチと並ぶと、頭五つ分ほど高そうだ。
 その子は、男女問わず使えそうな、前ひさしだけがついた、緑色の帽子を被っていた。黒と白のTシャツと長いズボンを履いたサチとは対照的に、フリルのたくさん着いたシャツとかぼちゃの形をした短パンを履いていて、とても女の子っぽい格好をしている。
 サチの目に刺さるようなショッキングピンク色と違い、やわらかいピンク色の髪が、ゆるやかに風になびいていた。が。

「きゃっ」

 突然、強い風が吹いた。
 風が帽子によって飛んだ。俺は思わず、その帽子をとる。
 歩道に植えられた生垣と並木が、激しく揺れる。ガザガザと葉っぱ同士がぶつかり、地面に落ちた木漏れ日はチカチカとまぶしく光る。
 その中で、俺は見てしまった。

 その女の子の頭には、最近見たような狐の耳が。
 そして腰には、フワフワと揺れる尻尾が。

「……え?」

 俺が驚いたことに気づいたのか、その女の子は顔色を変えて、走り去って行った。
 風が止む。こずえの音が止まる。
 まるで夢みたいだと、俺は思った。

「な、なあ。さっきの女の子……」
「ああ」

 サチが真剣な顔でうなずく。
 俺はごくり、と唾を飲み込んだ。
 このサチの真剣な顔。普通なら視えないサチにも見えていたんだ。あの狐の耳と尻尾が――。


「めっっっっちゃ可愛やん、あの子!!」


 俺は思わずずっこけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...