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六章【道標】
6-1 始まりの村
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黒い鎧に身を包んだ青年は、冷たい床に座り込んでいた。
眼前には、水晶の中で眠る金の長い髪をした美しい女性ーー女神リオラ。
「きっと、もうすぐだ」
彼ーーシュイアはぽつりとそう言いながら、あの子の言葉を思い出す。
『大切な人を奪った人間が憎い‥‥その気持ちは、よくわかるよ。でも、泣いてまであなたを想う人だって、ここにいるんだよ。それに、リオラが可哀想だよ。死んで‥‥こんな水晶の中に‥‥』
(そんなことは、分かっている)
彼の言葉を思い出す。
『この小僧と過ごした時間を、お前はそんな簡単に切り捨てるのか?本当に忘れたのか?お前は何も真実を見ていないのか?
俺達はあの日、誰に救われた?誰に剣を習った?あの日、サジャエルは俺達に何をした?真実ってなんだ?
リオラも、小僧も、別の人間だ』
(ああ、救われていたんだろう、俺は。そうさ、リオとリオラは、違う存在だ)
再び、あの子の言葉を思い出す。
『‥‥シュイアさん。今まで本当にありがとうございました。ここまで育ててくれて、助けてくれて。それは、私じゃなく、私にリオラを見ていたんだとしても‥‥それでも私がここまで成長し、生きているのはあなたのお陰です。
でも、私とリオラという女性は別々の存在だから。シュイアさんにとってリオラを目覚めさせることが大事でも、私はそれに力を貸せません』
(本当に、成長したな)
自分にとって、結局あの子はどんな存在だったのだろう。
『私は救いたい人を救えなかった。だから今度こそ‥‥今ここにいる大切な仲間たちを、私自身の手で護る!私は私だ!リオラなんかじゃない‥‥!見届ける者なんか知らない!器なんか、知らない!名前なんか、いらない!!』
だが、それでも。
(リオ、カシル。お前達と同じように、私にも大切なものがある。大切な過去がある)
シュイアは考えを止め、ふと背後の気配に気づき、
「リオを見つけたのか?」
薄暗闇の中、シュイアはフードを被った四人に聞いた。
「リオちゃんねぇ‥‥あのクソガキ!相変わらず意味わかんねーな!?」
などと、ロナスが怒り混じりに言うので、
「ロナス、口を慎め」
青年の声をした男が静かに言う。
「チッ‥‥お前はよぉ、リオちゃんに情がありすぎるんだよ!なんたって‥‥」
「ロナス!言ったはずだ。私達にはそれぞれ事情がある。その事情を容易く口外するものではないーーと。忘れたか?それに、あんたの方がリオに執着してるように見える」
少女、カナリアが厳しい口調で言えば、
「‥‥ああ?誰が誰に執着してるって?」
ロナスが苛立つようにカナリアを睨み付けた為、
「やれやれ。めんどくさいですねぇ。シュイア様、本題に戻しましょうか」
若い男の声が、話を戻した。
「ああ、話せ、クナイ」
ーーと。シュイアは彼をクナイと呼ぶ。
「リオはーー‥‥」
◆◆◆◆◆
「クリュミケールさーん」
短い青の髪を僅かに揺らしながら、少年は草原を駆けた。
「アドル、どうした?」
クリュミケールと呼ばれた人は、青髪の少年ーーアドルの方に振り向く。
「へへっ!クリュミケールさん、剣の稽古してよ」
アドルは好奇心旺盛な空色の瞳をし、青が基調の長袖の服に淡いクリーム色のズボンを履いている。
そんな少年を、クリュミケールは優しい目で見つめた。
金の肩まで伸びた髪をひとつにくくり、エメラルド色の瞳が朝日に輝く。
首にマフラーのような茶色い布を巻き、下には白いシャツと、青いズボン。
緑に囲まれた小さな村。
そこは、ニキータ村と言った。
彼らはそこで、平和に暮らしていたのだ。これからのことなど、何も知らずに。
眼前には、水晶の中で眠る金の長い髪をした美しい女性ーー女神リオラ。
「きっと、もうすぐだ」
彼ーーシュイアはぽつりとそう言いながら、あの子の言葉を思い出す。
『大切な人を奪った人間が憎い‥‥その気持ちは、よくわかるよ。でも、泣いてまであなたを想う人だって、ここにいるんだよ。それに、リオラが可哀想だよ。死んで‥‥こんな水晶の中に‥‥』
(そんなことは、分かっている)
彼の言葉を思い出す。
『この小僧と過ごした時間を、お前はそんな簡単に切り捨てるのか?本当に忘れたのか?お前は何も真実を見ていないのか?
