春にさよなら

佐賀ロン

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そして四季はめぐる

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 なので。

「それはハルに聞きな」

 誰よりも、寄り添う心も、掛ける言葉も持っているやつに託す。
 私の言葉に、鳥居の傍の木に隠れていたハルが、飛び上がるように驚いた。
 ハルはビールとおつまみを買いに行くと言っていたが、ナツの気配を感じて、一旦いないふりをしつつハルの話を聞いていたのだ。
「は、――ハル!?」
「な、ナッちゃん……」

 あはは、とハルは笑っているが、小動物が威嚇するような顔で私を睨みつけている。私は気付かないふりをした。
 そう、私の友人たちは気付いてるくせに、その優しさで黙ってしまうから。見ないふりをしてしまうから。踏み込まない優しさに助けられた私が、今は口に出せというのは当然のことだろう。
 なぜならナツとハルは、ナツのご両親ではない。とても単純な話だ。
 とことん話し合って、納得のいく方向へ進んでもらおうじゃないか。

 二人があー、とか、うーとか言っている間、私は桜の木の傷跡を見る。
 そこには、片方だけつけられ続けたものと、その反対に、おそらく今日付けられたであろう傷跡があった。……ったく、ハルもナツも高校の時から身長伸びてないだろ。相手が来てないからって水増しするなよな。
 私はその傷跡をスマホで写真にのこす。もういいだろ、桜の木に傷をつけるのは。桜の木も可哀想だし。
 そうして私は、SNSで勝手にグループをつくり、彼らを招待する。――グループのホーム画面には、今日の桜の木の写真を貼り付けた。ここに存分に跡を残してくれ。
 根元には桜の枝が新しく生えていて、その先には葉がついていた。
 
 私は恋ができない。どんな人生を歩んだとしても、恋愛感情も性愛も理解することは無いだろう。
 でも大切な友人たちを、愛している。

「さっ。せっかくだし、込み入った話はもっと美味しいご飯が食べられる場所にしよ」
「え、さっき俺ら食べたじゃん」
「スイーツが食べたい。スイパラ行くぞ、奢れ」

 ぎこちない彼らの肩を抱き、私たちはその場を後にする。
 私たちが歩く度に、山に残されていた春の気配が去る。 
 見上げると、空は青々として、まるで入道雲のような大きな雲が一つ浮かんでいた。
 私はそれを見て、幼ななじみたちと過ごした夏休みを思い出す。これだけ時が経っても、相対的に人生において短いものになったとしても、思い出すのは子どもの頃。
 そう思うとおかしくて、くすり、と笑うのだった。
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