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第七話 かつて夢見た理想郷
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僕はまだ眼前に広がる景色を認識できていない。淡く心地よい色彩で満たされた世界。かつての転生者たちが望み、果たせなかった世界を模した思い出の場所が燃えている。稲光と雷雲が空を埋めていた。
描かれた青空が消え、赤い炎と黒煙で染められていく。
胸に抱くリリィが細く震えている。恐怖にか、それとも怒りなのか。少なくとも僕の体には冷たい怒りが満ちていく。怒りと、自分、そして眼前で小躍りを続ける転生者に対してだ。
「ヒルダ! なぜここにいる!」
吠えるように叫び、ヒルダが杖を振り上げ僕との間にある空間が、静止した。静止した空間に亀裂が入る。亀裂から視認できるほど濃度を増した風が大地を切り裂いた。
反転しながら地に降り、震えるリリィを降ろす。
「リリィ逃げるんだ。グリスワークさん! みんなを逃がしてくれ」
「タカハシはどうするの?」
「僕は・・・戦う」
私だって! リリィは杖を強く握り、力を弱めた。燃え盛る墓標を見て瞳が歪んでいる。とても戦える状態ではない。
エリスがリリィに駆け寄り、肩を抱く。グリスワークも隣に立った。
「あなたひとりで止められる?」
「やってみる。シュミットも手伝ってくれるか?」
もちろんだ。と土埃にまみれたシュミットが斧をヒルダに向けた。グリスワークが息を吐く。
「せめておぬしらに祈りを与えよう。体に満ちる命の力を紡ぎ、力を与える。それくらいしかワシにはできないようだ」
「頼む。時間がない」
わかった。とエリスとグリスワークが同時に両の掌を僕とシュミットへ向ける。光の泡がシュミットを包み、同時に僕へと降り注いで・・・弾けた。エリスがシュミットへ手を向けたまま口角を虚脱させた。
「どうしてだ!? タカハシには祈りが通じない」
あぁ。そうか。僕はひとりで合点がいった。呪われた身は世界に愛されはしない。祈りなど受けようがないのだ。おそらくリリィも同じだ。
グリスワークも困惑していた。仕方がないと首を横に振る。
「死なないでくれ。ワシらは逃げる。リリィも早く行こう」
「でも・・・タカハシが・・・」
「僕も逃げる。まだ準備が整っていない。どうにか、リリィはみんなを逃がしてくれ。君の声ならきっとみんなも従うはずだ」
リリィは目を伏せ、まっすぐと僕を見る。
「わかった。死んだらダメだから」
もちろんだ。と返し、グリスワークとエリスに挟まれリリィが踵を返す。
リリィたちを見送り、僕は正面へと向き直る。隣で光に包まれたシュミットが斧を担いだ。
「ワシの死に場所はここらしいな」
「死なない。死なせもしない。もうたくさんだ」
かつての転生者たちの墓標はすでに跡形もない。なくなってしまった。
舞い上がる炎の中央からヒルダが歩み出す。口元は緩み、力に酔っていた。
「さぁ。お話し合いは終わった? 大丈夫。リリィは逃がしてあげる。狩猟際が迫ってるから。そうでないと、私たち転生者は転生者でいられない」
あなたはどうかしら? ヒルダが杖を振り上げると、風に乗った炎が渦巻きながら僕とシュミットへ迫った。
まずはシュミットが駆け出し、飛び上がると斧を救い下げるように振り上げる。地表が表面から剥がれ、土塊の波となり炎を裂いた。
僕は一足飛びにヒルダへと向かう。ひとりならば時間を稼げるはずだ。ぞわぞわと広がり続けていた悪寒が指先へ到達する。
女神の傀儡。心の中で言葉にすると小指が震える。呪いが体を満たしていく。無力な自分を呪わずにはいられない。リリィにまた悲しい顔をさせてしまった。
右の掌から影を伸ばして、振り上げる。片羽の翼と似た形状とし、ヒルダに振り下ろす。視界を奪い、弾き飛ばす。
ヒルダは僕を一瞥し、興味はあまりないといった表情で僕から視線をそらした。杖を地面に置くと、先ほどと同じ空間が避け、合間から濃い紫の稲妻が支柱となって幾本も立ち並び、衝撃で影が吹き飛ばされた。
影を失い落下する僕はヒルダと目が合う。暗くゆがんでいた。
「勝てると思った? 初めて出会った時のように。影の力に身を任せ、由来の異なる力を使って。まるで転生者みたいに。でも残念。虚を衝かれなければこんなもの。そちらのドワーフさんも一緒」
