女神と天使は同棲中

堂場鬼院

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第3話 朝

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「う~ん……眠い……」
(お腹一杯になって眠くなるって、子どもみたいな人だな……)
 クレアは肩を貸して寝室のベッドまで連れていこうとした。
「はい、よいしょ――かっっる!?」
 あり得ない。異常なほど男の体が軽くてクレアはバランスを崩しかけた。
(いや……やっぱりこの人、ただ者じゃない……っていうかたぶん、人間じゃないよね……)
 鳥の羽のようなその人を、壊してしまわないよう慎重に寝室まで運んでいき、ベッドに横たえた。
 彼は、すでに寝息を立てていた。
 遊び疲れた子どものように、ぐっすりと眠っている。
(もしかして、神様?)
 鏡台の前の椅子を引っ張ってきて座り、クレアは思った。
 寝顔が神々しい。じっと見ているとうっとりしてしまう。
(本当に神様だったらどうしよう。何か願い事って叶えてもらえるのかな)
 クレアは少し考えた。
 自分の夢や願い事……。
 叶えたい希望や達成したい目標……。

(あれ? わたしって何がしたいんだっけ)
 勤め人として平日は朝から働き、休日は家の中でくつろいだり、近所のボランティア活動に参加したり、たまに外食したり映画を観にいったりしている。
 とくに不満も不自由もなく暮らしているような気がする。
(これって悩みがないことが悩みっていうやつなのかな)
 自分でも、実に贅沢な悩みだと思った。
「……あ」
 クレアは、そこまできて思い至った。
「そうだ、彼氏だ。わたし彼氏がいないんでした」
 悩みらしい悩みを見つけたクレアは、眠っている神様(たぶん)に向かってお祈りを捧げていた。
(神様……どうかわたしに彼氏をください…………ついでにセックスとは何かも教えてくださいお願い致します……)
 目をつむって丁寧に祈ると、クレアはそっと寝室から出ていった。
(ふう! 何だか疲れちゃったな~)
 お風呂、スキンケア、歯磨き、その他諸々を済ませると、リビングのソファーで毛布にくるまって横になった。
「おやすみ、神様……」
 クレアもすぐに寝息を立てていた。

 あくる日。
 その日の目覚めは、今までで一番といってよいほど清々しいものだった。
 あたたかい、やわらかな光に包まれているような感覚。
(ああ……今日はお日様が昇るの早いな……)
 ゆっくり、クレアは目を覚ます。
 眠りの湖の中から顔を出すように、クレアは目を開けた。
(……ん?)
 視界がぼんやりしているが、顔の傍に顔がある。
「ん??」
 神様、の御顔。ご尊顔。
 今朝も神々しい。いやそうじゃなくて。

「んーーーーー!!!???」
 クレアは思わず跳ね起きた。
 毛布が飛び、神様は眠った顔のまま床にふわりと浮いた。
 全裸で。
「なっ、なっ、なっ……!!??」
 はっとした。
 クレアも全裸だった。
「……ぎゃああああああああああああああああ!!!!!」
 家が吹き飛ぶような大声を出してクレアは気を失いかけた。
「あ、あわわ、あわわわわわ」
 口から泡でも噴き出しそうになりながら、クレアは床に飛んだ毛布を引き寄せた。
(お、おぞましい!! やっぱりこの野郎はわたしの体目当てだったんですね!!)
 昨日のお祈りのことなど頭から消し飛んでいたクレアは、とにかく冷静になろうと深呼吸。
「どっ、どうしてくれましょうか……殺っちゃいますか……?」
 気持ちよさげに眠っている間にキッチンからナイフを取ってきてブスリといこうかと思った時――。

「う~~ん、よく寝た」
 男が、うんと両腕を伸ばした。
 するとその背中から、二枚の翼がぱっと左右に開放された。
(うおおおおっ!!?? やっぱ神様あああああっ!!??)
 驚愕するとともに、はっと我に返るクレア。
(ちょっと待って。翼って……天使じゃん)
 男は床にむっくりと立ち上がった。
 二枚の翼は、左右に大きく開かれたまま、そよとも動かない。
 ご立派な男性器も。
「あ、あの……天使、様……?」
 おそるおそるクレアが声をかけると、男はぱちりと目を開けた。
「おはよう」
「おはようございます。……じゃなくて、あなたは天使様ですか?」
「うん、よくわかったね。昨日はどうもありがとう」
「あ、いえいえ」
 そんなやり取りをしたいんじゃない。
「あの、天使様。いくつか訊きたいことがあります」
「どうぞ」
「まず……わたしに何かしました?」
「何かって?」
「いやその、昨晩ベッドに寝かせたのに、どうしてソファーで一緒に寝てたのかなって」
「ああ。人肌が恋しかったので」
「な、なるほど……いやいや! だからって脱いでくることはないでしょ!?」
「僕は服なんか着ないんだけど」
 そういえば絵画の天使って全裸だよなあと思いつつ。
「わかりました。でも何でわたしまで脱がせたんですか?」
「服が当たったらチクチクするから」
「……はあ」

 とりあえず納得した。納得するしかなかった。
「あ、ちょっと待って!」
 クレアは天使の頭の上に注目した。
「あなた、輪っかがない! 天使って金色の輪っかが浮いてるじゃない、頭の上に!」
「ああ僕、堕天使だから」
「堕天使……」
「神様に反抗して天国を追い出されちゃったんだよね」
「待って待って。堕天使って悪魔じゃないの?」
「天国では僕のことをそう呼ぶ者もいたよ」
「えっと……結局あなたはここに何しにきたの?」
 堕天使は微笑んで肩をすくめた。
「わかんない。眠ったおかげで色々思い出したけど、人間界に何しにきたんだったか」
「もしかして、人間界で人間のふりして善行を積み重ねると天国に戻っていいとか?」
「そんなに甘くはなかったと思うけど」
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