The hero is dead ~復讐と魔女と果ての世界~

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第三章【破滅へと至る者】

3―21

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結晶に映る、生身では見たことのない二人の姿。幼き日からの憧れ。

「ウェザさん、休まないのですか?」
「眼鏡様こそ、明日は空に行くのに」

銅鉱山内の実験室にこもり、何やら薬の調合をしているシーカーを、入り口の壁に凭れてウェザは見ていた。

「ええ。その為の準備ですよ。私は戦えませんので、万が一何かあった時の為、色々作っておこうと思いまして」
「ふーん?」
「そうだ。聞きそびれていたのですが、ウェザさんはまだまだお若いですよね」

天使や魔族は千年近く生きる中、ウェザはまだ百六十二歳である。それがどうしたのとウェザは首を傾げた。

「私の記憶では、ウェルさんとラザルさんは四百年程前に亡くなっているはず。しかし、お二人の孫である貴女はお二人を間近で見たように話しますよね?まさか‥‥年齢詐欺‥‥」
「違いますわよ!!」

年齢詐欺などと言われ、ウェザは顔を真っ赤にして否定し、

「映像よ、映像!」
「映像、ですか?」
「そう!ラザルおじい様の親友の魔族、ムル様が、時々おじい様とおばあ様の様子を撮影して、結晶に映像を残したの」
「ほう?ムルさんがそんなことを」

ラザルやムルと会話したことこそ少ないが、ラザルは友人であるムルと離れたがらなかったことをシーカーは思い出す。後に、ムルは恩人であるヤクヤと共にレイル王の護衛騎士となったが、時々ラザルの元に訪れていたのであろう。

「小さい頃、おかあ様とおとう様にたくさんある二人の映像を見せてもらって‥‥あたくしはすぐに二人のことを好きになったわ。本当に素敵な夫婦だったんだなって。中にはね、あたくしへのメッセージ映像もあったのよ!」
「ウェザさんは生まれてもいないのに?」
「ええ。生まれてくるかもしれない孫へメッセージを残してみればって、ムル様が言ったみたいで」
「なるほど」

別に、それ以上の話を聞くつもりはなかったが、火を点けてしまったのか、ウェザは意気揚々と話し出した。

最高の治癒術者、ウェル。
後に彼女はその美しさと優しさから『女神』とまで神聖化され、ウェザも幼き日からそんな彼女に憧れを抱く一人であった。
しかし、そんなものはウェル本人からしたら美化でしかない。
映像の中で、こう話すものがあった。

『確かにわたくしの治癒術は他の人に比べたら高いわ。けれど‥‥この街の名前となった天使、ハルミナさんが人々から蔑まれて孤立していた頃があったの。わたくしは‥‥何も出来なかった。彼女の扱いを知っていて、見て見ぬ振りしか出来なかった。いえ、ハルミナさん以外でも。わたくしは、治癒しか能のない天使だと罵られてきたわ。だからわたくしは、皆さんが言うような、凄い存在じゃないのよ』

そして、生まれてくるかもしれない孫へとこんなメッセージを向けたのだ。

『もし、あなたが生まれたら、その時代ではわたくしを含め、わたくしの仲間達の話もあることないこと語り継がれていると思うの。きっとわたくしは立派な存在として語られているかもしれない。けれど、わたくしは愚かだった。それが真実よ。一人の人間の少年が、魔族や天使に希望を与えてくれたの。彼は紛れもなく、英雄だった。彼のお陰で、わたくしとラザルさん‥‥いえ、人間と天使と魔族は手を取り合えたのよ』

ウェザは映像で見たウェルの話をそこまで語り、

「あたくしは何回も何回も、映像を見た。そしたら、夢の中におばあ様とおじい様が現れることが多くなったの!だから、あたくしの傍にはずっとずっと、二人がいるのよ!」

なんて、嬉しそうに話す彼女を見て、

「なるほど‥‥妄想‥‥こほん。ウェザさんはメルヘン思考なのですね」
「なっ、なんですってぇ!?」
「いえ‥‥だって貴女がお二人の話をする時、完全にお二人が生きているようなニュアンスで語っていましたから。映像だけで知ったご自身の祖父母との思い出を作れるだなんて、随分と想像力が豊かなのですねぇ」

クスクスとシーカーに笑われ、ウェザは顔を真っ赤にして頬を膨らませた。

「ふふ、ここに貴女のような頭の柔らかい方がいて良かった。ノルマルさんとアリアさんは少しお堅いですし、リダとルヴィリは話になりませんからね。貴女のような方がいることで、場の雰囲気が明るくなります」
「それ、褒めてるんですの?」