ねぇ?と僕の足元から駆け出していたシュミットへ目線を向けると、杖を地につけたまま体を回転させた。地面が四方に亀裂を作り、上下に高さの違う大地を作る。揺れる足場にたたらを踏み、シュミットがバランスを崩したまま足を止めた。
ギフトの力はやはり魔法とは違う。
魔法は元素の力を借りる。白の女神による祝福。僕の呪いとも違う。
ならば呪いとは? 力の根幹は女神だとしても扱う力はギフトと違うのだろうか。ヒルダが僕へ向けて杖の先端を向け、放たれた光弾が身を焼いた。影で身を包んでも全身を焼かれ、もいた場所へと飛ばされる。
「タカハシ。大丈夫か!? でたらめな力だな ギフトって力は」
「あぁ。しかしまだ引き止めないと。みんなが逃げきれない」
だがな。と隣に立つ、シュミットが斧を携えゆっくりと、そして呑気にも見える足取りで近づくヒルダを見据える。
なるほどね。とヒルダが周囲の景色を見渡して片方の頬を緩めた。
「叡智の力を持ってしてやっとわかる。フィドヘルが育んだ力を使ったのね。ギフトだけではない。女神に与えられた力と、世界の魔法を混ざり合わせて色彩を変えた。混濁した色が女神の瞳を曇らせ隠し続けていたのね。自らの体すらも溶け込み、ギフトと世界を一体化させた。どうやって思いついたのかしら。祝福だけじゃ物足りなかったようね」
リリィの語った式色彩の転生者、アリスの用いた技法だろう。墓標を守り、望み続けた世界の色彩を燃やし尽くそうとヒルダが杖を振るう。
悪寒が広がり続けている。無力さに。与えられた才能の差が途方もなく僕らの間に介在している。現世と同じ高さで隔ている。
「どうして。お前たちは争うんだ! 狩猟際なんて、馬鹿げている!」
叫ぶとようやくヒルダが僕を見る。目元へ力が入り睨みつけた。
「馬鹿げている? あぁそうか。お前は自分だけが苦しんでいると、自分の目に映る存在だけが苦しんでいると思い込んでいるんだね。幼稚だわ。私たちがちょっとも苦しんでいなかったと思っている?」
タカハシ! シュミットが叫び、振り上げられたヒルダの杖から伸びる風の塊を受けた。弾かれ回転しながらヒルダの杖先から今度は雷をまとった炎が放たれる。僕は足元から影を伸ばして壁を作る。影に触れた炎が舞い上がり、影が再び払われた。ケタケタと笑いながらヒルダが続ける。
「大なり小なり、私たちは願いを持って現世から訪れた。呼ばれた時は嬉しかったなぁ。ようやく望んだ世界に、自分になれると思った。力を与えられ、平定した世界の中で自分を認識できた。自由なの。平和な世界の中で生きている。このギフトで、断絶の転生者として弟と一緒に生きるの」
ヒルダが杖で空間をなぞる。触れられた大気が割れ、亀裂から身を崩すほどの風が吹き荒ぶ。身を屈めつつ足を踏み締め僕は叫ぶ。
「ならば共に歩むこともできるはずだ! この理想郷みたいに。手を取り合って、幸せの形は誰かを、リリィたちを犠牲にして創られる形ではない!」
鈍い金属音がした。亀裂の入った大気が中央へ収束し黒点を形成する。黒点はみるみるうちに肥大化していく。回転し、炎と雷をまといながら。
「私たちはすでに理想郷で生きているわ。人同士で手を取り合って、楽しく生きている。狩猟際で存分に力を振るい、そのために力を蓄える。自分を高め続ける。争いのない理想郷。あなたは勘違いしていないかしら? 私たちは肌の色や言葉の違いで滑稽にいがみ合う。同じ肌や言葉を使っていても乏し合う。親子であっても憎しみ合う。私とセオも同じだった。憎まれ続けて生きていた」
シュミットの隣で僕は駆け出す。あの黒点はまずい。悪寒が膨れ上がる。左右に分かれてシュミットが斧を振り上げ、僕もまた右手から広げた影を伸ばす。伸ばした影が震えて止まり、シュミットは斧を振り上げたまま静止した。
杖を黒点へとかかげ続けるヒルダは、目尻を垂らし見下しながらため息を吐く。
「言ったでしょう? 断絶の転生者だって。私の力は存在を形作る分子や原子に至るまで、紡がれる形状を破綻させる。大気のつながりを破綻させ、揺らすと熱を生む。地表は砕けて、大気に含まれる水分は断ち、軽く揺らすと雷鳴も思いのまま。世界の力を使わなくても、魔法がなくても魔法を生み出すことができる。残念だったわね」
黒点が膨れ上がって、静止したまま僕たちは身を解こうと力を入れる。大気の連続で空間は形成されるならば、周囲のつながりを断たれ身動きが取れないのだろう。
「なぜ。フィドヘルで理想郷を築かない? 君とセオに血のつながりがあるならばなぜ? 現世を憎んではないのか? 理想郷は望まないのか!」
