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怪画
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その昔、江戸で老中田沼意次が政柄を執っていた時世の話。
とある上方の豪商の子息に庄二郎という者がいた。若くしてその性真しく、四書五経のみならず漢籍数多通じ、博聞強記の才穎なりと言われるも、人の聞こゆる所に拠れば、この男、いみじき衆道の悪癖あり、陰の気が移ると言っては女子を遠ざけつつ、街中で見目麗しき若衆を見ては双眸爛々と輝かせ、ある時は「若衆は針ありながら初梅に等しく、えならぬ匂い深し」と西鶴の著作、男色大鑑の一節を諳んじて少年美を称揚せりと伝わっている。さりとて彼は生来の堅蔵であるが故に、洛中洛外に浮き名を流したとか、誰某を抱いたとか、そのような話はなかったようだ。かの家に仕える下人などは、その頃のことであれば平生厳めしい顔をして書物と相対していた彼の姿しか知らないと語っている。彼の男色趣味を知る者は極々一部の、同じような嗜好を持つ学友のみであり、庄二郎と彼らは何処其処の若衆宿に見目麗しい陰間がいるとか、某寺の法師が囲っている稚児がとても可愛らしくて羨ましいとかそのような、勉学に励む普段の庄二郎の姿しか知らない者が想像だにしないような下卑た話をしていたのだという。
その日、庄二郎は、長らくの学問に疲労した目を癒すために、街を逍遙しつつその御目に適う美少年の姿を求めていた。学問することは決して苦ではなかったにせよ、長らくすれば眸倦み疲れる所となる。故にこうして、時に外に出でては若衆を眺め、品定めに現を抜かしているのである。上方の若衆は骨々しき江戸の若衆よりも嫋やかで優艶と評されるも、庄二郎の拘りの甚だしき故に、彼の御目に適う者は中々現れない。折しもその日は寒く、風も強く吹き寄せるが故に外を歩く者はさして多くもなかった。
がっくりと肩を落とし、帰路に就こうと思い始めた庄二郎の目にふと、一枚の売り物の絵が留まった。よくよく目を凝らして見てみると、それはどうやら元服前の、前髪を残した少年の絵のようであった。近寄って見てみると、まさしく庄二郎の好みの、整った顔立ちの美少年が描いてある。それほど高い物でもなかったので、庄二郎はこれを買い求めて意気揚々と持ち帰り、疾くこれを自室に飾った。自室で改めてじっくりと眺めてみると、その絵は売られていた時よりもずっと艶っぽく、見事なものに見える。柳のように枝垂れた背に憂いを帯びた美しい顔、繊弱やかな手つき腰つきはいといと艶めかしく、それを見る庄二郎の心を捕らえて離さなかった。
「斯くの如き麗しき者が、果たして現世にいるのだろうか。」
部屋の中で一人、庄二郎は絵を眺めながら呟いた。
それからというもの、庄二郎は学問も、若衆の品評の為に外を彷徨くことすらも止め、一日のうちの殆どの時間は自室に籠りきりでその絵を眺めるようになった。下人がこっそり様子を見ると、恍惚とした表情で絵画の中の美少年を眺めながら、時折何かぼそぼそと話しかけていたという。そのような日が続くうちに、愈々以て庄二郎に狂悖の性現れ、支離滅裂なことを口走っては部屋の中を転げ回るようになり、家族も奉公人たちも一同、彼の変貌に鬼胎を抱くと共に、いみじく恐怖を覚えた。
暫くして、庄二郎の父親と親交があり、庄二郎自身もかつて学んだ初老の一向僧が見舞いに訪れた。庄二郎は疲れ果てたのか、座して俯くばかりであったが、その容貌は窶れるに任せるばかりで、頬の肉削げ落ちて顔貌峭刻極まり乞食の如く手足の骨秀でたる様は、まさしく枯れた芒や葦のようで、以前の庄二郎を知るこの僧を如何程驚懼させたかは想像に難くない。
