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第二話 隣の天使を落としたい

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 そんなある日……私は絶好のチャンスをつかんだ。正午すぎ、昼ご飯を買いに行こうとしたら、ちょうど廊下の向こうから響輝くんが歩いてくるのが見えた。相変わらず、きれいな顔をしている。中性的というか、女の子よりも美少女してるんじゃないかってぐらいかわいい。

「あっ、畠山さんのお子さんよね?」
「えっ、あっ、はい」

 すれ違う手前で、声をかけた。響輝くんは急に呼び止められて戸惑っているようだ。そんな様子もまたかわいらしい。今すぐ食べたい。

「実はさ、お米たくさん届いちゃって、おすそ分けしようと思うんだけど……今日お母さんいる?」
「あ、今はいません。お仕事なので、多分夜になっちゃうと思います……」

 あら、意外。畠山家の生活ぶりから、母親は専業主婦だと思ってたんだけど、もしかして共働きだった? でも旦那さんの稼ぎだけでここに住むってのは難しそうだし、奥さんは今までリモートワークでもしてたのかな。例の新型ウイルスが落ち着いてきて、リモートワークやめちゃう企業とかもあるっぽいし。

 ……それにしても、うっかり屋さんだなぁ響輝くん。私みたいな悪い虫にそういうこと教えちゃあ。いくらお隣さんで、隠し事しづらいからって。

「まぁいいや、ちょっとそこで待ってて」

 そう言って、私は自分の部屋に引っ込んだ。そしてキッチンからお米5kgを持ち上げると、急ぎ足で玄関を出た。

 このお米、本当はもらったもんなんかじゃなくて、自分で買ったものだ。まぁこんなもの、後でまた買えばいい。

「ごめんね~。お待たせ」
「ああ、すみません」
「これ重たいからさ、お家うちの中まで持ってってあげるよ」
「えっ、そんな悪いですよ」
「いやいや、私これでも結構力あるし。さぁさぁ」

 私に急かされて、響輝くんは渋々といった風に鍵を開けた。そしてドアを開け、私という悪い虫を招き入れてくれた。

 中は私の汚部屋が恥ずかしくなるぐらい小綺麗だ。端的に言って、丁寧な暮らしをしてるんだなぁと思わされる。

 キッチンの床にどかっとお米の袋を置いた私は、勝手にソファに腰かけた。

「響輝くん、だよね」
「あ、はい」
「響輝くんもモンスターハンティングやってるんだ」
「はい……5のときからやってます」
「へぇ~そうなんだ……私もやってるんだけど、知り合いにやってる人いなくてさ、なかなかソロだと強いモンスター倒せないんだよね……」

 私は充電器につながれているゲーム機に大人気狩猟ゲームに出てくるドラゴンのシールが貼ってあるのを見て、それを会話の取っ掛かりに利用させてもらった。そのゲームは私が子どもの頃から今までずっとシリーズが続いてるから、私も知ってるしやってたこともある。最近はやらなくなっちゃったけど、ついこの間まではセフレに勧められてプレイしてた。

 ホントはすぐにでも響輝くんを押し倒してアレコレしたい。でも、まずは普通に会話して警戒心を解かないと。親しみさえ覚えてもらえば、後はこっちのものよ。急がば回れ。私の好きな言葉です。

「だからさ、お願い。フレンドになってほしいな」
「え、あ、はい……いいですよ」
「今ゲーム機持ってないからさ、RINEリイネの友達登録してくれないかな。そしたら後でフレンドコード送るから」
「あ、はい」

 響輝くんはテレビ台の上に置いてあったスマホをつかんでソファに腰かけた。響輝くんは遠慮がちに、人一人分あけて私と反対側の端っこに座っている。

 響輝くんのスマホ、これ最近出たばっかりの新しい機種だ。やっぱお坊ちゃん育ちなんだなぁ。金持ちの美形男子とか超絶にエロいわ。絶対に落とす。

 私も左手でスマホを取り出して、響輝くんと距離をグッと詰めた。そして体を傾けてスマホを近づける。このとき私は、響輝くんの左肩におっぱいを当ててやった。

 私の武器は、この母親譲りのメロンサイズおっぱいだ。響輝くんの表情はこの体勢じゃよく見えなかったけど、多分少しぐらいはこう……グラッと来ているはず。もうちょっと攻めてやれば、赤ちゃん作りたくなって下半身に血が集まったりするかな。