「血のつながりはないわ。名が同じだけ。それに現世も憎んではいない。才能の差で、生まれ育った環境がどんなに劣悪でも。多才で挫折を知らない弟と比べられ、血を吐くまで蹴られて、罵声を浴びせられても。実の両親から疎まれても、私は世界を愛している。自分の才覚と身の振り方次第で、如何ともなる世界を。そして夢は叶った。望めば夢は叶うの。叶えることができるんだわ」
ヒルダが杖を頭上に振り上げ、黒点が激しく回転を始める。一点の曇りがないはずなのに回転を知覚できるほど、風が中央に円をあげながら吸い込まれている。
大なり小なり転生者たちも苦労している。
僕とは違う、もっと辛い環境にいた。それでも世界を愛そうとし白の女神から祝福を受けている。自分の愚かさを呪う。甘えている。まだ・・・足りない。
側から見たらヒルダやセオたち白騎士が勇者であるのだろう。
僕はまだ甘えている。どこかで救いを望んでいた。たとえそれが呪いだろうと。甘えていたのだ。
逃げ出そうとし、ヒルダのように世界を愛せず自分を呪った。
呪いの力の根源は自分自身への怨嗟だ。呪い続けていつかは失う。
女神の受肉。と考えがよぎり悪寒でさらに包まれる。女神の傀儡となり得るのは僕だけではない。僕だけではないのだ。
黒の女神に呪われた者は緩やかに受肉されている。リリィもまた同じだ。
時間はない。ただ動けない。ヒルダの頭上で肥大化している黒点をうっとりと眺めている。僕はもがく。いくら力を込めても動けない。
「空間を、互いの絆を断絶し続ければどうなると思う? 不思議と互いの間を埋めようとすべてを取り込もうとするの。まるで私たちみたいにね。それでは、いつか出会うまで御機嫌よう。もうそんな機会はないだろうけど。もし最終幕に到達できるとすれば本当の力を見せてあげる。私とセオが焦がれた世界。世界の中心で私たちが幸福な世界で。白の女神が望むままの盤上で。いや・・私は何を言っているのかな?」
どうしてだろう? ヒルダが顎へ杖先を当てて首をかしげた後で消えた。黒点だけが残されている。必死に口を動かし叫ぶ。
「シュミット。聞こえるか。リリィたちは逃げられただろうか」
「さぁな。まぁ大丈夫だろう。ワシらだけはもう無理だな」
「諦めるな。まだ方法はあるはずだ」
使うべきか。いやまだ多くの転生者たちがいる。白の女神もそうだ。力を使うには早すぎる。早すぎるし足りない。
最終幕はまだ先だ。しかし・・・どうする?
「タカハシ。おぬしはワシらと似ているな。人にしておくにはもったいないほどに」
「遺言なら後にしろ。まだ、どうにか・・・」
「そういうところだよ。定められた運命に、たかだか女神の盤上である世界であっても、結末が決められた世界でもがき続ける。そういうところは好きだ。黒魔女さまと似ている」
もがき続けるしかない。才能も、努力すらも報われなかった僕だ。望んでいるのは救いだろうか。救いなのだろう。救済を求めるにはあがき続けるしかない。リリィを守るために僕は、諦めることができない。
黒点を見上げると、亀裂が入っている。内包された膨大なエネルギーが破綻し、何もかもを破壊しようとしていた。
諦められない。悪寒が強く鼓動している。早く体を渡せと脈動していた。
黒点の周囲が崩壊を始めた時、世界が青で包まれた。
炎で包まれた理想郷が、薄く温度を失っていく。広がり続けていた黒点の亀裂も止まった。
声が聞こえた。一度も聞いたことがないはずなのに、柔らかな声色が理想郷の色彩と重なる。
「間に合ったかな。初めまして私はアリス。ここに来てからだけど、ずっと見ていたよ」
色彩の転生者。真の理想郷を目指し叶わずに姿を消した転生者のひとり。
アリスは柔らかな声色のまま続ける。
「大丈夫。私はフィドヘルの中に溶け込んだ。私に与えられた色彩のギフトと世界で育まれた力と溶け合い、ひとつになった。肉体はないけど魂は残り続けている。干渉ができない代わりに観ることができる。景色と一緒。草木や地面と変わらない存在でね。いつかリリィに一目会いたかったから。自分勝手だね。でもそれくらいがいいのかもしれない」
「アリス。リリィは逃げられたのか?」
「うん。もうエルフの里の出口にいる。みんなと一緒にね。後はタカハシ君たちだけ。エルフの里は私の大魔法で包まれている。色彩で世界に溶け込むことで保っている。でも限界かな。私たちの理想郷が失われる瞬間、私も死ぬ。女神の盤上からこぼれ落ちる。不安だけど大丈夫。リリィはもうひとりではないから」
「アリスもいなければダメだ。君も一緒に」
