24 / 46
第七話 かつて夢見た理想郷
-2-
しおりを挟む
-◇-
エルフの里に降り立つと色鉛筆で描かれたような、淡い色彩の景色が広がる。牛舎や小川で回転する水車、小高い山々に背の低い森。
エリスと同じ白銀色の髪をなびかせ、白く薄い衣装に身をまとったエルフたちがいた。エリスは黙って景色を眺めている。シュミットは目を細めた。タカハシは予想通りに声すら失っている。
声が思い出と一緒に浮かぶ。アリスと名乗る彼女の声は景色と同じで柔らかい。
「ねぇ。リリィにしなよ。黒魔女のリリィ。ここは新しい世界なんだから、生まれ変わったつもりで」
原初の十人として今は呼称されていても、最初はただの転生者である。生まれも育ちも違う。肌の色すら違った。
同じ場所に導かれ、争いを望まれていながら、真実を語られてもなお・・・私たちは避けた。
手を取り合うことを願ったのだ。呪われた私にも彼女は手を差し伸ばした。
全員と仲が良かったとは言えない。強い意志で立て直そうと肩を組み、新しい世界を、種族の違いを超えて今度こそ平和を目指そうと前に進み続けた。
私たちの生きていた現世は、戦火が世界を焼いている途中だったのだから。
私に名前を与えてくれた少女は、アリスと名乗った。青い髪色と同じ優しげな瞳。浅黒い肌が美しく、髪は自分で染めたのと無邪気に笑っていた。
「アリスはね。新しい世界に旅立つの。絵が好きなんだ。認めてもらえなかったけど、絵が好きなの」
アリスは私にギフトの力を見せてくれた。色彩のギフトは世界の色を変える。色が変われば、意味も変わる。世界のあり方を変えるのだと幸福そうに語った。
懐かしい香りがした。ラベンダーの香りが遠くから記憶と一緒に流れ続けている。
「さぁ。長老のところにいこう。へんくつ爺さんを引っ張り出さなければいけないわ」
面倒くさいとエリスがわざとらしくあくびをかみ殺す。瞳は緊張感を抱いていた。偽りの戦争を始める時、エルフの長老はひどく反対した。
平和を続けよ。願い続けよと。
今思えば争い続けるべきだったのかもしれない。どこか私たちは諦めていた。体は強く強大な力を得ても、心までは強く転生できなかった。生まれ変われなかったのだ。
草木の生え渡る小道を歩きながら景色に溶け込んだ思い出に、心を添わせる。タカハシの足元を黒猫が駆けていく。バランスを崩したタカハシが尻餅をつき笑った。
「こんな平和な場所もあるんだな。馬が水を吐いている。体調でも悪いのだろうか。青色だ」
「あれはケルピー。水馬だよ。今、足の下を駆け抜けたのはケットシー。猫の精霊」
「詳しいな。どこで学んだ?」
「教えてもらった。ここで暮らしたこともあったから」
そうか。とタカハシの腕を引き立ち上がらせる。風が吹き薄い緑色の草木が流れた。偽りといえば、ここもまた偽りである。
「ずっと長く暮らしたいくらいに、平和だ。絵画の中で見たことがある」
「でしょう? 世界を二分し偽りの戦争を行いながら、私たちだけは帰れる場所を作ったの。疲れたら帰ってこられる新しい故郷を。ここがそう。もう誰もいないけど」
タカハシは私の心情を察してか黙る。黙りながら隣を歩いてくれた。いつの間にかエリスが私の隣にいる。周りのエルフたちから視線が注がれていた。決して好意的ではない。
「ここでリリィに魔法を教えたよね。元素を扱う魔法は教えたけど上手にできなかった。ずっと練習して、なんとか少しだけできたね」
むぅ。と口をへの字に曲げる。理屈が現実離れしすぎて理解はできなかった。どうやら私に才覚はなかったらしい。
「魔法は日常生活を楽にする程度で大丈夫。って言ったのはエリスでしょう?」
「そうね。私たちはそれくらいしか使えない。ギフトとはまた違う。穏やかに暮らすために必要な生活の知恵。目には見えない存在と少しだけ手を取り合う力。リリィの魔法はおかしいけれど好きだよ」
タカハシが首をかしげる。またあらぬ方向へ考えをまとめているのかもしれない。
