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9、お買い物

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 私が朝ごはんを食べていると団長さんが隣に座り、今日は朝食を食べた後に出かけることを教えられた。
 これから生活していく中で必要になるものを買いに行くそうだ。
 昨日は、いろいろあって店に行けなかったのでとても楽しみである。

 ワクワク気分のまま、出かける準備をしているとちっちゃな獣姿のヒライが近くに寄ってきた。

《そんなに楽しみか?》
「うん!だって初めての買い物だもん。どんなものがあるのかワクワクする!」

 この言い方だと一回も買い物をしたことのない人の発言に聞こえてしまうのだが、私は自覚していなかった。

《初めての買い物なのか!?一回もしたことは無いのか?親に連れていってもらった記憶は?》

 案の定、ヒライは誤解していた。しかし、私は気づかなくてそのまま言葉を続けた。
 その結果…。

「うん。(この世界に来て)初めての買い物だよ?親は(この世界には)いないし、連れてきてもらった記憶なんてあるわけないじゃん。それに、私が(この世界に)産まれて初めて会ったのはヒライで親の顔なんて知らないよ?(いたらおかしいから)、ヒライ以外だと騎士団の人達とか、教会であった女の人しかまともに会話をしたことないもん(街ではレオンさんに攫われちゃったからね)。だから街にはどんなものがあってでどんな人たちがいるのか(昨日は結局回れなかったから)楽しみなんだ!」

 さらに可哀想な女の子みたいな設定ができあがった。

《そうか》

 ヒライは一言そう言って私から離れていった。

 あれ?もしかして泣いてません?

 何やら丸くなって鼻をすする音がするのだけど、正直どうでもよかったので放置して出かける準備を終わらせた。といっても、元から荷物なんて持っていなかったからすぐに終わったけど。

 まぁ、それは置いといて準備が終わった私は団長さんのもとへ向かう。
 その際、ヒライが先に団長さんのところにいて彼と何やら小さな声で話をしていた。団長さんの私を見る目がなんだが哀れんでいるような気がしたけど気にしないことだ。
 さっさと私は団長さんの手を引いて街にでた。
が、昨日はレオンさんに連れてこられたので道がわからず、結局は団長さんに手を引かれることとなった。

 しばらく歩いているうちに、だんだんと賑やかな音が聞こえてくる。
 裏路地のほうを歩いていたので周りの様子がわからなかったのだけど、路地を抜けると突然視界が明るくなった。そのため、目が眩んで立ち止まる。瞬きをして目を慣らすと、昨日見た光景が広がっていた。

 客を呼び込む声、小さい子どものはしゃいだ声、挨拶や談笑。さまざまな音で溢れかえっていた。
 私は団長さんに手を引かれるまま、洋服屋にはいった。
 店内には、子供用の服から舞踏会で着るようなドレスまでいろいろな服がある。それらに目を奪われながら団長さんにここでは何を買うのか聞いた。もちろん、ここに服以外はないので答えはわかりきっていたのだが。

「ここでは見てわかるように服を買う。すまないが、これからナナキには男のふりをしてもらうことになる。だが、これはナナキを守るためなんだ。それは理解してほしい」

 うーん、どうやらまだ面倒事が待ち構えているみたいだね。その証拠に私にそう語る団長さんの目は真剣だし。
 だけど、まぁ、男の格好は願ったり叶ったりかな。私は元々シンプルな服が好きでスカートもあまり持っていなくて、桃色や黄色よりも黒や白が好きなほうだったから。

 むしろ、フリフリの女の子って感じの服だったら死ねると、内心笑いながら団長さんに言う。

「別にいいよ?私も何となく覚悟してたことだから。妾にされるのも嫌だし」
「いや、何もそこまでは言っていないが…、本当にどっからそんな考えが出てくるんだか、ナナキはある意味すごいな」

 これは褒めているのだろうか、どちらかというと褒めてない気もするのだけど…うーん微妙な判断。
 でも確かに私の妾発言は飛びすぎていたかもしれない。きっとそんなものにする人がいたらロリコンだ。

 まぁ、それはともかく言われた通り服を選ぶ。
 その際、やたらキラキラしている服を店員に勧められたが断った。

 いや、だってさ、絵本の中にでてくる王子様みたいな服だったし。私は男のふりをしたとしても宝塚の男役みたいになる気は無いから、そんな服より執事みたいな黒を基調とした服でいいわけですよ。

