アタック・オブ・ザ・キラー・ダイコン ――お化けダイコンが人を食う!

武州人也

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特殊捜査チーム結成!

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 とうとう「お化けダイコン」の尻尾が掴まれた。埼玉のとあるダイコン畑から飛び出したダイコンが、通行人の女性の頭部に食らいつき殺害するその一部始終が撮影され、動画サイトにアップロードされたのである。
「一連の事件の犯人はダイコンだ!」
 そうした統一見解が出されるまでに、時間はかからなかった。けれども、そうだとして一体全体どう解決したらよいものか。警察や自衛隊、農水省などが協議を始めたが、やはりというべきか、すぐに答えは出ない。
 
 そうこうしている内に、事態はより一層、悪化の一途を辿っていた。まるで丸太のように肥え太ったダイコンが群れを成し、至る所を転がり始め、人々に襲い掛かったのである。明らかに、異常事態であった。ダイコンに知能があるのかどうかは不明であるが、彼らは人のいる市街地などに集まり始めた。ダイコンに占拠された市街地では人が出歩くことさえままならなくなり、日常生活が奪われ、市民の経済活動は瞬く間に崩壊を来していったのであった。

 これに対して、政府は災害派遣の名目で、自衛隊によるダイコンの駆除を命じた。ダイコンに占拠され死と破壊の渦巻く市街地へ向かう街道は、列を成す自衛隊の車両によって埋め尽くされた。
「何だよこれ……」
 無人の市街地では、あちらこちらにダイコンが転がっている。彼らは横倒しになって転がることで移動しているようだ。
「何だかおかしいぞ……」
「おい、あのダイコン、デカくねぇか?」
 街に転がっているダイコンは、その殆どが常識的なサイズのダイコンであった。だが、その中に、明らかにダイコンがあった。横倒しになったそのダイコンは、直径だけで成人男性の身長とそう変わらないサイズである。
 ――こんなものは、怪物というより他はない。
 自衛隊員たちは、ただちに駆除に取り掛かった。接近しては危ない。隊員たちは89式小銃を構えて銃撃を加えた。ダイコンたちは水しぶきを上げながら蜂の巣にされていく。
 一見順調に見えた駆除活動。しかし、隊員たちは異変に気づいた。
「やけに煙ってるな……銃のせいにしては煙が濃すぎる」
 一人の隊員が、そのことに気づいた。煙が立ち昇りすぎていて、視界が悪い。
「……うっ……」
 前方にいた隊員が、突然うめき声を発して地面に倒れ込んだ。何が起こったのか分からないが、異常な事態である。
「待ってろ、今助け……」
 隊員たちは助けに行こうとしたが、彼らもまた倒れ込んでしまった。倒れた隊員たちは、そのまま再び起き上がることはなかった。
「……まずい! ガスを吸い込むな!」
 一人の隊員が、ダイコンの穴から白いガスが噴出しているのを発見した。恐らく、銃撃を受けたダイコンが、毒ガスを発生させたのだ。そうとしか考えられない。
 ダイコンの細胞には虫による食害から身を守るために、細胞が壊れると化学反応を起こして辛味を発揮する仕組みがある。この辛味を発揮する成分はダイコンの下の部分に特に多いことでも知られる。
 この話を思い出した隊員は、ある憶測を導き出した。
 ――彼らは進化し、細胞が破壊されると毒ガスを噴出して身を守る仕組みを身につけたのではないか。
 
 ダイコンの毒ガス攻撃で、この時駆除に当たった普通科の歩兵の三分の一が死亡または戦闘続行不能になり、ダイコン駆除作戦は失敗に終わってしまったのであった。



 農水省、警察庁、自衛隊その他関係機関による協議の結果、この「殺人ダイコン」の発生原因を突き止め、騒動を収束させるための特殊捜査チームが結成されたのであった。

「で、何で俺が選ばれたんだ?」
 白い壁に覆われた殺風景なビルの一室で、時雨は右隣に座る美女――浅井桜あさいさくらに尋ねた。
「貴方は最初にダイコンの怪に気づいた。それだけで理由は十分じゃないかしら?」
 この豊かな胸周りの女はすげなく答えた。
「……それしか理由がない、とも言う」
 横から口を挟んできたのは、時雨の息子――今年中学に入学した――と同じような背格好の少年であった。名前を赤松千秋あかまつちあきというらしい。冷涼な切れ長の目と形の良い鼻が、何処か艶やかさを感じさせる。自分が男子アイドルのスカウトであったら、間違いなく声をかけるであろう。けれどもその口調には、人を食ったような不遜さを含んでいた。
「そういう君こそ、何でこんな所に」
「ハーバード大学最年少合格、その後ドイツの製薬会社で除草剤を開発し特許を取得したこのボクだよ? 呼ばれるのは当然じゃないか」
 子どもと侮っていたが、どうやら彼は凄い奴らしい、と、時雨はその時知った。今し方話した浅井桜は自衛隊化学科のエリートと聞き及んでいる。何だか自分だけ、浮いているのではないか……時雨はそんな気がしてきたのであった。
「そういえば、捜査班長はまだなのかな」
「ああ、確かに。どんな方なのかしら」
「ボクをあんまり待たせないでほしいんだけど……」
 チームのメンバーは班長を含めて四人と聞かされている。だから、間違いなく、これからこの場所に班長が来るはずなのであるが……

 その四人の耳に、何かの歌が聞こえてきた。

「ア~タ~ックオブザキラーダイ~コ~ン~♪ ア~タ~ックオブザキラーダイ~コ~ン~♪」
 やけに良い歌声とともに部屋に入ってきたのは、腰まで伸びた金髪の、男か女かよく分からない風貌の、睫毛の長い若者であった。声からすると、この若者は男なのであろう。
「どうも、お待たせしました。メイスン・タグチと申す者です」
「何なんですかその歌は……」
 その変てこさに耐え切れず、つい時雨は尋ねてしまった。
「ああ、これはワタシのダディに昔教えてもらった歌の替え歌で……何だかクセになるんですよ。この歌、歌いたくなりませんかぁ?」
「いや、ならないならない」
 そう言いながら首を横に振ったのは千秋であった。桜もそれに同調して首を横に振っていた。
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