【完結】現世の魔法があるところ 〜京都市北区のカフェと魔女。私の世界が解ける音〜

tanakan

文字の大きさ
37 / 53
第五章 ノームの時計と竜の魔女

-5-

しおりを挟む
 どこかの路地にミーナさんがいて、目の前には黒装束くろしょうぞくの男性がいた。中年のでっぷりしたお腹に、髪がべっとりと後ろに流されている。垂れた頬と中年の様相をした魔法使いが、後退りながら目の前にいるミーナさんを見ていた。杖を携えたミーナさんの傍に青色の馬がいる。

 川のように流れる毛並みに、きっとケルピーだと私は思い至る。水辺に住む馬の姿をしている生き物。川の中に人を誘う想像上の生物とされる存在だ。

 魔法使いは杖をミーナさんに向けたまま後ずさる。震えながら怯えていることはわかった。

「悪かったって。それに関係ないだろう?精霊をどう使おうともそれは魔法使いの特権だ。見せ物にするくらいはいいじゃねぇかよ」

「よくはない。精霊を人の目に晒して金を稼ごうなんて虫酸むしずが走る。だからお前を魔法保安局の私が取り締まる。当然でしょう?」

 ミーナさんの声は冷たい。突き放し心から軽蔑していると言った口ぶりだ。うるさい!と男が空へと跳ね上がり、見上げた時には杖を中心に四方へ氷の刃が浮かび上がる。

 こんな敵意に満ちた魔法はまだ見たことがなかった。激昂する男が杖を振り上げる瞬間、ミーナさんはたじろぐケルピーに頬を寄せ大丈夫だよ。と言った。そして空へと吹き上がる。

 路地に置かれたゴミ袋や雑貨は吹き飛び建物が揺れた。

 前に見た風渡かぜわたりの魔法に見えたけど、威力は段違いである。魔法使いの前まで飛び上がると、男を見据えた。

 腕を組んだまま鼻先を空に向ける。そして魔法使いもそれを見た。

 男の作り出した氷塊よりもずっと大きな、氷山にも見える氷の塊が男の頭上に浮かんでいる。先はとがり、切っ先が男へ向けられていた。

「どう?氷の中で一生過ごしたい?」

「かまうもんか。お前を知っているぞ!ミーナ・フォーゲル!精霊を使役するのはお前も同じだろう。強大な魔法で俺をおどすつもりか!」

「そう。脅すつもり」

 ミーナさんは杖を二度、三度と指揮者のように振るうと、氷塊の中央から、空へと向かって炎が吹き上がり風に巻かれて氷塊を穿うがつ。今度は稲光が走り、氷塊は砕けて空が炎と氷で埋まる。合間を稲光が走り、魔法使いは杖を下ろした。

「なぜ・・・容易く精霊を操れる?元素を全て・・・人ですら、魔女の域すら超えている。お前は化け物だ・・・」

 化け物。ムカムカと私の心が湧き立つ。ミーナさんは決して化け物じゃない!いくら声を張り上げようとも、眼前の光景は過去なのだ。声が届くはずはない。ミーナさんは魔法保安局で働いていたんだ。と思った時、同じローブを着た魔女や魔法使いが箒に乗ってミーナさんを取り囲む。

隣に並ぶのは、かつて二条大橋で見た、アマーリアと呼ばれた魔女だった。肩を押さえてメガネがずれている。

「すみません。ミーナさま。私では取り押さえることができなくて・・・」

「そう。なら後始末あとしまつはお願い。それくらいはできるでしょう?」

 きっと優しい慰めを期待していただろうアマーリアの視線には合わせずに、ミーナさんはケルピーと一緒に飛び立った。ケルピーへと頬を寄せ、愛おしそうにたてがみを撫でながら。

「そうそうー。ミーナさんはボクたちの間でも有名だったんだよー!四大元素の一部しか使えない魔法使いや魔女たちと違い、本来の精霊が持つ魔法以上に、強力な魔法が使えて、ボクたちには優しかった」

コルの声が脳裏に響く。ふむふむ。とイースの相槌も続けて聞こえた。

「ミーナさんは、こんな強い魔法は現世では必要ないと言っていました。使えるなんて思わなかった」

そりゃなぁ。と柚さんの声が続けて響く。

「こんなん普通と違うで。そりゃさっきのおっさんみたいに他人に向けて魔法を放つ、許されへん魔法使いや魔女はいることにいる。でもおっさんが使った魔法程度や。こんなん・・・・ちゃう。でもミーナは望んでいないように見えたな」

あぁ。きっと必要ないというのは常識ではなく願いだったのだ。今のミーナさんが願う、魔法のあり方だとわかった。

「ボクたちはねー。期待していたんだ。人と魔法を使える人が増えてボクたちよりもずっと多くなったから、いつしか精霊たちは使役されるという上下関係が生まれてしまった。でもミーナさんは違ったの。ボクたちに優しくしてくれた」

「コルのいうとおりです。ただ、事件が起こった。竜が現れたのです。」

イースの声が低く響き、視界がちらつき画面が揺らぐ。焦点が整った時には場面は京都駅上空に変わっていた。

 強大な白い竜だった。

 白銀色の鱗は固く曇り空を反射しグレーに見える。京都タワーの上空に街をひとつ包み込んでしまいそうな白い竜の翼が空を覆う。伸びた首に真っ赤な瞳、強大な腕から伸びる爪は人薙ぎで大きな京都駅でも容易く廃墟にできてしまいそうだった。

「竜とは我々、精霊や想像上の生物とされる存在でも特別です。巨人や神々に等しい存在で、独自の言語を操ります。精霊たちにあるリミッターを外し、自身の力以上の魔法を使わせる竜の言語を操るのです。今でもなぜ、京都に竜が現れたのかは定かではありません。しかし・・・これでいよいよ世界が変わると我々は信じていました。人に使役される存在となってしまった魔法に関わる生物を、救いに来てくれたのだと信じていました」

 イースの言葉を感じながら、白い竜を中心に集まり始めた精霊や、人の形を模った獣たちが、両手を挙げて白い竜をたたえている。人々は逃げ惑い、北の空から黒いローブの一団が空を覆った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...