黒魔女リリィは世界を壊したい!!〜転生者たちの治める国で呪われた魔女と騎士〜

tanakan

文字の大きさ
15 / 46
第四話 黒魔女リリィと世界を壊したい

-2-

しおりを挟む
               -◆-
「本当に知らないんだね」

 ロゼは目を伏せたまま僕を通りすぎた。僕は後を追い隣に並ぶ。
 
 夜の森をしばらく歩き、ようやく口を開く。頬を伝う水滴は雨か涙かはさだかでない。

「騎士長が白騎士という制度を作った。そして騎士が存在するには敵がいなければならない。騎士長は、いや私たちは騎士であるために敵を狩る。十年位一度の狩猟祭。狩られた魔物や獣が再び・・・繁殖するために必要な時間をおいて、私たちは敵を狩る。騎士であり続けるために」

 ロゼはうつむいたまま言葉を切った。だからこんなにも白騎士は人から崇拝すうはいされて、人以外から憎まれている。

 でもそれは・・・女神の盤上で演じるロールプレイであるからだ。そしてリリィの小屋で対峙した、セオたちが作り上げたいびつな社会。あえて差別階級を設けることで地位を維持するための人の所業しょぎょう。黒の女神が言った通り、世界が変わっても人は変わらない。

 コントロールされた戦争を原初の転生者が作り上げ、現在の白騎士たちが変質させたのだ。

 僕はロゼをめられなかった。ただセオに対しての怒りは悪寒と共に心へ浮かぶ。盤上で僕たちをもてあそぶ女神たちに対しても同じだ。

 小屋でひとり生きるリリィの姿が脳裏に浮かぶ。そして・・・思い浮かんでしまった。

 考えればわかることだ、ただ信じることはできずに思考から目を背けていた。

「黒魔女が・・・リリィも対象になるのか? シュバルツたちと同じように。狩られるのか?」

 ロゼは音もなくうなずいた。そして静かに口を開く。悪寒が指先まで広がる。小指だけが震えた。押さえ込む僕の怒りで震えていた。

「うん。黒魔女は死なないの。騎士は魔女を倒さなければ騎士ではない。この世界に来た時、教えられた。今回が初めてだろうけど、楽しめと。でも・・・やっぱり間違っているよね。この世界の人たちはずっとそうしてきたし、私は騎士の姿に子供の頃から憧れていた。だから当然だと思っていたけど、でも君に会って違うと思った。獣たちを守ろうとする君を知って・・・間違っている。でもダメだよね。もうこんなに恨まれている」

 ロゼの言葉は震えている。僕の基準は生まれ育った現世にあった。そして転生したフィドヘルは幸福にあふれていて、現世とは違うと信じたかった。

 むしろ力を手にした人の横暴おうぼうさは現実というはかりを超えて、際限なく肥大している。

 リリィはずっとひとりだったのだ。孤独に同じ人から殺されて、死なないから何度も殺されて、ずっとひとりだった。

 孤独と孤立に耐えきれず僕を呼んだのだ。残念なことに馬鹿な僕を。どれほど失望しただろうか。ギフトを持たずに転生した僕を見て。黒の女神に呪われ白の騎士を退しりぞけた僕へどのような思いを抱いただろうか。黒魔女の思いを知る術はもうない。

 なぜ僕はギフトを、祝福を得なかったのか。後悔と共に浅い自分本位な選択を肯定するべく、自己弁護じこべんごが心をただよう。

 仕方がなかった。僕も苦労した。呪うくらいに孤独を味わった。

 だから呪われた。僕だけのせいではない。

 まだ甘えている。

 でも僕が逃げ出してしまったから。耳を傾けても理解しようとはせずに、リリィをまたひとりにしてしまった。

 今までと一緒だ。黒の女神の方が僕をよく知っている。

 なんだか笑えてきた。降りしきる雨に濡れているのが幸いだった。まだ残る傷の痛みに救われている。ロゼは僕を見上げ、土で汚れた頬をぬぐう。

「ねぇ。君も一緒に戻ろう。選定はもう終わっている。君の力ならきっと同じ騎士になれる。狩猟祭に参加したくなかったら・・・フリだけでもしたらいいよ」

 それもいいと思った。このまま逃げ出してかりそめの世界で生きる。ただ黒の女神は許さないといった。きっと力を奪われるか、命を奪われるのだろう。それすら救いだと思える。

 馬鹿だ。認めることなんてできない。努力や才能を否定されても、諦めることだけはできない。リリィをもう・・・ひとりにしてはいけない。ひとりにしたくない。

「いいや。僕は白の都市には行かない」

「でもいいの? 私のせいで君も人虎たちには嫌われてしまったよ? きっと他の種族にも伝わっている。いくあてはあるの?」

「ない。僕はもうフィドヘルに居場所なんてない。もといた世界も同じだ。考えるさ。もう諦めたり目を背けたりするのは嫌だ。努力しているからって格好をつけていただけなんだよ。僕は。願った結果を与えられないからってムキになって、無力感を誤魔化していた。もういい。僕はもう・・・違う。違うはずなんだ」

 ふーん。とロゼは僕に向き直る。目を細めていて頬を緩ませる。

「曲がり曲がっても転生者だね。自分ひとりの力で世界をなんとかできると思っている」

「違うよ。僕に転生者の資格はない。それに僕はひとりじゃない。この世界に呼んでくれた魔女がいる」

「黒魔女さんね。まだ私は彼女のことをなにも知らない。魔女というだけで知ろうとしなかった。でも考えてみると可愛らしいよね」

「僕もリリィを知らない。自分のことで手一杯ていっぱいだったから。でも・・・知ろうと思う。それに僕と魔女のふたりだけでもない。君もいるだろう? 名前を教えてくれないか? この世界に来る前の、本当の名前を」

 ロゼの胸当てが揺れて髪が浮かぶ。細い眉は弧を描き、驚いたように口を開けた。
そして肩の力を抜くと困ったように目を細めた。凍りついていた空気が次第に温度を上げる。雨の冷たさは忘れた。

「なんで違う名前だってわかったの?」

「ロゼ・アリエスなんて、できすぎた名前だからな」

「結構頑張って考えたんだけどなぁ。いいよ。教えてあげる。私はオリヴィア・ミュラー。ドイツ出身。言葉が通じるのはきっと女神さまの力だよ。気にはしなかったけど。不思議ね。あなたは?」

「なんというか・・・本名の方ができすぎじゃないか?」

 そうかな? とロゼは首をかしげている。やはり世界にへだたりなんてない。勝手にこしらえて、自分たちをかこいで包み、苦しんでいるだけだ。

「僕は高橋たかはし 浩也こうや。日本だよ。こっちの世界でも同じ名を名乗っている」

「タカハシ・コーヤ。覚えたわ。変な気分。急に現実感が増した。新しい世界に転生したのにね。夢から覚めたみたい。あまりいい気分じゃないね」

 僕もだよ。そう返すとロゼが笑みをこぼす。肩の荷が降りたのだろうか。弛緩した笑みで瞳だけが意志を宿している。

「もしさ・・・本当に行き場がなくなったら教えて。私たちは毎朝ここら辺を巡回している。騎士のたしなみだとかいう形だけのパトロール。よければ茂みに隠れて合図を送って」

 わかったとうなずくと、ロゼは走って白い都市の方向へと消えていった。

 さてどこに行こうか。いや・・・もう行き先は決まっている。

 僕はリリィの小屋に向かって足を進めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

処理中です...