小馬鹿にされているような気もしてウェザは目を細めたが、小さく息を吐き出す。

「ふふ。ですがまあ、映像であったとしても、ウェルさんとラザルさんは貴女が自分達のことを知ってくれていて喜んでいると思いますよ。ですが‥‥だからと言って、お二人に憧れすぎて自己投影しすぎるのはいけません。運命の恋ーー悪くはありません。しかし、ウェルさんとラザルさんは運命の恋をしたわけではない」

シーカーは何もない天井を見上げ、

「種族間の考えで対立し、お互いの境遇を思い合い、肩を並べて戦い‥‥運命と言うよりは、絆、でしょうか。ですから、ウェザさん。貴女のその考えが、心配なのです」
「え?」
「貴女はレンジロウさんに運命を感じているのかもしれない。彼の目的はわかりません。いずれまた、彼はマータと共に我々の前に現れる気がします。その時にまた、貴女はうまく判断が出来ないかもしれない。僅かな時間を過ごした仲間を守るか、僅かな時間で運命を感じたレンジロウさんへの想いを尊重するのかーー私は、貴女は後者を取ると思っています」

言われて、ウェザは否定しようとしたが、口ごもってしまう。わからないのだ。
確かに、レンジロウがエクスを刺した現場に居合わせた時、泣いて、疑問をぶつけるしか出来なかった。
次はどうだろう?
もし、シーカーが、ノルマルが、アリアがレンジロウによって傷つけられたら?

思い詰めるようにギュッと目を閉じ、唇を噛み締めるウェザの頭に、ぽんっとシーカーの手が置かれる。

「先程話した、英雄リョウタロウと占術士の末裔レーツ。あのお二人は運命と呼ぶに相応しいのでしょう。あの二人が出会い、ジロウという存在が誕生し、今、この世界は続いている。もしジロウが誕生していなければ、この世界はテンマさんに滅ぼされていたでしょう。正直、私は運命などという言葉は好きではありません。そんな薄っぺらいもので、過去の出来事を美談にしたくはない」

ちらっと見上げれば、珍しくシーカーは真面目な顔をしていた。

「そして、彼らが遺した宝には明るい未来を向いて歩いてほしい。運命の恋をするなとは言いません。ですが一度、運命という思考を切り捨ててほしいのです」

シーカーはニコッと笑い、

「なんて。私のようなクズが貴女を諭すような資格はないのですがね」

そう言いながら、ウェザの頭に置いた手を離し、彼女から一歩離れた。
そうして彼はまた、実験台の前に立ち、薬の調合を再開する。

「眼鏡様は‥‥どうしてそんなに頑張れるんですの?肉体を捨てて、体を機械に作り替えて‥‥果たせるかもわからない、ナエラ‥‥さん、との約束の為に」
「頑張っている訳じゃありません。私がやらなければいけないから、私にしか出来ないから、私がしたいと思ったから、私は動いているのです。ですから、長々したような立派な理由はないのですよ。それに今は‥‥ヨミの行動を無駄にしない為にも、そして、私を含め、エクスを必要とする人の為にも‥‥私は動いているのです」
「‥‥」

生きた年数の差かもしれない。しかし、シーカーの生き方や信念は、ウェザには立派なものに見えた。たとえ、過去に過ちを犯し、その過去を今、後悔しているのだとしても‥‥
そして、そんな彼は今、人の温もりを教えてくれたエクスの為に生きようとしているのだろう。

「‥‥眼鏡様。本当に空に世界があって、エクス様の魂に会えたなら‥‥必ず助けて連れ戻して来てよね!あんな風におじ様と妹に裏切られて‥‥王様と王妃様をあんな姿にされて‥‥ヨミは何度も刺されてエクス様を守って死んで‥‥エクス様が可哀想でならないわ。王殺しの汚名を被せられて、あんな姿になっても妹を助ける為に頑張っていたのに」

滲む涙を拭いながら、絶望に堕ちたエクスの姿を思い出してウェザは言う。シーカーは頷き「当たり前です」と、一言だけ言った。
その一言に、ウェザはニコッと笑い、踵を返して研究場から出て行く。

‥‥充分だ。理解している。
話を聞く限り、シーカーにとってエクスはとても大切な存在だ。だから彼は必ず、エクスを助けてくれるだろう。危険を承知で、あるかどうかもわからない場所へと向かうのだから。

