一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
63 / 105
六章【道標】

6-2 家族

しおりを挟む
ーーキンッ、ガキンッーー!

草原に鉄と鉄とがぶつかり合う音、剣声が響いていた。

「じゃあ、アドル。今日はオレに一回でも攻撃を当てれたらお前の勝ちだ」

クリュミケールは笑いながら軽々と剣を振って言い、

「よーし!今日こそやるぞー!」

アドルは両手に二双の剣を持ち、意気込むように気合いを入れた。
今までもこうして稽古ーー剣の手合わせを何度かしてきたが、一度もクリュミケールに勝ったことがない。ましてや、クリュミケールに傷一つ負わせたことすらないのだ。
だから、今日こそはと、地面を蹴り、片方の切っ先を真っ直ぐに向けながら走るが、ブンッーージャキンッーー!!

無情にも、剣を振るう音と、弾かれる音が同時に鳴る。

「あー!剣がっ!!」

アドルは叫び、右手から離れ、くるくると宙を舞う己が剣を見上げ、それは空しくも地面に横たわるように落ちた。

「ううっ!でもっ、もう一本あるもんね!」

アドルはそう言い、左手に握ったもう片方の剣に視線を向けたところで、いつの間にか目の前に立っていたクリュミケールにひょいっとそれを取り上げられる。

「はい、終わり。今日もオレの勝ちだね」

クリュミケールはニヤリと笑った。

「ああああ!!ずるーーーい!!」

アドルは悔しそうに叫び、勢い良く草原に寝転がる。空を仰ぐと、綺麗な青が広がっていた。今日は、良い天気だ。
そんなアドルを見て、クリュミケールは小さく笑い、

「いつまでも‥‥こんな日が続いたらいいな」

アドルと同じように、空を見上げて呟く。そんなクリュミケールをアドルは不思議そうに見た。アドルの視線に気づき、

「さてと。そろそろ朝飯の時間だな。アスヤさんが待ってる」

クリュミケールはニコッと笑って言った。


ーーファイス大陸にある小さな村、ニキータ。
クリュミケールとアドルはこの村で過ごしていた。

「母さん!ただいまー」

アドルが家のドアを開けながら帰宅の挨拶をし、

「お帰りなさい。二人共、また朝から剣の稽古?」

アドルと同じ青い短い髪をした女性ーー彼の母親であるアスヤが言った。

「そうなんですよー、アスヤさん。朝っぱらからアドルはやる気満々で、こっちは叩き起こされて‥‥」

クリュミケールが呆れ気味に言えば、

「あらあら。ありがとうね、いつもアドルの相手をしてくれて。それから‥‥私のことは母と呼んでくれていいといつも言っているでしょう?」

そう、微笑みながらアスヤが言うので、

「でっ、でもっ‥‥なんか、慣れなくて‥‥」

と、クリュミケールは顔を赤くしながら視線を泳がせる。

「あはは!クリュミケールさん照れてるー!おれ達、家族じゃないか!遠慮しすぎだよ!」

アドルが笑いながら言い、クリュミケールは目を細め、その笑顔を眩しそうに見つめた。


◆◆◆◆◆

朝食を終えた後、

「アドル。今日は大切な話があるのだけれど‥‥」

アスヤが少しだけ深刻な顔をして言うので、アドルの隣に座っていたクリュミケールは、

「オレは席を外した方がいいですか?」

その深刻な様子にそう聞くと、

「いえ、大丈夫よ。話というのはね、ファイス王国に行って届けてほしいものがあるのよ」
「届けてほしいもの?」

アドルは首を傾げる。

「ええ。アドル‥‥あなたのお父さんはね、ファイス王国の貴族の生まれだったの。けどあの人は地位も身分も捨てて、この村を選んだわ」
「ええっ!?父さんが!?」

初めて聞く話にアドルは目を丸くした。

「それ以来あの人はファイス王国には一度も帰っていないの。今でもあの人のご家族は国で暮らしていると思うわ‥‥だからこれを‥‥」

アスヤは引き出しから小さな箱を取り出し、

「お父さんの遺品よ。これを届けてほしいの。お父さんの名前を出せば、お父さんの家は簡単に見つかると思うわ」
「父さんの‥‥うん、わかった!明日にでも届けに行ってくる!」