「エリスがリリィの師匠ということか? 魔法とギフトはやはり違うのか?」
「力の源泉が違う。魔法はフィドヘルに存在する力を用いる。ギフトは女神から与えられた力なんでしょう? 嫌いだわ。ギフトなんか。世界には力があふれているのに、神頼みは嫌いだなんて」
「リリィはこの世界にある力を使うのか?」
「えぇ。そう。私がそう教えたから。下手くそだから少しだけ。それをよくわからない力で形作っている。源泉は同じだけど、過程が違うだけ。生活は楽になったでしょう? 戦うほどに強くはできなかったけど」
「それはもうありがたく・・・」
よろしい。とエリスが笑みを向ける。昔から本当は優しいのに、わざと口を悪くして好かれないようにしている。単純に褒められるのが苦手なのだ。
不器用だなぁと笑みを返すとそうか。とタカハシが口に手を当て眉間を歪ませていた。難しいことを考えているのだろうなぁ。私は目の前に現れた巨木を見上げる。木々には集落があり、細い通路が螺旋を描いて頂上へと向かった。
登りながらシュミットの息が荒れる。
「いい加減。なんとかしてくれ、足が浮いて不安だ」
シュミットがようやく声を出す。ずっと我慢していたのだろうか。シュミットとエリスも世界の敵になることを選んでくれた。エリスたち若く生まれたエルフは長老の反対を押し切って理想郷を捨てた。
果てのない戦いに身を投じ、平穏を望みながらひとり、またひとりと果てた。郷の外にいるエルフはエリスだけになってしまった。ドワーフよりも体が弱かったから悪意に染められ寿命を縮めたのだ。ドワーフたちも今では穴倉で人に扱われている。
耐え忍びすぎると、苦痛にも慣れてしまうから恐ろしい。タカハシを呼ばなければ永遠と自我を失いながら続いていたのかもしれない。
里に住むエルフの瞳が好意的ではないのは仕方がない。また戦争を持ち込んだと思われているのだろう。
「がんばってよ。シュミット。もうすぐ頂上だから」
「ありがとうよ。黒魔女さま。こもっている間に、すっかり足が鈍っちまった。しかし綺麗だな。狩猟祭が始まる前の世界みたいだ」
「世界の色は変わらないよ。見え方が変わっただけ」
ほぅ。とシュミットがあごひげへ触れる。
私の言葉ではない。色彩の転生者アリスが言った言葉だ。空を見上げると雲はあれど動いていない。思い出の中にしかない蒼さだ。タカハシが立ち止まり空を見上げる。
「本当に語るのを忘れるくらいに美しい世界だ。リリィと仲間たちが作った世界は」
「創ったのはアリスという色彩の転生者だよ。もともとは絵描きさん。空想の世界を形作るギフトを扱えた。転生者たちが増えて争いが絶えなくなった時、一度みんなで逃げ込んだの。そして・・・戦争を始めた。のちに狩猟祭と呼ばれる戦争が」
魔女は魔女として生きなければならない。被害を最小に相手へ優越感だけを与える戦争。ひどい争いだった。
いつしか私はアリスの世界に訪れることはなくなった。ここまで戦火が及ぶことを恐れたのだ。
アリスは日に日に疲れていった。そうして原初の転生者もひとりずつ姿を消し、最後はアリスだった。
狩猟祭の合間に呼び出され、私はアリスと空を眺めた。久しぶりの再会だったのに、私は喜びよりも緊張していた。彼女の言葉を察してしまったから。
ちょうどタカハシの立つ場所で腰を下ろし、空の半分を覆う木々と、青い空を眺めていた。
「ねぇ。リリィ。本当によかったのかな」
どうしたの?と尋ねるとなんでもない。とアリスが首を振る。
「今度は世界は理想通りに創れると思っていたけど、ダメだったね」
ダメじゃない!と私が立ち上がると、リリィは強いね。とアリスが力なく笑った。
「みんなが望んだ世界を私は守るの。大丈夫。アリスも一緒に頑張ろう!」
私はムキになっていたのだ。呪ってさえいた。世界を。再び呪っていた。
約束だけは守りたかった。全員の誓いである、世界を新しく平和に作り直すことを。
