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第六話 リリィの魔法と呪われた力
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「言っていることがさっぱりわからない。私の魔法は日常生活を楽にする程度の弱い魔法で、事象の改変とは名ばかりの、素早く逃げる力だけなの。自分で言って情けなくなるけど」
「いや。違う。そうだな・・・実際に見た方が早い。まずは敵から素早く逃げる時みたいに、身体を薄い皮膜で包んでくれないか?」
こう? と私は杖を握って身体を包む。ぬるま湯みたいな温度が身体を包む。よし。とタカハシはうなずいた。同時にタカハシが皮膜をいつの間にか見えていることに気が付く。同じ黒の女神の呪詛を認識したからだろうか。
「今度は逃げなくていい。もう逃げなくていいから、手足をバタバタと動かしてくれないか?」
私は何をさせられるのだろう? 疑問を抱いたまま、言われた通りに手足を動かし、タカハシはよし。と腰に手を当て仁王立ちとなる。
「そのまま僕を叩いてくれないか? できるだけ軽く」
「それはいけねぇ。あっしは旦那の盾になると決めたんだ。叩くのはあっしにしてくだせぇ」
そうか? とタカハシはシュバルツへあっさりと立ち位置を譲る。なんともよくわからないが、賑やかではある。現世ではこうやって幼い子供たちと遊んでいた。
フィドヘルへ訪れてからは原初の転生者やエルフから遊びながら魔法を学んだ。エリスに自慢できるかな? 不機嫌そうに眉間をよせた奇妙な笑い方をするエルフを思い浮かべて胸がぞわぞわとする。
「いい? 本当に軽く叩くから。じゃないと私の手の方が折れそう」
「魔女さま。気にはしないでくだせぇ。あっしの体はずっと強えから」
わかった。自信満々といった風に胸を張る、シュバルツの厚い胸板を軽く叩く。
その時、体を包む透明な薄い皮膜が移動する。
胸板に当てたからシュバルツに流れ込んでいく。そしてシュバルツの姿は消えた。
目を丸めていると離れた場所で土煙が上がり、くぼんだ地面でシュバルツが腰をさすっている。
「さすがに・・・人虎の体は強い。それにしても思った以上の威力だ。僕には耐えられなかったかもしれない」
「ちょっとちょっと! どういうこと!? なんで軽く叩いただけなのに、シュバルツはあんなところにいるの?」
ふむ。とシュバルツが立ち上がるのを見て、タカハシは私へ向き直る。
「これは推測で、正しいかわからない。事象の改変はただ逃げるための力じゃないんだよ。僕たちにはただ地表へ立っているだけでもさまざまな力が及んでいる。星の作る重力、摩擦、抵抗・・・歩き出すと運動の法則、慣性や摩擦、そして作用と反作用の力が働く。運動量も保存される。物理法則は世界の理だよ。フィドヘルだって変わらない。リリィ以外は」
「なおさら意味がわかんない! もっとわかりやすく説明して!」
「ふむ。どういうべきか。まず物や人は力が与えられるまで静止している。たとえばさっきシュバルツにリリィが行ったように手で押すと、シュバルツに力が及ぶ。押された力でシュバルツは動き、動き出せば摩擦や重力の抵抗がないという条件で、シュバルツは動き続ける。しかし力が途絶えると抵抗によって止まる。そして押したリリィの手にもシュバルツからの抵抗、反作用の力が及ぶんだ。与えた力と同じ力が自分にも及ぶ」
「うーん。たとえば鞠を転がせば、止まるまで転がり続ける。押したら押し返されるってこと?」
「そうだな。そして運動量、力と言い換えてもいいかもしれないが、運動量は常に一定だ。押した分だけ押し返される。ただ、リリィを包む皮膜は運動の法則、世界の理を無視する。文字通り事象を改変しているんだ。力を一方的に及ぼすことができるんだ。力の方向は力を及ばす方向のみに、運動量は蓄えられたたまま放出される。信じることができたのなら、重力すらもコントロールできるかもしれない。つまりが物質自体の構成を破綻させてしまう。いやそれ以上に・・・」