アドルは笑顔で頷く。

「ありがとう、アドル。本当は母さんも行きたいのだけれど‥‥」

そう言って表情を暗くしたアスヤを見て、アドルは口ごもった。

「仕方ないですよ、アスヤさんは体の調子が今あまりよくないんですから」

口ごもってしまったアドルの代わりにクリユミケールが言葉を続ける。
アスヤは最近になってから、体調不良により寝込むことが多くなっていた。

「でも、ファイス国はここからだと三、四日はかかるな‥‥オレも一緒に行くよ、アドル」
「えっ?クリュミケールさん、いいの?」

アドルが困ったように聞くと、クリュミケールはこくりと頷く。


そうして、二人は早速、明日の支度を始めていた。

「あら、こんなに薬草を買ってどうするの?どこか行くの?」

クリュミケールがカゴ一杯に薬草を詰めている為、道具屋の若い女性店員がそう聞けば、

「明日からアドルとファイス国まで遠出するんだ。道中危険だろうからさ」

クリュミケールはそう答える。
薬草は一見ただの葉っぱだが、傷付いた時に口に含むと体力が少し戻ったり、傷の治りも良くなる。それに、携帯食料にもなる。

「そうなんだ。最近、外は物騒だから気を付けてね。アドル君もクリュミケール君も大切な私達の家族なんだから!」

店員は微笑んで言った。
ニキータは小さい村の為、村人同士の交流は深い。村人全員が家族と言ってもおかしくはないのだ。

薬草を買い終え、アドルの家に戻る途中で、

(家族、か)

ふと見上げた真昼の空は、純粋に青く、美しかった。
だが、いつだって、心の中に闇が渦巻くような感覚がある。
それは、罪悪感だとか、そんなーー‥‥。


それぞれの支度が終わった頃には、空に星が輝いていた。

「あれ?母さん、クリュミケールさんは?」

家にクリュミケールがいないことに気づいたアドルはアスヤに尋ねる。

「クリュミケールならさっき、また外に出たわよ」
「まだ支度してるのかな?クリュミケールさん、心配性だからなぁ。おれ、ちょっと捜してくるよ」

だが、クリュミケールの行きそうな所なんて、アドルにはすぐ予想がついた。
それはたぶん、村が一面見渡せる場所。

そこにはやはり、クリュミケールがいた。草原に腰を下ろし、村を眺めている。

「クリュミケールさん。何してるの?」

その声にクリュミケールは振り向き、呆れるように肩を竦めた。

村付近にある小高い丘。そこには美しい光景が広がっている。

「ここに来ると、懐かしいよね。出会った頃もよく、一緒にここに来たし」

アドルはそう言って、クリュミケールの隣に座り込んだ。

「おれは小さかったからよく覚えてないけど、クリュミケールさん、確か傷だらけでこの村に来たんだっけ?」
「‥‥ああ。お前の父さんに運ばれてここに来たんだよ。お前の父さんは命の恩人だ」

クリュミケールはそう言って目を閉じる。

「そっか‥‥父さん、去年まではここにいたのにね‥‥」
「‥‥」
「父さんは‥‥魔物からおれを庇って死んだ。それから母さんの体調も悪くなって‥‥おれが‥‥おれが、弱いから‥‥何も、出来ないから‥‥」

アドルは俯き、拳を強く握る。

「アドル。お前のせいじゃない。お前の父さんはお前を守った、家族を守った。お前は、愛されていたから。でも‥‥」

クリュミケールはぽんぽんっとアドルの頭に手を置き、

「お前が自分を責めているのなら、オレも同罪だ。あの時、オレも他の魔物を相手して、アドル達の側にいれなかった。だから、同じだよ。オレ達は‥‥無力だった。だからこそ、強くなりたいーーそう思うのは、アドルだけじゃないよ」

その言葉に、泣いているのだろうか。俯いたままのアドルは鼻を啜っていた。

「それに、アドル。これからは絶対にオレがなんとかしてやるから。あの時みたいな思いはしない、させない。オレがお前を守る。お前はオレの友達だから」
「‥‥違うよ、クリュミケールさん」

アドルがそう言うので、

「え、違う!?友達じゃないの!?」

クリュミケールが本気で慌てているので、その反応にアドルは笑い、

「おれ達は‥‥家族で、親友ーーでしょ?」

顔を上げたアドルは、にっこりと笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...