まおはちゆと結ばれたい

ちぇのあ

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邂逅

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ここはとある異世界のヤミノ魔王城。
俺の名前は真桜。
穏健派の先代魔王が亡くなり、魔王を継いだ者だ。

真桜「この地を統一する時が来た!」

箒に跨った女魔族「おおー!!」

今しがた魔王城に侵攻してきた勇者達を殲滅し軍議で勇者の剣を叩き割り、魔族による世界の統一を宣言し雄叫びが室内に轟く。

伝令「魔王様!城内へ敵が進行して参りました!」

そこへ伝令が単騎で術士が攻めてきたと報告にくる。
魔王は一同を引き連れ侵攻への序章と言わんばかりに現場へ駆ける。

千癒「んう・・・」

そこには孤軍奮闘するが魔力が底を突いたのか杖で火球を受け止める可憐な美少女がいる。
その姿を確認して魔王を始め幹部達に動揺が走る。

幹部「見覚えがあると思ったら・・・先代魔王の・・・」

先代魔王と親交のあった一族の娘ではないかと。
若い頃の母の姿と瓜二つだと言う。
娘を保護し来客室で話を聞く。

千癒「なんであたしが助けられたか考えてみたけどわからなかった。そういう理由だったんですね・・・」

話を要約すると先代魔王との親交のきっかけは激戦の最中に受けた致命傷を、治癒院を営んでいた娘の母に治してもらった事で始まった。
当然ヒカリノ王国からすれば害でしかなく結果として迫害され娘のみ中立都市に地を移せた。
家族は人質にされ王国に魔王討伐隊の徒党へ組まされる。
だが勇者達にも酷い扱いを受け、途中から一人で旅を続ける。
逃げ出せば家族が殺される、娘に選択肢は無い。
そして遅ればせながら今乗り込んできたと言う事だ。

真桜「丁度良い。それならヒカリノ王国へ攻め入り家族を連れ出す必要があるな。これから総攻撃を仕掛ける所だったのだ。」

千癒「あ、母が中立都市の治癒院に月に一度訪れます。」

真桜「なるほど、王国と違い警備は薄く物資が豊富だな。魔王軍の拠点として奪うには条件が良い・・・ん?」

娘を見ると悲しそうな表情だ。彼女からすれば家を追い出され、やっとできた安住の地が再び奪われる事に他ならない。なんだろう、このなんとも言えない感情は・・・。

真桜「いや、今の活性化した経済の方が物資の調達をするには好都合だ、無駄に兵を犠牲にする必要もあるまい。」

安堵した表情に変わる。そうだ、拠点は別の地点を奪えば良いし中立都市を攻める必要性は無いのだ。

真桜「話は済んだな、まずは貴様の…」

千癒「あの頃みたいに…」

真桜「ん?」

千癒「子供の頃みたいにちゆって呼んでください!」

しかし幼少の記憶は厳しい父の稽古の日々しか思い出せない。先代魔王に会いに母と共に来たそうだが…

千癒「手に傷が…大丈夫ですか!」

真桜「勇者に付けられた傷か…ふん、こんなもの怪我の内に入らぬわ」

しかし娘は心配そうに手のひらで傷口を見ると、手のひらで傷口を包み魔法を詠唱する。この優しくて温かい感触は初めてじゃない。あの頃の想い出があふれでてくる。

真桜「・・・・・・・・・ちゆちゃん?」

千癒「・・・まおくん!」

そうだ、母と一緒にお城に来たちゆちゃんとよく遊んでいたんだ。当時は支配域の外を冒険だと行って
ちゆちゃんを連れまわしていたんだ。野生の魔獣に出くわして逃げ回って怪我をしてちゆちゃんに治してもらって・・・それがバレて叱られて・・・。

懐かしむのは良いがちゆちゃんによると城へ行く道中も斥候に追けられており今城から出れば王国の斥候に見つかり捕獲されるそうだ。ヒカリノ王国め・・・ますます許すまじ。そうなるとちゆちゃんの部屋を設ける必要が出て来たな。

真桜「魔王寮に空きはあるか?」

幹部「申し訳ございません、満室でございます。」

幹部「恐れながら申し上げます、先代魔王様の部屋で使われていたベッドで共に寝るのが最善かと・・・」

千癒「えっ・・・!」

ふぁっ!?同室で寝るなんて急展開すぎないか!?
ちゆちゃんを見れば見る見るうちに頬が赤く染まっていく。

幹部「親交のある者を間者兼刺客として差し向けられた前例がございます。しばらくは魔王様をお守りする為に私が監視に付きますが・・・」

真桜「なるほど、間者であるかどうかを見定めると同時に幼馴染としての仲を取り戻す事もできると・・・」

千癒「まおくん・・・あたし間者なんかじゃないよ?」

うるうるとした瞳をこちらに向けられる。う・・・また罪悪感が。

真桜「わ、わかってるよ。前例があるから仕方なくだな・・・」

しどろもどろに言い訳をするように答える。

幹部「まあ、時間が経てばわかる事ですので・・・」

ちゆちゃんはこれまでの旅で疲労が溜まっているようで、一足先に幹部に案内され寝室へ付いていく。
俺は戻ってきた幹部と共に軍議を開き攻撃目標を再確認する。

真桜「先代の時に奪われた地、蒼月《そうげつ》  を取り戻すぞ!」

ミノタウロス「王国兵など両刃の斧《ラブリュス》の錆にしてやるわ!」

蒼月は王国を睨む拠点として重要な役割を果たしており、さらに王国の財源である炭鉱と上質な水源兼水路に寄る物流を抑える事もできる。王国を弱体化させるには必須なのだ。

軍議を終え寝室の扉を開ける。ちゆちゃんはツインベッドの右の方で眠っている。
このツインベッドは2つが独立してて離す事もくっつける事もできる仕様だ。寝返っても良いようにくっつけて置いたのが功を奏し、俺がベッドへ行けばすぐ隣にちゆちゃんが寝ている状況になる。
俺が寝たらイビキをかいてないか心配だな・・・。
相当疲れが溜まっていたのだろう。良い表情で眠っている。しかし改めて見るとなんという美しさだ。身長はあの頃に比べればある程度伸びたが当時とあまり変わらない程とも言える。魔王である手前、配下の監視の前で鼻の下を伸ばす事はできない。ここでやるべき事がある。

真桜「…魔眼」

壁の向こうを透過し幹部の様子を確認する。椅子に腰掛け事務作業をしているようだ。よし、今がその時だ。

ちゆちゃんの寝顔をここぞとばかりに見いる。色白の頬に柔らかそうな肌、長く伸びた黒の髪は柔らかく彼女の輪郭を包む…どれを取っても非の打ち所がない。…数分見て満足した。明日は魔王城の施設を一通り説明した方が良いだろう。説明を終えれば蒼月へ攻め込む…忙しくなりそうだ。
俺も…眠るとしよう。
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