俺達はあの日、誰に救われた?誰に剣を習った?あの日、サジャエルは俺達に何をした?真実ってなんだ?
リオラも、小僧も、別の人間だ』
(ああ、救われていたんだろう、俺は。そうさ、リオとリオラは、違う存在だ)
再び、あの子の言葉を思い出す。
『‥‥シュイアさん。今まで本当にありがとうございました。ここまで育ててくれて、助けてくれて。それは、私じゃなく、私にリオラを見ていたんだとしても‥‥それでも私がここまで成長し、生きているのはあなたのお陰です。
でも、私とリオラという女性は別々の存在だから。シュイアさんにとってリオラを目覚めさせることが大事でも、私はそれに力を貸せません』
(本当に、成長したな)
自分にとって、結局あの子はどんな存在だったのだろう。
『私は救いたい人を救えなかった。だから今度こそ‥‥今ここにいる大切な仲間たちを、私自身の手で護る!私は私だ!リオラなんかじゃない‥‥!見届ける者なんか知らない!器なんか、知らない!名前なんか、いらない!!』
だが、それでも。
(リオ、カシル。お前達と同じように、私にも大切なものがある。大切な過去がある)
シュイアは考えを止め、ふと背後の気配に気づき、
「リオを見つけたのか?」
薄暗闇の中、シュイアはフードを被った四人に聞いた。
「リオちゃんねぇ‥‥あのクソガキ!相変わらず意味わかんねーな!?」
などと、ロナスが怒り混じりに言うので、
「ロナス、口を慎め」
青年の声をした男が静かに言う。
「チッ‥‥お前はよぉ、リオちゃんに情がありすぎるんだよ!なんたって‥‥」
「ロナス!言ったはずだ。私達にはそれぞれ事情がある。その事情を容易く口外するものではないーーと。忘れたか?それに、あんたの方がリオに執着してるように見える」
少女、カナリアが厳しい口調で言えば、
「‥‥ああ?誰が誰に執着してるって?」
ロナスが苛立つようにカナリアを睨み付けた為、
「やれやれ。めんどくさいですねぇ。シュイア様、本題に戻しましょうか」
若い男の声が、話を戻した。
「ああ、話せ、クナイ」
ーーと。シュイアは彼をクナイと呼ぶ。
「リオはーー‥‥」
◆◆◆◆◆
「クリュミケールさーん」
短い青の髪を僅かに揺らしながら、少年は草原を駆けた。
「アドル、どうした?」
クリュミケールと呼ばれた人は、青髪の少年ーーアドルの方に振り向く。
「へへっ!クリュミケールさん、剣の稽古してよ」
アドルは好奇心旺盛な空色の瞳をし、青が基調の長袖の服に淡いクリーム色のズボンを履いている。
そんな少年を、クリュミケールは優しい目で見つめた。
金の肩まで伸びた髪をひとつにくくり、エメラルド色の瞳が朝日に輝く。
首にマフラーのような茶色い布を巻き、下には白いシャツと、青いズボン。
緑に囲まれた小さな村。
そこは、ニキータ村と言った。
彼らはそこで、平和に暮らしていたのだ。これからのことなど、何も知らずに。
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