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犬人の少女
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俺はうきうきとした足取りで、表通りから外れる。ここから先は、未知の領域だ。
荷役人たちが泊まる安宿の路地を通って裏へと抜ける。そこに広がっていたのは、長屋のようないくつもの家が横に連なったような建物だった。建物の隙間から見えるその奥側には、畑がずっと遠くまで広がっているようだった。
なるほど。これが住民の、一般的な住居なのか。
荘の職業分布は農家が五割、運送業が一割、それに付随する鍛冶や宿場などの商工業が一割、その他の雑多な仕事が残り三割といったところで、まさに農業を中心として回ってるといってよい。
だが、農家のうちで農地を所持して自立しているのはそのうち半分。残りの半分は小作農で自前の農地を持たず、雇われて他人の農地を手伝うサラリーマン農家である。
小作農たちはこういった長屋に住んで、農地のある場所まで出かけてゆく、ということなのだろう。
……自作農の数は領地の豊かさを示すともいうが、パワーズ領はお世辞にも豊かとはいえないからな。こうして長屋が立ち並ぶ光景もむべなるかな、という気分だ。
そもそも、気候や立地的に農産業にあまり向いていない気がするんだよなあ……。別の産業を主力にした方がいいんじゃないかと個人的には思うんだが、辺境の守備を任されている手前、自前での食糧安定確保は必須でもあるので、なかなか難しい問題である。
そのようなことをつらつら考えながら何となく歩いているうちに、知らずのうちに長屋の裏手に来てしまった。
そのことに気付いたのは、行く手に幅一メートルほどのゆるやかに流れる小川に行き当たったからだ。
そしてその小川の傍らには、俺と同年代ほどに見える子どもがしゃがみこんでいた。
全裸で。
どうやら小川の水で身体を拭いているところであったらしく、褐色の肌が水に濡れ光っている。胸元がわずかに膨らんでいるから、女の子なのだな、とわかった。
というのも、顔を見ただけでは性別がわからなかったからだ。
金の瞳に赤い髪。俺たち人族に比べて前後に長い流線型の容貌。その顔は薄く毛に覆われており、耳は、俺たちのある場所よりやや上方後部に、ピンと立って生えている。
その顔は俺の知っている動物に例えるなら、犬かオオカミといった動物と、人の顔とを足して二で割ったような感じに見えた。
犬人。大陸ではそのように呼ばれている種族だ。よくよく見てみれば、褐色の肌と見えたのも、実際には赤く短い産毛に覆われているのだ。ただ、身体の首元から下腹部にかけてだけは無毛で、俺たち人族と同様の肌が覗いている。
犬人のことは知識では知っていたが、実際間近で目にしたのは初めてだった。総じて人族より筋力と敏捷性に秀で、聴覚や嗅覚が鋭い種族だという。細かい作業は苦手だが力仕事に向くので、荘内では荷運び人足に従事しているものが多いのだと聞いている。
ともかく俺は、初めて目にした驚きと好奇心で、まじまじと観察してしまっていた。……相手が全裸の少女だということを忘れて。
荷役人たちが泊まる安宿の路地を通って裏へと抜ける。そこに広がっていたのは、長屋のようないくつもの家が横に連なったような建物だった。建物の隙間から見えるその奥側には、畑がずっと遠くまで広がっているようだった。
なるほど。これが住民の、一般的な住居なのか。
荘の職業分布は農家が五割、運送業が一割、それに付随する鍛冶や宿場などの商工業が一割、その他の雑多な仕事が残り三割といったところで、まさに農業を中心として回ってるといってよい。
だが、農家のうちで農地を所持して自立しているのはそのうち半分。残りの半分は小作農で自前の農地を持たず、雇われて他人の農地を手伝うサラリーマン農家である。
小作農たちはこういった長屋に住んで、農地のある場所まで出かけてゆく、ということなのだろう。
……自作農の数は領地の豊かさを示すともいうが、パワーズ領はお世辞にも豊かとはいえないからな。こうして長屋が立ち並ぶ光景もむべなるかな、という気分だ。
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そのようなことをつらつら考えながら何となく歩いているうちに、知らずのうちに長屋の裏手に来てしまった。
そのことに気付いたのは、行く手に幅一メートルほどのゆるやかに流れる小川に行き当たったからだ。
そしてその小川の傍らには、俺と同年代ほどに見える子どもがしゃがみこんでいた。
全裸で。
どうやら小川の水で身体を拭いているところであったらしく、褐色の肌が水に濡れ光っている。胸元がわずかに膨らんでいるから、女の子なのだな、とわかった。
というのも、顔を見ただけでは性別がわからなかったからだ。
金の瞳に赤い髪。俺たち人族に比べて前後に長い流線型の容貌。その顔は薄く毛に覆われており、耳は、俺たちのある場所よりやや上方後部に、ピンと立って生えている。
その顔は俺の知っている動物に例えるなら、犬かオオカミといった動物と、人の顔とを足して二で割ったような感じに見えた。
犬人。大陸ではそのように呼ばれている種族だ。よくよく見てみれば、褐色の肌と見えたのも、実際には赤く短い産毛に覆われているのだ。ただ、身体の首元から下腹部にかけてだけは無毛で、俺たち人族と同様の肌が覗いている。
犬人のことは知識では知っていたが、実際間近で目にしたのは初めてだった。総じて人族より筋力と敏捷性に秀で、聴覚や嗅覚が鋭い種族だという。細かい作業は苦手だが力仕事に向くので、荘内では荷運び人足に従事しているものが多いのだと聞いている。
ともかく俺は、初めて目にした驚きと好奇心で、まじまじと観察してしまっていた。……相手が全裸の少女だということを忘れて。
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