まおはちゆと結ばれたい

ちぇのあ

文字の大きさ
10 / 10

侍の国

しおりを挟む
門を潜る際には検問はなく、陽水に引けを取らない活気が街に満ち溢れている。
目の前の露店には青海の先から輸入されたと言う、この国の世界地図まで販売されているから驚きだ。

千癒「あたし達以外にも浴衣を着ている人が多いね!」

真桜「そうだね、浴衣で着て正解だったようだ。」

地図を広げると自分の知らない領域がいくつか描き示されている。
黒海に青海・・・未開地域・・・冒険心がくすぐられる。
縁日の露店を進み中央の広場へ進むと、何やら太鼓や笛の音に合わせて外側を人々が中央を囲むように踊っている。
その内側を美しい女性達が舞っている。

真桜「周りの人に話を聞いたところ、年に一度催される宝刀祭だそうだよ。」

千癒「あの刀・・・怖い。」

目を凝らせば、遠くからでも禍々しさが伝わってくる。
空気は場に似合わないように寒い。
見れば腕に鳥肌が立っている。
この広場に長居は無用だ。
笛の音が遠ざかっていき、また活気の良い喧噪が辺りを包む。
もう大丈夫だろう。

真桜「ちゆちゃん、もう大丈夫かな?」

千癒「うん、びっくりしちゃった。相当年代物の刀だったのかなぁ?」

樹箱に厳重に仕舞われていた刀の切っ先は赤く染まっていた、
まるでつい最近何かを斬ったかのように・・・深く考えるのは止めたほうが良さそうだ。
縁日をしばらく巡ると良い匂いがする。
近くで見れば芋や海藻を鍋で煮詰めているようだ。
この匂いは・・・魚介出汁を使っている?

真桜「少し早いけど、ここでお昼にしようか。」

千癒「やった♪ちゆ鍋料理大好き~。」

簡易的に作られた部屋に入り、畳に腰を降ろす。
時期は温かくなり出された飲み物はよく冷えた麦茶。
道中の田園の麦から作ったのだろう。
濃厚であるが味わいは澄んでいる。

千癒「お茶おいしいね♪」

真桜「そうだね、歩き疲れた体に染み渡るよ。」

喉を爽やかな麦が駆け抜けてゆく。
昼から贅沢をして大きめの鍋のサイズを二人でよそい食べる。

千癒「具が染み込んでいておいしい♪」

真桜「ほほう…これは何回も熱を加えて冷ますのを繰り返さないとできない柔らかさだ。」

よく染みた昆布や大根を美味しく頂く。
浴衣のちゆちゃんを対面で見るのも僥倖だ。
和の雰囲気を楽しみつつ昼食を完食する。

千癒「まおくん、ごちそうさま!」

真桜「旅の醍醐味のひとつは美味しいごはんだからね!美味しく食べれたかな?」

千癒「うん、満腹だよ~。」

真桜「それは何よりだね♪」

食後にちゆちゃんを連れて城内を観光すると言う体裁で潜入することにした。
どうやら天守閣で軍議が行われているらしい。
今回は魔王としての力を使い、人物として感知されにくい状態を30分間継続させる。
並みの者では存在に気付く事は無い。
数多の歴戦を経て隠形降魔として畏れられたのは伊達ではない。

具足鎧の衛兵達が階段を行き来している。

千癒「わぁ、こんなに近いのに全然気付かない~。」

真桜「そうだね、それにしてもこの柱は立派だなあ。」

樹齢300年はありそうな大黒柱を中心にして、階段が続いてゆく。
途中で茶室のような部屋に座りちゆちゃんとくつろぐ。
上の方から声が小さいが聞こえてくる。
上に登れば何か情報が得られるだろうか。

千癒「まおくん、まおくん。」

真桜「あ…どうしたの、ちゆちゃん?」

千癒「も~、さっきから何回も呼んだのに~。」

真桜「ごめんね、つい考え事しちゃったよ。」

千癒「今は魔王じゃなくて、ただのまおくんなんだから、難しい事は考えちゃだめだよ?」

真桜「うんうん、そうだよね。」

千癒「お昼からちゆを可愛がって欲しいなっ?」

静かに畳に横になり僕を見つめるちゆちゃん。
浴衣が程よくはだけて魅惑的な姿が映り、黒髪ロングの可憐な美少女に見つめられる。
この国の情報など気にしている場合では無い。

真桜「日が暮れるまでちゆちゃんをかまっちゃおうかな♪」

千癒「このお部屋でお泊まりしてもいいんだよ?♪」

まったく、お泊まりデートは最高だぜ!
ちゆちゃんを存分に撫でていると、下りの階段から強い気配を感じる。
登ってきた人物は迷わずこちらに向かい襖を開ける。

????「…気のせいか。」

気配を感知しているのか。
咄嗟に霧隠れを併用して正解だった。
件の人物はまた階段を上がっていった。
ちゆちゃんと話をして、続きは城下町の旅籠でしようと決めた。
階段まで行くと上からの話し声が鮮明に聞こえる。

家臣「魔族討伐の同盟はつつがなく進んでおります。」

侍の国の大名「であるか。しかし宝刀祭…お主の手にも余るか。」

剣聖「は、まだ修行中の身にござれば…。それを抜いてもあの剣は異形なり。城下町どころか街道の外からも悪い噂が絶えない。」

侍の国の大名「罪人に罪人を斬らせとったんじゃ…余興でな。あの剣の管理法に生き血を滴らせるとある。あの後は笑えんかったわい。」

家臣「剣が罪人の斬口から離れぬと思うたら、赤く血管を浮かせ吸っておりましたな…。」

家臣「剣聖殿の御助力が無ければ、討ち取る事叶いませなんだ。」

剣聖「男の意思に反して刀が暴れ、片腕とは思えぬ怪力、剣速…。腕を斬り落とした後も剣だけが動くのを見て身が震え申した。恐らくこの国から生まれた物では無いのだろう。」

話を聞くにあの剣の処分に困っているようだ。
器次第では制御不能になり、厄災と化す。
文字通り両刃之剣と言える。
それでも手離せないのだ。
爆弾を他人にあげる馬鹿は居ない。

真桜「…降りようか。」

千癒「うん!」

この国の闇を垣間見つつ、活気ある光の空間へ逃れるように来た道を引き返すのであった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...