異世界で演技スキルを駆使して運命を切り開く

第二章

劇団ルミナス

この日、宿には戻らなかった。
リオネルが劇団の拠点に連れて行ってくれたのだ。

まずは街の中心にある劇場へ向かった。
劇場は広場から少し離れた場所にあった。
リオネルの後について行くと、古びているが威厳を感じさせる大きな建物が見えてきた。

「サラ、ここが劇場だ。俺たちの拠点でもある。」
リオネルは誇らしげに言った。

劇場の中に入ると、広々としたロビーがあり、壁には過去の公演のポスターや写真が飾られていた。
奥には大きなホールがあり、舞台が見えた。
リオネルは私に劇場の各施設を案内してくれた。

「サラ、ここが控え室で、リハーサルや公演の前に準備をするんだ。」

控え室には、化粧台や鏡が並び、衣装や小道具が整理整頓されていた。
私はその光景に圧倒されながらも、プロの劇団の雰囲気に胸が高鳴った。

「そしてここがリハーサル室だ。普段はここで稽古をしているんだ。」

リハーサル室は広々としており、床には柔らかなカーペットが敷かれている。
壁には鏡がある。
自分の動きを確認しながら練習できるようになっていた。

「最後に、ここが劇場の心臓部、舞台だよ。」

リオネルが示した先には、広大な舞台が広がっていた。
舞台の上にはスポットライトが設置され、様々なセットが組まれていた。
私は舞台の中央に立ち、その広さと迫力に圧倒された。

「サラ、君の才能をここで存分に発揮してほしい。」

リオネルの言葉に、私は深く頷いた。
これからの生活がどうなるかは分からないが、演じることができる場所があることに感謝した。


「さ、案内はここまでにして、今からみんなに紹介しよう。」

活気に満ちた声が聞こえる。
俳優やスタッフたちがリハーサルや準備に励んでいたが、リオネルの掛け声で、皆が集まった。

「皆、ちょっと注目してくれ。新しい仲間を紹介するよ。彼女はサラ。噂の広場の子をスカウトして来たぞ！」

「噂の」という言葉に驚いたが、その噂の真偽を確かめるために広場に来てくれたのだろう。
劇団員たちは興味津々といった表情で私を見つめていた。
私は一歩前に出て自己紹介を始めた。

「はじめまして、サラです。異国の地から来たばかりですが、ここで皆さんと一緒に演技ができることを嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします。」

劇団員たちは拍手で迎えてくれた。
赤い髪の女性が前に出て、にっこりと微笑みながら言った。
髪の色のせいか勝気に見えるが、とても綺麗な人だ。

「サラ、歓迎するわ。私はエレナ。困ったことがあったら何でも聞いてね。」

「ありがとうございます、エレナ。よろしくお願いします。」

その後、リオネルが再び話し始めた。

「では、早速リハーサルを始めよう。サラ、その前に、まだ君の実力を知らない者のために、広場でのパフォーマンスを見せてくれるかい？」

私は頷き、舞台の中央に立った。
緊張はしていたが、自分の得意な分野である演技に集中すれば、不安は自然と消えていく。

私は感情を込めた即興のパフォーマンスを披露した。
悲しみ、喜び、怒りなど、さまざまな感情を表現しながら、観客を引き込むように演技した。
劇団員たちは静かに見守り、その表情には驚きと感心が浮かんでいた。

演技が終わると、劇団員たちから拍手が起こった。
リオネルも満足そうに微笑みながら言った。

「素晴らしい、サラ。君の才能は本物だ。これからが楽しみだよ。」

役者として血の滲むような努力を重ねて来たのだから、褒められるとやはり嬉しい。
私はこの劇団で、できる限りのことをやろう。
そう思っていた。

その日のリハーサルが終わると、エレナが私のところに来た。

「サラ、よかったら少し街を案内するわ。寮も案内するから、一緒に来てほしいの。」

「ありがとう、エレナ。ぜひお願いしたいです。」

エレナと一緒に街を歩きながら、彼女は私に色々なことを教えてくれた。

「この街には素敵なカフェやレストランがたくさんあるの。あと、市場では新鮮な果物や野菜が手に入るわ。劇団の生活は忙しいけれど、楽しいこともたくさんあるから、一緒に楽しんでいきましょう。」

「ありがとうございます、エレナ。とても助かります。」

エレナとの会話は楽しく、彼女の親切に感謝した。

「そうだ、サラ。劇団の寮は、国からの援助があって、無料で住めるの。食事も無料だから、生活面も安心よ。」

「本当に？それは心強いです。」

国が援助するほどの劇団って、それだけ期待されている劇団なのだろうか。
それとも、国営の劇団？？劇場が拠点だし、なんだか凄いところに来てしまったのかもしれない。

「劇団の仲間たちと一緒に住むことで、さらに絆も深まるわ。さあ、案内するから一緒に行きましょう。」

エレナに案内されて劇団の寮に向かう途中、私は新しい生活への期待と少しの不安を感じていた。

劇団の寮は、市場から数分の、静かな一角に建っていた。その外観は新しく、洗練されたデザインが施されていた。

外壁は明るいベージュ色の漆喰で覆われ、白い木製の窓枠がアクセントとなっていた。
赤茶色の瓦屋根は、建物全体に温かみを与えており、どこかホッとする雰囲気を醸し出していた。
二階建てのシンプルな構造で、四角い形状が美しく整然としており、玄関の横には劇団のロゴが入った看板が掛けられていた。

「この劇団のロゴは団長が決めたのよ。」

リオネルのことを話すエレナは、なんだかとても嬉しそうだ。
団員から尊敬され、慕われてる人なんだなと感じていた。

正面中央の大きな扉を開けると、エレナは私の部屋を紹介してくれた。
部屋はシンプルで清潔感があり、必要な家具が揃っていた。
昨日の宿よりもグレードの高い部屋で、待遇の良さに驚いてしまった。

「ここがあなたの部屋よ。何か困ったことがあったら、私の部屋は隣だからいつでも声をかけてね。食事の時間になったら迎えにくるわ。」

エレナが部屋を出て行くと、私はベッドに腰掛け、少しほっとした。
異世界での生活はまだ始まったばかりだが、劇団の仲間たちと一緒なら乗り越えていける気がした。

その夜、食堂では私の歓迎会が催されていた。
何かにつけてみんな騒ぎたいだけだとエレナは言っていたが、こういう学生のノリとは無縁で生きて来た私には、とても新鮮だった。