変わり果てた庄二郎の姿に唖然としていた僧の目に、件の美少年画が留まった。それを見た僧は忽ちに双眸見開き血相変え、口角泡を飛ばして叫んだ。
「これはとんでもないものだ。」
僧はこの絵のことを知っていたのであった。この僧の言う所に拠れば、絵の美少年はかつて実在した人物であるが、この絵に描かれたあとに衆道絡みの争いで落命しているのだという。さらに言えば、この絵にはいみじき呪いかかり、所有者を忽ちに狂わせてしまうと言われている。特に男色癖の甚だしい者ほどこの絵に魅入られ呪いを強く受けてしまうのだそうだ。
庄二郎の父はその顔に甚く焦燥浮かべ、何とかして息子を助けられないだろうかと問うた。僧は「寺で供養致す。絵を預からせてはくれぬだろうか。」と言い、絵を抱えて持っていこうとしたが、その時、今まで石仏のようにじっと押し黙っていた庄二郎が忽ちに飛び上がり、絵を奪い返そうと僧に掴みかかったのであった。直ちに下人たちにより庄二郎は取り押さえられるも、双眸怒れる獅子の瞳の如くなり、その顔に烈火の如き憤怒を滲ませていた。庄二郎の憤然たる様に、その場の一同が如何ばかりの恐怖を覚えたかは察して然るべきである。
僧は絵を持って寺に至ると、庄二郎の父が見守る中、お焚き上げの支度を始めた。
これで息子が助かるのならそれで良いのだが、と、安堵半分、憂懼《ゆうく》半分と言った思いで僧を見つめていた父であったが、その耳に、何かの怪鳥か豺狼の如きけたたましい咆哮が聞こえて来る。果たしてその声の主は、絵と僧を追って現れた庄二郎その人であった。そのやれ茎のような細腕から想像だにしない怪力で下人を引き剥がし、まるで禽獣の哮るが如き言葉にならない叫び声を上げながら、活火激発、怒髪天を衝かんばかりの鬼の形相を浮かべながら寺まで走って来たのである。
しかし、それは遅きに失したのであった。庄二郎が寺の門を潜る頃には、既に炎焚かれ、今にも絵が投げ込まれんばかりである。庄二郎は僧の手から絵を奪わんと境内に踏み入り脇目も振らず走り寄ろうとするも、ばちばちと薪の爆ぜる音を立てながら燃え盛る劫火の中に、その絵は投げ入れられた。絵は忽ちに燃え、須臾の内に火中に没し灰燼に帰したのであったが、真に不思議と言うべきか悍ましいと言うべきか、絵が投げ込まれた瞬間、炎の中からぎゃあ、と、まるで人の悲鳴のような声が聞こえたのであった。あたかも絵の中の美少年が発したかのようなその声を聞いて、庄二郎の父は恐怖のあまり震え、その肌はいみじく粟立っていた。それらを目の当たりにした庄二郎は絶望の表情を一杯に顔に浮かべ、がっくりと膝崩れ、地に手をついては火がついたように大声で泣き出したのである。僧も父も、炎風にぶわりと煽られながら、泣き崩れる庄二郎を、唯々黙して見ているより他はなかった。庄二郎の慟哭は、京の街に遍く響かんばかりに響き渡ったという。
それからの庄二郎の様子と言えば、絵画の呪いから放たれて以前の彼に戻った、とは行かなかった。絵が燃やされてから三日後に、庄二郎は突然姿を消したのである。さんざんに探し回った結果、彼は既に亡き者となっていることが分かったのであった。既に物言わぬ骸となった庄二郎が、葛の葉の上に突っ臥し斃れているのが見つかったのである。そして、彼の部屋からは、一枚の遺書と思しきものが認められているのが見つかった。遺書と思しきものには、このように書いてあった。
遠く異朝をとぶらえば、衛の弥子瑕、魏の龍陽君、漢の董賢、陳の子高、皆眉目秀麗にして、各々の君主の時めかす所となる。商書の伊訓に、頑童に比しむ事之乱風也との訓戒あり。
