落書き置き場

山法師

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過去への旅支度

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『過去ノ何ヲ変更シマスカ?』

 かろうじて女性と思える無機質な声が、これまた何もない無機質な部屋に響く。

「あれ、ただ過去に行くだけはダメなんだっけ?」

 部屋の中央にいる少女はそう明るい声で応え、頭をかいた。

『──特ニ問題ハアリマセン。今マデノ傾向カラソウ質問サセテイタダキマシタ』
「そっかあ。あたしは過去に行きたいだけだから、その辺は関係ないね」

 この部屋は、タイムマシン。宝くじの一等に当たるくらいの確率で選ばれ、少女はここへ来た。

「で、このままこうしてればいいの?質問はダメって言われてたから何にも分かってないんだよねー」
『ハイ、コノママデ問題アリマセン。後三十二秒後ニ設定サレタ過去ヘオ運ビシマス』
「了解でーす」

 少女は手をひらひらとさせながら、にへっと笑った。
 これからの過去への旅が楽しみ、というより、それまでの些細ながら暇な時間をどう潰そうか、と思っているような顔つきだった。

「……あ? 手が」

 その少女の指先が、徐々に薄くなってゆく。足先も、髪の毛の先も、そのうちに全身が。

『転送開始。ソレデハ過去ヘ、イッテラッシャイマセ』
「おー、行ってきますー」

 少女の体は光の粒となり、やがて完全に消え去った。


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