 そうして、私たちは互いのアカウントを友達登録した。しめしめ。私は火を吐くドラゴンとか雪山を泳いでるサメとかじゃなくて、響輝くんをハンティングしたいんだよね。

「響輝くんさぁ、普段はどうしてるの? 響輝くんイケメンだし……カノジョとかいたりして」
「いや……さすがにいないです」

 それを聞いて、私はホッとした。同時に私は、もうほとんど心の中から消えかけていた嫉妬の感情が自らの中に巣くっているのを自覚した。彼と同年代の女どもに響輝くんを取られたくない。そうなる前にさっさと大人の階段を上らせて、周りの女じゃ我慢できないようにしちゃいたい。これでも私は大学時代からの遊び人で、童貞イーティングにも慣れているから、寝室での格闘では負けないつもりだ。

「そっか……じゃあいつもは男友達とゲームとかして遊んでるの?」
「はい……テレビ電話つないで、何人かで会話しながら一緒にモンスターハンティングやったりします。僕ヘタなんで、みんなより狩人ランク低いんですけど」
「へぇ~……」

 私も、響輝くんと遊びたいな……そう言って、そっと肩を抱き寄せる。それでエロいムードにするはずだった。残念ながら、「私も、」と言いかけたそのタイミングで、響輝くんのスマホが鳴り出した。電話みたいだ。響輝くんはしばらく通話した後、

「友達に誘われて、ファミレスでお昼食べることになりました」

 と言った。そう言われては、さすがに引き下がらざるをえない。残念だけど、今日はここまでのようだ。

「そうなんだ。それじゃあ私はこの辺で失礼しようかな」
「あの、お米ありがとうございました。後でフレンドコード送っておきますね」
「ありがと。今度ひと狩りしようね」

 そんなやりとりを経て。私は自宅へと戻った。リビングのソファに寝転んだ私は、ニヤニヤが止まらなかった。

 ああ、エッチ。エッチしたい。響輝くんとエッチしたい。あの白い肌が興奮で熱を帯びて、赤く色づいていくのが見たい。呼吸を荒くして、切ない顔をして、快感の波におぼれていく姿が見たい。女の子よりも美少女している彼が、オスとしての本能に抗えなくなる姿が見たい。子孫を残そうという生殖本能の命令に従って、己の種を植えつける響輝くんが見たい。

 本丸には迫れなかったけど、外堀は埋められた……と思う。次こそはきっと大将首を狙いに行く。なぁに、響輝くんは死んだりしない。むしろその逆で、私の中に響輝くんの遺伝子を継いだ新しい生命が誕生するだけだ。

 ……もしことが思い通りに上手く進んだとして、本当に響輝くんの子ができたらどうしよう。一人で産み育てることになるのかな。お金ならいっぱいあるけど、金だけあれば育てられるもんじゃなさそう。

 最近は国もなりふり構わなくなってきて、色んな子育て支援制度があったりする。だから、シングルマザーで婚外子出産でも一人ならなんとかなるかな……? 私みたいなどうしようもない外道畜生の類でも、立派に少子化対策に貢献できるんだからサイコーじゃん。

 ……いや、そもそもそういう問題じゃない。せっかく響輝くんの遺伝子を継いでるのに、私みたいな最悪人間を親に持ったら子どもが可哀想な気がしてくる。私、自分で言うのもアレだけど、本当にしょーもないクズだからなぁ。

 まだ一線すら超えてないのに、こんな妄想をしてもしょうがない。さて、次はどうするかな。とりあえず交流するために、今晩一緒にモンスターハンティングしようかな。まぁ、ゆくゆくは私が響輝くんのことをハンティングしに行くんだけどね。

 よーし、絶対エッチするぞ!
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