私はダメだよ。黒点と僕との間に、薄い青色のマントを翻し、少女が現れた。目鼻立ちはしっかりとしており、幼い顔立ちは僕たちよりも色が濃い。姿は透けており、実態を感じない。
「色彩の魔法を解くわ。そうしたら私もいなくなる。世界が崩壊すればヒルダの魔法も成立しない。一緒に消えてしまうはず。でも解かなければきっとリリィはまたひとり。ひとりじゃないけど、世界は変えられない。ありがとうね。短い間だったけど、タカハシがリリィを支えてくれていることはわかった。最後まで支えてくれる? 私にはできなかったから」
「当たり前だ! 今度こそは本当の理想郷を作る! こんな世界を壊す! そう約束した」
「安心した。でもあまり呪いすぎないでね。世界はいつでも色味を変える。見渡す人の瞳を借りて変わるの。ありがとう。リリィによろしくね。他の転生者たちも救ってあげて。悪い人じゃないんだから。ヒルダだって優秀な弟と比べられて、実の両親にむごい仕打ちを受けて生きてきた。ここでならきっと弟と一緒に理想郷を築けると願っていた。ずっとそうなの。誰もが理想を望む。でも世界はそんなに甘くないと知っているから、必要な分以外は切り捨てる。切り捨てられる勇気がある。なかったのは私たち原初の転生者とあなただけ」
アリスがさらに透けて、世界の色味が崩れていく。アリス! 叫ぼうとももはや声は届かない。色味を失った世界は黒点へと収束し破裂する。衝撃は感じなかった。景色だけが吹き飛ばされて光と共に世界が白へと染まった。
瞬きの間に黒く染まった視点に声だけが聞こえる。
「世界を変えることができるのは、世界に愛された人ではなく、世界から憎まれ呪われた存在だけ。呪いながらも争い続けた存在だけだよ。リリィをお願いね。寂しがり屋さんだから、守ってあげられなくても、側にいてね」
じゃぁね。とアリスの声が途絶えて、瞼を開くと星空が広がっていた。
「タカハシ! シュミットも無事だった! よかったぁ」
リリィが隣でへたり込む。後ろには多くのエルフやケルピー、ケットシーといった精霊たちがいる。
「助かった。色彩の転生者に助けられた」
色彩の転生者に?と首をかしげる。そして悲しい顔になった。名前が失われている。何度も呼んだ名前のはずなのに、思い出せないのだろう。僕も、僕たちも同じだった。
色彩の転生者が溶け込んで、世界へと留まり続けた大魔法が消え去ったのだ。存在そのものと一緒に。
こんなに、残酷な仕打ちがあるだろうか。
叫びたい。心からドス黒い気持ちが漏れ出ている。なぜだ。と。
しかし声を飲み込む。必死に耐えているリリィを支えたい。支えなければならない。名を失った転生者たちの残した、約束であるのだから。
うつ伏せになったシュミットへエリスが手を当てる。当てた先から光が広がり、シュミットの体を癒していた。
グリスワークが歩み寄り、銀の紋章が刻印された小袋をいくつか手渡す。
「エルフの白銀だよ。不器用なドワーフが目覚めたら渡してくれ。そして今度はワシらも戦うと」
「自分で伝えたらどうですか?」
僕が尋ねると、照れくさいからな。とグリスワークはエルフたちを率いて山城の奥へと消えていった。ふぅ。とリリィもへたり込む。
共に夜空を見上げた。エルフの里へと名を変えた、転生者たちの理想郷は消えてしまった。星空と中央に位置する月明かりだけを残して。
「目標は達成したね。エルフたちの助力も得て、白銀も手に入れられた。それに・・・私は最期の言葉を聞けた。悲しいけれど、負けはしない」
「強いな。悲しくはないのか?」
「悲しいよ。すごく悲しい。でも死に目に会えたから受け入れられる。受け入れられた」
「戦い続けるか?」
当たり前でしょ! リリィは立ち上がり僕の腕をつかんで引き上げる。色彩の転生者がリリィを守ってくれではなく、側にいてほしいという意味がわかった。リリィは立ち上がる。何度でも。
だからこそ守ろうとすればするほど、無理をする。自分自身を犠牲にする。
側にいるだけでいいのだ。フィドヘルに、女神の盤上に幕が降りるまで。
「リリィはさすがだ。亀の甲より年の功。という言葉は真実らしい」
「歳・・・とか言うな!」
リリィに小突かれ笑みを交わしながら夜空を見上げる。星がまたたき、月明かりに白銀城が輪郭だけを夜に浮かび上がらせている。
力が足りない。だとしてもひとりではない。
世界のあるべき姿が見えた。
リリィは再び世界を愛せるだろうか。愛せるように側にいよう。
たとえこの身が果てようとも、失われたとしても救われるならばそれでいい。