(パンプキン、マジャ、ソートゥ様、おじ様、マータ。おじ様とマータは別の目的で動いているっぽいし、眼鏡様とノルマルがいない間、パンプキンやマジャが暴れなかったらいいけれど‥‥ルヴィリは一応協力してくれるけど、リダがいつまた敵になるかはわからない。あたくしとアリアだけじゃ、どうにも出来ないことが多いわ。ルヴィリが‥‥ちゃんと協力してくれたらいいんだけど)

そんなことを考えて鉱山内を歩いていると、目立つ赤色が視界に入る。ルヴィリが前方を歩いていた。

「あら。寝るんじゃなかったんですの?」

背後からウェザにそう声を掛けられ、バサッ‥‥と、赤に染まった翼を広げてルヴィリは振り返る。

「温泉があるって言ってたじゃない。寝る前に入りに行くのよ。着替えはないけど、タオル類はあるみたいだし」
「えーっ!?こんな場所で入るんですの!?」
「女性は身嗜みが大事よ、ウェザ」
「それはわかりますわよ!」

確かにここには立派な温泉があった。だが、さすがに入ろうとは思わなかったので、ウェザは驚くしかない。

「でもあなた、身嗜みとか言うけど‥‥その翼は、返り血で染まってるんでしょう?今日だって‥‥ロンギング城で逃げ出す人達を殺して‥‥」

目の前の赤い天使は二十人程の人々を手にした槍で突き刺し、殺した。その時のことを思い出し、ウェザは身震いしてしまう。

「ああ、アレ。あれはマータ坊やの実験の餌食になった奴らだけ殺したの。放っておいたらバケモノ化するから、その前に殺してあげたのよ」
「‥‥」

それを聞いても、彼女が人を殺したことに変わりはない。

「マシュマロ婆から聞いたけど、あなたは両親を事故で亡くして‥‥それからハルミナの街を出たって」

すると、ルヴィリは金の目を鋭く光らせてウェザを睨み、

「ふんっ‥‥事故、ね。そうよ、他の人達は知らないもの、真実なんて。でも、違う。事故なんかじゃない。両親は殺されたのよ、ソートゥにね」
「‥‥はぁ!?そんなはずないでしょう!?ソートゥ様は十四歳よ!?まだ生まれても‥‥」

ルヴィリは二百年は生きており、両親が殺されたのは子供の頃だと聞いている。ソートゥが彼女の両親を殺したなどと、辻褄が合わない。ルヴィリはウェザに背を向け、

「誰かに話しても仕方のないことね。この真実は、私とソートゥしか知らない。いえ、パンプキンも知っているかもしれないわね。ソートゥは私が殺す。だから、あなたが真実を知る必要はないし、知るとしたら、私がソートゥを殺した瞬間かしらね」
「ちょっ‥‥」

わけのわからないことを言うだけ言ってルヴィリが歩き出すので、ただモヤモヤとした話を聞かされたウェザは額を押さえた。しかし急にルヴィリは立ち止まり、先程、皆で話し、ノルマルの手料理を食べた部屋をじっと見ている。しばらくすると部屋を指差しながらウェザに顔を向け、

「ウェザ。あなたのお友達でしょう?これはいいのかしら」
「は?」

なんのことだとウェザはルヴィリの方まで行くと、同じように部屋を覗き、

「んんんんんんーーーーーっ!!!!!?」

と、声にならない叫びを上げた。
一室のソファーでリダは座ったまま寝ていて、その横で彼の肩に凭れながらアリアが寝ていた。ウェザは部屋に乗り込んでアリアを引っ張り出そうとしたが、ルヴィリに肩を掴まれる。

「おかしいわね。リダは黒髪の女は嫌いなのに」
「は?そうなんですの!?でも、リダはアリアに付きまとってるわよ!?」

初めて聞いた情報にウェザは目を見開かせた。

「リダは人間と天使のハーフでしょう?母親が人間で、色んな男と関係があったそうよ。それで、たまたま天使の男との間にリダが生まれちゃったらしいわ」
「なっ‥‥たまたまって‥‥」
「子供が生まれてもお構い無し。天使の男とは一夜限りの関係だったらしいし。それからも女は遊び歩いて、しまいにはリダが十歳を過ぎた頃、リダにも手を出したんですって。息子によ?気持ち悪い」
「‥‥」

