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第1話 天使は突然に…
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「クレアさ~ん? ねえねえ、クレアさんってばあ!」
「……はっ、はい!?」
クレアが驚いて振り向くと、同僚のマリアが悪戯っぽく目を光らせて立っていた。
「んもう、クレアさんったら声かけても全然返事しないんだもん。もしかして、あたしのこと無視してるー?」
「ち、違います! 少し考え事をしていまして……」
「ふ~ん、考え事……。どんな?」
マリアに訊かれて、クレアは、ぽっと頬を赤らめた。
「そ、それは、ちょっと……」
「あ~! 赤くなった~~!! さては彼氏のことだな~~!?」
「えっ? いや、そうじゃなくて……!」
「隠さなくていいんだって! ほら。話しちゃえ、話しちゃえ!」
「だ、だから違うんですってば……!」
「ほらそこ! 仕事中に駄弁ってんじゃないわよ?」
給湯室にマチルダが入ってきて、クレアとマリアを叱った。
「あっ、センパ~イ! いまクレアさんの彼氏さんの話してたとこなんです~」
「ん? 彼氏?」
マチルダが、眼鏡の奥の目を光らせた。
「クレアさんって、彼氏いたの?」
「やだなあ、センパイ。彼氏くらいいるに決まってるじゃないですか」
マチルダとマリアが、クレアを見た。
「い、いえ……実は、いません……」
「えええっ!! うっそおおおっ!?」
大げさに驚くマリア。はあとため息を吐くマチルダ。
「マリア。あんた、早とちりし過ぎ」
「え~! でもでも! さっき顔赤くしてたのに~!」
「あ、あれはですね……今夜、何を作ろうかと考えていたのです」
「何をって、もしかして晩ご飯のことですか?」
「はい」
「いやいや! 晩ご飯のこと考えて顔赤くならないでしょ!」
「それが、その……何を作ろうか、どんなワインを飲もうか、お風呂に入った後は何しようかとか考えてますと、だんだん幸せになってきて顔が熱くなってくるんです……」
マリアとマチルダは固まって聞いていた。
「……へ、へえ……何か、クレアさんって、すっごく幸せな人だね」
「あなたって、小さな幸せを見つけられる天才かもね」
マリアとマチルダが口々にほめたたえた。
「……あ、でも。ということはクレアさんって、彼氏がいる幸せは知らないってことだよね~?」
「あんたねえ」
マチルダがマリアを肘で押す。
「少しは慎むことを知りなさいよ」
「だって、ほんとのことじゃないですか~」
「彼氏がいる幸せとは、具体的にどういうものなのでしょうか」
真面目にクレアが訊ねるので、マチルダとマリアは顔を見合わせた。
「パートナーがいるっていうのは、何かと心強いものよ」
マチルダが答えた。
「あんたは?」
「う~んとね~。セックス?」
マチルダの拳固がマリアの頭を見舞う。
「いったあいい!」
「もう、あんたデスクに戻ってな」
「あの、セックスとは何ですか」
クレアの言葉に、マリアとマチルダは再度固まっていた。
午後五時半に会社を退けたクレアは、地下鉄と電車を乗り継いで帰宅した。帰宅途中、クレアは彼氏の存在について考え込んでいた。
(彼氏とは、そんなに大事なものなのでしょうか……)
クレアはよくわからなかった。彼女にとって男性とは、今までの人生において父親くらいだった。
(うう……何だか頭が痛くなってきました。彼氏のことは諦めて、晩ご飯について考えましょう)
電車に乗って揺れながら、クレアはそう結論付けていた。
帰宅したクレアは手洗いうがいを済ませると、薄暗いリビングに足を踏み入れた。
(だんだん寒くなってきましたね……そろそろ暖房を入れないと……)
『パチッ』
壁のスイッチを押し、リビングのライトをつけた。
直後――。
「みぎゃああああっ!!??」
見知らぬ何者かがテーブルの前に座っている。
しかも全裸で。
(あわわわ警察警察うううっ……!)
