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真偽のほどは
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「お待たせしました」
声変わり前の少年の声が、幸次の耳に入った。
「ああ、いいよ。俺も今来た所だから」
あれ以降、幸次と渚は度々会うようになった。といっても、することといえば、駅前でオタク向けのショップを回ったり、アニメ映画を見たりすることぐらいだ。
渚は、典型的なライトオタクであった。学校ではどちらかといえばインドア趣味の友人と付き合っているらしく、アニソンや声優などにもそこそこ詳しい上に、休日の朝の特撮番組なども欠かさず視聴しているようであった。ただ、中学生である故に、まだ自分でお金を稼げず、したがってライブ遠征で熱狂的に全国各地を飛び回ったり、特定の推しに大金を貢いだりはしない。そこがライトたる所以である。
この日も、二人は駅前で待ち合わせをしていた所だった。
「芦田さん、これ、作ってきたんです」
渚は、リュックの中から、何かを取り出した。
それは、若草色をした、布製のブックカバーであった。付箋代わりになる紐まで、ご丁寧に付けられている。
「へぇ、これ、自分で作ったの?」
「実は僕手芸も趣味で……たまに気が向いた時何か作ったりしてるんですよ。いつも何かと奢ってもらったりしてるんで、ちょっとしたお礼のつもりなんですけど……迷惑ですか?」
渚は、聊か照れ臭そうに頭を掻いた。その仕草も、何処か可愛げがある。流石は美少年、と言ったところか。
「いやいや、迷惑だなんてとんでもない。ありがたく頂くよ」
二人は、駅前の道を歩いた。県内では一番大きな駅で、商業的にそこそこ発展しているのもあり、相変わらず多くの人で殷賑を極めている。
「そういや、姉貴さんは元気? 元々姉の方と会う予定だったんだけど、いつの間にかこの二人で盛り上がっちゃってて何だか申し訳ないんだよね。そろそろ会えるといいけど……」
「うちの姉さん、ですか? やめた方がいいですよ……うちの姉さん凶暴だし……男の人の前では猫被ってるかも知れませんけど」
本来なら、早く姉を何処か嫁にやってしまいたいと思っている。けれども渚は、目の前の男性が、姉の新たな餌食になるかも知れないことを思うと忍びなかった。けれども、そのような事情を、幸次は知る由もない。
「え、そうなの……」
「ええ、僕もさんざん家で虐められてるので……だから姉さんのことは忘れてください」
それ以降、二人は姉の話はしなかった。
暫くして、二人はカラオケに入った。
渚は流行りの歌はあまり分からないようで、専ら特撮やアニソンなどを歌っていた。それは幸次の方も全く同じであった。渚は声変わり前ということもあって、高音が出るのが、幸次には羨ましかった。おまけに、凄くいい声をしている。聖歌隊のようだ、と言ってしまうと、少し大げさだろうか、と幸次は思ったが、しかし、そう思わされるぐらい、澄み渡った朗声であった。音容兼備とはこのことである。
一方の幸次は、カラオケ自体が久しぶりで、歌声の出し方すら忘れかけていたレベルであった。高音も出ないし、渚の歌声とは比べるべくもなかった。けれども、数年ぶりにカラオケで熱唱するのは楽しかったし、渚のレパートリーを知ることができたのもよかった。
その日の夜、幸次は、渚からもらった若草色のブックカバーを手に取って、一人眺めていた。
「姉さんのことは忘れてください」
渚が語った姉のことを思い出す。彼曰く、姉は弟が困り果てる程、性格に難のある人らしい。確かに、インフルエンザで休んだ時も、日を改めればいいのに、何故か彼女は自分の弟を送り込んできた。それがきっかけで彼と仲良くなれたのはいいことではあったが、それでも姉の方の意図は未だ測りかねていた。
もし、彼が嘘をついていたら。いや、そんなことをして、彼に何か徳があるだろうか。実は姉は彼が言うような気性の荒い人物ではなく、普通の人だったとしたら……けれども、真偽の程は分からない。前に一度会った時は、確かに普通の人だった。寧ろ、何処か温柔そうな雰囲気さえあった。弟の言う通り、猫を被っている、という可能性は無きにしも非ずだ。
その一方で、彼の言うことを真に受けて、大事なチャンスを逃してしまったら、とも考えてしまう。何にせよ幸次は、モテるかモテないかで言えば、確実に後者だ。異性との交際経験なんかまるでない。数少ないチャンスをモノにしなければ、永久に独り身のままである。