「わかんない! 言ったでしょ?私は最後まで学校に行ってないって。もっとわかりやすく!」
「わかった。もっと簡単に言うと、皮膜に包まれたまま動けば動くほど力が蓄えられる。蓄えた力は相手からの反作用や摩擦といった物理法則・・・世界の理やルールを気にすることなく、一方的に力を及ぼすことができるんだ。これも推測だが、きっとリリィの魔法にも作用しているのだろう」
「やっぱあんた。学校の先生みたい。理解はできないけど、なんとなくわかった。力を蓄えれば蓄えるほど強くなる。逃げる速度で相手にぶつかれば吹っ飛ばせる!」
そうだな。とタカハシはまだ考え込みながら、腰をさすりながら歩み寄るシュバルツを見た。
単純な力だと思ったけど、単純な力ほど途方もなく強い・・・らしい。
今まで自分だけが逃げるために使っていた力。だから白い都市からふたりを連れて逃げ出す時もいつもと一緒になると思った。いつものようにどんなに素早く動いてもピタリと止まれると。
結果としてふたりは、はるか彼方へ吹き飛ばされた。つまりはそういうことなのだろう。
私が世界から逃げ出すための力。後ろ向きに考えるだけで、前向きになんて使ったことはなかった。でもなんでタカハシはこんなことを思い付くのだろうと疑問に思う。
私の悩みをすんなりと解決してくれる。そう考えて気が付く。
あぁそうだ。彼は努力することしか知らないのだ。
周りからなんと言われても、才能に脅かされ挫折しても、それがたとえ逃げることと同義だとしても・・・努力することしか知らないのだ。
耳を塞いで心を閉ざして、前に進むことしか知らなかった。
だからこそ、こんなにも前向きになれる。前を向くしかなかった。
蓄えられた力の方向を世界へ向けることができる。本当に不器用なやつだと思った。今ではこんなにも心強い。
「なら私もちょっとは役に立てそうね。魔法の方が霞んでしまう」
それも違うとタカハシは首を横に振る。
「魔法については僕はまだ無知だけど、僕の見た転生者たちのギフトは世界の法則の中にあった。周囲に存在する事象へ働きかけて、超常的な力を引き起こす。白い都市で見たロゼの力がそうだ。ただ天へと伸びる火柱すらも燃え尽き姿を消していた。燃焼物を失い消えた。でもリリィの篝火は留まり続けるだろう?」
これのこと? と杖に力を込めて小さな火球を作り出してみる。いつしか夜の帳は降り始め、篝火は影が伸び始めた私たちを照らした。
しょせんこの程度の魔法だ。転生者たちの用いるギフトにはとても及ばない。店に届くどころか、ふよふよと電灯みたいに漂うばかりである。
しかしタカハシは笑みを浮かべる。
「そうだ。転生者たちギフトは強大だ。しかし世界の理には従っている。どこからともなく現れた炎もいずれは消える。燃焼反応を起こすには酸素や反応する物質がいるからだ。いずれはそれが尽きて消える。水だってそうだ。宙に浮かぶには重力の力を無視しなければならないし、風を生み出すには気圧差が必要だ。気圧差を生むには重力を操る必要がある。空気の重さを変化させて気圧を操作する。土塊の魔法だって同じだ。水と同じで表面張力によって、互いに引っ張り合う力で土は地面となる」
「わかんないなぁ。現世もフィドヘルも魔法みたいな力でできているんだね」
「魔法ではなくて・・・もう一度説明するが・・・」
学校の勉強はできたのだろうなぁ。と私へ対して噛み砕きながら話すタカハシの説明を黙って軽く聞き流す。
前屈みにながら手振りで説明するタカハシは興奮しているようだった。やはり変態なのだろうかと目を細める。タカハシは咳払いをした。
