異世界で演技スキルを駆使して運命を切り開く

第三章

劇団への依頼

ある日、私は劇団のリハーサルを終え、街の市場に出かけた。
市場は活気に満ち、様々な露店が並んでいた。
色とりどりの布地が風に揺れる衣料品店、焼きたてのパンや香ばしい香りが漂う食料品店、手作りのアクセサリーが並ぶ工芸品店。
どの店も賑わい、店主たちの呼び込みの声が響き渡っている。
人々が行き交う中、私は新しい衣装のアイデアを探して歩いていた。

突然、男性が露店の品をひったくり、逃げ出した。
店主が叫び声を上げ、人々が騒ぎ始めた。
私はその光景を目撃し、思わず追いかけ始めた。

「待ちなさい！」

そう叫ぶと、ひったくり犯はさらにスピードを上げた。
だが、その先で犯人は突如現れた黒衣の男にぶつかり、転倒した。
黒衣の男は冷静な表情で犯人を制圧し、店主の品を取り戻した。

「大丈夫ですか？」

駆け寄ると、男は穏やかな声で答えた。

「大丈夫です。慣れていますから。」

冷静な態度と鋭い眼差しに、私は一瞬息を呑んだ。

「助けてくれてありがとう。」

「どういたしまして。気をつけて。」

そう言って男は去って行った。
かっこいい……。
彼の背中を見送りながら、まるで映画のワンシーンのように感じた。

この時、私はまだ彼が私の運命にこの後大きく関わることを知らなかった。

ある日、リオネルは次の舞台の演目について、エレナや劇団の主要メンバーを呼び出した。
とある脚本を読んだ上で意見を聞かせて欲しいと言って来たのだ。

「実は、これを演じて欲しいと、友人が持ち込んだ。固有名詞は変えてあるが、描かれている帝国は、独裁国のゼルダ帝国だ。」

ゼルダ帝国……隣の国らしいけど、くわしい情勢はよくわからないわね……。

脚本は、独裁帝国が市民の活動を制限しているという内容だった。
魔法を支配し、許可なき魔法の継承や魔法書の所持を禁止している。
魔法は全て軍事力強化に使われ、拒否すれば監禁され、魔力電池として扱われる。

現在、賢者や魔術師など数名が協力を拒否し、魔力塔に監禁されているという内容だった。

この物語は、隣国に拠点を移した反乱軍が、独裁帝国から賢者を解放し、自由の国へと導くという、革命の話だった。

「友人はゼルダ帝国の力を削ぐために王国の協力と反乱軍への理解が必要だと言っていた。そのため、影響力のある我々の劇団にこの演目を演じて欲しいと頼んできたんだ。」

リオネルが話を終えると、部屋には一瞬の沈黙が流れた。
私たちは互いの顔を見つめ、考え込んだ。
エレナは眉をひそめ、他の劇団員たちも困惑した表情を浮かべている。

ストーリーは非常に面白い台本だった。

前回の公演以降、良い台本に巡り会えていなかったから、リオネルにとっては喉から手が出るほど欲しい台本ではなかろうか。

だが、劇団「ルミナス」はリヴェール王国国営の劇団だ。近隣の帝国との関係もあって、すぐには引き受けられない。リオネルは私たちに意見を求めた。

エレナや他の劇団員たちは台本を読んで賛否両論を飛び交わせた。

私はその場で意見を述べず、図書館へ向かうことにした。
背景を理解するために詳しく調べる必要があった。

この世界のことについてはまだよくわかっていない。
今いる国の名前がわかる程度で、周辺国のことや、政治情勢などもほとんど理解していなかった。

良い機会だから、少しでも勉強しないと……。