異世界で演技スキルを駆使して運命を切り開く

第二章

オーディション

数日後、劇団に大きな知らせが届いた。
著名な演出家アルベルト・バレンティーニが次の公演のために劇団に来ると発表された。
転移したこの世界では、彼の名は世界中に知れ渡っており、彼の作品に出演することは俳優たちにとって大きな名誉とされているらしい。

「みんな、アルベルトが次の公演の演出を担当することになった。彼が直接オーディションを行い、配役を決める。台本を渡すから、準備しておくように。」

リオネルの言葉に劇団員たちはざわめいた。皆がその名を聞いて興奮していた。
アルベルト・バレンティーニの作品に出演できるなんて、夢のような話なのだ。

私は元の世界でもオーディションを経験していたので、いつも通り準備を進めた。
台本はしっかり頭に入れ、一字一句を丁寧に覚える。
脚本を書いてくれた人へのリスペクトを込めて、アドリブは基本的にはやらない。
これが私のポリシーだ。
それから衣装を役に近づけて準備する。
女性はみんな、貴族の令嬢の役なので衣装部屋から借りることが許可されていた。

オーディションの日、劇団のホールには緊張感が漂っていた。
誰が主役になるのか、その恋人役を女性キャストは目指しているようだった。
私は役にこだわりはない。
求められる役を丁寧に演じるだけ。
強いて言えば、難しい役を演じてみたい。

アルベルトは貫禄のある中年の男性で、冷静な眼差しで劇団員たちを見渡していた。

「一人ずつ演技を見せてもらおう。」

彼の一言でオーディションが始まった。
リオネルも他の劇団員と同じように、アルベルトの前で演技を披露した。
リオネルの演技は力強く、情熱的で、まさに主演にふさわしかった。
アルベルトも満足そうに頷いていた。

その後、劇団員が数名演技し、セリフを間違えたり、緊張で思うようにできなかったり、頭が真っ白になって演技を途中で止められたりしていた。
緊張の連鎖が続いていた。

そして、次はエレナが舞台に上がった。
彼女は感情を込めた演技でアルベルトを魅了した。
その演技は以前よりも繊細さと強さがあり、トレーニングの成果が表れていた。

負けたくなかったのだろう。
エレナは日々努力していた。
思わずエレナに拍手を送った。

そして、私の番が来た。
体に思いきり力を込めて、脱力する。
久しぶりのオーディションである。
心地よい緊張が走るが、良い演技につながるとも限らないので、無理矢理体の緊張を和らげた。
私はこれまで培ってきた自信を胸に舞台に立った。

アルベルトの鋭い視線が私の演技を見透かしているように感じた。

演技が終わると、アルベルトは静かに頷いた。

「素晴らしい。次の公演の配役は、リオネルが主人公カイル、エレナがその恋人役アイリス、そしてサラ、君は悪役令嬢ティファーナを演じてほしい。」

劇団員たちの間に再びざわめきが広がった。
みんな私が悪役令嬢を演じることになるとは思わなかったようだ。

実は今回、悪役令嬢の役が一番難しい役だった。
猟奇的で、狂った貴族の令嬢は、身分を笠に着て悪事がどんどんエスカレートしていく。
そして悪魔と取引してしまう役なのだが、私は脚本を読んで、「やってみたい！」とゾクゾクした役でもあった。

エレナは最初、驚いた表情を見せていたが、すぐに冷静さを取り戻して頷いた。

「わかりました、アルベルトさん。全力を尽くします。」

私も頷き、気持ちを新たにした。

「私も頑張ります。」

アルベルトは満足そうに微笑み、次のリハーサルの予定を話し始めた。
彼の指導のもと、劇団員たちはそれぞれの役に真剣に取り組むことを誓った。