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第二章 竜の文化、人の文化
四十二話
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モアが持ってきた教科書は、全部で十冊。
「そう。先生が持ってる上から順に〈言語〉、〈算数〉、〈理科〉、〈社会〉、〈家庭〉、〈音楽〉、〈保健〉、〈体育〉、〈道徳〉、〈初級魔法〉。で、この教科書達は、六十九歳までに習う、初級用のもの」
「すごい量ですね……。冊数も、その厚みも。これが六十九歳……人で言う、五、六歳ほどまでに習得するものですか……」
アイリスは感嘆するように言いながら、それらを持って、重さを確かめるように上下させる。
その横でゾンプ達も、それぞれ自分が使っていた教科書達を出していく。
「人の五歳なんて、まだまだ遊びたい盛りで、勉強なんて、全然……」
アイリスは、呟くように言う。
「習い事をしているご家庭も、あるとは思いますが……それもお金のある家に限りますし、それほど多くないと思います」
「へえ、そんななの。でも、人間と竜じゃ成長速度? が全然違うんだろ? だからモノゴトの吸収が俺らより速いって」
ゾンプの言葉に、アイリスは頷く。
「そうですね……恐らくは……。人は、早くても三歳ほどから習い事を始めます。けど、それこそ本当に少数派です。そしてそれを長く続け、極めようとしても、寿命は長くて八十ほど。皆さんが勉強を全て習得する前に、その命は尽きてしまうでしょうね」
「短命ってホント、文字通りに短いよね。種の違いとはいえ」
ケルウァズが言い、アイリスはその通りだと痛感した。
(単純な話じゃないけど、でも。時間をかければかけるほど、教わったものは自分の力になり、知識と経験が合わさって、高められていく……。竜の方々の文明がこれほど発達しているのも、魔力や魔法だけの事じゃないのかも)
「それで、先生。先生は竜の言葉についてと、魔法については結構やってるんだよね?」
モアの声に、アイリスはハッとして意識を戻す。
「えっ、あ、はい。そうですね。ヘイルさんやブランゼンさん、それとファスティさんに教わりながら、ある程度の読み書きなどは出来るように、なってるとは……思います……たぶん……」
言いながら、だんだんと自信がなくなってきたアイリスの声は、萎んでいく。
(いつも、どれだけ教わっても、家での私は全然なんにも、出来なかった……。今も、本当は、出来ると思い込んでいるだけなのかも……)
「じゃあ、この教科書のどこまで分かるか、読んでみて」
「は、はい」
モアはそれを気にする事なく、言語の教科書を指さした。気持ちを切り替えたアイリスは他の教科書を置き、それを開く。
「……はあぁ……!」
アイリスは中身を見て、また感嘆の吐息を零した。
「……すごい。すごいですね、これは。紙質や印字の質の高さもさることながら、項目ごとに分かりやすく別れていて、簡単なものから順に進めていけるようになっているんですね……!」
表紙を捲り、目次に目を通し、中身を眺めているアイリスの瞳が、キラキラと輝く。
「……人間の、言語の教え方ってどんなの、です?」
アイリスの興奮した様子に、ドゥンシーが首を傾げた。
「……えっと、」
アイリスはそれに、少し答えあぐねるようにしながら、口を動かす。
「その、……それぞれ、です」
「それぞれ?」
「恐らく高位貴族の方々になれば、確立されたものがあるのだと思いますが……私達の家の程度だと、家庭教師に教わるとしても、その家庭教師の教え方は人によるんです」
「ひとによる……?」
「はい。殆ど口頭で教える人、自作の本を作っている人、実践形式の人、師から教わり方を受け継いでいる人……。それに、教える内容や速度にばらつきがあります。教える子供に合わせる、なんて事は滅多にありませんね。自分の得意分野を教えられるだけ教えて、そこでおしまいです」
「なんつーか、色々大変そうだな、人間の教育。教える方も、教わる方も」
ゾンプの反応に、アイリスは困ったような笑みを作る。
「ええ、そうとも言えると思います。ここに来てから、何においても思うのですが……人がどれだけ竜の方々より遅れた──ともすれば劣るような、体制を取っているのかと、理解が出来てしまうんです」