僕の名を思い出せなくても、思い出だけ彼女の中に残り続けるのならば、それだけでいい。
僕はまだ眼前に広がる景色を認識できていない。淡く心地よい色彩で満たされた世界。かつての転生者たちが望み、果たせなかった世界を模した思い出の場所が燃えている。稲光と雷雲が空を埋めていた。
描かれた青空が消え、赤い炎と黒煙で染められていく。
胸に抱くリリィが細く震えている。恐怖にか、それとも怒りなのか。少なくとも僕の体には冷たい怒りが満ちていく。怒りと、自分、そして眼前で小躍りを続ける転生者に対してだ。
「ヒルダ! なぜここにいる!」
吠えるように叫び、ヒルダが杖を振り上げ僕との間にある空間が、静止した。静止した空間に亀裂が入る。亀裂から視認できるほど濃度を増した風が大地を切り裂いた。
反転しながら地に降り、震えるリリィを降ろす。
「リリィ逃げるんだ。グリスワークさん! みんなを逃がしてくれ」
「タカハシはどうするの?」
「僕は・・・戦う」
私だって! リリィは杖を強く握り、力を弱めた。燃え盛る墓標を見て瞳が歪んでいる。とても戦える状態ではない。
エリスがリリィに駆け寄り、肩を抱く。グリスワークも隣に立った。
「あなたひとりで止められる?」
「やってみる。シュミットも手伝ってくれるか?」
もちろんだ。と土埃にまみれたシュミットが斧をヒルダに向けた。グリスワークが息を吐く。
「せめておぬしらに祈りを与えよう。体に満ちる命の力を紡ぎ、力を与える。それくらいしかワシにはできないようだ」
「頼む。時間がない」
わかった。とエリスとグリスワークが同時に両の掌を僕とシュミットへ向ける。光の泡がシュミットを包み、同時に僕へと降り注いで・・・弾けた。エリスがシュミットへ手を向けたまま口角を虚脱させた。
「どうしてだ!? タカハシには祈りが通じない」
あぁ。そうか。僕はひとりで合点がいった。呪われた身は世界に愛されはしない。祈りなど受けようがないのだ。おそらくリリィも同じだ。
グリスワークも困惑していた。仕方がないと首を横に振る。
「死なないでくれ。ワシらは逃げる。リリィも早く行こう」
「でも・・・タカハシが・・・」
「僕も逃げる。まだ準備が整っていない。どうにか、リリィはみんなを逃がしてくれ。君の声ならきっとみんなも従うはずだ」
リリィは目を伏せ、まっすぐと僕を見る。
「わかった。死んだらダメだから」
もちろんだ。と返し、グリスワークとエリスに挟まれリリィが踵を返す。
リリィたちを見送り、僕は正面へと向き直る。隣で光に包まれたシュミットが斧を担いだ。
「ワシの死に場所はここらしいな」
「死なない。死なせもしない。もうたくさんだ」
かつての転生者たちの墓標はすでに跡形もない。なくなってしまった。
舞い上がる炎の中央からヒルダが歩み出す。口元は緩み、力に酔っていた。
「さぁ。お話し合いは終わった? 大丈夫。リリィは逃がしてあげる。狩猟際が迫ってるから。そうでないと、私たち転生者は転生者でいられない」
あなたはどうかしら? ヒルダが杖を振り上げると、風に乗った炎が渦巻きながら僕とシュミットへ迫った。
まずはシュミットが駆け出し、飛び上がると斧を救い下げるように振り上げる。地表が表面から剥がれ、土塊の波となり炎を裂いた。
僕は一足飛びにヒルダへと向かう。ひとりならば時間を稼げるはずだ。ぞわぞわと広がり続けていた悪寒が指先へ到達する。
女神の傀儡。心の中で言葉にすると小指が震える。呪いが体を満たしていく。無力な自分を呪わずにはいられない。リリィにまた悲しい顔をさせてしまった。
右の掌から影を伸ばして、振り上げる。片羽の翼と似た形状とし、ヒルダに振り下ろす。視界を奪い、弾き飛ばす。
ヒルダは僕を一瞥し、興味はあまりないといった表情で僕から視線をそらした。杖を地面に置くと、先ほどと同じ空間が避け、合間から濃い紫の稲妻が支柱となって幾本も立ち並び、衝撃で影が吹き飛ばされた。
影を失い落下する僕はヒルダと目が合う。暗くゆがんでいた。
「勝てると思った? 初めて出会った時のように。影の力に身を任せ、由来の異なる力を使って。まるで転生者みたいに。でも残念。虚を衝かれなければこんなもの。そちらのドワーフさんも一緒」
ねぇ?と僕の足元から駆け出していたシュミットへ目線を向けると、杖を地につけたまま体を回転させた。地面が四方に亀裂を作り、上下に高さの違う大地を作る。揺れる足場にたたらを踏み、シュミットがバランスを崩したまま足を止めた。
ギフトの力はやはり魔法とは違う。