近く本朝を覗うに、観世座の世阿弥、羽柴秀次が寵童不破万作、伊達政宗が臣片倉重長、蒲生氏郷が小姓名古屋山三郎、皆とりどりに色香あり、挙するに暇なくは唐国に同じ。亦た、琉球使の楽童子なども皆一同麗艶なりと音に聞こゆ。
若れど、憂世に咲く花も久しくなりたるためしなく、ゆくゆくは枯れ果て地に落つ。まさしく泡沫の如くなり。絵の者だに炎中に没す。況や憂世の徒人をや。
読みながら庄二郎の父は、既に息子のこの世に無いことを思い、涙で袖を濡らすのであった。
それから二年ほど経ったある春の日のこと。
庄二郎の両親も兄弟も、彼の死から立ち直り、明け暮れに馴染みつつあった。
一家は蔵の整理をしようと、総出で屋敷の蔵に入り物品の仕分けをしていた。大家である故、あれやこれやの蔵品が蔵より運び出されていく。
蔵に入った庄二郎の父は、埃の臭いにまみれながら、一枚の絵を見つけた。はて、このようなものはあったか、と、怪訝に思いその絵を手に取った父であったが、その絵を見た父は、忽ちに顔色真っ青になり、言葉を失った。
父が手に取ったその絵には、頬を紅に染めながら秋波を送る美少年と、その美少年に今にも抱きつかんとする庄二郎が描かれていた。
「庄二郎は絵の中の者に連れていかれてしまったのだ。」
蔵の中で、庄二郎の父はあまりの恐怖に声を震わせて呟いたのであった。
その後、この呪われた美少年画の行方は知られていない。庄二郎の父が件の寺に持っていき、僧によって焚き上げられたと言われている。然れど、ある書生が美少年の絵を手にして周囲に誇らしげに言いふらした後に行方知れずになったとか、とある浪人がこの絵を手に入れようとしたが断られ、所有者を切り殺して絵を奪った後暫くして自らも割腹したとか、そのような薄気味の悪い話が、幾つか聞かれたようである。
庄二郎は唯々絵を失った悲しみで命を絶ったのか、それとも本当に絵の美少年に連れていかれたのかは、最早誰にも分からない。
とある上方の豪商の子息に庄二郎という者がいた。若くしてその性真しく、四書五経のみならず漢籍数多通じ、博聞強記の才穎なりと言われるも、人の聞こゆる所に拠れば、この男、いみじき衆道の悪癖あり、陰の気が移ると言っては女子を遠ざけつつ、街中で見目麗しき若衆を見ては双眸爛々と輝かせ、ある時は「若衆は針ありながら初梅に等しく、えならぬ匂い深し」と西鶴の著作、男色大鑑の一節を諳んじて少年美を称揚せりと伝わっている。さりとて彼は生来の堅蔵であるが故に、洛中洛外に浮き名を流したとか、誰某を抱いたとか、そのような話はなかったようだ。かの家に仕える下人などは、その頃のことであれば平生厳めしい顔をして書物と相対していた彼の姿しか知らないと語っている。彼の男色趣味を知る者は極々一部の、同じような嗜好を持つ学友のみであり、庄二郎と彼らは何処其処の若衆宿に見目麗しい陰間がいるとか、某寺の法師が囲っている稚児がとても可愛らしくて羨ましいとかそのような、勉学に励む普段の庄二郎の姿しか知らない者が想像だにしないような下卑た話をしていたのだという。
その日、庄二郎は、長らくの学問に疲労した目を癒すために、街を逍遙しつつその御目に適う美少年の姿を求めていた。学問することは決して苦ではなかったにせよ、長らくすれば眸倦み疲れる所となる。故にこうして、時に外に出でては若衆を眺め、品定めに現を抜かしているのである。上方の若衆は骨々しき江戸の若衆よりも嫋やかで優艶と評されるも、庄二郎の拘りの甚だしき故に、彼の御目に適う者は中々現れない。折しもその日は寒く、風も強く吹き寄せるが故に外を歩く者はさして多くもなかった。
