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1月 エルニスの学園生活

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 冬休みも終わり、スピネル王国に便利屋べんりやをかまえる青いドラゴンのエルニスと妖精のキャンベルは、それぞれ、いがぐり頭の人間の少年と、肩までの長い赤毛の少女の姿になり、赤い制服を着て、町の北にある小中高の一貫校いっかんこうである『ジャスパー学園』へと向かって行きました。

 中等部の1時間目、数学の授業じゅぎょうでは、エルニスはつくえに顔をつけて、いねむり
しているところを、先生やとなりのキャンベルに起こされ、他のクラスメイトに笑われて
しまいました。しかたなくキャンベルが問題をといてみると、見事、全部正解しました。

 勉強が苦手なエルニスは2時間目、3時間目と、いいところは見せられませんでした。
4時間目の体育では、校庭こうていで体力テストが行われるので、みんな、白いシャツと紺色こんいろの短パンという、男女兼用けんよう体操着たいそうぎにきがえます。

 うで立て、ふっきん、はんぷく横とびと言った|種目(しゅもく)を、エルニスは学年でトップの成績せいせきをたたきだし、100メートル走では、なんと10秒を切り、学年どころか、学園でトップの成績だったのです。

「スゲーなエルニス!」エルニスのまわりには、同じ中等部の男子生徒たちが集まってきて、
もみくちゃにしてくると、エルニスは胸にこぶしを当ててほこらしげに言いました。
「それはそうさ!ぼくは韋駄天いだてん(とても足がはやい人のこと。)のエルニスだからね!」

 そうやって、クラスメートにもみくちゃにされていると、エルニスの体操着の
ポケットから、紙切れが1つこぼれ落ちたので、気になったキャンベルがひろって
広げて見た瞬間しゅんかん、キャンベルが目を見開きます。

「まあっ!エルニスさん!ま~たテストの答案とうあんかくしていましたね!?
韋駄天じゃなく、『赤点』ですよ!!」キャンベルがエルニスに答案をつきけると、それは数学の答案で、赤いペンで大きく『28点』と書かれています。

「げげっ!よりによってキャンベルちゃんに見つかるなんて・・・!」エルニスの顔がたちまち青ざめていきます。
「エルニス、また30点以下かよ!?」
「本当、『韋駄天のエルニス』じゃなく、『赤点のエルニス』よね・・・!」クラスメートたちから、たちまち爆笑ばくしょうあらしが巻き起こります。しかし、エルニスには、それらにかまっている余裕よゆうはなかったのです。

「カンベンしてよ~!!」エルニスは一目散いちもくさんに逃げ出しました。
「待ちなさ~い!!今日と言う今日はゆるしませんよ!!」キャンベルはすかさずエルニスをいかけます。その様子を見ていたクラスメートたちは口々に言いました。

「・・・やっぱり『韋駄天のエルニス』だな。100メートル走の時より断然だんぜん速いぜ!」
キャンベルに追い回されるエルニスを見て、男子生徒たちは、何度も首をたてにふって納得なっとくしました。
「キャンベルちゃんも結構けっこう速いわね、さんざんエルニス君を追い回すうちにきたえられたのかしら?」
「そういえば、100メートル走女子の部で、キャンベルちゃんは12秒台だったわ・・・!」

 昼休みでは、生徒たちが校庭で遊びまわっていると、エルニスは本来のドラゴンの姿になり、そのまわりに他の中等部や初等部の生徒たちが集まってきます。
「だめだよ、ちゃんとならんで・・・!」

 エルニスは初等部の男子生徒を背中にのせると、背中の白い天使のようなつばさを広げ、空へと遊覧飛行ゆうらんひこうをはじめました。ふだん、見ることができない空からの景色けしきに男子生徒は大興奮だいこうふんです。
「わぁ!すっごく気持ちいい!」エルニスはゆっくりと地上に降りていくと、今度は次の生徒をのせて、飛び立ちました。

 それからも、みんなが見て見ぬふりをしている中、エルニスはいじめられている生徒を見捨てずに助けてあげたりしています。キャンベルはそんな彼のことをほこらしく見ていました。

 学校を終え、店に帰ってきたエルニスとキャンベルは元の姿になり、テーブルの席に座ってホッとします。
「やっぱり、元の姿の方が落ち着くね・・・」
「そうですね、エルニスさん・・・」二人はしばらくして緑茶とクッキーでお茶会を始めました。その後、二人は宿題しゅくだいをすることになったのですが・・・。

 教科書を閉じたエルニスは、ぎゅっと目をつむり、深刻しんこくな顔でキャンベルにこう言いました。
「これは手ごわい・・・!ぼくの手には負えない・・・!だから・・・!」エルニスは息を吸ってこう言います。

「ぼくの代わりに宿題をやっておいてよキャンベルちゃん!」エルニスは切実せつじつに言いましたが、キャンベルは笑みを浮かべてこう言います。
「イヤです♡」
「頼むよ!かわいいキャンベルちゃん!」エルニスは深々と頭を下げて言いますが、キャンベルはすずしい顔でこう言いはなちます。

「みんなそう言いますよ。何度でも言います。イ・ヤ・で・す♡」
殺生せっしょうなぁ~!」「殺生なぁ~!」「殺生なぁ~!」エルニスはエコーがかかるほどさけんで頭をうなだれると、キャンベルは彼のかたに手を置いて言います。

「ですが、分からないところはヒントをあげます。それに、ちゃんと宿題をしたら、メープルたっぷりのヴィーガンパンケーキをごちそうしますよ」
「・・・やっぱりキャンベルちゃんはやさしいや・・・」
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