魔法は元素の力を借りる。白の女神による祝福。僕の呪いとも違う。
ならば呪いとは? 力の根幹は女神だとしても扱う力はギフトと違うのだろうか。ヒルダが僕へ向けて杖の先端を向け、放たれた光弾が身を焼いた。影で身を包んでも全身を焼かれ、もいた場所へと飛ばされる。
「タカハシ。大丈夫か!? でたらめな力だな ギフトって力は」
「あぁ。しかしまだ引き止めないと。みんなが逃げきれない」
だがな。と隣に立つ、シュミットが斧を携えゆっくりと、そして呑気にも見える足取りで近づくヒルダを見据える。
なるほどね。とヒルダが周囲の景色を見渡して片方の頬を緩めた。
「叡智の力を持ってしてやっとわかる。フィドヘルが育んだ力を使ったのね。ギフトだけではない。女神に与えられた力と、世界の魔法を混ざり合わせて色彩を変えた。混濁した色が女神の瞳を曇らせ隠し続けていたのね。自らの体すらも溶け込み、ギフトと世界を一体化させた。どうやって思いついたのかしら。祝福だけじゃ物足りなかったようね」
リリィの語った式色彩の転生者、アリスの用いた技法だろう。墓標を守り、望み続けた世界の色彩を燃やし尽くそうとヒルダが杖を振るう。
悪寒が広がり続けている。無力さに。与えられた才能の差が途方もなく僕らの間に介在している。現世と同じ高さで隔ている。
「どうして。お前たちは争うんだ! 狩猟際なんて、馬鹿げている!」
叫ぶとようやくヒルダが僕を見る。目元へ力が入り睨みつけた。
「馬鹿げている? あぁそうか。お前は自分だけが苦しんでいると、自分の目に映る存在だけが苦しんでいると思い込んでいるんだね。幼稚だわ。私たちがちょっとも苦しんでいなかったと思っている?」
タカハシ! シュミットが叫び、振り上げられたヒルダの杖から伸びる風の塊を受けた。弾かれ回転しながらヒルダの杖先から今度は雷をまとった炎が放たれる。僕は足元から影を伸ばして壁を作る。影に触れた炎が舞い上がり、影が再び払われた。ケタケタと笑いながらヒルダが続ける。
「大なり小なり、私たちは願いを持って現世から訪れた。呼ばれた時は嬉しかったなぁ。ようやく望んだ世界に、自分になれると思った。力を与えられ、平定した世界の中で自分を認識できた。自由なの。平和な世界の中で生きている。このギフトで、断絶の転生者として弟と一緒に生きるの」
ヒルダが杖で空間をなぞる。触れられた大気が割れ、亀裂から身を崩すほどの風が吹き荒ぶ。身を屈めつつ足を踏み締め僕は叫ぶ。
「ならば共に歩むこともできるはずだ! この理想郷みたいに。手を取り合って、幸せの形は誰かを、リリィたちを犠牲にして創られる形ではない!」
鈍い金属音がした。亀裂の入った大気が中央へ収束し黒点を形成する。黒点はみるみるうちに肥大化していく。回転し、炎と雷をまといながら。
「私たちはすでに理想郷で生きているわ。人同士で手を取り合って、楽しく生きている。狩猟際で存分に力を振るい、そのために力を蓄える。自分を高め続ける。争いのない理想郷。あなたは勘違いしていないかしら? 私たちは肌の色や言葉の違いで滑稽にいがみ合う。同じ肌や言葉を使っていても乏し合う。親子であっても憎しみ合う。私とセオも同じだった。憎まれ続けて生きていた」
シュミットの隣で僕は駆け出す。あの黒点はまずい。悪寒が膨れ上がる。左右に分かれてシュミットが斧を振り上げ、僕もまた右手から広げた影を伸ばす。伸ばした影が震えて止まり、シュミットは斧を振り上げたまま静止した。
杖を黒点へとかかげ続けるヒルダは、目尻を垂らし見下しながらため息を吐く。
「言ったでしょう? 断絶の転生者だって。私の力は存在を形作る分子や原子に至るまで、紡がれる形状を破綻させる。大気のつながりを破綻させ、揺らすと熱を生む。地表は砕けて、大気に含まれる水分は断ち、軽く揺らすと雷鳴も思いのまま。世界の力を使わなくても、魔法がなくても魔法を生み出すことができる。残念だったわね」
黒点が膨れ上がって、静止したまま僕たちは身を解こうと力を入れる。大気の連続で空間は形成されるならば、周囲のつながりを断たれ身動きが取れないのだろう。
「なぜ。フィドヘルで理想郷を築かない? 君とセオに血のつながりがあるならばなぜ? 現世を憎んではないのか? 理想郷は望まないのか!」
「血のつながりはないわ。名が同じだけ。それに現世も憎んではいない。才能の差で、生まれ育った環境がどんなに劣悪でも。多才で挫折を知らない弟と比べられ、血を吐くまで蹴られて、罵声を浴びせられても。実の両親から疎まれても、私は世界を愛している。自分の才覚と身の振り方次第で、如何ともなる世界を。そして夢は叶った。望めば夢は叶うの。叶えることができるんだわ」