 なので、丁寧にお断りをした私。英断だと思います。

 ちなみに、店員がちょっと残念そうにしていたのには罪悪感を感じたのだが、後ろでカインも残念そうにしてたのにはキレそうになっていたナナキだった。
 
 だって、どう考えてもバカにする気満々でしたから。

 そうこうするうちに服を選び終わり、夕ご飯の買い出しに向かった。
 私はたくさん人がいたから大量に必要かと思ったのだが、外食をする人や寮じゃなくて自分の家に帰って食べる人がいるため、そこまで必要じゃないそう。
 それならば、と考え隣を歩く団長さんを見上げ聞いてみた。

「私が料理を作ってもいいですか?」

 それに対する答えはというと。
 
 疑うような目をしながら「本当に料理ができるのか?料理ってアレだぞ?ただ切って並べるだけじゃないんだからな、焼いたり炒めたりするんだぞ?」料理を分かっているのかの確認。全くもって心外な反応。

 なんだそれはバカにしているのか?そうか、ならば本気で作ってやろう。

 少しイラッとした私は闘志を燃やした。
 料理がどんなものなのか理解していると伝えてみたけど、まだ疑うような目をしていたので心配なら隣に居たらいいというとすんなり許可がもらえた。……何だか、ワガママを言う子どもになった気分。
 でも、見た目の年齢的には問題なくて…うーん。
 腑に落ちないものの買い物が終わり、騎士団の所へ戻った。

◆◇◆◇◆◇

 騎士団本部に着くと誰かが門のところ立っている。
 その人物はビシッとした黒い服を身にまとい、姿勢よくたち誰かを待っているようだった。例えるなら貴族に仕える使用人のような雰囲気の人だ。

 私と団長さんの存在に気づいたその人は近づいてきて、

「騎士団長カイン・ランベルト様、王より書簡があります。内容を確認しだい城へ」

 そういって団長さんに手紙を渡してさっさと帰って行った。

 私がその行動にあっけに取られている間に、手紙の内容をひと通り読んだ団長さんは、溜息をついてそれを破り捨てた。

 王様の手紙なのにそんなに雑に扱っていいのかな?怒られたりしない?

 私は手紙の内容より手紙の扱い方について気になった。
 まぁ、破り捨ててしまった後なのでどうしようもなかったのだけど。

 そして、寮へ帰還した。

◇◆◇◆◇◆

 カインが予想していたことが起きた。それは、王からの呼び出しだった。
 先程、彼が破り捨てた手紙の内容はこうだ。

~騎士団長カイン・ランベルト、先日街中まちなかで騒ぎになった子どもが貴殿の騎士団の者に連れて行かれたという報告を聞いた。理由を聞きたいゆえ、明日城へその子どもを連れて来てもらいたい。勿論、強制ではないがそれなりに考えて行動してほしい~

(なにが強制じゃないだ、ガッツリ脅してんじゃねーか。それに騒ぎになった子どもなんていくらでも探せばいる。大方、ナナキの見た目が良かったのが気になったんだろ。話がお前の耳まで届くのが早すぎるんだよ、この色ボケジジイ)

 王への悪口も心の中で言い終わったのでカインは、明日どうしたらいいのか考える。

 ナナキは仕方がないので連れて行くとして、問題はそのあとだ。あの王のことだ、まず見た目でナナキのことを気に入るだろう。
 あの王と同じにされると不服だが、一言で言ってナナキは見た目がいい。幼いながらも美人だ。
 銀色の髪に黒い瞳、またその目をふちどるまつ毛は長く、影を落とすさまは儚げにみせる。肌は白く、照れたり感情を表す時に肌が赤く色づくさまが大変可愛らしい。
この国にはいない髪、瞳の色、顔のつくりだが、それを差し引いても見た目がいい。

 この際、気に入られたとしても別にいいだろう。親元へ帰したと言ってしまえばいいだけだ。
 ただ、問題があるとすればステータスだ。
 保護したとなればステータスの確認をしたとわかる。王は聞いてくるだろう。近くには魔法師団の団長がいるので嘘はつけない。
 仮に正直に話したとする。はたして無事にかえしてもらえるのだろうか。

 考えれば考えるほどカインの心配事が増えるばかりだった。
 こうなったら明日はレオンハルトも連れて行こうと彼は考える。

 そうして、やっと城へ行くことに腹を括った。

(そういえば、ナナキが料理をすると言ったから隣で見といてやらないとな。ケガをしないか心配だ)

 どんな料理を作るのだろうと楽しみにしながら、カインは台所へ向う。予想外のことが起こるとも知らずに。
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