一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
33 / 105
三章【繋がり】

3-12 ありがとう(後編)

しおりを挟む
あの日、フォード国の公園で会った君は、とても強引で‥‥でも、無邪気で。
とても王女になんか見えなかった。

君と出会ってから、不思議なことばかり起きた。

シュイアさんとしか接することのなかった私に、君は友達という立場で私に接してくれた。

私の中の何かを、君が確実に変えた。

だから、助けたいと思った。

また一緒に、笑い合いたいと思った。

彼女を好きだと思った。

それが友達ーーそういうのが、友達なんだろう。

(不死鳥‥‥ごめん‥‥あなたと生きると約束したけれど‥‥私はもう‥‥)

リオは意識を失いかけていた。
崩れ行く遺跡の中、レイラと共に。
意識が遠くなる中で、リオはうっすらと見た。

目の前にしゃがみこむ男を‥‥レイラを見つめる、その眼差しを。

「どう‥‥して」

リオは掠れた声で聞く。

「結局、俺は世界を見せてやれただろうか?」

男の言葉を、リオは黙って聞いていた。
なぜ、そんなことを彼は言うのか‥‥

「どう思う?小僧」

そんなことよりも、彼がどうしてここにいるかの方がリオは気になった。
そしてなぜ、自分にそんなことを聞くのか‥‥
だが、リオの中にその問いへの答えはあった。

「レイラちゃんは‥‥最期に、あなたの名を呼んでた。だからきっと、彼女を救ってきたのは‥‥あなたなんだよ‥‥」

その事実を口にし、リオは悔しくて、悲しくなる。

「‥‥そうか。だが小僧、レイラを救ったのは、お前だ」
「‥‥」

リオはぽかんと口をあけた。
この男は、時折わけのわからないことを言うから。

「‥‥あなたは、レイラちゃんのこと、本当は‥‥好きだったの?」
「‥‥違う。言っただろう、俺は誰も好きにならないと」
「誰かを好きになっても‥‥最後には裏切られる‥‥だったっけ?」

リオはあの日の彼の言葉を思い出す。

「レイラちゃんは‥‥あなたを裏切らなかったよ?最後まで‥‥あなたのことだけは、裏切らなかった‥‥」

リオは微笑み、

「レイラちゃんはずっと、あなたが好きだった‥‥」
「ーー俺は愛せなかった」
「‥‥」

しかし、それにもリオは微笑んで、

「それでも‥‥あなたは愛されていた。そのことを、忘れないで‥‥レイラちゃんのこと、忘れないでね」

男からの返事はない。

「‥‥っ」

リオの体に傷が響き、苦しそうに目を細める。

「小僧‥‥お前も早くーー‥‥!!」

遺跡の崩れが激しくなったことに、サジャエルの術が解けたのだとカシルは気づいた。

「小僧‥‥行くぞ!!」

カシルがリオに言うが、リオは意識を失ったようで‥‥

「ーー俺はお前に‥‥」

そう言って、少女に手を伸ばそうとしたが‥‥

ザパァアアァアアッー━!!と、遺跡の地面からまるで噴水のように大量の水が押し寄せてきた。

「くっ‥‥!」

カシルは水の届かない場所に避難する。
レイラの亡骸と、リオを腕に抱えて。
ーーだが‥‥不覚だった。
天井の崩れも一層に早まっていて‥‥
カシルは二人を庇いつつ、自らの体に崩れてきた岩を浴びるが‥‥

「ちっ‥‥!」

彼はとうとう耐えきれず、二人を離してしまった。

「リオーー!!」

二人は落下し、激しい激流の波に呑まれていく。

「‥‥お前はいつも、行ってしまうな‥‥」

カシルは二人を見失い、静かに呟いた。


◆◆◆◆◆

一面の青だ。水の流れが激しい。
リオはただ、その流れに身を任せていた。

ー━それから、数時間後‥‥

ハトネは光景を見て驚いた。
遺跡が跡形もなく崩れ去っていたのだ‥‥

「リオちゃん‥‥戻ってくるって言ったのに‥‥!本当‥‥約束を守らない子ね‥‥」

フィレアは大人気ないと思いつつも、遺跡を見て涙を溢す。

「シュイア様に会ったら、なんて説明すればいいのよ‥‥」
「待ってよ!まだ、リオさんが死んだって決まったわけじゃないんだ!リオさんは戻ってくるって言った‥‥信じようよ」