ヒルダが杖を頭上に振り上げ、黒点が激しく回転を始める。一点の曇りがないはずなのに回転を知覚できるほど、風が中央に円をあげながら吸い込まれている。
大なり小なり転生者たちも苦労している。
僕とは違う、もっと辛い環境にいた。それでも世界を愛そうとし白の女神から祝福を受けている。自分の愚かさを呪う。甘えている。まだ・・・足りない。
側から見たらヒルダやセオたち白騎士が勇者であるのだろう。
僕はまだ甘えている。どこかで救いを望んでいた。たとえそれが呪いだろうと。甘えていたのだ。
逃げ出そうとし、ヒルダのように世界を愛せず自分を呪った。
呪いの力の根源は自分自身への怨嗟だ。呪い続けていつかは失う。
女神の受肉。と考えがよぎり悪寒でさらに包まれる。女神の傀儡となり得るのは僕だけではない。僕だけではないのだ。
黒の女神に呪われた者は緩やかに受肉されている。リリィもまた同じだ。
時間はない。ただ動けない。ヒルダの頭上で肥大化している黒点をうっとりと眺めている。僕はもがく。いくら力を込めても動けない。
「空間を、互いの絆を断絶し続ければどうなると思う? 不思議と互いの間を埋めようとすべてを取り込もうとするの。まるで私たちみたいにね。それでは、いつか出会うまで御機嫌よう。もうそんな機会はないだろうけど。もし最終幕に到達できるとすれば本当の力を見せてあげる。私とセオが焦がれた世界。世界の中心で私たちが幸福な世界で。白の女神が望むままの盤上で。いや・・私は何を言っているのかな?」
どうしてだろう? ヒルダが顎へ杖先を当てて首をかしげた後で消えた。黒点だけが残されている。必死に口を動かし叫ぶ。
「シュミット。聞こえるか。リリィたちは逃げられただろうか」
「さぁな。まぁ大丈夫だろう。ワシらだけはもう無理だな」
「諦めるな。まだ方法はあるはずだ」
使うべきか。いやまだ多くの転生者たちがいる。白の女神もそうだ。力を使うには早すぎる。早すぎるし足りない。
最終幕はまだ先だ。しかし・・・どうする?
「タカハシ。おぬしはワシらと似ているな。人にしておくにはもったいないほどに」
「遺言なら後にしろ。まだ、どうにか・・・」
「そういうところだよ。定められた運命に、たかだか女神の盤上である世界であっても、結末が決められた世界でもがき続ける。そういうところは好きだ。黒魔女さまと似ている」
もがき続けるしかない。才能も、努力すらも報われなかった僕だ。望んでいるのは救いだろうか。救いなのだろう。救済を求めるにはあがき続けるしかない。リリィを守るために僕は、諦めることができない。
黒点を見上げると、亀裂が入っている。内包された膨大なエネルギーが破綻し、何もかもを破壊しようとしていた。
諦められない。悪寒が強く鼓動している。早く体を渡せと脈動していた。
黒点の周囲が崩壊を始めた時、世界が青で包まれた。
炎で包まれた理想郷が、薄く温度を失っていく。広がり続けていた黒点の亀裂も止まった。
声が聞こえた。一度も聞いたことがないはずなのに、柔らかな声色が理想郷の色彩と重なる。
「間に合ったかな。初めまして私はアリス。ここに来てからだけど、ずっと見ていたよ」
色彩の転生者。真の理想郷を目指し叶わずに姿を消した転生者のひとり。
アリスは柔らかな声色のまま続ける。
「大丈夫。私はフィドヘルの中に溶け込んだ。私に与えられた色彩のギフトと世界で育まれた力と溶け合い、ひとつになった。肉体はないけど魂は残り続けている。干渉ができない代わりに観ることができる。景色と一緒。草木や地面と変わらない存在でね。いつかリリィに一目会いたかったから。自分勝手だね。でもそれくらいがいいのかもしれない」
「アリス。リリィは逃げられたのか?」
「うん。もうエルフの里の出口にいる。みんなと一緒にね。後はタカハシ君たちだけ。エルフの里は私の大魔法で包まれている。色彩で世界に溶け込むことで保っている。でも限界かな。私たちの理想郷が失われる瞬間、私も死ぬ。女神の盤上からこぼれ落ちる。不安だけど大丈夫。リリィはもうひとりではないから」
「アリスもいなければダメだ。君も一緒に」
私はダメだよ。黒点と僕との間に、薄い青色のマントを翻し、少女が現れた。目鼻立ちはしっかりとしており、幼い顔立ちは僕たちよりも色が濃い。姿は透けており、実態を感じない。