「私は頑張れないかな。みんなもいなくなってしまった。見送ったの。私も・・・疲れた。だからリリィがね。もしまた私に会いたくなったら、現世で会いに来て」
会いに来てね。と笑みを残してアリスは私と別れて頂上へと向かった。別れの言葉だったのだろう。
私は後を追えなかった。追うべきだったのだろう。でも・・・疲れてしまったアリスをこれ以上追い詰めることができなかったのだ。
他の転生者とも同じ。現世で今度こそは幸せになって欲しいと願った。
死を受け入れたのだ。転生し希望を抱いたはずなのに、今度は死して現世に逃げ込む。堂々巡りだ。優しければ優しいほど世界は、牙を剥いて弱い人から襲いかかる。
タカハシは世界の理を物理法則だと言った。私にとっての世界の法則は違う。
力を持たない存在から駆逐される。力を持つ存在が覇権を握り幸福を得ることができる。弱肉強食。それが私が知った世界の理だ。
そんな世界を呪った。呪いながら私だけが生き続け、約束を守り続けた。守り続けるしかなかった。世界の理を否定するために生きた。
ギフトの力から逃げ惑うしか術を持たない存在と生きたのだ。逃げたのではなく生きた。そう思えるのはきっとタカハシのせいだろう。
「世界の色は変わらないよ。見え方が変わっただけ」
アリスの言葉が私と違う声色で、思い出の中から顔を出した。タカハシが腰に手を当て、よし。私へ向く。
「行こう。リリィ。一緒に世界を壊すんだろう? 約束したじゃないか」
タカハシが手を差し伸びて、私はそっとタカハシの手に触れる。
「さすがに・・・疲れたか? 背負おうか?」
「背負われるか! 疲れてなんかいやしない!」
足を踏み出すと、タカハシは私の歩幅に合わせた。エリスとシュミットが顔を合わせて笑うのが見えて、帽子のつばで顔を隠す。
頂上はすぐそこである。
アリスとかつての転生者たちが向かい、戻ってこなかった場所。登りつめてしまったらきっと、アリスたちと本当のお別れになってしまう。
私がずっと恐れ続けてきた場所はもうすぐだ。
エルフの里に降り立つと色鉛筆で描かれたような、淡い色彩の景色が広がる。牛舎や小川で回転する水車、小高い山々に背の低い森。
エリスと同じ白銀色の髪をなびかせ、白く薄い衣装に身をまとったエルフたちがいた。エリスは黙って景色を眺めている。シュミットは目を細めた。タカハシは予想通りに声すら失っている。
声が思い出と一緒に浮かぶ。アリスと名乗る彼女の声は景色と同じで柔らかい。
「ねぇ。リリィにしなよ。黒魔女のリリィ。ここは新しい世界なんだから、生まれ変わったつもりで」
原初の十人として今は呼称されていても、最初はただの転生者である。生まれも育ちも違う。肌の色すら違った。
同じ場所に導かれ、争いを望まれていながら、真実を語られてもなお・・・私たちは避けた。
手を取り合うことを願ったのだ。呪われた私にも彼女は手を差し伸ばした。
全員と仲が良かったとは言えない。強い意志で立て直そうと肩を組み、新しい世界を、種族の違いを超えて今度こそ平和を目指そうと前に進み続けた。
私たちの生きていた現世は、戦火が世界を焼いている途中だったのだから。
私に名前を与えてくれた少女は、アリスと名乗った。青い髪色と同じ優しげな瞳。浅黒い肌が美しく、髪は自分で染めたのと無邪気に笑っていた。
「アリスはね。新しい世界に旅立つの。絵が好きなんだ。認めてもらえなかったけど、絵が好きなの」
アリスは私にギフトの力を見せてくれた。色彩のギフトは世界の色を変える。色が変われば、意味も変わる。世界のあり方を変えるのだと幸福そうに語った。
懐かしい香りがした。ラベンダーの香りが遠くから記憶と一緒に流れ続けている。
「さぁ。長老のところにいこう。へんくつ爺さんを引っ張り出さなければいけないわ」
面倒くさいとエリスがわざとらしくあくびをかみ殺す。瞳は緊張感を抱いていた。偽りの戦争を始める時、エルフの長老はひどく反対した。
平和を続けよ。願い続けよと。