考えをまとめることができないまま、その日は眠りに就いた。
声変わり前の少年の声が、幸次の耳に入った。
「ああ、いいよ。俺も今来た所だから」
あれ以降、幸次と渚は度々会うようになった。といっても、することといえば、駅前でオタク向けのショップを回ったり、アニメ映画を見たりすることぐらいだ。
渚は、典型的なライトオタクであった。学校ではどちらかといえばインドア趣味の友人と付き合っているらしく、アニソンや声優などにもそこそこ詳しい上に、休日の朝の特撮番組なども欠かさず視聴しているようであった。ただ、中学生である故に、まだ自分でお金を稼げず、したがってライブ遠征で熱狂的に全国各地を飛び回ったり、特定の推しに大金を貢いだりはしない。そこがライトたる所以である。
この日も、二人は駅前で待ち合わせをしていた所だった。
「芦田さん、これ、作ってきたんです」
渚は、リュックの中から、何かを取り出した。
それは、若草色をした、布製のブックカバーであった。付箋代わりになる紐まで、ご丁寧に付けられている。
「へぇ、これ、自分で作ったの?」
「実は僕手芸も趣味で……たまに気が向いた時何か作ったりしてるんですよ。いつも何かと奢ってもらったりしてるんで、ちょっとしたお礼のつもりなんですけど……迷惑ですか?」
渚は、聊か照れ臭そうに頭を掻いた。その仕草も、何処か可愛げがある。流石は美少年、と言ったところか。
「いやいや、迷惑だなんてとんでもない。ありがたく頂くよ」
二人は、駅前の道を歩いた。県内では一番大きな駅で、商業的にそこそこ発展しているのもあり、相変わらず多くの人で殷賑を極めている。
「そういや、姉貴さんは元気? 元々姉の方と会う予定だったんだけど、いつの間にかこの二人で盛り上がっちゃってて何だか申し訳ないんだよね。そろそろ会えるといいけど……」
「うちの姉さん、ですか? やめた方がいいですよ……うちの姉さん凶暴だし……男の人の前では猫被ってるかも知れませんけど」
本来なら、早く姉を何処か嫁にやってしまいたいと思っている。けれども渚は、目の前の男性が、姉の新たな餌食になるかも知れないことを思うと忍びなかった。けれども、そのような事情を、幸次は知る由もない。
「え、そうなの……」
「ええ、僕もさんざん家で虐められてるので……だから姉さんのことは忘れてください」
それ以降、二人は姉の話はしなかった。
暫くして、二人はカラオケに入った。
渚は流行りの歌はあまり分からないようで、専ら特撮やアニソンなどを歌っていた。それは幸次の方も全く同じであった。渚は声変わり前ということもあって、高音が出るのが、幸次には羨ましかった。おまけに、凄くいい声をしている。聖歌隊のようだ、と言ってしまうと、少し大げさだろうか、と幸次は思ったが、しかし、そう思わされるぐらい、澄み渡った朗声であった。音容兼備とはこのことである。
一方の幸次は、カラオケ自体が久しぶりで、歌声の出し方すら忘れかけていたレベルであった。高音も出ないし、渚の歌声とは比べるべくもなかった。けれども、数年ぶりにカラオケで熱唱するのは楽しかったし、渚のレパートリーを知ることができたのもよかった。
その日の夜、幸次は、渚からもらった若草色のブックカバーを手に取って、一人眺めていた。
「姉さんのことは忘れてください」
渚が語った姉のことを思い出す。彼曰く、姉は弟が困り果てる程、性格に難のある人らしい。確かに、インフルエンザで休んだ時も、日を改めればいいのに、何故か彼女は自分の弟を送り込んできた。それがきっかけで彼と仲良くなれたのはいいことではあったが、それでも姉の方の意図は未だ測りかねていた。
もし、彼が嘘をついていたら。いや、そんなことをして、彼に何か徳があるだろうか。実は姉は彼が言うような気性の荒い人物ではなく、普通の人だったとしたら……けれども、真偽の程は分からない。前に一度会った時は、確かに普通の人だった。寧ろ、何処か温柔そうな雰囲気さえあった。弟の言う通り、猫を被っている、という可能性は無きにしも非ずだ。
その一方で、彼の言うことを真に受けて、大事なチャンスを逃してしまったら、とも考えてしまう。何にせよ幸次は、モテるかモテないかで言えば、確実に後者だ。異性との交際経験なんかまるでない。数少ないチャンスをモノにしなければ、永久に独り身のままである。
考えをまとめることができないまま、その日は眠りに就いた。
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