異世界で演技スキルを駆使して運命を切り開く

井上いるは

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第五章

帝国の雷鳴

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ザザッ、ザザッ。
ズルッ、ズルッ。
バギッ、バキッ。

音を立てながら、盗賊の男に引きずられていた。
視界が揺れ、意識が遠のいていく中、恐怖と無力感が胸を締め付けた。

暗闇の中、過去の記憶がフラッシュバックのように蘇るのを感じた。
祖父と一緒に過ごした日々、彼の優しい笑顔、リックさんの温かい手の感触……。

必死に意識を保とうとした。
体のあちこちに痛みが走った。
少し離れた場所に来ると、男は私を担ごうとした。
草木などあちこちを掴んで抵抗したため、なかなか進まなかった。
時間を稼いで、祖父とリックさんが助けに来てくれるまでの辛抱だとあがいた。
しかし、助けに来てくれる彼らの姿は見えなかった。
心臓が早鐘のように鳴り響き、恐怖と不安が私を包み込んだ。

突然、前方から一人の男性が現れた。
月明かりに照らされた彼の姿は、まるで夜の闇を切り裂く一筋の光のようだった。
彼の長い水色の髪は風になびき、星明かりを反射するかのように輝いていた。
金色の瞳は冷静さと決意を宿していたが、その表情はあまり動かず、無口な雰囲気を漂わせていた。
彼の顔立ちは整っており、美しさを感じさせたが、無感情な様子がその美しさをさらに際立たせていた。

彼は高身長で筋肉質な体つきだった。
白いコートに身を包み、その裾には金糸で繊細な刺繍が施されていた。
そのコートはどこかの制服のようで、彼の高い位と力を示していた。
動きは俊敏で、まるで獲物を狙う猛禽のような鋭さがあった。
彼の存在そのものが力強さと威圧感を放っていた。

彼の動きはまるで舞を踊るかのように優雅で、驚くほどの速さと精確さを兼ね備えていた。
彼が手を挙げた瞬間、空気が震え、雷鳴が轟いた。
まばゆい光と共に雷が落ち、私を引きずっていた盗賊は彼の攻撃に倒れた。
その様子はまるで予知していたかのように完璧だった。
焦げ臭い匂いが生々しく、人が倒れる瞬間を目撃し、ものすごい恐怖が私を襲った。
震えが止まらなかった。

彼は私に近づき、そっと抱き上げた。
その腕は驚くほど力強く、同時に優しさが感じられた。

「大丈夫か?」

彼の声は優しく、低く響いた。
その瞳には鋭い光が宿り、彼の真剣さと決意が伝わってきた。
彼の口調は落ち着いており、状況を冷静に見極めているのがわかった。
その視線の奥には、強い保護者としての意志と共に、何か哀しげなものが垣間見えた。

帝国の魔法師団……。
雷魔法を初めて見た私は、その凄さに呆然としていた。
魔法師団は白い制服を着ていると言う情報は、以前アレクシスから聞いていた。
祖父が警戒していたとおり、近くにいたんだ。
私が捕まる直前に、魔法を極力使わないようにしていた祖父の判断は間違っていなかった。
この精鋭部隊は、少しの魔力の痕跡でも見逃さないと言われていた。
そのため、彼らの前ではどんな小さな魔法も使えなかった。

「助けてくれてありがとうございます。」

私はかすれた声でお礼を言った。それが精一杯だった。
男性は私を見て微笑んだ。

「安心しろ。もう安全だ。」

その言葉に込められた警戒心を感じ取った。
こんな場所で盗賊に連れ去られる女性を不審に思ったのかもしれない。

どこへ連れて行かれるのかはわからないが、この森を抜ければ帝国の領域になるはずだ。
目的地は同じだ。
きっと祖父は、今の魔法の威力を遠くから感じ取っただろう。
だから二人と離れてしまっても、必ず迎えに来てくれると自分を奮い立たせた。
祖父とリックさんは大丈夫だと、何度も自分に言い聞かせた。

彼は私を優しく抱え直し、馬に乗せた。
馬は揺れるので、舌を噛むと危険だからと、会話は制限された。
話せない状況が私を助けた。
帝国について詳しくないし、何か聞かれても答えられないことばかりだ。

馬に揺られながら、私の心にはさまざまな思いが渦巻いていた。
祖父とリックさんから離れてしまった今、どうやって生き延びるかを考えなければならない。

記憶喪失の演技をするしかない……。
そうすれば、無害な存在として扱われるだろう。
帝国の魔法師団が私を疑うことなく、ただの無力な女だと思ってくれるように。

私にはこれまで培ってきた演技のスキルがある。
記憶喪失の役を演じたこともあった。
あの時の映画は、40週のロングランとなった自信作だった。
大丈夫、きっとうまくいく。
心の中で自分を励まし続けた。
これが最善の策だ。
決意は固まった。

そして、私はやはり大物なんだと思った。
馬のリズミカルな揺れに身を任せているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
微かに聞こえる馬のひづめの音が心地よい子守唄のように感じられた。
体は疲れ切っていたが、その腕の中で安心感を覚えた。

「着いたぞ。」

優しい声とともに、肩を軽く揺さぶられた。
ゆっくりと目を開けると、薄明かりの中で見知らぬ顔が見えた。金色の瞳が私を見つめている。
夢の中と現実が混ざり合い、一瞬どこにいるのか分からなくなった。

「ここは……?」

寝ぼけた声で尋ねると、彼は微笑んで言った。

「もう安全だ。ここはヴァレンティアという街だ。」

彼の腕の中から下ろされると、体が揺れの後遺症で少しふらついた。
彼はしっかりと私を支え、周囲を見回すように促した。
見慣れない建物が目に入った。

「痛みは大丈夫か?」

彼の声に安心感を覚えつつ、私はうなずいた。
体の疲労は残っているものの、どこか安心できる場所にいることを実感し始めた。

「ありがとう。本当に……。」

声がかすれながらも、感謝の気持ちを伝えると、彼は再び微笑んだ。


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