今思えば争い続けるべきだったのかもしれない。どこか私たちは諦めていた。体は強く強大な力を得ても、心までは強く転生できなかった。生まれ変われなかったのだ。
草木の生え渡る小道を歩きながら景色に溶け込んだ思い出に、心を添わせる。タカハシの足元を黒猫が駆けていく。バランスを崩したタカハシが尻餅をつき笑った。
「こんな平和な場所もあるんだな。馬が水を吐いている。体調でも悪いのだろうか。青色だ」
「あれはケルピー。水馬だよ。今、足の下を駆け抜けたのはケットシー。猫の精霊」
「詳しいな。どこで学んだ?」
「教えてもらった。ここで暮らしたこともあったから」
そうか。とタカハシの腕を引き立ち上がらせる。風が吹き薄い緑色の草木が流れた。偽りといえば、ここもまた偽りである。
「ずっと長く暮らしたいくらいに、平和だ。絵画の中で見たことがある」
「でしょう? 世界を二分し偽りの戦争を行いながら、私たちだけは帰れる場所を作ったの。疲れたら帰ってこられる新しい故郷を。ここがそう。もう誰もいないけど」
タカハシは私の心情を察してか黙る。黙りながら隣を歩いてくれた。いつの間にかエリスが私の隣にいる。周りのエルフたちから視線が注がれていた。決して好意的ではない。
「ここでリリィに魔法を教えたよね。元素を扱う魔法は教えたけど上手にできなかった。ずっと練習して、なんとか少しだけできたね」
むぅ。と口をへの字に曲げる。理屈が現実離れしすぎて理解はできなかった。どうやら私に才覚はなかったらしい。
「魔法は日常生活を楽にする程度で大丈夫。って言ったのはエリスでしょう?」
「そうね。私たちはそれくらいしか使えない。ギフトとはまた違う。穏やかに暮らすために必要な生活の知恵。目には見えない存在と少しだけ手を取り合う力。リリィの魔法はおかしいけれど好きだよ」
タカハシが首をかしげる。またあらぬ方向へ考えをまとめているのかもしれない。
「エリスがリリィの師匠ということか? 魔法とギフトはやはり違うのか?」
「力の源泉が違う。魔法はフィドヘルに存在する力を用いる。ギフトは女神から与えられた力なんでしょう? 嫌いだわ。ギフトなんか。世界には力があふれているのに、神頼みは嫌いだなんて」
「リリィはこの世界にある力を使うのか?」
「えぇ。そう。私がそう教えたから。下手くそだから少しだけ。それをよくわからない力で形作っている。源泉は同じだけど、過程が違うだけ。生活は楽になったでしょう? 戦うほどに強くはできなかったけど」
「それはもうありがたく・・・」
よろしい。とエリスが笑みを向ける。昔から本当は優しいのに、わざと口を悪くして好かれないようにしている。単純に褒められるのが苦手なのだ。
不器用だなぁと笑みを返すとそうか。とタカハシが口に手を当て眉間を歪ませていた。難しいことを考えているのだろうなぁ。私は目の前に現れた巨木を見上げる。木々には集落があり、細い通路が螺旋を描いて頂上へと向かった。
登りながらシュミットの息が荒れる。
「いい加減。なんとかしてくれ、足が浮いて不安だ」
シュミットがようやく声を出す。ずっと我慢していたのだろうか。シュミットとエリスも世界の敵になることを選んでくれた。エリスたち若く生まれたエルフは長老の反対を押し切って理想郷を捨てた。
果てのない戦いに身を投じ、平穏を望みながらひとり、またひとりと果てた。郷の外にいるエルフはエリスだけになってしまった。ドワーフよりも体が弱かったから悪意に染められ寿命を縮めたのだ。ドワーフたちも今では穴倉で人に扱われている。
耐え忍びすぎると、苦痛にも慣れてしまうから恐ろしい。タカハシを呼ばなければ永遠と自我を失いながら続いていたのかもしれない。
里に住むエルフの瞳が好意的ではないのは仕方がない。また戦争を持ち込んだと思われているのだろう。
「がんばってよ。シュミット。もうすぐ頂上だから」
「ありがとうよ。黒魔女さま。こもっている間に、すっかり足が鈍っちまった。しかし綺麗だな。狩猟祭が始まる前の世界みたいだ」
「世界の色は変わらないよ。見え方が変わっただけ」