そんな話は聞きたくなかったとウェザは顔を青くする。しかし、ルヴィリは話を止めず、

「で、その母親をリダは殺したそうよ。まあ、正当防衛ね。その母親が黒髪で、黒髪の人間の女がトラウマなんですって。確かに、黒髪の人間の女はお構いなしに殺してたわ。散々、他人を平気で傷つける癖に、そんなトラウマ笑えるわよね。まあ、小さい頃からずっと、自分を放置して男を取っ替え引っ替えして、しまいには自分にも手を出してきて‥‥こんな風に歪んだ生き方になったのは仕方ないかもしれないわね」
「‥‥詳しいんですのね」

リダとルヴィリは親しそうには見えなかったので、意外だなとウェザは感じる。

「ああ、違うわよ。たまたまリダとマジャが話してたのが聞こえただけ。冗談話みたいに話してたけどね。マジャはあんなだけど、あれで意外にリダを気に入ってたみたい。恋じゃないわよ?弟みたいに思ってるみたい」
「ふーん」

シックスギア達の関係性をなんとなく聞いて、ウェザは再びリダとアリアの方へ視線を向けた。

「さっきから見てたら、リダはやけにその子に甘いじゃない?リダが誰かに構うなんて珍しいし、すぐに殺さない辺り、黒髪の女が平気になったのかしらね、まあ、どうでもいいけど」

肩を竦めながら言い、ルヴィリは再び温泉の方へと足を進める。ウェザは警戒心なく眠る二人を見つめ、苦しげに噎せて血を吐いたアリアの姿を思い出す。

(アリアはスキンシップ慣れしてないだけだからリダの行動に戸惑ってるのよね。エクス様が無事だったら、絶対アリアはエクス様に靡いてたと思うし。そうよ、戸惑ってるだけで好きなわけじゃないから大丈夫‥‥)

そう思いながらウェザは部屋に入り、どういう状況で二人がこんな風に寝ているのかは知らないが、リダが起きた時に変な真似をしないよう、部屋のベッドで見張ることにした。

別に、今のリダの話を聞いても同情は出来ない。ルヴィリの口から聞いただけで、本人から聞いたわけでもないからだ。
それに、本人からしたらもう、どうでもいい話かもしれない。どうでもよくなかったら、彼はこんな風には生きていなかっただろう。

(まあ、あたくしもよね。おばあ様とおじい様の映像を見て、運命の恋に憧れて‥‥眼鏡様の言うように妄想に生きるだけじゃなく‥‥)

幼い頃からの癖のようになってしまった。少しでも特別なことがあれば、運命だと感じてしまう。
レンジロウを二度助けたことは、彼によって仕組まれたことだった。けれど、知らなかったとはいえ、二度も彼の命を救ったことに運命を感じた。
それに、エクス達との出会いにも。

ーー時刻はわからない。けれど、ずっと考え事をしてしまい、ウェザは眠れぬ夜を過ごしてしまった。
もしかしたらもう、明け方かもしれない。

「‥‥」

すると、リダが目を開けたことに気づき、ウェザはベッドにうつ伏せになったまま彼の様子を見る。ここにウェザがいることにまだ気づいていないようだ。
しかし、肩に寄り掛かる重みに彼は視線を動かし「!?」と、大きく目を見開かせる。

「その様子だと、アリアが勝手にくっついただけなのね‥‥はぁ」

小さな声でウェザが言うと、リダは再び驚いてベッドにいる彼女に気づいた。

「なんだテメェら二人で‥‥人様が寝てる間に何を企んでやが‥‥」
「しぃっ!アリアが起きちゃうじゃない!」

怒鳴ろうとする彼を制止するように、ウェザは人差し指を口元に当てる。

「ルヴィリから聞いたわよ。あんた、黒髪の女がトラウマなんですってね?ならなんで、アリアは大丈夫なのよ」

そう言われて、リダは眉間に皺を寄せて「あのヤロウ‥‥」と、ルヴィリに対して舌打ちをした。

「それに、眼鏡様が言ってたわよ。アリアにドラゴンの血を飲ませたのはあんたかもしれないって」
「だったらなんだよ。俺のこと探って意味あんのかぁ?」

否定するわけでもなく面倒臭そうなその返答にウェザは肩を竦め、

「別にあんたに興味なんかないわよ。あたくしのタイプでもないしね!ただね、別にアリアのことが特別好きじゃないんなら、アリアにちょっかい出すのはやめてほしいの」
「ハァ?」
「はぁ?じゃないわよ!アリアにちょっかい出さないでって言ったの!」

リダを指差しながら言えば、

「別に好きじゃないんでしょ!?」
「‥‥」
「なぁんで黙るのよ!」
「俺は強い奴が好きだから、アリアのことは好きだぜ?」
「そういうのじゃなぁぁぁぁぁぁぁい!」
「んだようるせーな、鳥女ァ‥‥」