ラズが言えば、その隣でハトネが涙を流しながら、力強く頷いた。


◆◆◆◆◆

息苦しい。

(そうだ‥‥カシルが、助けてくれようとしてた‥‥)

水の中で、リオは思い出す。

(私も、レイラちゃんの元に、逝けるかな)

リオは微笑み、目を閉じた。

「ダメよ」

リオの右手を誰かが握る。

「あなたは生きるの。こっちに来ちゃダメよ」

明るく、優しく、強い声。

「あなたに預けた約束の石に、私、願ったからね」

それは、レイラだった。だが、リオは驚くことなく、

(何を、願ったの‥‥?)

そう聞けば、

「秘密!」

と、彼女は悪戯っぽく笑った。
すると、レイラはぐいっとリオの腕を引き、

「‥‥カシル様のこと‥‥よろしくね」

レイラは悲し気に微笑んで言う。

(え?レイラちゃん?レイラちゃん‥‥待って!レイラちゃん!?)


ーーザザァ‥‥と、波の音がした。
リオは目を開け、

「待って!!レイラちゃん!!」

リオは腕を伸ばし、がばっと起き上がる。

「はっ‥‥!はぁっ、はっ‥‥えっ?ここは!?」

辺りを見回すと、どこかの浜辺にいることに気付いた。

「あれ?」

瞬きを数回する。
傷つけられたはずの右目が、しっかりと見えた。

『あなたに預けた約束の石に、私、願ったからね』

先刻の言葉が思い浮かび‥‥

「まさか‥‥レイラちゃんが?あれは、夢じゃ‥‥なかったの?」

リオはレイラから預かった青い石を見た。
石の青い輝きはなくなり、ただの白い石になっているではないか。

「願って‥‥くれたの?レイラちゃん‥‥私の、為に‥‥」

リオは石を握り締める。

「ごめんなさいっ‥‥ごめんなさい‥‥約束守れなくて‥‥助けれなくて‥‥」

リオは謝り、

「ありがとう、レイラちゃん‥‥ありがとう‥‥」

次に、何度も何度も、礼を言った。

「君に会えてっ‥‥良かった!君と友達になれて‥‥本当に良かった‥‥出会えたのが、友達になれたのが、君で‥‥良かった‥‥!」

リオは涙を流しながら、レイラと出会えたことに心からの感謝をする。

「うんっ‥‥レイラちゃん。私も、後悔しないよっ‥‥この結末を、後悔なんか‥‥しないから!君がくれたこの命‥‥私は、君を忘れずに、生きていくからっ‥‥!」


一つの物語が幕を閉じた。
別れた道が再び重なることはなかったが、それでも、絆と繋がりは消えなかった。

忘れはしない。

この時代に会えたことを‥‥
この世界で会えたことを‥‥

顔が、声が、いつかは思い出せなくなる日がくるかもしれない。
でも、それでも、忘れない。
名を、呼ぶから。
思い出があるから。

二人で手を取り合い、友として共に歩んだ短い日々。
忘れない、絶対にーー‥‥

「忘れないよ、レイラ‥‥」


この世界でたった一人の友達。
これからの時代、君以上の友など現れないだろう。

そして、君が愛した人のことを、私はもっとちゃんと、理解していこうと思う。
君が安心して、眠れるように‥‥

だから、おやすみ、レイラ‥‥

私は、諦めが悪いから。だから、願わくは。
いずれまた、いつかの時代で出会えればと思う。

叶わない願いを、私は抱く。


心から、本当に。君に会えて、良かった。

ありがとう‥‥レイラ。


~第三章~繋がり~〈完〉
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...