急いでスマートフォンを取り出したクレアは震える指で「緊急通報」をタップしようとした。
(ううう上手く押せないいい……)
つるっと手から滑って床に落としたりしながら、ようやくタップできた。
「もっ、もしもしっ!!」
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
「なっ、何でえええええっっっ!!??」
廊下を引き返して玄関のドアを開けようとすると、今度は鍵をかけていないのにドアが開かない。
「どっどっどうなってるのおおっ……!?」
気配に振り返ると、リビングで座っていた全裸人間がすぐ傍まで迫ってきていた。
「あっ、あっ、あわわわわわ……」
よく見ると……全裸人間にはモノがついていた。
つまり男だ。
(な、な、何とかしなくては……)
クレアは必死に頭を働かせた。
すると、今では懐かしい小学生の頃の記憶がふと蘇ってきた。
(たっ、確かドッジボールで男の子が股間にボールが当たってもだえ苦しんでいました……)
クレアは靴箱に吊るしてあった靴べらを手に取ると、バットを振るように両手で構えた。
「きっ、きなさい! 暴漢さん!! これが当たったら痛いでは済まないと思いますけどね!?」
「……う~ん」
男は立ち止まると、眠そうな目をしながら頬を掻いた。
「お腹空いた」
「……は?」
「何か食べさせてほしい」
「……はっ、はい!?」
クレアが驚いて振り向くと、同僚のマリアが悪戯っぽく目を光らせて立っていた。
「んもう、クレアさんったら声かけても全然返事しないんだもん。もしかして、あたしのこと無視してるー?」
「ち、違います! 少し考え事をしていまして……」
「ふ~ん、考え事……。どんな?」
マリアに訊かれて、クレアは、ぽっと頬を赤らめた。
「そ、それは、ちょっと……」
「あ~! 赤くなった~~!! さては彼氏のことだな~~!?」
「えっ? いや、そうじゃなくて……!」
「隠さなくていいんだって! ほら。話しちゃえ、話しちゃえ!」
「だ、だから違うんですってば……!」
「ほらそこ! 仕事中に駄弁ってんじゃないわよ?」
給湯室にマチルダが入ってきて、クレアとマリアを叱った。
「あっ、センパ~イ! いまクレアさんの彼氏さんの話してたとこなんです~」
「ん? 彼氏?」
マチルダが、眼鏡の奥の目を光らせた。
「クレアさんって、彼氏いたの?」
「やだなあ、センパイ。彼氏くらいいるに決まってるじゃないですか」
マチルダとマリアが、クレアを見た。
「い、いえ……実は、いません……」
「えええっ!! うっそおおおっ!?」
大げさに驚くマリア。はあとため息を吐くマチルダ。
「マリア。あんた、早とちりし過ぎ」
「え~! でもでも! さっき顔赤くしてたのに~!」
「あ、あれはですね……今夜、何を作ろうかと考えていたのです」
「何をって、もしかして晩ご飯のことですか?」
「はい」
「いやいや! 晩ご飯のこと考えて顔赤くならないでしょ!」
「それが、その……何を作ろうか、どんなワインを飲もうか、お風呂に入った後は何しようかとか考えてますと、だんだん幸せになってきて顔が熱くなってくるんです……」
マリアとマチルダは固まって聞いていた。
「……へ、へえ……何か、クレアさんって、すっごく幸せな人だね」
「あなたって、小さな幸せを見つけられる天才かもね」
マリアとマチルダが口々にほめたたえた。
「……あ、でも。ということはクレアさんって、彼氏がいる幸せは知らないってことだよね~?」
「あんたねえ」
マチルダがマリアを肘で押す。
「少しは慎むことを知りなさいよ」
「だって、ほんとのことじゃないですか~」
「彼氏がいる幸せとは、具体的にどういうものなのでしょうか」
真面目にクレアが訊ねるので、マチルダとマリアは顔を見合わせた。
「パートナーがいるっていうのは、何かと心強いものよ」
マチルダが答えた。
「あんたは?」
「う~んとね~。セックス?」
マチルダの拳固がマリアの頭を見舞う。
「いったあいい!」
「もう、あんたデスクに戻ってな」
「あの、セックスとは何ですか」
クレアの言葉に、マリアとマチルダは再度固まっていた。
午後五時半に会社を退けたクレアは、地下鉄と電車を乗り継いで帰宅した。帰宅途中、クレアは彼氏の存在について考え込んでいた。
(彼氏とは、そんなに大事なものなのでしょうか……)
クレアはよくわからなかった。彼女にとって男性とは、今までの人生において父親くらいだった。
(うう……何だか頭が痛くなってきました。彼氏のことは諦めて、晩ご飯について考えましょう)
電車に乗って揺れながら、クレアはそう結論付けていた。
帰宅したクレアは手洗いうがいを済ませると、薄暗いリビングに足を踏み入れた。
(だんだん寒くなってきましたね……そろそろ暖房を入れないと……)
『パチッ』
壁のスイッチを押し、リビングのライトをつけた。
直後――。
「みぎゃああああっ!!??」
見知らぬ何者かがテーブルの前に座っている。
しかも全裸で。
(あわわわ警察警察うううっ……!)
急いでスマートフォンを取り出したクレアは震える指で「緊急通報」をタップしようとした。
(ううう上手く押せないいい……)
つるっと手から滑って床に落としたりしながら、ようやくタップできた。
「もっ、もしもしっ!!」
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
「なっ、何でえええええっっっ!!??」
廊下を引き返して玄関のドアを開けようとすると、今度は鍵をかけていないのにドアが開かない。
「どっどっどうなってるのおおっ……!?」
気配に振り返ると、リビングで座っていた全裸人間がすぐ傍まで迫ってきていた。
「あっ、あっ、あわわわわわ……」
よく見ると……全裸人間にはモノがついていた。
つまり男だ。
(な、な、何とかしなくては……)
クレアは必死に頭を働かせた。
すると、今では懐かしい小学生の頃の記憶がふと蘇ってきた。
(たっ、確かドッジボールで男の子が股間にボールが当たってもだえ苦しんでいました……)
クレアは靴箱に吊るしてあった靴べらを手に取ると、バットを振るように両手で構えた。
「きっ、きなさい! 暴漢さん!! これが当たったら痛いでは済まないと思いますけどね!?」
「……う~ん」
男は立ち止まると、眠そうな目をしながら頬を掻いた。
「お腹空いた」
「……は?」
「何か食べさせてほしい」
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