ウェザが何を言いたいのかがわからず、ギロリと睨み付ける。

「あたくし達と違って人間の人生は短いし、アリアは病気でもっと短いかもしれないし‥‥だから!その気がないならアリアに思わせ振りな態度をとるのやめてほしいの、このクズ!」
「ああん?俺は別に何もしてねーだろうが。それにこいつはフツーの女共と違ってそーいうのに興味ねーだろ。俺に全く興味なさそーだし安心しろよ」
「あるから言ってんでしょ!」
「だからないって‥‥んあ?」

今、なんて言ったとリダはウェザをじっと見た。

「あんたがアリアに何をして何を言ったか知らないけどねぇ、今まで恋愛を避けてきたその子にあんたのスキンシップは強烈なのよ!距離感がない!」
「‥‥」
「だから、勘違いさせるようなことしないで!あんたの存在はアリアの邪魔になるの」
「‥‥」
「‥‥何よ。なんとか言いなさいよ」

一方的にウェザが話すだけになってしまい、何も言い返してこないリダを睨み付ける。
リダはため息を吐き、これだけ騒いでも自分の肩に寄り添い眠るアリアを見つめ、彼女の短い漆黒の髪に触れた。

「だから、別にそんなんじゃねーって言ってんだろぉ。ガキの頃のこいつを見て、確信しただけだ。こいつはいつか強くなるってな。気まぐれで、再会するかもわかんねーのに、俺はこいつの成長を見たいと思っただけだ」
「‥‥?」
「最初はこいつがあの時のガキとは気づかなかったがなぁ。だが、予想通り強くなった。だから、あとは戦う‥‥」
「何よそれ!再会できるかどうかわからないのに成長を待った!?それで、再会しちゃったですって!?何よそれって運命‥‥ハッ!いけないいけない!運命を切り捨てろって眼鏡様に言われたばかりよウェザ!」

自分の頬をパシンと叩き、ウェザは大きく首を横に振る。

「とっ、とにかく!あたくしが言いたいのはそーいうこと!」
「わかんねーよ」
「あんたとアリアの出会いを詳しく聞きたいところだけど、とりあえずあんたはあたくしが今言ったことをちゃんと考えなさい!」

言いながら、ウェザはベッドから足を下ろすので、

「あ?言うだけ言ってどこ行くんだよ」
「顔を洗いに行くだけよ。一晩中寝てないからさすがにちょっと眠気がきたわ‥‥アリアに変なことしたら、あたくしが許さないからね!」

釘を指すように何度も言い、フラフラした足取りで彼女はこの場から立ち去った。
賑やかさから一変。静まり返った部屋からは、アリアの小さな寝息だけが聞こえる。

「‥‥チッ」

リダは舌打ちをしながら髪をかき上げ、

「オイ、アリア。いい加減起きろよ。なんで俺の隣でぐーすか寝てんだァ!鳥女がやかましいだろぉが」

そう言いながら彼女の肩を揺らせば、「ううん‥‥」と、小さく声を漏らし、アリアはゆっくりと目を開けた。

(頭が重い。記憶を活性化させる薬を飲んだからか、ぐっすり寝ていた‥‥それに、本当に‥‥ハッキリと‥‥)

ぼんやりした思考を働かせていると、ぐらぐらと肩を揺すられていることに気づき、ゆっくりと隣を見て思い出す。自分はリダの隣でソファーに座ったまま寝ていたんだと。

「やっと起きたか。何してたんだよお前は」
「‥‥」
「‥‥?」

アリアに無言で顔をじっと見られ、リダは眉を潜める。

「いえ、すみません‥‥特に理由はないんです」

そう言ってソファーから立ち上がり、部屋の出口に体を向け、

「さっき、あなたは私の成長を待ったと言いましたね。もし、あなたが想像したように私が強く育っていなかったら、どう思いましたか?」
「どう思うも何も、強くなれなかったら、ここに至るまでにお前は死んでたんじゃねえか?」
「‥‥ふっ」

その返答を聞いたアリアは小さく笑い、振り返ることなく部屋を出て行った。
寝起きだというのに薬の効果か、頭の中が妙にハッキリとしている。

『アリアさん。貴女が手に入れたいものーーいえ、取り戻したいものと言うべきでしょうか。本当にそれが必要なのかどうか、抹消した記憶の中に在るかもしれません』

シーカーの言葉を思い出しながらギプスで固定した左腕を見つめ、

(‥‥今まで、無駄な人生だったなぁ)

そう思いながら、一人苦笑した。
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