「そう。先生が持ってる上から順に〈言語〉、〈算数〉、〈理科〉、〈社会〉、〈家庭〉、〈音楽〉、〈保健〉、〈体育〉、〈道徳〉、〈初級魔法〉。で、この教科書達は、六十九歳までに習う、初級用のもの」
「すごい量ですね……。冊数も、その厚みも。これが六十九歳……人で言う、五、六歳ほどまでに習得するものですか……」
アイリスは感嘆するように言いながら、それらを持って、重さを確かめるように上下させる。
その横でゾンプ達も、それぞれ自分が使っていた教科書達を出していく。
「人の五歳なんて、まだまだ遊びたい盛りで、勉強なんて、全然……」
アイリスは、呟くように言う。
「習い事をしているご家庭も、あるとは思いますが……それもお金のある家に限りますし、それほど多くないと思います」
「へえ、そんななの。でも、人間と竜じゃ成長速度? が全然違うんだろ? だからモノゴトの吸収が俺らより速いって」
ゾンプの言葉に、アイリスは頷く。
「そうですね……恐らくは……。人は、早くても三歳ほどから習い事を始めます。けど、それこそ本当に少数派です。そしてそれを長く続け、極めようとしても、寿命は長くて八十ほど。皆さんが勉強を全て習得する前に、その命は尽きてしまうでしょうね」
「短命ってホント、文字通りに短いよね。種の違いとはいえ」
ケルウァズが言い、アイリスはその通りだと痛感した。
(単純な話じゃないけど、でも。時間をかければかけるほど、教わったものは自分の力になり、知識と経験が合わさって、高められていく……。竜の方々の文明がこれほど発達しているのも、魔力や魔法だけの事じゃないのかも)
「それで、先生。先生は竜の言葉についてと、魔法については結構やってるんだよね?」
モアの声に、アイリスはハッとして意識を戻す。
「えっ、あ、はい。そうですね。ヘイルさんやブランゼンさん、それとファスティさんに教わりながら、ある程度の読み書きなどは出来るように、なってるとは……思います……たぶん……」
言いながら、だんだんと自信がなくなってきたアイリスの声は、萎んでいく。
(いつも、どれだけ教わっても、家での私は全然なんにも、出来なかった……。今も、本当は、出来ると思い込んでいるだけなのかも……)
「じゃあ、この教科書のどこまで分かるか、読んでみて」
「は、はい」
モアはそれを気にする事なく、言語の教科書を指さした。気持ちを切り替えたアイリスは他の教科書を置き、それを開く。
「……はあぁ……!」
アイリスは中身を見て、また感嘆の吐息を零した。
「……すごい。すごいですね、これは。紙質や印字の質の高さもさることながら、項目ごとに分かりやすく別れていて、簡単なものから順に進めていけるようになっているんですね……!」
表紙を捲り、目次に目を通し、中身を眺めているアイリスの瞳が、キラキラと輝く。
「……人間の、言語の教え方ってどんなの、です?」
アイリスの興奮した様子に、ドゥンシーが首を傾げた。
「……えっと、」
アイリスはそれに、少し答えあぐねるようにしながら、口を動かす。
「その、……それぞれ、です」
「それぞれ?」
「恐らく高位貴族の方々になれば、確立されたものがあるのだと思いますが……私達の家の程度だと、家庭教師に教わるとしても、その家庭教師の教え方は人によるんです」
「ひとによる……?」
「はい。殆ど口頭で教える人、自作の本を作っている人、実践形式の人、師から教わり方を受け継いでいる人……。それに、教える内容や速度にばらつきがあります。教える子供に合わせる、なんて事は滅多にありませんね。自分の得意分野を教えられるだけ教えて、そこでおしまいです」
「なんつーか、色々大変そうだな、人間の教育。教える方も、教わる方も」
ゾンプの反応に、アイリスは困ったような笑みを作る。
「ええ、そうとも言えると思います。ここに来てから、何においても思うのですが……人がどれだけ竜の方々より遅れた──ともすれば劣るような、体制を取っているのかと、理解が出来てしまうんです」
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