昔々の幼なじみの

山法師

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8 色々と気になる

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 王様だ。もう見なくても分かる。
 口を閉じて、なるべく真面目な顔を心掛けてから、そっちへ振り向く。

「……」

 やっぱりいる。遠くの岩の上に、そのまま空間に溶けるみたいに立っていた。

「……」

 最近は近くに降りて来ない……いらっしゃらない、か。
 とても遠くて、でも何故か王様がこっちを見てると分かる。
 そして王様は、私の顔がなんだか気に入らないらしい、と気付いた。特に、笑顔を見せるのが駄目なようだ。

「……」

 『らしく』出来ない私は、笑顔と元気さで人間関係を乗り切ってきた所がある。相手に「もういいや」と思わせれば勝ちだ。
 や、まあ、本心の笑顔もちゃんとあるよ? 特にこっちに来てからはね?

「……」

 でも王様からは、何か不愉快……煩わしい? ちょっと苦手、とも違う……ような。
 まあ、そんな雰囲気を感じ取った。

「……」

 だから愛想じゃなくて、真面目さを意識するようにした。
 私からしても、その方が有り難い。
 ずっと気を張ってれば、顔が崩れる事もなくなる。勝手に探し出してしまう『面影』に、振り回されずに済む。

「……」

 で、なんでか距離も遠くなったけど。それはまあ良いとして。

「……」

 今日は、珍しく。

「……」

 見てくる時間が長いなぁ! こっちから声掛けられないから、もうどうすればいいんだ!

「……」

 朝日に照らされて、キラキラして。
 ……もう! その髪も目の毒なんだよ! なんだろう、なんだ?! 金色のひとなんて、街に他にも居るのに!

「……」

 碧い瞳のひとも居るのに! 白い肌のひとも居るのに!

「……」

 あなたがヨウシアに見えて!
 どうすればいいか分からない!
 責任を取れ! 何の責任?!

「……っ」

 何事もなかったように、ふっと顔を背けて、更に上流へ……。
 ……行った……。

「……はぁ……」

 疲れた……朝から……。
 一瞬、王様の背に何か黒い大きなものが見えたけど、あれはなんだろう。
 


 それと。ここに来てから気付いた事が一つ。
 夜に、それも真夜中に。低く、高く、細く、太く、さざめくように響く声がある。

「風の音じゃなかったなぁ」

 風の無い日も、逆に風雨が強い日も、その声は聞こえた。泣いてるように聞こえた。
 誰かが、泣いてる。毎日ではないけれど、泣いて。独りで泣いて。
 慟哭のような、祈りのような、嘆きや畏れ、諦め。
 どうしてだろう。そんな風に聞こえる。

「夜出ちゃいけないのは」

 このため? だとしたら、泣いてるのは、

「王様?」

 それとも、館に住む別のひと? 誰がいるのかも知らないけども。
 周りに聞いてみても、今ひとつ。

「夜の声? ……あー、んー声なぁ」

 声です。

「んっと、多分そのうちね、機会があると思う!」

 なんの?

「そうだね! どっしり構えてよう!」

 ……なるほど?
 いやさっぱり、分からない。

「王様に関係してる、事は確か」

 多分。皆が王様を信頼してるのは、見てきてとても伝わってくる。同時に、とても気にかけてる感じも。

「スタィヤさんほど顕著じゃないけど」

 王様の事で気を揉んでる? 気に病んでる?
 王様はきちんと『王』の仕事をして、この地を治めている。って聞いてるし。
 お偉いさんの仕事がどんなのか、見当もつかないけど。

「……なんだろうね……?」

 首突っ込むのは良くない、けど気になる。
 王様、気になる所がありすぎる。


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