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5章 慈愛の章

妖精のコケ

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 エルニスとキャンベルの店の店番をしていたボブとシェリーは、留守中のエルニスたちに代わって、お城に呼ばれたのです。

「え?アイリス王女が病気に!?」ボブがそう言うと、スーツをまとった初老の執事長しつじちょうが答えます。
「はい、王女様の部屋からティーカップが割れる音がして、専属せんぞくメイドが様子を見たところ、王女様が意識を失って倒れておられたのです!」
「それで、王女様は大丈夫ですの?」シェリーが心配そうにたずねます。

「それで現在、魔法医師のカイン殿どのてもらっております・・・!」しばらくして、カインが部屋から出てきました。
「おお!カイン殿、どうでした!?」
「・・・あれは自然の病気ではありません。おそらく、相手に呪いをかける魔法薬のたぐいと思われます」
「なんと!呪いの薬ですと・・・!?それで、助かるのですか!?」これにカインは首をかしげます。

「・・・呪いはそこまで強くはないので、『妖精のコケ』を調合した薬があれば助かるでしょうが・・・!しかし、手遅れになると危険です・・・!持って3日でしょう・・・!」それを聞いた執事長は、うなだれます。
「なんと・・・!おいたわしや・・・!」それを聞いたボブは言いました。
「その妖精のコケがあれば助かるんだろ!?どこを探せば・・・!?」

「それでしたら、レッドルビーの町の近くの森の奥、妖精の隠れ里になら、コケがあるはずです」執事長はそう答えました。
「ああ、あの妖精たちの隠れ家か・・・!」
「それでしたら、以前、そちらに行ったことがありますわ!」それを聞いた専属メイドが言います。

「それでしたら、ぜひともコケをお願いします!」こうして、ボブとシェリーは、軽便けいべん鉄道てつどうに乗って、西のレッドルビーへ向かい、そこから妖精の隠れ里のある森へと向かっていきました。
 幸い、森にはきりが出ておらず、すんなりと隠れ里へ行くことができました。

「おや、そなたたちは・・・!何用でここに?」里長がたずねます。
「スピネル国の王女が病気になってしまって・・・それで、それを治すのに妖精のコケが必要ですの!」シェリーが説明しました。

「おお、確かに、あのコケはこのあたりでしか採れん・・・!恩人のアンタたちの頼みなら聞いてやろう・・・と、言いたいところだが、突如、このあたりに8本足の大トカゲの化け物が現れたのじゃ!ヤツはあの『混沌カオス帝国エンパイア』の手の者だと名乗った・・・!そいつはワシの娘をさらい、妖精のコケの場所を教えなければ、娘を殺す!と言って来たのじゃ・・・!?」
「そいつを倒せばいいんだな!?わかった、任せておけ!」
「それで、ヤツはどこに・・・!?」
「ヤツは、我らの聖地である泉の洞窟どうくつにおる・・・!ここよりすぐ北じゃ・・・!」

 ボブとシェリーは泉の洞窟の前にやってくると、洞窟の奥から赤く光る二つの目が見え、やがて、8本の足を持つ、緑のオオトカゲが現れたのです。
「こいつが帝国のモンスターか・・・!?」

「ワシはバジリスク!混沌の帝国カオスエンパイアの幹部候補だ・・・!そうか、コケのありかを伝えに来たのか・・・!?」
「いいや!お前を倒しに来たんだよ!」ボブは刀を抜いて構えます。
「おっと!それ以上近づくと、この娘の命はないぞ!」バジリスクは尻尾に巻き付けているゴブリンの少女を差し出します。

「くっ・・・!卑怯な・・・!」
「そもそも、なぜコケを・・・!?」シェリーが尋ねます。

「ワシの毒素や呪いは、例の妖精のコケでなくては治せない・・・!我らが帝国に歯向かう者たちにワシの毒をばらまけば、反逆者どもは、我々にしたがうしかなくなるのだ!」それを聞いたボブとシェリーは、いきどおりを隠せませんでした。

「そんなことはさせねぇ!」
「右に同じですわ!」
威勢いせいはいいな!だが、今のお前たちに何ができる!?」バジリスクは人質を前に振りかざします。

「あら?あなた、何も気づいていませんのね?あなた、後ろから狙われていますわよ!?」それにバジリスクははっとします。
「何!?ワシの後ろに誰かいるのか!?」バジリスクが後ろを向いたスキに、シェリーはヤツの背中に矢を放ちます!

「ぐっ・・・!?」バジリスクは痛さのあまり人質を放し、そのスキにボブが人質を遠くへ逃がします。
「くっ・・・!小娘が・・・!そっちも姑息こそくな真似を・・・!」
「あなただって、人質を取ったでしょう?これでおあいこですわ!」

「シェリーは機転が利くぜ!今度はこっちの番だ!」ボブはバジリスクの爪をかわしながら刀で切り付けていきます。そして、額に刀を突きさすと、バジリスクは断末魔だんまつまの叫びをあげて倒れました。
「や・・・やったぞ!」

 ボブとシェリーは里長の前にいます。
「おお、よくぞワシの娘を救い出してくれた・・・!さぁ、コケを受け取るがよい」ボブとシェリーは鈍く緑色に光るコケが入った箱を受け取りました。

 コケをスピネルの王城に持ち帰ると、カインはすぐさまコケを使って薬を調合し、それを王女に飲ませると、王女は意識を取り戻し、目覚めました。
「ああ!王女様!」メイドは王女に抱き着きます。

「もう、体はよろしいのですか・・・!?」
「ええ、もう大丈夫です・・・!心配をおかけしました・・・!」ボブとシェリー、そばにいたカインもホッと胸をなでおろします。その様子を陰で見ていたクラウス王子は悔しそうに歯噛みし、その場を去ります。

 その様子を見ていたサタンは舌打ちをします。
「どうやらクラウス王子はしくじったようだな・・・!あの毒薬も全て使い切れなかったと見える・・・!こうなったら最後の手段だな、レイド、後は任せたぞ!」
「任せておけ、こんな国、実行部隊で簡単に落とせる!」
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