「魔法と呼ばれる現象は、リリィの呪いですべての事象を無視してしまう。火や水、風や土を生み出しその場に留めておけるということは、もはや魔法だとかギフトの範疇ではないと僕は思う。世界を変えてしまった特別な力なんだ。もしかしたら有限であるという事象も変えられるかもしれない」
「やっぱりタカハシの言うことはわからないなぁ。でもちょっとワクワクする。ということは私にも火遁の術が使えるってことでしょう? 大きなガマに乗って火を吐くことも、大凧に乗って自由に空を飛ぶことも、土遁の術で大きな壁を作り、水遁の術で水面を自由に動ける」
「忍者とは違うと思うが、まぁ・・・伝統的な表現で言うならばそうだろう。まだ可能性の話だができるかもしれない。もちろん大ガマも大凧も必要はないけれど、リリィの魔法には想像できないほどの可能性がある」
「やった! それでタカハシ! どうやったら私は強くなれるの?」
それはわからない。とタカハシは目を伏せる。まぁそう都合よくいくわけがない。魔法には詳しくないと言っていた。
でも私の小さな両手は少しだけ頼り甲斐があるらしい。
「・・・でもそんなこと、タカハシはどこで学んだの? 黒の女神が教えてくれた?」
「いいや。学校や本で学んだ。と言っても僕より才能がある人なら、もっといろいろ思い付くかもしれないな」
「学校も悪くないね。こんなに想像力が豊かになるんだもの。遊ぶだけの場所じゃなかったんだ」
タカハシは一度目を丸め、そうだな。と私の帽子に触れた。肩の荷が下りたかのような、緩めた頬で目を細めている。でも・・・とタカハシは眼を伏せた。
「怖かったら使わなくてもいい。リリィにとって火は怖いだろう?」
むぅ。と私は口を尖らせる。まだ彼は私のことをよく知らないらしい。それもそうだ。彼と出会ってからはまだ間もない。それに私は泣いたり逃げたりばかりしていた。
それでも想いを語り合うことで、こうも距離は近付くのだなと思う。
互いの心の距離感は時間に決して比例しない。それも同じように世界の理を無視しているのだろう。
「ねぇ。あんたが生きる日本はもう戦争が終わっているんでしょう?」
「あぁ終わっている。平和だよ。言っただろう?」
「平和な世の中で、現代っ子はずいぶんと軟弱になったものね。私たちの時代では生きるためならなんでもするの。嫌いなことだってなんでもする。なんだって利用して歯を食いしばって生き。生き抜いてきた。私の体を焼いた火だって遠い昔だもの。あなたが思っているより私はずっと強い」
見た目はまだまだ子供だけど。とその言葉だけは飲み込んだ。
「人は見た目で判断してはいけないと、学んだよ。可愛いなんてもう口にはしない」
「可愛いは言え! むしろ言いなさい!」
わかった。タカハシは空を見上げた。空はすっかりと夜に包まれており、いつの間にか隣に並んでいたシュバルツが口を開いた。
「魔女さまとタカハシの話は難しくてよくわかんねぇけど、あっしは学校とやらには興味がありますね。いろいろ娘にも教えてほしい」
僕が知っていることならばとタカハシは答える。私はもう一度小さな両手を見た。
こんなにも簡単に世界は変えることができる。
ひとりにならなければ、互いの言葉を交わすだけで世界は色味を変えていく。
色彩を変えた世界は新しい自分でもある。忘れていたな。かつて一緒に過ごした、アリスと名乗る色彩の転生者そのものではないか。
指先が熱を持ち震えていた。胸の奥はずっと暖かい。
あぁやっぱりよかったな。転生の魔法をなぜ黒の女神は与えてくれたのだろうか。
受肉という言葉が気にかかる。黒の女神は一度も私に語りかけることはなく、タカハシばかりに語りかけている。今の今まで知らなかった。
きっと白騎士たちも同じだろう。だからこそ私は今回を最後の狩猟祭と決めた。
まさか私にも受肉することができる? 私に?
まさかね。と首を横に振り温度を上げる両手を見た。今度こそは戦えるかもしれない。
戦うしかないのだ。
「言っていることがさっぱりわからない。私の魔法は日常生活を楽にする程度の弱い魔法で、事象の改変とは名ばかりの、素早く逃げる力だけなの。自分で言って情けなくなるけど」
「いや。違う。そうだな・・・実際に見た方が早い。まずは敵から素早く逃げる時みたいに、身体を薄い皮膜で包んでくれないか?」
こう? と私は杖を握って身体を包む。ぬるま湯みたいな温度が身体を包む。よし。とタカハシはうなずいた。同時にタカハシが皮膜をいつの間にか見えていることに気が付く。同じ黒の女神の呪詛を認識したからだろうか。
「今度は逃げなくていい。もう逃げなくていいから、手足をバタバタと動かしてくれないか?」
私は何をさせられるのだろう? 疑問を抱いたまま、言われた通りに手足を動かし、タカハシはよし。と腰に手を当て仁王立ちとなる。
「そのまま僕を叩いてくれないか? できるだけ軽く」
「それはいけねぇ。あっしは旦那の盾になると決めたんだ。叩くのはあっしにしてくだせぇ」
そうか? とタカハシはシュバルツへあっさりと立ち位置を譲る。なんともよくわからないが、賑やかではある。現世ではこうやって幼い子供たちと遊んでいた。
フィドヘルへ訪れてからは原初の転生者やエルフから遊びながら魔法を学んだ。エリスに自慢できるかな? 不機嫌そうに眉間をよせた奇妙な笑い方をするエルフを思い浮かべて胸がぞわぞわとする。
「いい? 本当に軽く叩くから。じゃないと私の手の方が折れそう」
「魔女さま。気にはしないでくだせぇ。あっしの体はずっと強えから」
わかった。自信満々といった風に胸を張る、シュバルツの厚い胸板を軽く叩く。
その時、体を包む透明な薄い皮膜が移動する。
胸板に当てたからシュバルツに流れ込んでいく。そしてシュバルツの姿は消えた。
目を丸めていると離れた場所で土煙が上がり、くぼんだ地面でシュバルツが腰をさすっている。
「さすがに・・・人虎の体は強い。それにしても思った以上の威力だ。僕には耐えられなかったかもしれない」
「ちょっとちょっと! どういうこと!? なんで軽く叩いただけなのに、シュバルツはあんなところにいるの?」
ふむ。とシュバルツが立ち上がるのを見て、タカハシは私へ向き直る。
「これは推測で、正しいかわからない。事象の改変はただ逃げるための力じゃないんだよ。僕たちにはただ地表へ立っているだけでもさまざまな力が及んでいる。星の作る重力、摩擦、抵抗・・・歩き出すと運動の法則、慣性や摩擦、そして作用と反作用の力が働く。運動量も保存される。物理法則は世界の理だよ。フィドヘルだって変わらない。リリィ以外は」
「なおさら意味がわかんない! もっとわかりやすく説明して!」
「ふむ。どういうべきか。まず物や人は力が与えられるまで静止している。たとえばさっきシュバルツにリリィが行ったように手で押すと、シュバルツに力が及ぶ。押された力でシュバルツは動き、動き出せば摩擦や重力の抵抗がないという条件で、シュバルツは動き続ける。しかし力が途絶えると抵抗によって止まる。そして押したリリィの手にもシュバルツからの抵抗、反作用の力が及ぶんだ。与えた力と同じ力が自分にも及ぶ」
「うーん。たとえば鞠を転がせば、止まるまで転がり続ける。押したら押し返されるってこと?」
「そうだな。そして運動量、力と言い換えてもいいかもしれないが、運動量は常に一定だ。押した分だけ押し返される。ただ、リリィを包む皮膜は運動の法則、世界の理を無視する。文字通り事象を改変しているんだ。力を一方的に及ぼすことができるんだ。力の方向は力を及ばす方向のみに、運動量は蓄えられたたまま放出される。信じることができたのなら、重力すらもコントロールできるかもしれない。つまりが物質自体の構成を破綻させてしまう。いやそれ以上に・・・」
「わかんない! 言ったでしょ?私は最後まで学校に行ってないって。もっとわかりやすく!」
「わかった。もっと簡単に言うと、皮膜に包まれたまま動けば動くほど力が蓄えられる。蓄えた力は相手からの反作用や摩擦といった物理法則・・・世界の理やルールを気にすることなく、一方的に力を及ぼすことができるんだ。これも推測だが、きっとリリィの魔法にも作用しているのだろう」
「やっぱあんた。学校の先生みたい。理解はできないけど、なんとなくわかった。力を蓄えれば蓄えるほど強くなる。逃げる速度で相手にぶつかれば吹っ飛ばせる!」
そうだな。とタカハシはまだ考え込みながら、腰をさすりながら歩み寄るシュバルツを見た。
単純な力だと思ったけど、単純な力ほど途方もなく強い・・・らしい。
今まで自分だけが逃げるために使っていた力。だから白い都市からふたりを連れて逃げ出す時もいつもと一緒になると思った。いつものようにどんなに素早く動いてもピタリと止まれると。
結果としてふたりは、はるか彼方へ吹き飛ばされた。つまりはそういうことなのだろう。
私が世界から逃げ出すための力。後ろ向きに考えるだけで、前向きになんて使ったことはなかった。でもなんでタカハシはこんなことを思い付くのだろうと疑問に思う。
私の悩みをすんなりと解決してくれる。そう考えて気が付く。
あぁそうだ。彼は努力することしか知らないのだ。
周りからなんと言われても、才能に脅かされ挫折しても、それがたとえ逃げることと同義だとしても・・・努力することしか知らないのだ。
耳を塞いで心を閉ざして、前に進むことしか知らなかった。
だからこそ、こんなにも前向きになれる。前を向くしかなかった。
蓄えられた力の方向を世界へ向けることができる。本当に不器用なやつだと思った。今ではこんなにも心強い。
「なら私もちょっとは役に立てそうね。魔法の方が霞んでしまう」
それも違うとタカハシは首を横に振る。
「魔法については僕はまだ無知だけど、僕の見た転生者たちのギフトは世界の法則の中にあった。周囲に存在する事象へ働きかけて、超常的な力を引き起こす。白い都市で見たロゼの力がそうだ。ただ天へと伸びる火柱すらも燃え尽き姿を消していた。燃焼物を失い消えた。でもリリィの篝火は留まり続けるだろう?」
これのこと? と杖に力を込めて小さな火球を作り出してみる。いつしか夜の帳は降り始め、篝火は影が伸び始めた私たちを照らした。
しょせんこの程度の魔法だ。転生者たちの用いるギフトにはとても及ばない。店に届くどころか、ふよふよと電灯みたいに漂うばかりである。
しかしタカハシは笑みを浮かべる。
「そうだ。転生者たちギフトは強大だ。しかし世界の理には従っている。どこからともなく現れた炎もいずれは消える。燃焼反応を起こすには酸素や反応する物質がいるからだ。いずれはそれが尽きて消える。水だってそうだ。宙に浮かぶには重力の力を無視しなければならないし、風を生み出すには気圧差が必要だ。気圧差を生むには重力を操る必要がある。空気の重さを変化させて気圧を操作する。土塊の魔法だって同じだ。水と同じで表面張力によって、互いに引っ張り合う力で土は地面となる」
「わかんないなぁ。現世もフィドヘルも魔法みたいな力でできているんだね」
「魔法ではなくて・・・もう一度説明するが・・・」
学校の勉強はできたのだろうなぁ。と私へ対して噛み砕きながら話すタカハシの説明を黙って軽く聞き流す。
前屈みにながら手振りで説明するタカハシは興奮しているようだった。やはり変態なのだろうかと目を細める。タカハシは咳払いをした。
「魔法と呼ばれる現象は、リリィの呪いですべての事象を無視してしまう。火や水、風や土を生み出しその場に留めておけるということは、もはや魔法だとかギフトの範疇ではないと僕は思う。世界を変えてしまった特別な力なんだ。もしかしたら有限であるという事象も変えられるかもしれない」
「やっぱりタカハシの言うことはわからないなぁ。でもちょっとワクワクする。ということは私にも火遁の術が使えるってことでしょう? 大きなガマに乗って火を吐くことも、大凧に乗って自由に空を飛ぶことも、土遁の術で大きな壁を作り、水遁の術で水面を自由に動ける」
「忍者とは違うと思うが、まぁ・・・伝統的な表現で言うならばそうだろう。まだ可能性の話だができるかもしれない。もちろん大ガマも大凧も必要はないけれど、リリィの魔法には想像できないほどの可能性がある」
「やった! それでタカハシ! どうやったら私は強くなれるの?」
それはわからない。とタカハシは目を伏せる。まぁそう都合よくいくわけがない。魔法には詳しくないと言っていた。
でも私の小さな両手は少しだけ頼り甲斐があるらしい。
「・・・でもそんなこと、タカハシはどこで学んだの? 黒の女神が教えてくれた?」
「いいや。学校や本で学んだ。と言っても僕より才能がある人なら、もっといろいろ思い付くかもしれないな」
「学校も悪くないね。こんなに想像力が豊かになるんだもの。遊ぶだけの場所じゃなかったんだ」
タカハシは一度目を丸め、そうだな。と私の帽子に触れた。肩の荷が下りたかのような、緩めた頬で目を細めている。でも・・・とタカハシは眼を伏せた。
「怖かったら使わなくてもいい。リリィにとって火は怖いだろう?」
むぅ。と私は口を尖らせる。まだ彼は私のことをよく知らないらしい。それもそうだ。彼と出会ってからはまだ間もない。それに私は泣いたり逃げたりばかりしていた。
それでも想いを語り合うことで、こうも距離は近付くのだなと思う。
互いの心の距離感は時間に決して比例しない。それも同じように世界の理を無視しているのだろう。
「ねぇ。あんたが生きる日本はもう戦争が終わっているんでしょう?」
「あぁ終わっている。平和だよ。言っただろう?」
「平和な世の中で、現代っ子はずいぶんと軟弱になったものね。私たちの時代では生きるためならなんでもするの。嫌いなことだってなんでもする。なんだって利用して歯を食いしばって生き。生き抜いてきた。私の体を焼いた火だって遠い昔だもの。あなたが思っているより私はずっと強い」
見た目はまだまだ子供だけど。とその言葉だけは飲み込んだ。
「人は見た目で判断してはいけないと、学んだよ。可愛いなんてもう口にはしない」
「可愛いは言え! むしろ言いなさい!」
わかった。タカハシは空を見上げた。空はすっかりと夜に包まれており、いつの間にか隣に並んでいたシュバルツが口を開いた。
「魔女さまとタカハシの話は難しくてよくわかんねぇけど、あっしは学校とやらには興味がありますね。いろいろ娘にも教えてほしい」
僕が知っていることならばとタカハシは答える。私はもう一度小さな両手を見た。
こんなにも簡単に世界は変えることができる。
ひとりにならなければ、互いの言葉を交わすだけで世界は色味を変えていく。
色彩を変えた世界は新しい自分でもある。忘れていたな。かつて一緒に過ごした、アリスと名乗る色彩の転生者そのものではないか。
指先が熱を持ち震えていた。胸の奥はずっと暖かい。
あぁやっぱりよかったな。転生の魔法をなぜ黒の女神は与えてくれたのだろうか。
受肉という言葉が気にかかる。黒の女神は一度も私に語りかけることはなく、タカハシばかりに語りかけている。今の今まで知らなかった。
きっと白騎士たちも同じだろう。だからこそ私は今回を最後の狩猟祭と決めた。
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