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4章 大志の章

西島の邪竜

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 エルニスとキャンベルが東島に向かったのと同じころ、ボブとシェリーはボートに乗り、西島を目指し、懸命けんめいにオールを動かしています。
五分後、二人を乗せたボートは西島の砂浜に差しかり、二人は西島の地に足をつけました。
「ここが西島か・・・」
「うっそうとしたジャングルの島ですわね、確か、この先に村があると言っていましたわ」シェリーが歩き出すと、ボブも後に続きます。

 ジャングルの中は、たくさんの木々やしげみで昼であるにもかかわらず薄暗うすぐらく、
木漏こもれ日のおかげで、何とか先が見えると言った状態です。
そうやって二人が草木生い茂る、道なき道を進んで行くと、木々が開けた場所に出て、
そこには木と葉で作られた粗末そまつな小屋が点在てんざいする村にたどり着きました。

「わあ、こんなところに村があるぞ」
「ここはかつて存在した魔法文明の者たちの子孫の村と聞きましたわ」シェリーがそういうと、
早速、毛皮を使った簡単な服を着た女がかまどにつぼを置き、魔法の呪文でかまどに火をつけて調理ちょうりを始めます。
「わあ、本当に魔法を使ったぞ!」ボブが感心して辺りを見渡すと、人の姿すがたはまばらでした。
「あれ?人の姿が少ないようだが・・・?」二人が辺りを見回していると、ボーズ頭の村長がやって来て言いました。

「これはな、邪竜じゃりゅうがはやらせた病気のせいなのじゃ」
「病気・・・?邪竜・・・!?」
「うむ、突如とつじょジャングルの奥地の洞窟どうくつ邪悪じゃあくなドラゴンが現れてな、
ヤツが放つ呪いの息のせいで、村の者たちの半数以上が体調たいちょうをくずして、寝込んでしまったのじゃ」それを聞いたシェリーはハッとしました。
「呪い・・・病気・・・!そうか、北島の子供たちが寝込んでしまったのは、その悪いドラゴンの仕業しわざだったのですね!?」
「しかも、ヤツが住み着いているのは、ヒーラー草がある洞窟の中なのじゃ。ヤツのせいで、この病気にきそうなヒーラー草を採りに行くこともできん・・・」

「安心しろ、おれとシェリーがその邪竜を退治し、病気を治してやるぜ!」それを聞いた村長はおどろきました。
「なんと!あのドラゴンを退治してくれるのか!?じゃが、あの者は腕利うでききの魔法使いで戦士である男三人でもかなわなかったぞ!それでもやってくれるのか!?」
「ああ、任せろ!」
「仕方ないですわね・・・!」こうして、ボブとシェリーは邪竜がいる洞窟を目指して進んで行きます。

 二人は、洞窟を西へと進んで行きます。茂みをかき分け、毒の沼を超えていくと、岩壁いわかべに洞窟の入り口がぽっかりと口を開けているのを見つけました。
「あれが、邪竜がいる洞窟か・・・?」
「・・・ええ、気配を感じますわ・・・!」ボブとシェリーが身構えると、洞窟の奥から、緑色の二つの光が現れ、
それは、大きなコウモリの翼になっている前足と、鋭い爪を生やしたワシの様な後ろ足、悪魔を思わせるとがった尻尾、
長いくちばしと、後ろにそったとさかのある頭と黄色のうろこを持つ一頭の邪竜へと姿を変えました。邪竜は緑色に輝くひとみでボブとシェリーを見えます。

「こいつが例の邪竜か・・・!」
「・・・まるで翼竜よくりゅうですわね・・・!」邪竜はもりのようにとがった尻尾をりかざしてきましたが、ボブはそれを刀で受け止めます。
「ぐ・・・!なんて力だ・・・!」力は邪竜の方が強く、ボブはじわじわと後ろにずり下がります。

「・・・そうだ!覇者はしゃのメダルを・・・!」ボブはすぐるから預かった覇者のメダルの力を使い、
肉体を強化することで、邪竜と互角のパワーとスピードで尻尾を弾き、邪龍の頭に刀を叩きつけます。
邪竜がひるんだすきに、ボブは相手から離れ、シェリーが魔法の光線をてのひらから放ちますが、
邪竜は大口を開けて、どす黒い呪いの息を吐き出します。光線と毒気はおたがいにぶつかり合い消滅しょうめつしました。

「・・・手ごわいな・・・!」
「ボブさん!二人の力を合わせましょう!」シェリーは光の魔法をボブの刀に宿すと、
邪竜の毒ガスを切り裂き、ヤツの胴体を一文字に切りつけました。邪竜は苦しみのうめき声をあげて炎上し、
黒く焼けげ動かなくなると、ボロボロの灰になってくずれ落ち、その灰の中から、十歳くらいの一人の少年が現れたのです。

「えっ!?」
「こんな小さな子供があの邪竜の正体だったのか・・・!?」少年はそれを聞いて言いました。
「・・・今、小さいって言ったな!?みんなそう言うんだ!そうさ、村のみんなは、小さくて、魔力がなくて、大した力もないぼくをバカにするだけバカにした!
それで、どうしようもないくやしさの中、夢の中にカオスと名乗る悪魔が現れてぼくに言ったんだ!
『あの洞窟の中にあるオーブにさわれば、お前がのぞむだけの力を得られる』と!
それでぼくは邪竜のたましいで力を得て、村のやつらに復讐ふくしゅうしてやるとちかったんだ!」

 ボブとシェリーはヒーラー草をたくさん持って少年を連れて帰り、村の者たちに一部始終を話しました。
「なに!?あの洞窟に封印してあった邪竜の魂を取り込んだじゃと!?」村長はおどろきをかくせませんでした。
「そうなんです。それでこの子はあのような邪竜になってしまったんです」シェリーが言い終わると、村の者たちは口々に言います。

「全く!落ちこぼれの分際ぶんざいで、おれたちを苦しめてくれたな!」
「悪魔なんかと取引しやがって!」
「もう、あなたはうちの子じゃありません!」それを聞いているうちに、ボブが軽蔑けいべつするかのように言い放ちます。
「なるほど、かつてここにあった魔法文明がなぜほろんだのか、よくわかったぜ!」
「な・・・なんじゃと!?」村長はいきりたちます。

「なぜなら、その無理解むりかいさがこいつを邪竜にしてしまったんだからな・・・!」それを聞いた村人たちは、ハッとします。
「お前たちはなぜ、こいつを差別するんだ!?魔力に恵まれなかったからか?力がないからか?自分たちと違うからか!?
そんないじめ差別する心があったから、こいつは復讐ふくしゅうしんに取りつかれ、
あのような邪竜に姿を変えてしまい、病気が広まった!おそらく、かつてのアトランティス文明が滅んだのも、
自分たちとは違う者を追い出そうとする排他的はいたてきな心が原因じゃないのか!?」

「そうかもしれませんわね。皆がこの子のありのままの姿を受け入れてくれたら、
あんな邪竜は生まれなかったし、流行はやらなくてもいい病気も流行ることもありませんでしたわ。このままだったら、また、第二、第三の邪竜が現れますわね・・・!」
それを聞いた村人たちは、たちまち反省モードになりました。

「・・・そうか・・・ワシらのせいで、このような病が広まってしまったのか・・・わかった・・・その子を許そう・・・!」
「ごめんね、もう魔法が出来なくてもいいから、戻ってらっしゃい・・・」少年の母は、少年をむかえ入れます。
そして、ボブとシェリーは、んできたヒーラー草の半分を村に置いていき、北島へと帰って行きました。
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