がっくりと肩を落とし、帰路に就こうと思い始めた庄二郎の目にふと、一枚の売り物の絵が留まった。よくよく目を凝らして見てみると、それはどうやら元服前の、前髪を残した少年の絵のようであった。近寄って見てみると、まさしく庄二郎の好みの、整った顔立ちの美少年が描いてある。それほど高い物でもなかったので、庄二郎はこれを買い求めて意気揚々と持ち帰り、疾くこれを自室に飾った。自室で改めてじっくりと眺めてみると、その絵は売られていた時よりもずっと艶っぽく、見事なものに見える。柳のように枝垂れた背に憂いを帯びた美しい顔、繊弱やかな手つき腰つきはいといと艶めかしく、それを見る庄二郎の心を捕らえて離さなかった。
「斯くの如き麗しき者が、果たして現世にいるのだろうか。」
部屋の中で一人、庄二郎は絵を眺めながら呟いた。
それからというもの、庄二郎は学問も、若衆の品評の為に外を彷徨くことすらも止め、一日のうちの殆どの時間は自室に籠りきりでその絵を眺めるようになった。下人がこっそり様子を見ると、恍惚とした表情で絵画の中の美少年を眺めながら、時折何かぼそぼそと話しかけていたという。そのような日が続くうちに、愈々以て庄二郎に狂悖の性現れ、支離滅裂なことを口走っては部屋の中を転げ回るようになり、家族も奉公人たちも一同、彼の変貌に鬼胎を抱くと共に、いみじく恐怖を覚えた。
暫くして、庄二郎の父親と親交があり、庄二郎自身もかつて学んだ初老の一向僧が見舞いに訪れた。庄二郎は疲れ果てたのか、座して俯くばかりであったが、その容貌は窶れるに任せるばかりで、頬の肉削げ落ちて顔貌峭刻極まり乞食の如く手足の骨秀でたる様は、まさしく枯れた芒や葦のようで、以前の庄二郎を知るこの僧を如何程驚懼させたかは想像に難くない。
変わり果てた庄二郎の姿に唖然としていた僧の目に、件の美少年画が留まった。それを見た僧は忽ちに双眸見開き血相変え、口角泡を飛ばして叫んだ。
「これはとんでもないものだ。」
僧はこの絵のことを知っていたのであった。この僧の言う所に拠れば、絵の美少年はかつて実在した人物であるが、この絵に描かれたあとに衆道絡みの争いで落命しているのだという。さらに言えば、この絵にはいみじき呪いかかり、所有者を忽ちに狂わせてしまうと言われている。特に男色癖の甚だしい者ほどこの絵に魅入られ呪いを強く受けてしまうのだそうだ。
庄二郎の父はその顔に甚く焦燥浮かべ、何とかして息子を助けられないだろうかと問うた。僧は「寺で供養致す。絵を預からせてはくれぬだろうか。」と言い、絵を抱えて持っていこうとしたが、その時、今まで石仏のようにじっと押し黙っていた庄二郎が忽ちに飛び上がり、絵を奪い返そうと僧に掴みかかったのであった。直ちに下人たちにより庄二郎は取り押さえられるも、双眸怒れる獅子の瞳の如くなり、その顔に烈火の如き憤怒を滲ませていた。庄二郎の憤然たる様に、その場の一同が如何ばかりの恐怖を覚えたかは察して然るべきである。
僧は絵を持って寺に至ると、庄二郎の父が見守る中、お焚き上げの支度を始めた。
これで息子が助かるのならそれで良いのだが、と、安堵半分、憂懼《ゆうく》半分と言った思いで僧を見つめていた父であったが、その耳に、何かの怪鳥か豺狼の如きけたたましい咆哮が聞こえて来る。果たしてその声の主は、絵と僧を追って現れた庄二郎その人であった。そのやれ茎のような細腕から想像だにしない怪力で下人を引き剥がし、まるで禽獣の哮るが如き言葉にならない叫び声を上げながら、活火激発、怒髪天を衝かんばかりの鬼の形相を浮かべながら寺まで走って来たのである。