「色彩の魔法を解くわ。そうしたら私もいなくなる。世界が崩壊すればヒルダの魔法も成立しない。一緒に消えてしまうはず。でも解かなければきっとリリィはまたひとり。ひとりじゃないけど、世界は変えられない。ありがとうね。短い間だったけど、タカハシがリリィを支えてくれていることはわかった。最後まで支えてくれる? 私にはできなかったから」
「当たり前だ! 今度こそは本当の理想郷を作る! こんな世界を壊す! そう約束した」
「安心した。でもあまり呪いすぎないでね。世界はいつでも色味を変える。見渡す人の瞳を借りて変わるの。ありがとう。リリィによろしくね。他の転生者たちも救ってあげて。悪い人じゃないんだから。ヒルダだって優秀な弟と比べられて、実の両親にむごい仕打ちを受けて生きてきた。ここでならきっと弟と一緒に理想郷を築けると願っていた。ずっとそうなの。誰もが理想を望む。でも世界はそんなに甘くないと知っているから、必要な分以外は切り捨てる。切り捨てられる勇気がある。なかったのは私たち原初の転生者とあなただけ」
アリスがさらに透けて、世界の色味が崩れていく。アリス! 叫ぼうとももはや声は届かない。色味を失った世界は黒点へと収束し破裂する。衝撃は感じなかった。景色だけが吹き飛ばされて光と共に世界が白へと染まった。
瞬きの間に黒く染まった視点に声だけが聞こえる。
「世界を変えることができるのは、世界に愛された人ではなく、世界から憎まれ呪われた存在だけ。呪いながらも争い続けた存在だけだよ。リリィをお願いね。寂しがり屋さんだから、守ってあげられなくても、側にいてね」
じゃぁね。とアリスの声が途絶えて、瞼を開くと星空が広がっていた。
「タカハシ! シュミットも無事だった! よかったぁ」
リリィが隣でへたり込む。後ろには多くのエルフやケルピー、ケットシーといった精霊たちがいる。
「助かった。色彩の転生者に助けられた」
色彩の転生者に?と首をかしげる。そして悲しい顔になった。名前が失われている。何度も呼んだ名前のはずなのに、思い出せないのだろう。僕も、僕たちも同じだった。
色彩の転生者が溶け込んで、世界へと留まり続けた大魔法が消え去ったのだ。存在そのものと一緒に。
こんなに、残酷な仕打ちがあるだろうか。
叫びたい。心からドス黒い気持ちが漏れ出ている。なぜだ。と。
しかし声を飲み込む。必死に耐えているリリィを支えたい。支えなければならない。名を失った転生者たちの残した、約束であるのだから。
うつ伏せになったシュミットへエリスが手を当てる。当てた先から光が広がり、シュミットの体を癒していた。
グリスワークが歩み寄り、銀の紋章が刻印された小袋をいくつか手渡す。
「エルフの白銀だよ。不器用なドワーフが目覚めたら渡してくれ。そして今度はワシらも戦うと」
「自分で伝えたらどうですか?」
僕が尋ねると、照れくさいからな。とグリスワークはエルフたちを率いて山城の奥へと消えていった。ふぅ。とリリィもへたり込む。
共に夜空を見上げた。エルフの里へと名を変えた、転生者たちの理想郷は消えてしまった。星空と中央に位置する月明かりだけを残して。
「目標は達成したね。エルフたちの助力も得て、白銀も手に入れられた。それに・・・私は最期の言葉を聞けた。悲しいけれど、負けはしない」
「強いな。悲しくはないのか?」
「悲しいよ。すごく悲しい。でも死に目に会えたから受け入れられる。受け入れられた」
「戦い続けるか?」
当たり前でしょ! リリィは立ち上がり僕の腕をつかんで引き上げる。色彩の転生者がリリィを守ってくれではなく、側にいてほしいという意味がわかった。リリィは立ち上がる。何度でも。
だからこそ守ろうとすればするほど、無理をする。自分自身を犠牲にする。
側にいるだけでいいのだ。フィドヘルに、女神の盤上に幕が降りるまで。
「リリィはさすがだ。亀の甲より年の功。という言葉は真実らしい」
「歳・・・とか言うな!」
リリィに小突かれ笑みを交わしながら夜空を見上げる。星がまたたき、月明かりに白銀城が輪郭だけを夜に浮かび上がらせている。
力が足りない。だとしてもひとりではない。
世界のあるべき姿が見えた。
リリィは再び世界を愛せるだろうか。愛せるように側にいよう。
たとえこの身が果てようとも、失われたとしても救われるならばそれでいい。
僕の名を思い出せなくても、思い出だけ彼女の中に残り続けるのならば、それだけでいい。
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