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63、変化

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「んっ…」

 目が、覚めた。どこか体が重い。そして、暖かい。目を擦りながら見渡すと、ベッドを囲うように皆が眠っていた。

(神様でも、寝るんだな) 

 ぼーっと働かない頭で眺めていると、モゾモゾと私の背後にいるゼウスが身動きをした。

『おはよう』 

 目が覚めたようだ。首だけで振り返り、私もおはようと返すとゼウスの顔は驚愕に変わった。

『おまっ、その見た目は…』

 ん?一体なんだと言うのだ。泣き腫らして目が真っ赤なのか?ベットサイドにある鏡を覗く。

(目は赤くない。てか、随分大人びたなー)

 まだ完全には覚醒していない頭で確認をする。

「変なところなんてないよ?」

 こてんと首をかしげてゼウスに振り返る。

『お前、まだ頭ん中眠ってるだろ』
「んー、多分?」

 ふわふわとして深く考えられない。

『はぁ、ヒライ。団長たちを呼んでこい』
《わかった》

 腕の中にあった温もりが消える。少し寂しい気持ちになったが、自分に何が起きているのか理解出来ていない状況で引き止めることは出来なかった。

『体に違和感はないのか?』

 再度ゼウスが尋ねてくる。

「んー、体が重い?」

 ゼウスが寄りかかっているからだと思っていたが違うようだ。目線を下げ自分の体を見てみると、立派な胸があった。

(え?)

 ポニョポニョと弾力のあるそれは恐らく自分のもので間違いないだろう。しかし、しかし、だ。

(こんなに大きくなかったはず!)

 小山くらいだった胸は、ドンと存在感がある山へと成長していた。次第に覚めてくる頭。

「どどど、どうしよう!?胸がっ、胸が巨大化した!」

『落ち着け、それだけじゃない』

 テンパる私に諭すように言うゼウス。しかし、私は落ち着きを取り戻せなかった。どうしようどうしようと騒ぐ私。
 そこに、ヒライに呼ばれた団長さんの登場。

「何事だ!?」
「だ、団長さん!大変なんだよ!む、胸がっ、ど、どっ」

 テンパりすぎて言葉にならなかった。しかし、そんな動揺しすぎている私に団長さんがさらなる爆弾を投下した。

「誰だよ、君」
「えっ?えっ!?」
(どういうこと!?)

 団長さんの言葉に動揺が激しくなる。

「だ、団長さん、私が誰かわからないの?」
「ナナキの家族かなにかか?」
「違うよ!ナナキだよ!」
「はっ!?」
「えぇ!?」

 なんでそこで驚くの!?
 一体何が起きているのだろうか。状況がうまく掴めず途方に暮れていると…

『はぁ、カイン。コレは正真正銘のナナキだ』

 私の頭を掴みながらゼウスがそう言う。

「は?どういうことだ?」

 まだ疑うように見てくる団長。

「ねぇ、私に何が起こってるの?」

 胸が大きくなっただけではないのだろうか。ゼウスを見上げると、説明をしてくれた。

『昨日、一気にとんでもない魔力を解放したから体が大きくなったんだと思う。使える容量を増やすために一時的にな。まぁ、そこまで本人的には違和感がないらしいから大丈夫だと思うぞ。数日以内には元の大きさに戻ると思うから、それまで騎士団の中からでないようにしろよ?外で何が起こっても知らねぇからな?』
「何が起こるの?」
『誘拐』

 お、おぅ。誘拐はもうコリゴリだ。
 六年前の苦い思い出を思い出す。

「ま、待て待て。騎士団の中で大人しくするとして、団員になんて説明を俺はしたらいいんだ?」
『素直に言うべきじゃねぇのか?どの道、結局はナナキは何年か後にはこの姿になってたんだからよ。言わなきゃいけねぇのが早まっただけだろ?それともなんだ、お前らがナナキを嫁にでもすんのか?』

「なっ!」

 からかうようにゼウスが言うと、途端に顔が真っ赤になる団長さん。

(うん、そりゃあ恥ずかしいよね…。ていうか、本当に結婚した場合はいくら中身が大人だからってロリコンになっちゃうよ?)

 この世界では十五歳で成人となる。つまりは十五歳で結婚出来るのだ。現在、カインは二十六歳。ナナキは十二歳だから年齢差十四歳となるわけだが、問題はない。三年後に結婚したら法律的にセーフだ。
 しかもこの世界、平均寿命が百五十歳くらいだから多少の年齢差にこだわることはない。見た目も二十歳くらいでだいたいしばらくの間成長が止まり、百歳を過ぎてから再びゆっくり老けるという一生になる。
 まぁ、そんなことは知らないナナキはカインのロリコン疑惑にジト目をしたのだった。
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