しかし、それは遅きに失したのであった。庄二郎が寺の門を潜る頃には、既に炎焚かれ、今にも絵が投げ込まれんばかりである。庄二郎は僧の手から絵を奪わんと境内に踏み入り脇目も振らず走り寄ろうとするも、ばちばちと薪の爆ぜる音を立てながら燃え盛る劫火の中に、その絵は投げ入れられた。絵は忽ちに燃え、須臾の内に火中に没し灰燼に帰したのであったが、真に不思議と言うべきか悍ましいと言うべきか、絵が投げ込まれた瞬間、炎の中からぎゃあ、と、まるで人の悲鳴のような声が聞こえたのであった。あたかも絵の中の美少年が発したかのようなその声を聞いて、庄二郎の父は恐怖のあまり震え、その肌はいみじく粟立っていた。それらを目の当たりにした庄二郎は絶望の表情を一杯に顔に浮かべ、がっくりと膝崩れ、地に手をついては火がついたように大声で泣き出したのである。僧も父も、炎風にぶわりと煽られながら、泣き崩れる庄二郎を、唯々黙して見ているより他はなかった。庄二郎の慟哭は、京の街に遍く響かんばかりに響き渡ったという。
それからの庄二郎の様子と言えば、絵画の呪いから放たれて以前の彼に戻った、とは行かなかった。絵が燃やされてから三日後に、庄二郎は突然姿を消したのである。さんざんに探し回った結果、彼は既に亡き者となっていることが分かったのであった。既に物言わぬ骸となった庄二郎が、葛の葉の上に突っ臥し斃れているのが見つかったのである。そして、彼の部屋からは、一枚の遺書と思しきものが認められているのが見つかった。遺書と思しきものには、このように書いてあった。
遠く異朝をとぶらえば、衛の弥子瑕、魏の龍陽君、漢の董賢、陳の子高、皆眉目秀麗にして、各々の君主の時めかす所となる。商書の伊訓に、頑童に比しむ事之乱風也との訓戒あり。
近く本朝を覗うに、観世座の世阿弥、羽柴秀次が寵童不破万作、伊達政宗が臣片倉重長、蒲生氏郷が小姓名古屋山三郎、皆とりどりに色香あり、挙するに暇なくは唐国に同じ。亦た、琉球使の楽童子なども皆一同麗艶なりと音に聞こゆ。
若れど、憂世に咲く花も久しくなりたるためしなく、ゆくゆくは枯れ果て地に落つ。まさしく泡沫の如くなり。絵の者だに炎中に没す。況や憂世の徒人をや。
読みながら庄二郎の父は、既に息子のこの世に無いことを思い、涙で袖を濡らすのであった。
それから二年ほど経ったある春の日のこと。
庄二郎の両親も兄弟も、彼の死から立ち直り、明け暮れに馴染みつつあった。
一家は蔵の整理をしようと、総出で屋敷の蔵に入り物品の仕分けをしていた。大家である故、あれやこれやの蔵品が蔵より運び出されていく。
蔵に入った庄二郎の父は、埃の臭いにまみれながら、一枚の絵を見つけた。はて、このようなものはあったか、と、怪訝に思いその絵を手に取った父であったが、その絵を見た父は、忽ちに顔色真っ青になり、言葉を失った。
父が手に取ったその絵には、頬を紅に染めながら秋波を送る美少年と、その美少年に今にも抱きつかんとする庄二郎が描かれていた。
「庄二郎は絵の中の者に連れていかれてしまったのだ。」
蔵の中で、庄二郎の父はあまりの恐怖に声を震わせて呟いたのであった。
その後、この呪われた美少年画の行方は知られていない。庄二郎の父が件の寺に持っていき、僧によって焚き上げられたと言われている。然れど、ある書生が美少年の絵を手にして周囲に誇らしげに言いふらした後に行方知れずになったとか、とある浪人がこの絵を手に入れようとしたが断られ、所有者を切り殺して絵を奪った後暫くして自らも割腹したとか、そのような薄気味の悪い話が、幾つか聞かれたようである。
庄二郎は唯々絵を失った悲しみで命を絶ったのか、それとも本当に絵の美少年に連れていかれたのかは、最早誰にも分からない。
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