一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
64 / 105
六章【道標】

6-3 平穏

しおりを挟む
家に戻ったアドルとクリュミケールは明日の旅立ちの為、早く寝ることにした。
疲れていたのか、二人ともすぐにぐっすりと眠ることができ、いつの間にか朝を迎える。

ーーコンコンッ

「おはよう、アドル」

軽いノック音と同時にクリュミケールは言った。

ガチャーーと、扉が開けられ、

「おはよう!クリュミケールさんっ」

扉を開けたアドルが元気よく言う。

「さて。忘れちゃいないだろうな?今日はアドルの初めての旅立ちの日だぜ」

クリュミケールがウインクしながら言うので、

「大袈裟だなぁ。確かに、この村からあまり出たことないけどさー」

アドルは頬を膨らませる。

「ははっ。なんにせよだ。一応、村の皆にちゃんと挨拶してこい。皆、アドル坊やを心配してたぜ」
「もー!本当に大袈裟だなぁ!」

アドルは更に頬を膨らませ、渋々と部屋から出た。階段を降り、椅子に腰掛ける母の後ろ姿が見える。

「母さんおはよう」
「おはようアドル。やっぱりアドルは弟ね。クリュミケールは随分と早く起きていたわよ」

アスヤに微笑みながらそう言われ、アドルはむっとしながら小さく「ちぇっ」と、悪態を吐いた。

「でも、アドル。気をつけてね。村の外は何かと危険だから‥‥」
「心配しないでよ、母さん。大丈夫だって!毎日、剣の稽古してるもん!」

アドルは片腕でガッツポーズを作り、母を安心させるように笑う。

「そうですよ。それに、何かあった時の為にオレがいるんですから」

いつの間にか二回から降りてきたクリュミケールが、アドルの後ろでそう言った。

「むーっ!クリュミケールさんに助けてもらわなくても、おれだって強いもん!」
「オレに勝ったことないくせにー?」
「ぶーっ!!!」

そんな子供達のやり取りを見て、アスヤはおかしそうに笑い、朝食の支度を始める。


◆◆◆◆◆

朝食を軽く口にし、そろそろ行こうかと二人は話した。

「オレは準備できたけど、アドルは?」

クリュミケールが聞くと、

「んー。薬草に、剣に、お金に、寝間着に‥‥」

アドルは鞄の中をチェックしながら言い、

「まあ、そんなもんだろ。じゃ、行くか」

クリュミケールの言葉にアドルは頷き、荷物を肩にかけてその場から立ち上がる。

「行ってらっしゃい、アドル、クリュミケール。頼んだわね」

アスヤに見送られ、クリュミケールは頷き、

「行ってきます、母さん!」

アドルは大きく手を振り、家から出た。


◆◆◆◆◆

「‥‥あっ、アドル君」

家から出ると、一人の少女がアドルに駆け寄って来る。

「リウス!どうしたの?」

アドルは首を傾げながら少女に聞いた。

茶色い大きな目と、短い黒髪をした、年の頃はアドルより少し下であろう少女、リウス。

「アドル君、遠出するって聞いたから」

そんなアドルとリウスを見て、

「アドル、オレは先に村の外に行ってるから。リウスちゃんもまたな」

気を利かせたのか、クリュミケールはそう言って行ってしまうので、

「ええっ?クリュミケールさん?」

先に行くクリュミケールを見て、アドルは首を傾げる。

「あっ、あのね‥‥アドル君に渡したいものがあって‥‥」

リウスは腰に下げたポシェットの中をごそごそと探っていた。

「おれに?渡したいもの?」

アドルが聞くと、

「うん、あのね‥‥お守り、みたいなものなんだけど」

ポシェットから取り出されたのは、赤い宝石のような小さな玉の両端に羽が付いたペンダントだった。

「これを‥‥?」
「うん‥‥アドル君に」

アドルはそれを受け取ると、不思議そうな顔をしてリウスを見た。彼女は少しだけ真剣な顔をして、

「‥‥なんとなく、今渡さなきゃなと思って。あなたに、持っていてほしくて」

リウスはまた、照れたように笑う。

「そうなの?」
「うっ、うん。前から渡そう渡そうと思って‥‥でもなかなかタイミングが‥‥アドル君、いつも、クリュミケールと一緒だから‥‥そっ、それだけなの!あのっ、‥‥気をつけてね」

それだけ言って、リウスは去ろうとするので、

「ありがとう、リウス!帰ったら何かお礼するよ!」

彼女の背中に、そう言葉を投げた。


◆◆◆◆◆

「済んだか?」

村の出口でクリュミケールが待っていて、

「うん!なんかお守りをくれたよ」

アドルはクリュミケールにペンダントを見せる。しばらくクリュミケールはそれを見つめていた。

(‥‥なんだ、これ。何か、強い‥‥魔力のような‥‥いや、気のせいか)

クリュミケールは首を横に振り、あることに気づく。

「これ、手作りっぽいな」

クリュミケールはニヤニヤとアドルを見た。手作りと言われ、アドルは目を見開かせる。

「なんか、前から渡そうとしてくれてたらしくて、今渡さなきゃいけないと思ったとかなんだとか」
「確かリウスには占術みたいな能力があったんだっけ?」

占術(せんじゅつ)。
占いや予知能力のようなもので、自分の周りに不吉なことや良いことが起こるかどうか感じることができる、珍しい能力だ。

「リウスは何かを感じたのかな」

アドルはそう言いながらペンダントを首にかける。

「まあ、用事済ませて早く帰るだけだしな」

クリュミケールが言うと、

「うん!じゃあ、ファイス国へ行こう!」

父の遺品を、父の故郷であるファイス国にいる家族に届ける為に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...