ほぅ。とシュミットがあごひげへ触れる。
私の言葉ではない。色彩の転生者アリスが言った言葉だ。空を見上げると雲はあれど動いていない。思い出の中にしかない蒼さだ。タカハシが立ち止まり空を見上げる。
「本当に語るのを忘れるくらいに美しい世界だ。リリィと仲間たちが作った世界は」
「創ったのはアリスという色彩の転生者だよ。もともとは絵描きさん。空想の世界を形作るギフトを扱えた。転生者たちが増えて争いが絶えなくなった時、一度みんなで逃げ込んだの。そして・・・戦争を始めた。のちに狩猟祭と呼ばれる戦争が」
魔女は魔女として生きなければならない。被害を最小に相手へ優越感だけを与える戦争。ひどい争いだった。
いつしか私はアリスの世界に訪れることはなくなった。ここまで戦火が及ぶことを恐れたのだ。
アリスは日に日に疲れていった。そうして原初の転生者もひとりずつ姿を消し、最後はアリスだった。
狩猟祭の合間に呼び出され、私はアリスと空を眺めた。久しぶりの再会だったのに、私は喜びよりも緊張していた。彼女の言葉を察してしまったから。
ちょうどタカハシの立つ場所で腰を下ろし、空の半分を覆う木々と、青い空を眺めていた。
「ねぇ。リリィ。本当によかったのかな」
どうしたの?と尋ねるとなんでもない。とアリスが首を振る。
「今度は世界は理想通りに創れると思っていたけど、ダメだったね」
ダメじゃない!と私が立ち上がると、リリィは強いね。とアリスが力なく笑った。
「みんなが望んだ世界を私は守るの。大丈夫。アリスも一緒に頑張ろう!」
私はムキになっていたのだ。呪ってさえいた。世界を。再び呪っていた。
約束だけは守りたかった。全員の誓いである、世界を新しく平和に作り直すことを。
「私は頑張れないかな。みんなもいなくなってしまった。見送ったの。私も・・・疲れた。だからリリィがね。もしまた私に会いたくなったら、現世で会いに来て」
会いに来てね。と笑みを残してアリスは私と別れて頂上へと向かった。別れの言葉だったのだろう。
私は後を追えなかった。追うべきだったのだろう。でも・・・疲れてしまったアリスをこれ以上追い詰めることができなかったのだ。
他の転生者とも同じ。現世で今度こそは幸せになって欲しいと願った。
死を受け入れたのだ。転生し希望を抱いたはずなのに、今度は死して現世に逃げ込む。堂々巡りだ。優しければ優しいほど世界は、牙を剥いて弱い人から襲いかかる。
タカハシは世界の理を物理法則だと言った。私にとっての世界の法則は違う。
力を持たない存在から駆逐される。力を持つ存在が覇権を握り幸福を得ることができる。弱肉強食。それが私が知った世界の理だ。
そんな世界を呪った。呪いながら私だけが生き続け、約束を守り続けた。守り続けるしかなかった。世界の理を否定するために生きた。
ギフトの力から逃げ惑うしか術を持たない存在と生きたのだ。逃げたのではなく生きた。そう思えるのはきっとタカハシのせいだろう。
「世界の色は変わらないよ。見え方が変わっただけ」
アリスの言葉が私と違う声色で、思い出の中から顔を出した。タカハシが腰に手を当て、よし。私へ向く。
「行こう。リリィ。一緒に世界を壊すんだろう? 約束したじゃないか」
タカハシが手を差し伸びて、私はそっとタカハシの手に触れる。
「さすがに・・・疲れたか? 背負おうか?」
「背負われるか! 疲れてなんかいやしない!」
足を踏み出すと、タカハシは私の歩幅に合わせた。エリスとシュミットが顔を合わせて笑うのが見えて、帽子のつばで顔を隠す。
頂上はすぐそこである。
アリスとかつての転生者たちが向かい、戻ってこなかった場所。登りつめてしまったらきっと、アリスたちと本当のお別れになってしまう。
私がずっと恐れ続けてきた場所はもうすぐだ。
0
あなたにおすすめの小説
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる