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5 王様
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もう怪我も殆ど治った。用心しながらだけど、動いてもどこも痛まない。うん。
「散歩に行きますかね」
怪我の治りが早くなるよう、朝の散歩をするようにしてた。あと、もしかしての思いも、ちょっとだけ。
「んー……気持ちいいけど、それだけだな」
村に、ちょっとだけ戻れないかと思ったりしてる。ここに迷い出たから、ここから行けやしないかと。
「気になるのは、家と……」
村の人達は、私が居なくなってもどうとも思ってないだろうし。そこは心配してない。
「お墓……」
両親のと、あと……約束した、あの──
「……ん?」
上流からなにか、聞こえ?
「あ」
王様。いつの間に。
「……」
上流の、大きく高い岩の上。顔が見えないほど遠いけど、こっちを見ていてる。
王様はこの朝の散歩の、川まで来ると時たま見かける。いつもは上を眺めてるのに。
「ぁ」
どっか行った方がいいのか? 近寄っちゃ駄目だし、声かけるのも駄目だし。いやここから声は届かないか。
「……怪我は」
よし立ち去ろ、う?
「良くなったようだね」
少し高めの、あどけない声。王様の声?
「あ、は、はい」
びっくりした、ここまでどうして届くんだ! 王様だからか?!
「良くして頂いて……そのおかげで」
「そうか。……それはいい」
しゃがもうとして、止まる。ふわりと風が舞って、すぐ目の前にきらきらした服が降りてきた。いや、王様が。
「……!」
姿勢を直す。王様、私と同じくらいの背だ。
初めて真正面から見る顔は、聞いてた「王」の印象より若い。ううん幼い?
「……」
で、仮面の側は分からないけど、その顔が。
無表情に見つめてくる。
……どうしろと?
「……アルマ」
「え、はい」
「君の名は、アルマと言うそうだな」
碧い目が、真っ直ぐに。そのあどけなく聞こえる声も真っ直ぐに。
「……はい。アルマと言います……」
おお、まだ見てくる。何か、何か言った方がいいのか。
「あ!」
……手を叩いたら、形のいい眉がぴくりと動いた。
マズいのか、今マズい事してるのか。
「いや、その。この間は助けて頂いて、ありがとうございました……」
無表情のまま。けど、前から……圧、みたいなものが。
「あの、川での」
ここでの出来事。よく考えたら、あの時は言葉が通じてない。
「落ちかけた時の……」
だから、お礼も通じてない。
「ああ、聞こえていた。気にするな」
と思ったんだけど、通じてたらしい。なんなの?
「……時間を取らせたな。もう行く」
「あっはい……わっ」
風が逆巻いた。と思う間もなくその姿は消えた。
「…………なん、だったん?」
王様って、そんな目の前で話すものなの?
「心臓に、悪い」
王様ってだけでもそうなのに。
あの色、顔と声も。
「見た気がするはずだよ……」
「散歩に行きますかね」
怪我の治りが早くなるよう、朝の散歩をするようにしてた。あと、もしかしての思いも、ちょっとだけ。
「んー……気持ちいいけど、それだけだな」
村に、ちょっとだけ戻れないかと思ったりしてる。ここに迷い出たから、ここから行けやしないかと。
「気になるのは、家と……」
村の人達は、私が居なくなってもどうとも思ってないだろうし。そこは心配してない。
「お墓……」
両親のと、あと……約束した、あの──
「……ん?」
上流からなにか、聞こえ?
「あ」
王様。いつの間に。
「……」
上流の、大きく高い岩の上。顔が見えないほど遠いけど、こっちを見ていてる。
王様はこの朝の散歩の、川まで来ると時たま見かける。いつもは上を眺めてるのに。
「ぁ」
どっか行った方がいいのか? 近寄っちゃ駄目だし、声かけるのも駄目だし。いやここから声は届かないか。
「……怪我は」
よし立ち去ろ、う?
「良くなったようだね」
少し高めの、あどけない声。王様の声?
「あ、は、はい」
びっくりした、ここまでどうして届くんだ! 王様だからか?!
「良くして頂いて……そのおかげで」
「そうか。……それはいい」
しゃがもうとして、止まる。ふわりと風が舞って、すぐ目の前にきらきらした服が降りてきた。いや、王様が。
「……!」
姿勢を直す。王様、私と同じくらいの背だ。
初めて真正面から見る顔は、聞いてた「王」の印象より若い。ううん幼い?
「……」
で、仮面の側は分からないけど、その顔が。
無表情に見つめてくる。
……どうしろと?
「……アルマ」
「え、はい」
「君の名は、アルマと言うそうだな」
碧い目が、真っ直ぐに。そのあどけなく聞こえる声も真っ直ぐに。
「……はい。アルマと言います……」
おお、まだ見てくる。何か、何か言った方がいいのか。
「あ!」
……手を叩いたら、形のいい眉がぴくりと動いた。
マズいのか、今マズい事してるのか。
「いや、その。この間は助けて頂いて、ありがとうございました……」
無表情のまま。けど、前から……圧、みたいなものが。
「あの、川での」
ここでの出来事。よく考えたら、あの時は言葉が通じてない。
「落ちかけた時の……」
だから、お礼も通じてない。
「ああ、聞こえていた。気にするな」
と思ったんだけど、通じてたらしい。なんなの?
「……時間を取らせたな。もう行く」
「あっはい……わっ」
風が逆巻いた。と思う間もなくその姿は消えた。
「…………なん、だったん?」
王様って、そんな目の前で話すものなの?
「心臓に、悪い」
王様ってだけでもそうなのに。
あの色、顔と声も。
「見た気がするはずだよ……」
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