落書き置き場

山法師

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セツナの姉妹

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 バチッという音と共に、目の前から姉が消えた。手を目一杯伸ばし、あと少しで指先が触れるというところで。
 間に合わなかった。
 思わずその場にうずくまり、奥歯を噛み砕んばかりに噛み締める。右の拳で強く床を叩く。

「早く起き上がれ! 立て! 走れ! 時間がない!!」

 横にいたどこの誰とも知れない男が、銃を構えたままあたりを見回す。同じ様な格好をした男女数人も、周りを警戒している。
 彼らは私達姉妹を助けに来たらしい。この研究所に閉じ込められていた私達を、「解放しに来た」と、ドアをぶち破りながら入って来た時に言っていた。

「──クソッ!」

 蹲ったまま動かない私を、その腕を、男は強く引っ張った。私はそのまま半ば引きずられるようにして走らされる。
 私を引きずる男は仲間と共に研究所を後にし──道中通路に転がってる人を何人も見た。血まみれだった──外に出た。開けたそこには大きく厳つい車が何台も停まっていて、私はその中の一台に、放り込まれるようにして乗らされた。

「……帰して」

 私の声に、誰も応えない。

「……帰して!」
「駄目だ」

 私の隣に座った男が叩き斬るように強い口調で言った。

「そもそもあなた達はなんなの?! お姉ちゃんはどうなったの?! 消えたんだよ?!」

 男は、質問には答えない。
 車はいつの間にか発進していた。どこに向かっているのか、それも教えてくれない。

「なんなの?! 帰る、私帰るから! ──痛いっ!」

 男に二の腕を強く掴まれ、私はそいつを睨んだ。

「暴れるなら一時的に拘束する。……セツナ」
「?!」

 なんで、名前を。

「俺達は君達姉妹の保護に来た。今はそれ以上は言えない」

 男の静かで強い眼差しに、私はぐっと押し黙った。


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