異世界で演技スキルを駆使して運命を切り開く

第四章

祖父の事情

数日が経ち、私はようやく目を覚まし、リックさんと祖父の言葉に励まされ、少しずつ体力を回復していった。
数日後、診療所から出る許可が下りた。

その朝、診療所の外に出ると、新鮮な空気が心地よく感じられた。
祖父は私を支えながら、一緒に庭を歩いた。
祖父が地球にいた理由、そして私がこの世界に来た理由について聞きたいと思った。

「おじいちゃん、少し話せる？」

祖父は頷き、庭のベンチに座るよう促した。

「もちろんだ、サラ。何が聞きたいんだ？」

私は深呼吸をして、祖父に尋ねた。

「おじいちゃん、どうしてこの世界にいるの？こっちの世界の人だったの？」

祖父は遠くを見つめ、静かに語り始めた。

「サラ、お前が生まれるずっと前、私は魔法都市で空間転移魔法の研究をしていた。ある日、空間の歪みを発見し、好奇心に駆られてその歪みに入ってみたら、異世界に繋がっていたんだ。」

祖父の目が遠くを見つめ、まるでその時の出来事を思い出しているかのようだった。

「その異世界は、日本という国で、私がたどり着いたのは昭和の時代だった。そこで偶然出会ったのが、お前のおばあちゃんだったんだ。」

祖父の顔に優しい笑みが浮かんだ。

「紗代子とは運命的な出会いだった。彼女と過ごすうちに、私は元の世界に帰ることをやめ、彼女と日本での生活を選んだ。だが、紗代子が亡くなった後、ふと元の世界がどうなっているのか気になり、もう一度帰れるか試してみたんだ。」

私は驚きとともに祖父の話を聞いた。

「それでここにいたのね。」

祖父は頷いた。

「そうだ。だが、戻ってみると、そこは300年後の世界だった。魔法都市は変わり果て、かつての面影はほとんど残っていなかった。私はそのままこの世界での生活を再開することにしたんだ。」

「300年も経っていたなんて……。」

私はその長い時間の流れに思いを馳せた。

「転移直後に、魔物と戦っている集団を助けたことがきっかけで、帝国に招かれたんだ。皇太子は善人だったが、皇帝が酷くてな。軍事協力を断ったら、塔に監禁されてしまった。行く当てもなかったし、帝国の行く末を見守ってやろうかという気持ちもあり、そのままそこに住んでいた。まあ、囚われていたともいえるが、行くところもなかったしな。自暴自棄にもなってたんだ。」

祖父は少し笑みを浮かべ、懐かしそうに話していた。
その顔には、かつての出来事を語る喜びと少しの寂しさが混じっていた。

「そうだったんだ。それで、今ここに来ても大丈夫なの？」

「まあ、騒ぎにはなってるだろうな。囚われているはずの者が消えてるんだから。」

祖父は面白そうに笑った。
私は彼の笑顔を見て、少し安心した。

「おじいちゃん、どうして私はこの世界に来たんだろう。」

祖父は少し考え込んでから、ゆっくりと答えた。

「はっきりとはわからないが、年々魔力が増えていったせいか、子供の時にサラに施した封印魔法が弱まってきていたのかもしれない。そうすると、電磁波と魔力の相性が良くないため、家電が壊れたり、空間の歪みに反応したりすることが起こる。今回はそれで巻き込まれたかもしれない。サラの魔力はもともと地球にはないものだから、元あった場所に戻ろうとする力が働いたのかもしれない。」

私は祖父の言葉を噛み締めながら、もう一つ気になることを尋ねた。

「封印してくれていたの？」

「そうだ。多すぎる魔力は制御するのに鍛錬が必要だが、地球には必要ないものだから。家電がよく壊れるなんて生活に不便だろう。しかし、サラが魔力を受け継いでくれていて、本当は嬉しかったんだ。私の血が継承されてるんだから。」

祖父の目には、少しの誇りと喜びが見えた。

「おじいちゃんの話が聞けてよかった。ずっと不安だったの。何で私はここに来てしまったのか悩んでたから。だからおじいちゃんにまた会えて嬉しいよ。おじいちゃん、国に帰るって言ってから連絡がつかなくなって、心配してたんだよ。」

「そうか。ごめんよ、サラ。おじいちゃんもサラに会えて嬉しいよ。」

日本での祖父は10年ほど前、海外へと移住した直後に連絡がつかなくなっていた。
そんな祖父を探そうとしなかったのは、家族は祖父の事情を知っていたのだろう。

祖父の声には深い愛情が込められていた。

「おじいちゃん、私はまた地球に戻れる？」

祖父は少し考え込み、慎重に答えた。

「戻れないこともないが、時間や場所は指定できず、いつの時代になるかもわからない。それに、絶対とはいえない。私はサラに、危険を冒してほしくないんだ。」

「……そうよね。」

もし、戻った先が300年後の未来だったら？ 
また、この世界に来た時のような苦労をしなければならないとしたら？

たまたまこの世界の人々が優しかったから生きてこられただけで、次はそうとも限らない。

私はその答えに複雑な気持ちを抱いていた。