影の力で護ります! ~影のボスを目指しているのになぜだか注目されて困っている~

翠山都

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俺は……自由だ……!

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 僅かな軋み音を立てて、入り口が開く。入ってきたのはマルサだ。俺の足跡を追って、真っ先にここへとやってきたのだ。
「坊ちゃま、ここにいらっしゃるのでしょう? 観念して出ていらっしゃい」
 マルサが納屋の中を探し回るが、俺の姿を見つけることはできない。それもそのはず、俺は入り口のすぐ脇の暗がりに、小さくなって潜んでいたのだから。
 もちろん『夜の帳』を発動して。
 このくらいの暗闇であれば、『夜の帳』の術は効果覿面だ。視覚で俺の姿を見つけるのは、ほぼ不可能といっていい。だが嗅覚や聴覚をごまかせるわけではないから、俺は動かずにじっとしている。
 マルサは訝しげにしていたが、ついに諦めて納屋の外へと出て行った。
 ……よし!
 用心のためしばらくそのままじっとして、五分ほど過ぎたかという頃合いで、『夜の帳』を解除し、あたりに人の気配がないのを確認して、納屋をそっと抜け出した。
 そのまま屋敷の外を目指す。領主の館であるから当然のように守衛がいるのだが、もちろんそこも考えてある。防壁の高さは約三メートルほど。梯子やロープなどの道具を用意しておけば、越えるのは難しくない。
 とはいえさすがに梯子を手に入れるのは難しかったので、納屋から鉤付きロープをちょろまかしてきた。正門と裏門のちょうど中間あたり、領地の南側に降りるのが、市街地から最も遠く、警備が薄い。これも事前に調べていたことだ。抜かりはない。
 南の防壁を乗り越え、俺はついに、自分一人で館の外へ降り立った。
 俺は……自由だ……!
 妙な感慨が沸いて、つい大声で叫びたくなったが、ぐっと我慢する。外に出るのが目的ではない。自分の目で、この世界を見て回るのが目的なのだから。
 マルサはすぐにでも気づくだろう。動ける時間は少ないと思った方がいい。急がなければ。
 ここから市街地までは、子どもの脚だとけっこうかかる。俺は体内の魔力を活性化させると、全身に行き渡らせるように展開した。こうして肉体を魔力で補助することで、筋肉の疲れを軽減してくれる。さらに強い魔力を加えれば、いわゆる身体強化魔術を使えるのだが、これも今の俺にはまだ魔力が足りないので我慢。
 パワーズ領内には三つの荘と農園が存在しているが、屋敷に最も近い位置にある荘はいわば城下町といった趣で、最も大きな規模と人口を抱えている。屋敷からも徒歩で迎える距離であり、俺が休息日に礼拝している神殿があるのもここだ。いつも神殿への行き帰りは決まった道を護衛と二人乗りした馬の上から眺めるだけなので、町の様子を詳しく知りたくとも、その機会はまったくなかった。
 それでは、異世界転生した意味がないではないか。
 なので俺は秘かに、自由に街を見て回れる機会を、ずっと狙っていたのだ。
 あと、マルサの強固な監視をかいくぐってみせるのもな!
 元の年齢がいくつだったのかはわからねども、今の身体の実年齢に精神が引っ張られている部分ももしかしたらあるのかもしれないなぁ。
 この機会を逃さぬよう、俺は速足で荘を目指した。
 およそ二十分くらいは歩いただろうか。ようやく荘へ到着。この時代、地図でいうなら人の生活圏は面じゃなく点と線なので、拠点と拠点の間は、本当に街道しかないんだよなあ……。
 国境からは離れたこの辺りは警備もさほど厳しくなく、俺は誰かに見とがめられることもなくすんなりと荘に入る。荘の中央には東西に延びる広い馬車道があって、そこがメインストリートになっている。西の馬車道は荘の外までずっと伸びていて、国境付近の別の荘へと続いている。
 馬車道の左右には市場や宿場が立ち並び、多くの人が行き交いしていて、ここだけ見ればいっぱしの市街であるようにも見える。俺がいつも足を運んでいる神殿もこの道筋にある。だが一本裏手に入れば、広がっているのは農園と放牧地ばかりであると話には聞いている。
 聞いているが見たことはない。俺が見たことあるのは一番きれいな表通りだけだ。悪のボスを目指すものとして、これはよくない。絶対よくない。
 領内の裏の顔をこそ、俺は見たいのだ!
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